第一章 好敵手の…登場?
窓の外から月明かりが差し込み始めた午後六時。
学校内に最終下校時間を知らせるチャイムが鳴り響く。
本日の授業終了後すぐに根岸 沢と水沢 親の二人による補習を受け始めた國嶋 大輝は白眼をしていた。
まるで、浜辺に打ち上げられて死んだ小魚のように。
チャイムの音に気がついた根岸と水沢の二人はすぐに教科書を閉じる。そして、
バッン!、と。
教科書を使って根岸が國嶋の頭を叩く。
「痛ってぇーー!!」
頭を叩かれた衝撃で、死んだ小魚が息を吹き返す。息を吹き返した小魚は頭を押さえながバタバタと暴れる。
「大丈夫ですか?國嶋くん」
「大丈夫、大丈夫です。水沢先生」
「本当に、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です。根岸に教科書で叩かれるのは慣れてますので……!?」
言葉の途中で、ゾッと寒気を感じる國嶋。
彼は寒気を感じた方に顔をゆっくりと向ける。そこには、うつむき表情の見えない根岸がいた。
「だ、大丈夫ですか?根岸先生」
「……、」
根岸の返答はない。 ただ、うつむき下を眺めるだけ。そのためか、教室には気まずい空気が漂う。
何か嫌なものを感じた國嶋は切り出す。
「あ!もうこんな時間だ。俺もう帰りますね。水沢先生、ありがとうございました」
荷物をまとめて席を立つ國嶋。
そんな國嶋を止めるように根岸の声が響く。
「國嶋!」
「はっ、はい!」
荷物を抱えて立ち竦む國嶋。そんな彼に向けて根岸は笑みを浮かべて言う。
「お前、今日から一週間補習な」
「えっ!でも……」
「わかったな!國嶋!」
「は、はい…」
そう言ういうしかなかった。と言うよりか、そうしか言えなかった。
そんな國嶋を見た根岸は笑いを我慢しようとする。しかし、我慢することは出来なかった。
「はっ、ハハハハハハハハハッッッッッッッッッ!!!!!!」
腹を両手で押さえなが、大声を出して笑う根岸。
堂々と根岸に笑われる國嶋は、荷物を持ち足早に教室から出て行く。
「水沢先生。今週の放課後って空いてますか?」
唐突な質問に少し戸惑う水沢。
それでもなんとか質問に答える。
「え、えぇ空いていますが…」
「それなら國嶋あいつの補習を手伝って下さい。出来ればでいいんですけど」
少し考えて水沢は答える。
「まぁ、その補習が國嶋くんのためになるのであれば、私も力を貸させて頂きます。根岸先生」
「ありがとうございます。水沢先生」
そう言って二人の教師はそれぞれの補習に使った教材を持って教室を後にする。
午後六時。日の入り時刻が近づいてきている頃。
校門の前に一人の少年がいる。
佐々木 雷。國島と同じクラスで、自称 好敵手である。
「大輝遅いな…、そろそろ帰らないと親父に怒られる時間になるじゃねぇか。早くしろよ」
立った状態のまま小刻みな貧乏揺すりをし続ける。
そんな佐々木のいる校門の方へと一人の少年が近づいて来る。それに気がついた佐々木は一人呟く。
「来やがったか」
それなりの距離があっても佐々木は近づいて来る相手が誰かを認識している。そう、それは國島だ。
國島の方は佐々木の存在に全く気づいていない。
そんな國島に対して大声をかける。
「おい!大輝!お前、今日は随分遅かったじゃあねぇか!もしかして、好敵手のことが怖くてトイレから出てこれなかった訳じゃあねぇよな!」
「…………、」
「あれ?」
反応がない。普段であればここで『うるせぇー!お前と俺じゃあレベルが違いすぎるんだよ!』と言うところなのだが、今日の國島は何も言わないし、反応すらしない。
(可笑しくねぇか?いつもだったら反応するはずなのになぁ……。もっ、もしかして、俺のことは眼中にないってことなのか!!)
そんなことを考えているうちに佐々木の所まで國島は来ている。
國島が近くにいることに気づいた佐々木は直ぐに戦闘体勢にはいる。
「やっ、殺るか!!」
「…………、」
やはり反応はない。と言うか、佐々木の存在にすら気づいていないのか、そのまま校門を出て行く。
ボケー、と。
佐々木はただそこに突っ立っているだけだった。
事態を整理した佐々木は直ぐに國島を呼び止めようとする。
「ちょっ…、ひぃッッッ!?」
呼び止めようとした瞬間、國島が鬼のような顔つきで睨みつけてきた。
あまりの恐さに何も言えなかった。
そのまま國島は学校を後にした。
「また、何も出来なかった……、」
佐々木は足腰から力が抜けて、その場に座り込んだ。