第11章 蜃気楼は幻の城と共に (2)
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白い霧の中。二メートル先は見ることができない。黒霧に向かって流れてくる霧が溜まるとも、木々が霧を生み出しているともいわれるミラージュキングダムに続く森の中。黒霧から出る三つの路線で、もっとも乗車が少ない列車で一駅進んだ町、ミッグから森に入ってすでに三日が経っていた。
「随分と使えるようになったじゃねぇか、力」
屈んでいるカイヤックの顎から零れる汗に混ざるのは赤い液体。天使や雷祇と戦った時の傷は、静華に傷口だけをふさいでもらって、治してはいなかった。雷祇は汗をぬぐい座りながら尋ねた。
「どうして治してもらわなかったんですか?」
何の事を言っているのかという顔。常人ならすぐにわかるだろう傷も、二日前の晩御飯よりも憶えていないと言われたような感覚だった。雷祇は船を下りた次の日の、殺人現場のようなベッドのことを話し、それでようやく思い出したようだ。
「あぁ、何でってか? そりゃ、嬢ちゃんに負担を掛けてばかりじゃいけねぇだろ?」
「でも、カイヤックって、ほとんど傷を塞いでもらう程度しかしてもらってませんよね。現に、血が出てますよ」
顔を二、三度叩いて手のひらを確認すると、真っ赤な汗がついていた。
「……汗だろ」
「どんな色の汗ですか!」
「ま、血だろうと、死にゃしねぇんだし、勝手に治るだろ」
「そう言って放置した結果が、顔の傷だと思うんですが」
驚きと納得を頷きで表現するカイヤックに、呆れるしかない雷祇。もう無駄なことは言わないと、次に口を開いたのはこの先のこと。
「そうだ、もうそろそろ着くんですよね、ミラージュキングダム。そこで一体、カイヤックは何をしたいんですか?」
休憩は終わりと言う代わりに、カイヤックは立ち上がる。あまり喋りたくない空気を纏いながら。
「雷祇、お前ぇは死体の山って見たことあるか?」
思ってもみなかった問いに、歩き出していたカイヤックを追う足が思わず止まる。
「そ、そんなの、あるわけないじゃないですか」
「俺ぁ、何度かある。その光景で、忘れられねぇ物が三つある。その一つが、ミラージュキングダムだ」
後ろで止まっている足音に、カイヤックも足を止める。後ろは振り返らない。
「十年、いやもう少し前か。どんな国が戦争を起こしたのか、この目で見たくて来たことがあんだ。戦争が終わって何年も経ってからな。その時も、ミッグからだったんだが。誰も行かねぇんだと、行きたくねぇんだと。昔は人の流れは絶えなかったと、その時ぼやかれたのを憶えてる。本当に誰にも会わずに、ミラージュキングダムにたどり着いた時、その意味が分かった。殺された時と同じように、まるで、まるで……。雪の中に閉じ込められていたみてぇに、腐らず残ってたんだ、死体の山がな」
後ろの足音は動き出す気配がない。カイヤックの目の前には、ミラージュキングダムの光景に重なる、雪のチラつく景色が広がっていた。
「そこで……そこに行って、カイヤックは何をするつもりですか?」
一言言葉を置いて、雷祇がたどり着く前にカイヤックは歩き出した。
「墓、作ろうと思ってな」
雷祇の懐中時計で確認しながら取った朝ご飯を終えて、一行は霧を抜けようと歩いていた。森に入ってからずっと先頭に立つカイヤックの後に続く皆の足取りは重くはなかったが、雷祇だけの足取りは重かった。歩き始めて二時間が経った頃、濃かった霧がより一層濃さを増し、二メートル先は見えていた森が、一メートル、五十センチと、一歩ごとに視界が狭く、白くなっていく。それに伴い、シャーミとミーシャは手を繋ぎ、バナンは鬣で安全を確認しながら進む。カイヤックは手を伸ばして歩き、雷祇も同じようにして歩く。そして、自分の手すら鼻につくまで見えなくなって五分近く歩いた時、白かった視界が晴れると目を瞑りたくなるほど色鮮やかな世界が目の前に広がった。色鮮やかといっても、大して煌びやかでも、色々な色があるわけでもなく、真っ白な世界と比べて。雷祇は色を取り戻した瞬間、強く瞼を閉じ、一呼吸置いてから、覚悟を決めて目を開いた。
「あれ……」
覚悟を決めた割には、随分と情けない声を雷祇は出していた。なぜなら、目の前に広がる景色がただの朽ち果てた町だったから。
「あの、カイヤック」
ようやく遠くまで見れるようになり、シャーミとミーシャは町の景色を見て回る。バナンから下りた静華と、バナンが二人の側に近づく。
《で、どうするつもりにゃんだ?》
バナンの言葉に反応せず、周りを慎重に、注意深く見渡すカイヤック。
《糞人間。貴様、俺様を無視するつもりか?》
動きが止まったカイヤックは、決してバナンに反応したわけではなく違和感の、死体の山がないだけでない違和感の正体に気づいたから。
「糞猫は分からねぇだろうが、雷祇、おかしなことに気づかねぇか?」
完全に馬鹿にされたバナンはカイヤックに噛みかかろうとしたが、静華に止められてしまう。雷祇は死体のことを口に出そうとしたが、「そっちじゃねぇ方だ」と先に止められてしまう。「ここは、何十年と人が住んでねぇんだ」 答えを言うのではなく、違和感に気づくのが自分以外にいないと、おかしな感覚を持っているだけになる。雷祇に分かるように、でも分からないように。頭の中におかしなところと反響させながら景色を見回す。博物館の天井のように霧が空を覆い、家は朽ち果て、荒れて畑だったはずの場所は草だらけ。道は多種多様の花の弱肉強食の跡が見られ、人工と思ってしまう円柱の崖にらせん状につく坂を上った先にはブリック・キングダムの城のように立派な――
「あれ、なんで、なんであの城はあんなに綺麗なんですか?」
見えない静華は首を傾げ、バナンは城に目をやる。それから町に目を戻し、あからさまに建物の綺麗さが違う事に気づき、《にゃぜだ》とカイヤックを見る。二人からの注目に神妙な面持ちのまま、思っていることを口に出した。
「分かんねぇな」
出てきた瞬間、一人と一匹は納得してしまったが、すぐに頭が切り替わった。
「分かんないんですか!」
《だったらにゃぜ来た!》
「俺ぁよ、墓作りによぅ――」
《墓? 一体にゃんのだ!》
「人のに決まってんじゃねぇか」
「でも、どう考えてもおかしいですよ。カイヤックがさっき言ってたことが本当だとしたら――」
「死体がねぇのもな」
話の飲めないバナンは何を言ってるのか聞き、同じように聞いていた静華は愕然としていたが、バナンは静華を慰めつつ話に入る。
《にゃら、随分おかしにゃはにゃしだにゃ》
「ああ、なんか解せねぇな」
「でも、ほら、誰かが、その――」
「片付けたってか? なら、噂ぐらい聞いてもいいはずだ。数え切れねぇほどの死体が運び出されたってな」
雷祇の口から出るだろう言葉をバナンが打ち消す。《墓はにゃいにゃ》
「ってか、墓って意味知ってんのか?」
《バカにするにゃ! それぐらい知ってる》
「でもそれじゃ、一体何が……」
考えても仕方がないのは分かっていた。だからこそカイヤックは当然の如く言う。
「行ってみりゃ分かんじゃねぇか。あの城に」
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「綺麗ですね、中も」
坂を登るのだけで一時間を費やし、城にたどり着いた。中は昨日掃除されたようにゴミ一つ落ちておらず、廊下には窓も明かりもない。正面からズレて左右に並ぶ、部屋に続くであろう扉のわずかな隙間から入り込む、細い白糸の光りだけが周りを確認できる唯一の手段だった。終演がいた時にはなるべく後ろを歩いていたカイヤックだったが、霧の森とこの城では常に先頭に立って歩く。おかげで後ろはバラバラ。バナンは静華を背中に乗せて一定距離を保っているが、シャーミがやりはじめた部屋の中を確認する勝負に無理矢理付き合わされていたミーシャが、「代わって、雷祇君」とカイヤックの横にいた雷祇に強制的にバトンを渡し、文句を言いながらも付き合う。扉を開けるたびに廊下は明るくなる。ミーシャはその二人の開けた部屋をたまに覗き込んだりしながら歩いていた。三度目の階段を登り切った一行は、扉を開けてもいないのに廊下が少し明るくなっていることで、光が差し込む場所が近づいているのが分かり、緊張感が増していく。四度目の階段を登る頃には、外に出たように明るくなっていた。そして、登り切った先には。
「ウワー、スゴいヨ」
「確かに、綺麗……」
壁がなく、八本の石の柱が天井支えている王の間。一望とはいえないまでも、入った時点で見える景色ですら、霧の白が町や森の緑を引きたて、夢の中にいるような感覚になる。本来なら目が開けられないほどの風が吹きこんできてもおかしくない高さなのだが、霧の晴れないこの国では吹かないのか、人とすれ違うだけで流れてしまう静華の髪が、バナンを降りて歩き出した動きに合わせて揺れるだけだった。
「何もないですね」
「あぁ、確かにな」
予想外といった感じで、なんだか危なっかしいシャーミとミーシャの側に雷祇は近寄っていく。外の景色に目をやることなく、いつもと同じように頭を掻くと上か下かを見るカイヤックは、この時は上を見た。徐々にではなくすっと上がった視線の中で、明らかにおかしな動きのものが下へと落ちる。
「何だ」
それが何であったか分からなかったのか、同じように落ちる視線。この城に入ってから、いや、この国に着いてから音らしい音は自分たちしか上げてこなかった皆も、同じように落ちた場所に体が向く。雷祇、バナン、カイヤックは落ちたものを見た時、驚きはしたものの体は自然と動きだす。足に集まる光りが雷だと知った雷祇が、大きく一歩を踏み出す。シャーミとミーシャを掴んで、イクリプスを構えたカイヤックの横をすり抜け、三段下がった段に二人を置いた。
「二人はここにいて」
雷祇が階段を駆け上って、見たもの。茶色い生き物。ただ、この最初の感覚に違和感が芽生えるには時間が掛からなかった。それは、生き物なのかという疑問。皮膚と呼べるのか定かでない、全身水ぶくれの岩のようにごつごつした皮膚。細く、肉が一切付いていない木の枝のような足らしきもので、直立とはいえないまでも二本で立っている。ガリガリに痩せて死ぬ寸前のオオカミのような体に、少し盛り上がった肩から垂れ落ちる、足と同じように細い腰の辺りまでの腕から伸びる、床につくほど長く鋭い指。上を向いていたが、千切れ落ちそうな勢いで下りてきた顔は、下半分が真っ黒になっている。生き物とはとても思えない見た目の中で、誰の目に見ても異彩を放つものがあった。瞼はないが、この国では絶対に見ることができない、青く澄んだ空のような瞳。じっと見ていると、まるで心があるようにさえ思えてくる。
「おいおい、何だこりゃ」
慎重に相手の動きを伺っていたカイヤックは、警戒を解く意味でイクリプスを肩に担いだ。雷祇はあまりの異形に目を離せないでいたが、相手の方も雷祇を見て固まる。バナンはその間を見て、この二つの命がこの世界のものなのかという疑問が渦巻いていた。
「雷祇、大丈夫なんじゃねぇか? 戦う気配は――」
《にゃに言ってやがる。こんにゃ生物、俺様は見たことがにゃい。少にゃくとも、生かしておく価値はにゃい》
言葉が分かるのか、異形の者がバナンを見る。逆立つ鬣が上に乗せた静華を包みはじめた時だった。音が、聞きなれない音が部屋の中に広がり始めたのは。この音の正体にいち早く気づいた雷祇。
「これって……エンジン。ヤダ!カラス君のエンジンの音です」
アドバイスを耳にしたバナンには、ヤダ!カラス君が何なのか分からなかったが、異形の者が何をしようとしているのか見て取れ、空気を一気に口の中に流し込んだ。
「エンジンって――」
カイヤックの言葉をも取り込んで、異形の者から放たれた火の口弾。自分の言葉が焼き消されたことで、すぐにまたイクリプスを構え雷祇を片手で階段に突き飛ばす。雷祇がどうなったのか確認せずに戦況を見ようとしたカイヤックの目の前には、赤と黄色の火の葉が噴き上がる熱の景色。咄嗟にイクリプスで体と階段を覆う。
《受け取れ! もし守れにゃかったら、貴様を殺す》
横から飛び出してきたバナンの言葉と鬣に包まれた静華。カイヤックは鬣の中から静華を受け取り階段に踏み出す。その後ろをバナンが駆け抜けると、追走するのは生えそろわず不格好な蒸された鳥を思わせる姿の異形の者。
「あれは――」
「さぁな。それより、ここから出るぞ。あの二匹に潰されるかもしれねぇ」
静華を左脇に抱えると、シャーミとミーシャに有無を言わさず同じように左脇に抱えて階段を駆け下りる。
「ついて来れるな」
「ふざけてるんですか?」
「いや」
五階を駆け抜ける二人。シャーミとミーシャは犬のような扱いに抜け出そうとするが、苦しくない程度に軽く押さえているカイヤックの力に抵抗すらできない。脇を見ることなく走りぬける二人。
「ちょっと、いきなり止まらないでください」
行き止まり、次の階に続く階段を前に、カイヤックが足を止め雷祇がぶつかりそうになった。
「雷祇、覚悟はいいか?」
「一体、何のですか?」
「ついて来いよ」
何の覚悟をしなければならないか分からないまま、カイヤックの大きな背中に隠された次の階に一段一段近づく。先ほど上がってきた時にはなかった、蠢く音。駆け下りながらも、脇にいた三人を肩に上げ、静華だけを掴んでいたのだが、先ほどまで抵抗したいた二人は今度はカイヤックの腕にしがみ付いていた。
「これ――」
「走れよ」
部屋から続々と現れる、先ほどの異形の者よりも幾分か生き物らしさがある、けれど異形の者たち。覚悟を決め切れていなかった雷祇の思いを汲むことなく、カイヤックの体が廊下を駆け出す。動くものに反応するのか、カイヤックに突然異形の者が噛みかかる。
「寝てな!」
イクリプスは肩に乗せたまま、肘で頭を叩きつけ、打ち払う。はっと、雷祇も離されないように走り出した。大体の異形の者はカイヤックが殴り、肘打ち、蹴りで吹き飛ばしていたが、遅れて出てきた者は雷祇に飛びかかる。相手の動きを冷静に、たまに力を使いながらかわし、雷祇はカイヤックに続いた。
《チィ!》
バナンが飛ぶ速さと並走。少しでも攻撃をしようとすれば、先に腕が伸びてくる。この状態で反撃できるとしたら、鬣ぐらい。わざと攻撃態勢に入り、伸びてくる腕を鬣で絡めとる。異形の者は抵抗し、鬣を切り取ろうとバナンから目を離した。いつその時が訪れるか横目で確認していたバナンは空を跳ね、体をひねって異形の者の腹を蹴りつけた。蹲るように首を下げた異形の者の頭を噛み切ろうと大口を開けたバナン。早い異形の者の動きは、バナンの想像を遥かに上回る。
《にゃ!》
一瞬で溜まった小さな火の球が、口を閉じようとしていたバナンの顎で爆発する。解ける鬣。煙に包まれたバナン。落ちてきたところを攻撃しようとしていたのか、煙を見ていた異形の者に突然伸びる鬣。完全に不意を突かれた異形の者だったが、細い体を上手く使い鬣をかわして一定の距離まで離れた。それが分かったのか鬣が戻っていき、中に消えると瞬く間に風が目隠しになっていた煙を消した。それでも顎の下から少し上がる煙。痛みはあるのだろうが、そんなことがどうでもいいといった感じで、バナンは異形の者を睨んだ。
《貴様、考えることができるのか》
一番下の階まで駆け下りた五人。
「ふぅ〜、ここにはいねぇみたいだな」
腕や足、腹に噛まれた跡や切り傷。見ているだけで思わず顔を顰めるほどの傷も、カイヤックにとっては気にならないらしい。イクリプスを床に突き刺し、肩に乗っていた三人を同時に下ろした。ようやく、変な生き物も、太い腕にも縛られない自由に、二人は羽根を伸ばそうとしたが「あまり動いちゃ駄目だよ」と雷祇に止められてしまい、仕方なく静華の左右の腕にへばりついた。
「どうします、この後? 中は危ない気がするので、外の方がまだマシだと思うんですが」
「外も危険かもしれねぇが、中よりはいいのかもな」
かすり傷一つない雷祇と並ぶと、余計痛々しく見える。本人は一切気にしてはいないが、傷を真横で見た雷祇は、菌が入らないのか疑問に思っていた。
「じゃあ、行くか」
カイヤックを先頭に歩き出した一向。角を曲がる時、一々警戒をして曲がり、最後の、出口に続く三つ目の角を曲がる。そこには、黒い影が伸びていた。カイヤックでも余裕で出入りができる入り口を軽々と越える背の、またしても異形の者。手にはこの国で嘗て使われたのだろう、雷祇までなら簡単に入れそうな口の大砲が握られていた。
「どうやら、タダじゃ通してくれそうもねぇな」
向かってくる様子ではない。けれど通してもらえそうな様子でもない。カイヤック一人で向かうが、三人もなるべく離されないように近づき、五人が全員入り口のホールに入るのを待っていたかのように、異形の者は動き出した。
「そう来るかい」
まず手始めにと、武器に使うのだろうと思っていた大砲がカイヤックに向かって投げつけられた。肩に担いでいたイクリプスを両手持ちに変え、落とせる場所にまで飛んできた大砲を体重を乗せ勢いよく振り下ろして床に叩きつけた。走り出すのだろうと考えてすぐに異形の者に視線を戻したが、カイヤックの目に見えたのは、人間なら皺が見えそうなほど目の前に迫った掌。ただ、この手に皺はなかった。
「こいつ!」
すぐさま腕でガードしたのは良かったが、異形の者に腕を振られると、足が浮き上がり投げ飛ばされてしまう。あまり経験はなかったが、着地はどうにか決められ、勢いで後ろに何歩かよろけたところの壁で止まった。体を一旦壁に任せ、勢いをつけて異形の者の背中を追いかけようとしたが、階段がもう一段あると思った時に無かったようにふわっと体が浮く感覚になり、慌てて振り返った時には真っ暗な穴の中に吸い込まれていた。
“避けれない”
異形の者が軽々とカイヤックを投げ飛ばしたのを見て、力ではまず間違いなく敵わない。自分の後ろにいる三人に拳がかすっただけでも、致命傷は免れない。まずは後ろの三人から注目を削ごうと、横に飛んだ雷祇だったが、まだ大した距離でなかったはずの腕が伸びて、足を捕まえられてしまう。
「しま――」
言い切る前にカイヤックと逆の方向に雷祇は飛ばされた。投げられ慣れている雷祇は壁に着地したが、カイヤックと同じように力を込めた時には中に落ちてしまった。そして、三人の前には大きな異形の者。
「ネェ、ミーシャ。コレは……」
「かなり不味いわね」
「一体どうなっているんですか?」
静華の問いに二人して、「三人だけになっちゃった」