ブスと桃太郎と最終決戦Ⅲ
ブッケ=ファルコスの乱入によってお爺さんとお婆さんは戦闘を中断し、共にブスへと矛先を向けます。しかし、ブッケ=ファルコスの指揮は的確かつ精確でした。
「もはやブスの帝国は瓦解した」
暑苦しいほどにマッチョな身体を震わせてブッケ=ファルコスはつぶやきます。
「ジジイ、ババア! 貴様らのせいで、地上の楽園たるブスの帝国が潰れたのだ! ブスがブスとしてブスらしく生きていける理想郷。その崇高なる理想を破たんさせた罪を贖ってもらおうか?」
何故かキレているお爺さんは
「貴様ッ! 我がツインテール教団の崇高なる使命を知らぬのか? 世界中をツインテールの美女のみで埋め尽くし、その中でワシがウハウハの教皇として君臨するのだ! ブスどもよ、貴様らに生きる意味などほげえっ!」
セリフの途中でお爺さんはお婆さんにぶっ飛ばされました。
「無駄口はいらぬ。この婆にかかってくるがいい! 貴様にブスの誇りがあるのならばな」
この宣言を皮切りに、お婆さんとブッケ=ファルコスの拳の打ち合いが始まります。残像すら見えない、人間離れした二人の女の衝突。都庁は今にも泣きだしそうに軋みをあげています。というか、崩壊寸前です。
二人の拳の激突は一瞬にして知事室の壁を吹き飛ばしました。同時に、ブスたちも吹き飛ばされます。中にはスカートの裾を押さえているブスもいますが、悲しいかな誰も見ていません。
「なかなかやるな、貴様。世紀末ブス王の異名をとるだけはある」
「下を見るがいいクソババア」
壊れた壁からにょきっと首を出して下界を見下ろすと、そこにはブスたちが多数拘束されている様子が見えます。多くのブスたちは無念さからか、泣いていました。
「我らのユートピアは今ここに終わったのだ」
「よかったではないか。今ならまだ人間として扱われるぞ」
「我らはブスの矜持を持っていた。世の中見かけだけだとうそぶく男どもに一発かましてやろうと思っていた。美人はモテ、ブスはモテない。この図式は未来永劫変わらぬのだろうか」
「変わらんわ阿呆が」
いきなり会話に入ってきたお爺さんを蹴っ飛ばしてお婆さんは続きを促します。
「外見で判断するのはなるほど簡単だ。そして、だまされる。その歴史をいつまで男どもは続ける気なのか。これは男どもへの報復だけではない、男どもを美女の呪いから救済するための我々の命を懸けた挑戦状でもあったのだ」
ブッケ=ファルコスは涙しながら続ける。
「クソババア、気づいているだろうが、女は若くなければ価値がない。そういう価値観が日本社会を支配している。熟れた魅力を感じない教育も、それを容認しない社会も気に入らないのだ。ならば! 我々ブスが先頭に立ち、それらを変える! 若くなくても女子を名乗れる、理想郷こそが我らの悲願。還暦を超えてもゴスロリメイド服を着てもよいではないか。ミニスカで歩き回ってもよいではないか」
お婆さんは黙ったままです。
それは真摯に耳を傾けているようにみえました。
「世界の美少女、美女に正義の鉄槌を!」
そのセリフが終わると、お婆さんはようやく口を開きます。
「お主の言いたいことはわかった。貴様の言い分も……」
途中でお婆さんの口が止まりました。
お婆さんの両目はみたらし団子をホームズと一緒になってがっついているお爺さんに向けられています。怨嗟のこもった視線を感じたのか
「うぬう? このワシに嫉妬する神の声が聞こえる」
と見当違いの行動をとるお爺さん。
お爺さんの目の前にお婆さんは幽鬼のごとく立っていました。
「ワシの……みたらし団子……」
お爺さんは負けじと
「馬鹿者め! このみたらし団子の賞味期限を見たのか! 三か月前じゃぞ! さすがにもういいと思ってホームズとこうして食っておるのだ。なんら文句を言われる筋合いはないわ!」
「このクソジジイ! ビンテージみたらし団子は賞味期限五年なのじゃ!」
「それで腹を壊さんのは婆さんだけじゃ」
「人を妖怪扱いしおったな?」
再びお爺さんとお婆さんのバトルが始まります。
「総員、自決用意!」
ブッケ=ファルコスはわずかに残ったブスたちに命じました。計画が失敗したときのために都庁には強力な爆弾を仕掛けておいたのです。
「もはや、この世に未練なし。都庁、いや大江戸とともに我らは天上の世界でブスの楽園を築こう」
「ちょっと待ったぁ!」
そこに桃太郎が乱入しました。
切らした息を整えながら、桃太郎はブスたちに
「なんでそんなに絶望するのさ。まだ早いよ」
と説得にかかります。
こんなところで自爆されてはツンデレラはおろか桃太郎の命も危ういからです。お爺さんとお婆さんは平気なのかもしれませんが。
桃太郎の思惑も知らずに平常通りにお爺さんとお婆さんは夫婦喧嘩を繰り広げていました。
「ブスがどうしたっていうのさ! この爺婆を見てよ。こんなのでも結婚してどつき漫才しながら夫婦やってるんだよ? これに比べたら全然常識人じゃないか! うちのお爺さんはロリ婚を目指して生きている天然記念物クラスの変態だし、お婆さんは名神高速を時速二百キロで逆走するスピード狂だよ? みんな、そんなことしないでしょ?」
桃太郎の必死さが伝わったのか、ブッケ=ファルコスやブスたちの動きが止まります。
「お婆さんはね、五千回お見合いをしてやっとお爺さんを射止めたんだ。きっと必ず、ブスとか関係なく受け止めてくれる男性はいるはずなんだ! その可能性をあきらめちゃダメだよ!」
桃太郎はあと一押しのセリフを考えます。
ここまで来たらあとはノリと勢いで乗り切れと思いました。
「みんな、お婆さんに続くんだ! 都庁のビルの上でお爺さんと空中戦を繰り広げているようなお婆さんに! お婆さんにできたことなんだから、みんなにできないことはないんだよ、絶対!」
これがとどめでした。
こんにちは、星見です。
あと一話で完結です。
落としどころがこんなのになってしまいました。最初からの構想で、オチというか決着はこうしようと考えていました。今回はやや真面目な終わり方だったかなと思います。
次回はエピローグです。今日中に書いて明日に投稿できればと思います。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




