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第2話 魔王エピキュアVS魔王ロンジェベティ

7人の魔王がそれぞれ殺し合い、力を奪う。魔王とはなんなのか、何故こんなことをするのかは知らされぬまま、超常の力を与えられた者達は殺し合う。

 ここは墓。

「今日でおじいさんが死んでからちょうど3年ねぇ……」

 立派な大石理の墓に手を合わせる老人が一人。

「キェェェェェェェェェェェ!!」

その時突如墓場のいたるところからゾンビが出現! 老人の目の前に墓を突き上げおじいさんのゾンビが出現!!

「キシャァァァァァァァァァァァ!」

「ひぇぇぇぇぇ! 何だ! 何だ! おじいさんが幽霊になったのか!?」

 数十体のゾンビが、おばあさんにジリジリと近づいていく。

「アア―! アア―! 目を覚ましておくれ!」

 叫ぶおばあさん! ゾンビおじいさんの手が迫る……その時!

 おばあさんの体が銅色に光り、彼女を囲んでいたゾンビ数体を吹き飛んだ! 飛んだゾンビは地面に落ちることなく、そのまま消滅! 

「おおお……力が漲る……。十代の頃よりもはるかに……。これは一体……? そうか魔王か! 私は魔王になったのだ! ハハハハハ!」

 老女の骨と皮ばかりの体に筋肉がつき始めた。視力が回復し、乾いた体は潤う。そして、先程までの穏やかな表情は一変し、獲物を狙う肉食動物のような顔つきになった。

「残り僅かな寿命は穏やかに過ごそうと考えていたが……もはやくだらん! 私はすべてを手に入れ、永遠に生きるのだ!」

「ガァァァァギギギグヅ……ヨクモ……コロス……」

 一際立派な体格のゾンビが現れた。生き残ったゾンビがそのゾンビにひざまずいた。

「貴様は、かつては江戸時代から続く大地主の家柄に生まれたが一代で没落させ借金を背負い貧困に喘ぎながら死んだ3丁目の岡山さん! 怨念でゾンビになったか!」

「ユルサナイ……クルシイ……」

「ちょうどいい! この魔王の力の試し切りをさせてもらうとするか! 二度死ね!」

 老女が銅色に発光! 老体からはまるで予想できぬ速度で岡山さんゾンビに走る! 

「アア―!」

 手下ゾンビが生存本能のリミッターが外れた速度で老女を塞いだ!

「邪魔するんじゃないぃぃぃぃぃぃ!!」

老女が腕を突き出すと、その場所の空気が爆発し、ゾンビをまとめて消し飛ばした! 

「とどめだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 老女が地面を蹴ると足元が爆発しロケットのように岡山さんゾンビにつっこんだ! 岡山さんゾンビは全力を防御に振り絞るが、無駄! 銅色の火の玉と化した老女と接触し、爆発した。

 もはやその場所は墓地であった形跡はない。すべてのゾンビは消え去った。露出した地面の上に立つ老婆は高らかに笑った。

「ウェハハハハハハ! 私はもうババアではない……魔王だ! 魔王ロンジェビティだ! 待っていろ他の魔王共! 人生経験の差を見せてくれるわ!」

 老女……魔王ロンジェビティは突風のように走り去った。不運な目撃者を殺しながら。


 初夏のこの日の空は青く、太陽が街を照りつけている。湖の街の数少ない観光地である海岸には、早くも人々が集っていた。その多くは地域住民だが、この青年、鎌苅和成はそうではない。彼は定期的にこの海に訪れることにしていた。

 もう人が多いな。今年の夏は暑くなりそうだな。彼は気が早く海で泳いでいる若者を一瞥し、海に面する白く塗られた建物に近づいて行った。これは彼がここに訪れる第一目的であるレストランである。雑誌やテレビではまだ紹介されていないが、地元民には評判のレストランである。ここを偶然知ったこの鎌苅もわざわざ電車で100分を費やして食べに来ていた。

 店長には悪いが、このまま隠れスポットのままであってほしいモンだな。写真をネットにアップするために来る客ばかりの店は、落ち着かん。そして彼は注文するメニューを考えながら店の扉を開けた。

「え?」

目の前に飛び込んできたのはバラバラに千切れ血で真っ赤に染まった人間が店を覆う光景だった。かつてないほどの強烈な酸性の異臭が漂い、彼は一瞬で吐き気を催した。だが吐き気すらも吹き飛ばす異次元の恐怖がその空間には存在していた。

「おやおやおやおやおやぁぁぁぁぁ! 不幸な人間が迷いこんできたねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「アアアアアアアァァァァァァァァァ!!」

 鎌苅は悲鳴を上げた。

 それは老女だった。しかし頭部には髪がなく、代わりに黒ずんだ赤色の炎が燃え盛り、目は激しく点滅している。そして腕と脚が太く筋骨隆々であるにもかかわらず胴は異常に細く、人とは思えないアンバランスさを感じさせる。

「おいお前逃げろ! このバーサンは人間じゃない! 殺されるぞ!」

「まぁーだ正義の味方ごっこかい! 子供みたいなこと言って恥ずかしい! 魔王だから殺す! こうやって!」

老婆が固まっていた鎌苅に短距離ランナーじみて走る! 鎌苅は悲鳴を上げる寸前、その体が後方に突き飛ばされ間一髪逃れた!! 

「てめぇこそ孫のいそうな歳して無差別テロしてんじゃねぇ!……おいお前、全速力で逃げろ! 死ぬぞ!」

「ああ、ああ!」

鎌苅は一目散にその場を離れる。彼を庇ったのはジャージ姿の20代前半といった男である。老婆が建物内からでないように扉の場所から睨みをきかせる。

「まったく、あんたも魔王だろ? 助けてないで殺しにこんかい!」

「ふざけんな! 人が飯食ってるところでいきなり無差別殺人しやがって……。無関係な一般人だろ!」

「いいや無関係じゃないねぇ。この魔王ロンジェビティ様の姿を見たからにはねえ!」

老婆……魔王ロンジェベティは甲高い奇声を発し男に飛び蹴りを放つ!

「この外道が!」

ジャージの男は魔王ロンジェベティの足を掴み、そのまま床に叩きつけようとした! しかしその時老婆の足が爆発し男も吹き飛び、店の壁に叩きつけられた!

「ウオォーッ!?」

これが魔王ロンジェベティの能力……魔法?術?よくわからないがとにかく、自身の体から熱の衝撃を放つのか! 男は今の攻撃に当たりをつけた。しかしこれは不利である。この男も魔王であるが、その能力は相手に直接触れることで真価を発揮するタイプだからだ。

だからといって戦わない理由にはならない!

「この程度かぁ!」

男はそのまま壁を蹴って魔王ロンジェベティにタックル!魔王ロンジェベティはそれを力任せに殴る!そしてその拳が爆発する!

「甘いぜぇ!」

男は魔王ロンジェベティの肩を掴み踏みとどまる!そして男の手が緑色に輝き出した!

「今度は俺の技を喰らえ!」

「アアァァァァァァ!」

魔王ロンジェベティが苦しみだした!人間離れした筋肉が収縮し、干からび、細まっていく!爆発で負傷した男の身体が治癒!

「俺の能力は吸収!このまま終わらせてやる!」

「ガァァァァ!ガキがぁ!年の功を舐めるよ!」

魔王ロンジェベティは死に物狂いで爆破を連発するが、男は踏みとどまる!しかしかえってこの爆破能力の使用がエネルギー消費を早めてしまった!やがて立つことすら不可能になり、魔王ロンジェベティは頭の炎も消えて倒れた!魔王の魂によって授けられた膨大なエネルギーはものの10秒ほどで吸い尽くされてしまったのだ。

「うぐぐ……。くそ、食い過ぎで苦しいぞ。それになんだこの嫌な気分は!」

確かにエネルギーが身体に満ちているのはわかる。だが心を侵食する不快な感覚に耐えることに彼は精一杯だった。相手の爆発攻撃ならもはや気にもしなかったが、精神侵食に耐えるのに相当な苦痛を味わった。そのため魔王が死ぬまで吸収し続けられず、意識を失ったところで吸収を中断したのだ。

形あるものを破壊したい。平和に生きているを人間を殺したい。彼の中には本来存在しない感情が沸き立つ。全身に漲る力がその衝動を助長する。

「ギ!ギ!ガ!ガ!ガ!ゴォ!」

男は頭を抑え呻いた!そしてフラつきながら血まみれた店内を見渡し、床に落ちていた料理だったもの、当然これも死体の血で汚れている、を手で掴んで口に運んだ。獣のように咀嚼する。

「そうだ、これでいい……美味いもの食えれば俺はそれでいいんだよ……」

そう、この男、魔王エピキュアは貧困の中で餓死しかかっていたところで魔王化した人間だったのだ。自分が最も執着する感情は食欲であることはわかりきっていた。故に自らの暴走を抑えるには、食べることで本来の願望を思い出させるしかないと考えたのだ。

「さて、このこのバーさんにとどめを刺すとするか……。今の俺みたいに暴走してたのかも知れんが、さすがに叙情酌量の余地はないな……。」

その時!

「やっほーぅ、そこのお兄ちゃぁん!ちょっと待ったってやつだよ!」

扉から一人の男が現れた。しかし様子がおかしい。全くの無表情である。陽気な発言からは予想ができぬ見てくれである。だがそれよりも……。

「お前はさっきオレが助けた客!どういうことだ!」

そう、その男は鎌苅和成だった!

「ハロー、ハロー。私はこの男の身体を乗っ取っている魔王だよっん!あなたはこんな場所でどっかんばっかんやって目撃者がいないとは思っていません?」

「何が言いたい!」

「要はこの戦いを見ちゃった人を全員私が洗脳してるので人質!思念一発で自殺可能!避けたけりゃそこに転がってる魔王ロンジェベティの身柄を引き渡せってこと!」

「つまりこのバーさんを洗脳して手下にするってわけか!?」

糸で吊るした人形のような動きをしながら洗脳鎌苅が口をパクパクさせ答えた。

「答えはNO! そのオバアサンは既に洗脳済みなのよね。魔王化しかけてたことに気づいた私はゾンビの幻覚とか見せて魔王化を完成させて、洗脳して君に向かわせたんだよ。」

まぁ、本人は自分の意志と思い込んでるんだけどね。洗脳鎌苅はそう付け加えた。

「つまりどのみち俺がこの魔王を殺すことはできなかったってことか。俺が死ねば自分の手は汚さずに万々歳、俺が勝ったら人質を使うと。畜生! さっさと連れてけよ!」

魔王エピキュアは気絶した老婆を洗脳鎌苅に蹴り飛ばした。

「はい、どーも。君の能力と人格はだいたいわかったし、また今度卑怯な手で倒しに来るからまた今度っ!あ、この体の持ち主も私のところまで運ばせたら話してあげるから安心てね!」

洗脳された鎌苅は出て行った。

「ったく、どうやってあの洗脳野郎を倒したものか……。どうしてこう、無関係の人間を……」

魔王エピキュアも外に出ようとしたが、その時大勢の警官が現れた。マスコミと思わしき人間たちも居る。

「そこの男!止まれ!」

彼は今死体で埋まった店に一人立っていたのだ。警官は銃を構えている。

「……さて、まずはこの場を切り抜けないとな……。」

魔王エピキュアは思案するのだった。

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