第一章 ゴミ箱の女神様?
國嶋の絶叫を聞いている者がいた。
その者は三つの長方形の箱の内の一つに頭からはまっていた。箱には可燃ゴミ、不燃ゴミ、プラスチックと書かれた紙が貼ってある。その内の一つ。可燃ゴミにその者は、はまっている。ゴミ箱から飛び出ているのは脚だけ。
その者は黒いスカートのために、その下のイチゴ柄の白いパンツが丸見えになっている。
いかにも、年頃の少女のようだ。
「あ~、だれか~助けてくれ~」
小さな声で遠吠えを出す。遠吠えと言っていいのかは、はっきりとは分からない。
それでも、その少女(?)は諦めず?、と言うか助けて欲しくて、小さな遠吠えを出し続ける。
「だれか~。もう、腹が限界だよ~」
言葉を発すると共に脚をバタバタさせる。
そのため、隣のプラスチックと不燃ゴミのゴミ箱にぶつかり音が鳴り響く。
ドッン!ドッン!、と。
衝撃音はいつまでも続く。
ドッン!ドッン!、ドッン!ドッン!、と。
ーーー國嶋側
國嶋は、不良の一人に思いっきり三発殴られ、気を失い、気がつけば門限間近の午後六時五十五分になってしまった為に、自身の力を全て使い、自分の住む『倉西孤児院』を目指して全力疾走している。
この時、國嶋の持っている時計は午後七時三分を指している。すでに門限を越えてしまっている。
その時計に目を向ける國嶋。
「あー!やべーよ!このままじゃあ、あいつに竹刀でボコされちまう」
独り言を呟く。しかし、その独り言を聞く者は普通は誰一人としていない。
それもそのはず。彼が全力疾走しているのは横幅二メートルあるか、ないかくらいの路地裏の道。
そんな道を全力疾走する。
ドッン!ドッン!、と。
突如、少し大きめの物音が聞こえた。
ドッン!ドッン!、ドッン!ドッン!、と。
その音は、止むことを知らないかのように鳴り続ける。
「………?」
全力で回していた脚を止める國嶋。
立ち止まり辺りを見回す。辺りには特に何もない。在るものと言えば、壁だ。
ドッン!ドッン!、と。
やはり、音は鳴り止まない。
気になり始めた國嶋は、門限のことを忘れ、その音のする方へと向かって行く。
ドッン!!ドッン!!、と。
音源であるかもしれない方向に近づくにつれて、音はどんどん大きくなっていく。
ドッン!!!ドッン!!!、と。
今までより一層大きな音の聞こえてくる一本道を見つける。一本道からは、とてつもなく生臭い匂いが漂ってくる。まるで、何日も台所に置き忘れ、腐った魚のような匂い。
「うっ!くっさ!」
とっさに右手で鼻を摘まむ。
それでも生臭い匂いがしてくる。口から入った匂いが鼻へ押し寄せてくる。
(や、ヤバい!これ以上ここにいると絶対に意識を失う!だから、早くおさらばしなくては)
そんなことを思っていると、一本道の奥の方から高めの少女のような声が聞こえてくる。
「だれか~、助けて~。本当に駄目かもしれないよ~。だから早く~、助けてよ~」
大きさはそれほどではない。だが、國嶋にはお姫様のような感じの声にハッキリと聞こえた。
その声が國嶋を動かす。
先程までのように鼻を摘まむのを止める國嶋。そして、自身自ら生臭い匂いのする一本道へと足を踏み入れる。
その道は案外短いものだった。
三十秒も経たない内に、その道のゴールと思わしき壁とゴミ箱三つがわたくし現れる。
ゴミ箱三つの内の一つ。真ん中の可燃ゴミと貼り紙の貼ってあるゴミ箱からイチゴ柄のパンツを穿いた脚が出てきている。
「だれか~、助けてよ~」
そこから声がする。そして察する。『このゴミ箱の中に、お姫様のような声を発する少女(?)がいる』と。
こう察した國嶋は思いきって声をかける。
「そこのお前、大丈夫か? 」
「………!?」
國嶋の声に反応して少女(?)の脚は動きを止める。
「誰かいるの?」
このように尋ねてくる。
それに國嶋は、
「ええ、いますけど」
と真実を述べる。
回答が嬉しかったのか、ゴミ箱から出る脚がバタバタし始める。幼稚園児のように。
そんな光景を望まない國嶋は咳払いをする。
「ごほっん!ごほっん!」
「おお、悪い悪い。少し調子に乗りすぎちまった」
冷静さを取り戻す少女(?)。
そんな、少女(?)が國嶋に頼み事をする。
「そこにいる君、ここから出してくれ!頼む!もう、ここに入ってから一日以上経ってんだ。なぁ、頼むよ。この通りだからさぁ」
『この通り』と言われても、脚しか見えないので何とも言えないが、國嶋は何も考えずに答える。
「もちのろんだ!」
「本当…か?」
「本当だ!俺は自身が助けたいと思ったヤツは、何がなんでも救うタイプなもんでな」
これを聞き、少女(?)は穏やかに言う。
ありがとう、と。
一瞬。ほんの一瞬だけ、時間が止まったように感じた。目を大きく見開く國嶋。
そんな彼は、少し照れながら茶を濁す。
「ふっ!こ、こんなん当たり前のこっだよ。それより、お前をどう助ければいいんだ?」
ああ、そうだ!、と今までより少し大きめの声を発する少女(?)。
そこから、少しばかりの間が空く。そして、
「それがなぁ…」
「ん?それがどうした?」
途中で真剣そうな言葉を切る。
そして、何とも言えない答えが返ってくる。
「よく分からないんだ」
「えっ、ええええエエエエエエエっっっッッッッッッッッッッーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
まさかの発言に驚きを露にする國嶋。
と言っても、今少女(?)はゴミ箱にすっぽりとはまっているために、そう簡単には抜けなさそうだ。そんな状況で、はまっている本人が抜け出す方法など考えられない。
それは分かっていた。分かっていたはずなのに。
今の國嶋は我慢仕切れなくなった。
「おーい!お前、助けてもらう側がそんなんじゃあ、こっち側のやる気が出ねぇじゃあねぇかよ!」
「ひぃッッ!」
ゴミ箱の中なのでどんな表情かは分からないが、少しばかり恐がっていることが分かる。
(ヤバい!少しやり過ぎちまった。こここ、こんなん時は、どどど、どうすればいいんだ?)
どう対応すればいいのか迷う。とにかく迷う。
どれだけ考えても対応方法が思い浮かばない。
そんな時、國嶋の鼻に何か特徴的な匂いが漂ってくる。まるで、生ゴミのような。
國嶋は鼻をひくひくさせながら辺りの匂いを嗅ぐ。隈無くと言ってもいいくらい匂いを嗅ぐ。
「うっ!くっせ!」
鼻をツーンとさせるような、とても生臭い匂いがする。それは、國嶋の前にあるゴミの放つ異臭と言われるものだった。
すぐに鼻を摘まむ。そして匂いを嗅がないようにする。
ここまで異臭に色々されると正直参ってしまうので、國嶋はすぐに少女(?)をゴミ箱から出す方法を提案する。
「なぁ、お前の脚を引っ張ってここから出すってのはどうだ?」
「………、まぁ、それもありかな」
少し悩んでから少女(?)は答えを出した。
渋々、と言ったような感じもあったが、決して嫌だとか言う気持ちはないようだった。
「じゃあ、やるぞ」
國嶋は少女(?)の腰辺りを両手で強く掴み、力一杯上に上げる。
「ふっ!ふんんんんんんンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!」
余り動かない。
ビクともしない、と言う訳ではないが、なかなか動かない。
「痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!!!!!!!!」
少女(?)が急に叫び始める。
そうなってしまっても仕方はない。なぜなら、少女(?)をゴミ箱から出すためには上に思いっきり引っ張っらなくてならない。そのため、少女(?)にかかる力は物凄いものになる。なので、痛みが少女(?)を襲うのは仕方がないことなのである。
「がんばれ!あと少しで抜けるかとしれないぞ!あとちょっとだ!あとちょっと…、」
ゴッン!ドッン!、と。
大きな音が鳴り響く。
その音が鳴り響く直前、國嶋の体に何か大きな物体が落ちてきた。それは、先程まで自身が思いっきり引っ張っていた少女(?)だった。
その少女(?)がゴミ箱から抜けて、引っ張っられる時の勢いと力で一気に國嶋の上へ落ちてきたと言う状況である。
「痛てててて。まさか、君みたいな少年に助けられるとはね」
そう言うのは、先程までごみに埋もれていた少女であった。
服装は、あの暗殺者と呼ばれるキャラクターが着ている感じの黒い物を着ている、とても危なさそうな少女であった。
「いやー、でもマジで助かったよ。これに関してはマジで感謝するよ」
そして何より、その少女は髪の毛が白く光っているようだった。
その美しさに國嶋は見とれた。
「うーん、一応僕の命の恩人だから何かおごってあげるよ。君、何か食いたい?」
何か違和感を感じる。それはさておき、少女はとても綺麗で美しい。しかし、身長がとても低かった。それでも、やはり美しい。そんな、感じの少女だった。
その少女に見とれる余り、國嶋は馬鹿らしことを口にする。
「あなた、いや!女神様。私は貴女を食べたいです」
意味の分からない言葉を口にする。
それを笑顔で笑いながら、少女は言う。
「残念だが、それは無理だな。僕も一応は一人の人間だ。それを食べるってのは、ちょっとばかし意味が変わってきちまうなぁ」