表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テスタメント  作者: 竜丸
55/82

第10章 真夜中の白昼夢 (4)

     6


 腕に布を巻きつけているナダ船長が部屋を回り、甲板に呼び出された十人が見たもの。

「黒い、霧だ……」

 暗い世界でも見えにくくなることなく、自己主張する黒い霧に包まれた、真っ黒な海。

「おい、おい船長! お前ちゃんと――」

 若い衆の片割れが、混乱と怖さで震えながらナダ船長に掴みかかろうと一歩目を踏み出した瞬間、棟梁の鉄槌が頭に打ち込まれた。

「喧しい、馬鹿が! 一々うろたえるな! と、言いたいところだが、船長さん。俺やこの馬鹿どもだけならそれで済ますが、話が少し違う。これが言ってた、幽霊船とやらの黒霧か?」

 棟梁からの視線に引けを取らず、煙草に火を点けながら「そうだろうな」と口に出した。その態度に、もう一人の若い衆の「おま――」で棟梁の鉄拳が顔面を捉え、二人の若い衆が甲板でのた打ち回る。

「確かに、確かに内の馬鹿どもは見苦しいかもしれない。だが、その態度はおかしくないか」

「心配しなくていい。必ず、必ず送り届ける」

 二人の間の一触即発の睨み合い、間の空気は張り付き固まる。この状況で頼れそうな二人の険悪さが、老夫婦やシスター、若い衆の恐怖を駆り立てる。しかし、こういった空気を昔から幾度となく体感してきていた雷祇に特に怖さはなく、笑顔を溢れさせながら張り付く空気の間に割り込んだ。

「落ち着いてください。この時のために、僕たちが来てるんですから」

「……デカイのはどうした?」

 甲板には人間で、唯一カイヤックの姿がない。その一番突っ込まれたくない質問に、冷静だった雷祇の笑顔に嫌な物が混ざる。

「あ、いや、え、た、待機、待機してるんです。一大事が、あった時――」

「その一大事が、今じゃないのか?」

「すー、あ、え、えぇ、そう、ですよね。やっぱり僕、起こして、!」

 思わず出てしまった事実、寝ていて起こす事が出来なかったという現実。別に自分がどうなるよりも、カイヤックが激怒されて済む話なのだが、この雰囲気ではどうしても隠したいという心境。

 “まずい、非常に、まずい……。これは――”

 雷祇の考えがバレたと取られるか、雰囲気を考えていたと取られるか微妙な現状。一度、目を瞑り、開きながら向ける視線の先でさっと動くナダ船長。どう取られたか分からずに行動が遅くなったが、「そうか、今はまだ大丈夫という事だな」と言いながら煙草の灰を落としに、舵の横に置いていたシケモクが三本ある灰皿に向かうナダ船長に、

「すまないあ、ついカッとなった。無理言ったのは、俺達の方だったのにな」

 配慮に気づいたのか棟梁も引き下がり、まだ甲板に座っていた若い衆に近づき担ぎ起こす。どうやら二人は後者を汲み取ったらしく上手い方向に纏まった事に驚きつつも、ほっと肩を撫で下ろす。

《どうやら、この霧。ただの霧じゃにゃいぞ》

 船の上で争いにならずに緊張の糸が解けて絡まりがなくなった所に、霧の中を飛び回っていたバナンが帰ってきて、雷祇の背後に回る。

「どういう事ですか?」

 甲板に降り立ち目線が合うように、バナンが覆っていた鬣を解くと静華が話し始めた。

「聞こえなかったんです、生きている波の音が」

「い、生きている、波?」

「ここの波、一定のリズムなんです。私が気持ち悪くなった時は色々な揺れ方で、生きていました、波が」

 その言葉に、雷祇は耳を澄まして波の音に聞き入る。そこで初めて一定の、揺り篭を揺すられているような波になっているのだと気づく雷祇に、バナンがさらに驚きの言葉を聞かせる。

《それに、進んでも進んでも抜け出せにゃい。全力で飛ばして、帰って来る時はほんの二、三羽ばたきだった》

「でもそれじゃあ、泳いで帰ってきたって言うのがおかしくなりませんか?」

《多分だが、力が働いてるんだ、この霧は。その力を偶然超えれる場所に入り込んで出れたんだろ》

 雷祇とバナン、静華の話に、部屋に続く甲板よりも低い階段に座っていたシャーミとミーシャは、苦い顔で誰も居ない霧の奥深くを睨み付けた。

「ネェ、ミーシャ。これって――」

「間違いないよ。けど、私達は力を使えないし、何より私達よりも強い。何とか自力で、ね」

 頷き合う二人の視線の先で何やら蠢く物が見えると、ゆっくりと、海ではなく霧を泳ぐようにゆったりと、自らの進んだ道に引き摺り迎え入れようとするかのように、廃船の一団が姿を現した。

「な、なんですか、あれ……」

 “さっきは、にゃかった”

 シスター二人は、この世には存在しない死者の国の船に見える廃船に、必死で祈りをささげ、その横でうろたえどこに行く事も出来ずに仁王立ちで船を睨む棟梁に抱きつく若い衆二人。

「か、舵は? 舵は切らなくて――」

「どうやら向こうが来てるんじゃなく、こっちが行ってるらしい」

 火の点いていない煙草を銜えたナダ船長が、雷祇の横に来ていた。

「え、それって――」

「舵が効かないという事だ。それに、この猫が飛んでるのに付いてきてる」

《誰が猫だ! ふざけるにゃよ》

 ナダ船長の「それだ」に、異常に反応して毛を膨らますバナンだったが、船が大きく揺れてナダ船長が頭を掴んでグッと押し込まれ喋れなかった。

「どうやら、止まったみたいですね」

「そうだな」

 揺れの大きさに、甲板に倒れこむ老夫婦とシスターを起こしに雷祇が向い、その後ろにバナンとナダ船長も続く。落ち着き払う雷祇にくっ付こうとする若い衆二人を今度は棟梁が掴み、ナダ船長が一緒に老夫婦とシスターを起こし、打った場所や傷めた箇所は無いかを確かめ、どうにか皆が喋れる状態に落ち着けた。

「皆さん、この状況では落ち着けないかもしれませんが、どうか慌てないでください。慌てても、事態は解決できませんから」

 全員の顔を見渡していく雷祇の落ち着きのある声に、口を押さえ込まれて動けない若い衆以外は少しだけ安堵の表情が現れる。

 “よかった……。特に慌ててないみたいだ。けど、ここからどうするか、だよな”

 動き始める思考が回路を通って脳の中で、次の動きを組み立て始める。だが、皆の顔を三度見回しても、どうするべきかが出てこない。

 “やっぱり僕だけで行って……。でも、ざっと見て船の数は三十。一人で見るのは時間が掛かり過ぎる。やっぱりバナンも、って駄目だ。バナンまで船を離れたら、一体誰が船を。そうだ、カイヤックを起こせばいいんだ。でも、あれ以上刺すのは命に関わりそうだし……でも、そんな事言ってる――”

「いいか?」

 流石に四度目となると、止められるのは分かっていた雷祇が、声を掛けたナダ船長を見る。

「何ですか?」

「あの船団を調べるんだろ?」

「あ、はい。幽霊だとしてもそうじゃなくても、この霧から抜け出すには倒さないといけないでしょうから」

 何度か頷き、雷祇の考えにはなかった考えをナダ船長が話す。

「そうか。じゃあ、俺も行こう」

 雷祇とバナン以外も船の中を探すという方法。

「だ、駄目ですよ! 危険ですし、何より脱出出来た時、船を動かせる人がいないと――」

「聞くが。ここにいれば安全なのか? それに、抜け出すためにも人数が多い方が見つけやすいだろ?」

 答えにくい質問に口籠もる雷祇を見て、「だったら俺も行こう」と棟梁も言い出してしまった。ますます困る雷祇が「いや、あのそれは――」と拒否しようとした声が、「嫌です、棟梁ぉぉ〜」「見捨てないでくださいぃぃ〜」と泣き付く二人に邪魔される。棟梁も棟梁で、二人を振り払おうと頭を押すが、二人は溺れ死にそうな人のように棟梁の足に全力でしがみ付く。この霧と廃船団、状況を考えるとナダ船長と棟梁の二人の方が異常で、老夫婦もシスターも内心は不安で表情が一つに統一されている。不安という一文字に。けれどこの二人のおかげで、雷祇が思いつく。

 “危険だし、この二人がいなくなればここの人たちは不安に……あれ? いや、じゃあ”

 横を向き目を合わせてきた雷祇にナダ船長が「何だ?」と聞くと、笑顔で濁り無く「やはり残ってください」と言い切った。

「ナダ船長も棟梁も、この船に残って皆さんを守ってください。ナダ船長言いましたよね。誰も死なせないと。だったら、この船を離れるんじゃなく、皆を守らないと。で、もし船が襲われたらナダ船長一人では十も二十も相手は出来ない。だからこそ、棟梁も残ってください。お二人がいれば、船は安全ですし僕も心強い。それと、静華にも残ってもらうよ」

 バナンの背に跨る静華を見る雷祇の意見に、待ったを出すのは当然の事ながらバナンしかいない。

《にゃに言ってる。それじゃあまるで、静華だけは残って俺様は行く――》

「来てもらいますよ、バナンには」

《ふざけるにゃ。にゃんで静華だけ残して――》

 雷祇に飛び掛らん勢いのバナンに、静華が落ち着かせる声を掛ける。

「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。私も一応、ね」

 最近すっかり姿を見せなくなったギムンが宿るアスクレピオスの杖を見せる。それでも納得出来ないバナンだったが、「大丈夫だから」と力強く言う静華に、仕方なく甲板に下りて伏せた。

「ナダ船長」

 船に残る人数の多さに少しだけ不安が薄まる中、雷祇がナダ船長にだけ聞こえるように小声で声を掛けた。

「もし何かありそうなら、カイヤックを起こしてください。まあ、起きてもすぐには動けないでしょうから、盾にでもしてください。頑丈ですから」

「盾、ね」

 どうやらマッチを灰皿の横に置いてきたらしく火を点けに雷祇の前から遠のく時に見えた一瞬の顔が、少しだけ緩んで見えて雷祇の表情もいつもと変わりない自然な物に戻った。

「行きますよ、バナン」

 不満の残るバナンにそう声を掛け、雷祇が老婆やシスターに会釈をし、棟梁には「お願いします」と声を掛け、船の縁に足を乗せて台にして飛び上がり廃船に乗り込んだ。その後を、シャーミとミーシャを睨み付けながら、バナンも続いて船に乗り込んだ。


     7


 下手な場所に乗ると直ぐにでも穴が開きそうな甲板。勿論人の気配は無いが、見渡してもそれ程古い蒸気船には見えない作りに、雷祇の緊張が余計に高める。

《不便だにゃ、飛べにゃいっていうのは》

 慎重に足の置く場所を探る雷祇の横に、自由気ままに空の床を翔るバナンが見せ付けるように足を動かす。

「ええ。だから、バナンは一番奥の船から調べてください。一気に奥まで行って」

《……気にくわにゃいが、それの方が早いようだにゃ。にゃにか気配はするし、さっさと倒して静華の元に帰らにゃいといけにゃいからにゃ》

 足を同じ高さに固定して屈むと、無い筈の床を蹴り上げるように伸び一気に高く飛び上がり、先程とは違って飛んでいく姿がはっきりと確認出来、最後尾の船の中に姿を消した。

「それじゃあ僕も」

 暫くバナンの消えた辺りを見つめ、出てこないのを確認してから雷祇も船の中に入った。


 杖を突いて跪く静華の髪の色が薄白く輝く周りに、皆が集まっていた。それは、静華自身が魔法使いで癒しの力を使えるのでもしかしたら効果があるかもしれない、という趣旨の事をテスタメントというのを隠して話、実際に白く髪を輝かせたから。

「魔法にも色々とあるもんだな。戦うだけしか能が無いと思ってたんだが」

「色々あるさ。船乗りでも、大工でもな」

 静華に抱きつこうとしていた二人を紐で縛り、静華を中心に広がる光の輪、ギリギリの場所に棟梁と若い衆が座り、その輪の反対側にナダ船長が座る。シスター、老夫婦、シャーミとミーシャはその間に入っていた。

「しかし、時間の感覚が無い空間だ。まるで、止まってるみたいだ」

「それは無いだろう」

「何故、そう言い切れるのです」

 高齢のシスターの質問に、ナダ船長が廃船を指差す。

「あの船、一体どれくらい前の物に見える」

 質問形式で聞いてきたナダ船長に高齢のシスターが答えようとしたが、「十五年!」「いや、二十年」と怖さを吹き飛ばすように若い衆二人が張り切って先に答え、案の定棟梁に殴りつけられる。それを見て、さらに場が少し和み高齢のシスターが「十年」と答えた。

「二年前だ。海線が張られて三十数年で初めてこの近海で起こった難破。こんなところで見るとは思わなかった」

「確かに、古くなってはいるが、この船よりも新しい作りなのは確かだろう」

「そういう事だ。なるべく早く出た方がいいんだろうな、この霧の中から」

 その言葉を残して、灰を落としに灰皿に向かう。その後ろでは、また皆の雰囲気が暗くなった。


「あ、危なかった」

 四つ目の船の廊下を慎重に歩いていたのに不意に開けてしまった穴に落ちそうになったのを、雷命を支え棒にして片腕でぶら下がっていた。

「廊下以上に真っ暗だな」

 霧の間でしり取られて淡くほのかな色合いになってはいた物の、月や星の明かりが甲板には届いていたが、船の中には殆ど入っておらず船底は黒一色。

 “落ちたら上がってこれないかも……。っていうよりも、底はちゃんとあるんだろうか? そんな事より、早く上――”

 雷命に掴まる腕に力を込め懸垂の要領で頭が廊下に出る寸前、雷祇の耳に嫌な聞きたくない音が聞こえた。それは、廊下を踏み落としてしまった時にも聞いた腐り落ちる音。

「ヤバ――」

 雷命に掴まっていないもう片腕を咄嗟に伸ばして廊下に掴まった。が、その瞬間を狙っていたかのように、ベリベリと音を立てて雷祇がどう腕を伸ばして届かない範囲の廊下が一斉に崩れ落ち、雷祇も同じように真っ暗な船底に落ちてしまう。

 “水の音? やっぱり船底に板は無いのか”

 水に落ちる廊下の残骸の音を聞き、雷祇は取り敢えず身を守ろうと飛び込みをするように体をピンと伸ばし衝撃に備えたのだが、足の先から水に入る音が聞こえたその次には、足裏に何か重い感触があり、続いて重さが膝に駆け上がる。そうそれは、

 “船底、あった”

 想像していなかった自分自身の体重の重さ。幸いにして雷祇の体重の軽さで、関節は一大事には至らなかったが、落ちる勢いそのまま膝が折れて背中と頭を打ち付けた方が遥かにダメージが大きく、横を向いて寝転ぶと下の鼻の穴の位置にまで届きそうな水の中で頭を抑えて口に水が入らないように転がった。

「良かったような、悪かったような」

 痛さを紛らわせるように打った場所を掻いて座り上を見上げる。薄暗くはあるが見える廊下の天井に、「どっちにしろ、ジャンプでは無理か」と暗い船底で目を凝らす。そこで見えるのは、ただの黒い世界。

「少し、試してみようかな、力」

 そう呟き立ち上がると頭を押さえるのを止め、開いていても変わらない瞼を閉じ雷命を自分の顔の正面に引き上げ、床と平行になるように保ちゆっくりと鞘から抜き始める。金属と金属の擦れ合う透き通る音階を立ててゆっくりと現れる刃には、纏わり付くように黄色く細い竜の髭が現れては消えて、また現れる。

 “集中、しろ……。雷命を中心に、集めるんだ”

 ホーラキに出会ってから少しだけ、けれど明確に触れ、感じ始めるようになった力。それがテスタメントの物か分からないが、風牙や氷菜に対抗できる力になるかもしれないと、ここ数日の間、夜になると一人で色々と試していた。その結果、一番集中出来るのが雷命を使う事だった。

 “暴走、するな!”

 光に慣れさすために徐々に目を開いていく。薄い一本の視界の線が涙でぼやける所で一度とめ、光が入り込んで涙で反射するのに慣れてから、初めて目を開いていくように瞼を慎重に上に引っ張り開いていく。

 “何とか、かな”

 バチバチと空気の間を擦りながら幼い雷が走り遊ぶ。その光で船底がどういう形になっているのかが分かった。

 “貨物船、だったのかな”

 雷によって映し出される映像は、雷祇が今いる場所が荷物を集めておくための船底だった事を教え、見渡す事でさらにもう一つ重要な事を映し出す。

「え……」

「ゥウ、ウワァ!」

「ちょ、ちょっと、君は――」

 上に続く階段を、荷物一杯抱えたまま上ろうとしていた少年の後ろ姿。この双方の驚きによって、雷祇の集中が散漫、と言うより少年に向かったために雷命に集まっていた雷達が一斉に開放され、船底を我先にと飛び駆け出す。その衝撃で雷祇は吹き飛ばされ、少年は振り返る事無く一心不乱に階段を駆け上がった。

「うんん、イッテって、言ってる場合じゃない!」

 花火のように派手に暴れ咲いて何事も無かったかのように雷達は消えている船底を、雷命を鞘に収めながら跳ね起きて走り出した。が、直ぐに何かに思い切り飛び上げた膝をぶつけ、膝から駆け上がる体の電流に蹲りそうになる。

「早く、行かなきゃ」

 しかしここで立ち止まる事は出来ず、ぶつかった物に片手を沿え、今度は雷命を前に突き出して走り出す。そして、雷命の先が何かにぶつかったら通れる場所を探し、少年を見かけたであろう場所に向かう。三度程通れる場所を探して、四度目にして今までとは違う感触が手に触れた。

 “壁”

 そう確信を持ち、自分の感覚を信じて左に向かって壁伝いに歩き出すと、意外にあっさりと壁が無くなった。それはつまり、

 “階段”

 上に向かえるという事。雷祇は躊躇い無くその階段を確かめる事無く大胆に駆け上り始め、今にも壊れてしまいそうな音を立てるのを無視して、全力で一段一段を駆け上がる。

 “後どれくら、”「うわっと!」

 それが十五段程で突然階段が無くなり、あると思って踏み出した足が空中で透明な階段を踏み外して両足が飛んでもいないのに床から離れ、階段を駆け上っていた勢いを殺せずに、崩れ落ちながら今度は顔面と両膝を壁にぶつけて、後頭部と背中の痛みの調整を取ってしまった。

「あ、あぁ。鼻血、出たか、も……。いや、待って!」

「うわぁ!」

 鼻を押さえて蹲りながら、左右を確認しようと左を見ると、角から身を乗り出していた先程の少年を見つけた。当然雷祇は声を掛けたが、少年は雷祇を見た途端に叫びながら逃げ出す。その後を、鼻を気にするのも忘れて追いかけだす。

「ちょ、ちょっと――」

「うわ、うわぁぁー!!」

「待って、危ないから! 走ったら危ない、!」

 その言葉には耳も貸さない少年だったが、雷祇からは何があるか確認出来ない場所で突然ジャンプする。疑問を持ちつつその場所に雷祇も差し掛かると、一応同じように一ジャンプする。その時になって、ジャンプした廊下に穴がいているのだと知り、少年をまた見る。だが少年は下を見ずにまたジャンプした。当然、先程の事もあって雷祇もジャンプを真似し、少年の後を追う。その追いかけっこが丸々船一つ続いて、長い長い廊下を曲がった先で、雷祇の前から突然少年が姿を消した。

 “ここ、かな”

 そこは客室なのか短い廊下と奥に窓、四つの扉があった。まさか窓から外には飛んでないだろうと外を確認して、それらしい姿が無いのを確かめ、怪しい一番綺麗な扉を除いて三つ扉を開けた。が中には人の気配が無く、頷くと残しておいた最後の扉を開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ