第一章 被験体国J
ここ約百年で世界は大きく変化した。
全ては、ブリタニア国が全世界に発表した『超能力者の開発に成功した』と言う発表が源となった。
発表から五日でブリタニアには数々の国の富豪達から超能力のことについての取引を求める商談が数多く届く。その商談に答えるようにブリタニアは、超能力者を造り出した際に使用した人工的遺伝子の販売を開始した。
そして、発表から一ヶ月で富豪同士の『第一次超能力戦争』が勃発。その戦争に世界中の約百の国々が巻き込まれ、数十億人の人々が被害を受けた。
発表から一ヶ月半で起こっている事態に危機感を覚えた国際連盟が緊急で招集される。
そこで話し合われた議題は、『第一次超能力戦争』がメインではなく、今後の超能力の管理の仕方についてをメインとしての話し合いになった。
「やはり、超能力をなくすことはできないのでしょうか?」
黒人のアメリカ代表 アルベルト・マッカーが他の国々の代表に向けて発言する。
その考えについて頭を悩ませる各国の代表。
そんな中、イギリス代表 アリス・クルーニーが手を挙げる。
「どうしましたか?クルーニーさん」
そう言ったのは取締役を勤めるロシア代表 アブト・マクシム。
彼の言葉を聞いたクルーニーはお手上げのポーズをとりながら、発言をする。
「アルベルトさん。残念ながら、超能力をなくすことは出来ません」
「何故です?」
「簡単な話です。あの人工的遺伝子は一度生物の遺伝子に組み込んでしまうと.もう手がつけられないからですよ。さらに、これは一度取り込んでしまえば、次の世代、さらに次の世代へと受け継がれてしまいますからね」
「そう、ですか。やはり無理ですか」
少し悄気た感じで下を向きつつ、ダメかぁ~、と口に出すアルベルト。そんなアルベルトを見たクルーニーが、咳払いをする。
「アルベルトさんには悪いのですが、私は逆に全世界の人に超能力を与えてから、新たなルールを作って今の状態を改善すると言うのもアリでは、と思っています」
やはり頭を悩ます各国の代表達。
そのため、重い空気が会場に蔓延る。
そんな重い空気を切り破ったのは、日本代表 尼野大貴の一言だった。
「では、私どもの国で試してみると言うのはいかがでしょうか?」
会場にはどよめきの声が上がる。
それもそのはず。なぜなら、日本で試すと言うことは、日本の国民全員が超能力者になると言うこと。それは、日本に莫大な戦力を与えると言うことになるかもしれないと言うことになる。
そんな中、この状態の原因となったブリタニア代表 ランルーク・ペルーシュが手を挙げる。
「ペルーシュさん。どうぞ」
「私は、日本の提案に賛成です」
今まで以上のどよめきがわく。
それを気にも止めずにペルーシュは続ける。
「日本であれば、島国なので我々で辺りの海域を囲めば、日本から戦争を仕掛けることは出来ないと思われます。どうでしょうか?」
提案自体は良くはないが悪くわないものだった。
みなそこに頭を悩ませる。
そんな時、イギリスのクルーニーがブリタニアのペルーシュに意外なお願いをする。
「私の国の者を少しでも参加させて下さるのであれば、私は賛成します」
目を見開く各国の代表者達。
そんな彼らは気にせずペルーシュは返答をする。
「もちろん!ただ、日本国内になってしまいますが、大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありません」
「それはそれは。とても光栄です。では、宜しくお願いします」
イギリスのクルーニーにお辞儀をするペルーシュ。このやり取り会場はざわつく。
「はい!」
大きな声を出しながら手を挙げる南アフリカ代表 ローツ・ウェボリアス。
取締役のアブトが言う。
「どうぞ、ウェ、ってウェボリアスさん。ちょっと待って、下さい。ちょっ、ちょっと」
取締役のアブトのいた全体から見える席に無理やり入り込み、マイクを取り上げたウェボリアス。
「あーあー。えー、はじめまして、私南アフリカ代表 ローツ・ウェボリアスです。えー、突然ではありますがみなさん。この提案に賛成いたしませんか?」
マイクを使ってこんなことを言われるなんてことは予想外だった。そのため、多くの人にはとても良く胸に突き刺さる言葉だった。
そんな状態でも、ウェボリアスは続ける。
「まぁ、急に言われても決断は難しいでしょう。だからといって、時間は私達を待ってはくれません。みなさんは何が怖いんですか?何を恐れているのですか?そんなものいつまで経って消えません。なら、今やってしまった方が良いのではないですか?しかも、今なら自国に被害がこれ以上及ばなくてすむかもしれないのですよ。なら、今の日本にやってもらいましょう!そして、これ以上の被害を減らしていきましょ!」
拳を握った右手を上に上げるウェボリアス。
それに続くかのように会場中から拍手が鳴り響く。そして、ウェボリアスが尋ねる。
「賛成の国の方々は、もう一度拍手を」
その言葉を掛け声のように各国の代表達が拍手を始める。数は数十いや、百を軽く越えるくらいの数だ。その数に背中を押されるように重い腰を上げる理事国の代表達。そして、
「ありがとう。みなさん、私のわがままに付き合ってくれてありがとう!」
そう言って、ウェボリアスはマイクを取締役のアブトに返しす。
「失礼をした。今回のことは私自身の身勝手な行動だ。だから、国を攻めたりはしないでくれ」
「何を言っているのですか、ウェボリアスさん。今回のことは自分自身が色々な事に気づかされるいい経験になりました。ありがとうございました。」
ウェボリアスからマイクを受け取った取締役のアブトは再びマイクを手に持つ。
「それでは、今回は日本での実用試験の結果しだいと言うことで、締めさせて頂きます」
言葉が終わると同時に個別に席を立つ各国の代表達。全ての国の代表が立ち去ったのは、一時間ほど経ってからだった。そして、
翌日。この日は、日本でどのように実用試験を行うかを各国で話し合いを行った。
その結果、実用試験は以下のように行うことになった。
1、実施日数……五年
2、実施内容……日本国民全員に超能力を得る人工的遺伝子を体内の元々の遺伝子内に注入。(妊婦の方々は出産後に子供と一緒に注入)その後、三年経ってから能力検査を受ける。
3、実施結果……五年後、国際連盟に実験の結果を提出し、その結果しだいで今後の方針を決定。
以上のようにして実用性を調べる。
発表から三ヶ月、日本国民全員対象の実験が始まった。
実験開始に間に合うように政府から国民に向けて手紙が配布される。
実験対象者は、生まれる前の母親のお腹の中にいる子供から高齢者までの全ての国民で開始された。
実験開始から一年。
国民の内の八割型の人たちが注射を受けに来たことが確認された。さらに、能力に共通と、固有の二種が存在することが判明。
この二種の能力を分かりやすくわけるために『通常能力』と、『固有能力』の二種にわけた。
実験開始から二年。
対象の国民全員に打ち終わった。
そこで、発覚する。それは、能力を持たない人や、持てない人もいることが判明。
その者達の事を『無能力者』とすることにした。
実験開始から三年。
超能力になった日本人と、他国の一般人の比較を行った。
結果はすぐに出た。超能力を持つ人は、遺伝子に特殊な分子があることが判明した。なので、それに数値をつけることにした。
さらに、『固有能力』を持つ人達は、その数値が100であった。それ以外にも、99~80の数値の能力、79~40の数値の能力、39~1の数値の能力、これらは『通常能力』、そして数値が0が『無能力』の五種類に分けられた。
私達はこれを基準値として、ランク分けを行うことにした。
・Sランク『固有能力者』……『固有能力』を所持していて、数値が100の人達。
・Aランク『希少能力者』……『通常能力』を所持していて、数値が99~80の人達。
・Bランク『平凡能力者』……『通常能力』を所持していて、数値が79~40の人達。
・Cランク『低級能力者』……『低能力』を所持していて、数値が39~1の人達。
・Dランク『無能力者』……『無能力』と言う、数値が0の人達。
実験開始から四年。
遺伝的な理由から、両親の数値からある程度の子供の数値が推測できるようになった。
例えば、親方がAランクとBランクだったとき、このときは、Aランクか、Bランクの子供が生まれる。稀に、Sランクが生まれることもある。
このように、良いランクの親と良いランクの親の間から良いランクの子供が生まれやすい。
と言うように、親のランクに伴って子供のランクが決まると言うような決まりが見つかった。
そして、超能力は時と共に浸透していった。その為、ランクによる差別化が進み、ランクでほとんどのことが決まるようなった。その為か、低ランク者たちによる高ランク者たちに対する犯罪行為が過激化していき、治安がどんどん悪化していった。
実験開始から五年。
国際連盟はすでに答えを出していた。
『これ以上の犠牲者が出ないように、これ以上の生物への試用は原則として禁止とする。もし日本のように遺伝子が犠牲になってしまっている時は、保険の適用が可能である』と言う答えが。
これによって超能力問題は解決と言うことになった。そして、この一連の騒ぎは終息していった。
しかし、すでに国民が超能力を得てしまった日本では終息してはいかなかった。
日本では、ランクによって学校、仕事、住居の全てが決められた中から選ぶと言う格差社会になっていった。
それから、約百年。
日本の内情はあまり変わってはいない。やはりランクにより全てが決められる。しかし今では、決められた物の中から選ぶことが可能になった。
それでも、ランクによる格差は埋る事を知らないように広がり続けるばかりだった。