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テスタメント  作者: 竜丸
5/82

第1章 出会うべくして出逢った (4)

     9



「あ、あれって、さっき女の子に撃った煙弾と同じ物ですか?」

 終演が走り出した音が聞こえたので、僕はその音が進む方に付いていく。暫くすると、空洞から抜けて最後の吹き抜けに続く道に出た。

「あれか? あれはワシがちょっと煙弾を弄ったんじゃよ」

「ちょっとって、一瞬であの空間を煙が包んだじゃないですか?」

 足を止めずに、全力で走りながら聞いている。少なくとも僕はだが、女の子と戦っていてとても体が熱かったので、吹き抜けに出た瞬間に防寒着を脱げるようにと、詰め物を取りながら。

「何せワシは天才じゃからな」

 そのバカみたいな言葉を聞いて、僕が喋らなくなって暫くして光が差し込んできた。その走ったまま勢いよく拭き抜けに飛び込んだ。外は紅かった空が黒さを増す時間。最初に比べて、吹き抜け自体の温度も下がっていたんだろうし、僕の体が温まっていた事もあって、それ程強烈に吹き抜けの暑さは感じなかった。ただ、凄い速さで防寒着を脱ぎにかかる。詰め物を取っていた事は予想以上に効果を発揮して、すぐに防寒着を脱ぐ事が出来た。横では終演が防寒着を脱ぐのに手間取っていたので僕は手伝うことにした。こういうことで恩を売ろうとして。



「また煙弾? まったく、こんな事でボクから逃げ出せると思ってるのかな。分かってないな」

 そう1人ごとを言った後、首に下げていたネックレスを握った。



「はぁ、はぁ。殆ど日が沈んだというのに、ここは暑いのぉ」

「そうですね。なんで、ここだけ暑い、んですかね?」

「そんなん、ワシが、知るわけなかろう」

「それと、今質問なんです、が。何でさっき、ケルベロス、使わなかったんですか?」

 2人は少し離れて座りながら息を整えていた。ケルベロスは大きな石と石の間に置かれている。

「何って、分からんのか? あんなとこで、ケルを使えば、中が崩れるじゃろうが」

 “なら何で持ってきたんですか”

 心の中ではそう思ったが、口には出さずに空を見上げながら言った。

「あの女の子、何なんですかね? それに、あの力……」

 終演は無言だ。

「それとどうします? ここでゆっくりはしてられないですよね? 女の子振り切れたとは……。終演?」

 あまりにも反応がなかったため、空から終演に目線を移した。その顔は、ここから戻る方の道が続く発掘所内を見ていた。僕もそれに釣られてその方向を見た。

「ふぁ〜あ。キミたちが遅いから、待ちくたびれちゃったよ」

 さっきの女の子がそこで待っていた。発掘所内で大きな氷の塊の上に座り、足を組みながら両手を挙げて背伸びをした。

「ど、どうして……。いつ、いつ僕たちを追い抜いたんだ!!」

 女の子は笑顔を作って「さぁ」といった後、終演を指差しながら言った。

「でももし、知りたいならそこのジジイにでも聞いてみたら。キミと違って事情を知ってると思うよ」

 僕は女の子が指差した先にいる終演を見た。終演はうつむき、溜息をつく。そして僕を見て手招きした。

「仕方ないのぉ。雷祇、ちょっとこっちに来い」

 僕の頭の中はパニックを起こしていた。ただ、終演の手招きには応えなければと、体が勝手に終演に近寄っていく。そんな僕を見て、というよりは終演に向かって女の子は大笑いしながら言った。

「もしかしてボクが光の中に入れないとか思ってる? そんなわけ無いでしょ、普通に―」

「そんなことは思っとらんわ」

 終演はあっさりとそう言った。そのことに疑問符が浮かんだ顔を女の子が作って、「じゃあどうしてその子を遠ざけたのさ?」と終演に質問をした。僕のパニックだった頭が、終演が俯きながらも肩を震わしている事で働き始めた。そして、前を向いた終演の顔は子供のような満面になっていた。その顔を見た僕の頭の中に、ある1つの物が思い浮かんだ。

「ま、まさか!」

「?」

 僕の様子がおかしい事に女の子が気づいて、不思議な顔をした。

 “こ、ここは大空と、そう、自由へと繋がっている。この空の下では、鳥達だって自由に……”

 終演が背負っていたリュックの袋の部分を勢いよく剥ぎ取った。するとそこには、2本の鉄筒で出来た何かの機械らしき物があった。それを見た途端、雷祇の顔が変わり頭を抱えた。

「い〜〜〜やぁ〜〜〜、やっぱりぃぃぃ」

 腰に手を当てながら、シルバーに輝くそれを女の子に見せて、なんだか変な外国人風に喋りだした。

「そう! これこそがワシの最・高・傑・作!! ヤダ!カラス君3号改!! 大空をまるで烏のように飛べる、まさに夢のような機械じゃ!! 今ならお求め安い、たった、たった1億8600万レンで、あなたも空を飛べる!! そして、自由を満喫しようではないかのう!」

 大げさなアクションを交えて、最後には両手を大きく広げてそう言った。

「……」





 終演の最も好きで、最もお金を使う趣味を言ってませんでしたね。そうそれは、とてつもなく危ない発明です。終演自身が使っている意思通りに動く義手や義足、大砲銃こと今回は出番がなかったケルベロス、多分発掘所に向かう時に作っていたであろう煙弾。他もろもろ終演は、自分で使うものは大体を作る人なんです。そしてその発明の中で、最も迷惑でにしてお金が掛かるのが、今バカみたいに紹介したヤダ!カラス君シリーズです。

 どうやって動くなどの細かい事は知りませんが、2本の鉄筒から大きな音と共に煙を出して、火を吹いて空を飛べるんです。空なんて飛べるはずがない、そうお思いでしょう? しかし、このヤダ!カラス君シリーズは空を飛べるんですよ! 確かに飛べるんです、そう確かに……。そして僕は何度も空を飛ばされました。あぁ、辛かったな……。一体何度空中爆発で死にかけたんだろう? ある時は海に向かって、またある時は切立った山の山頂から、まあ、そのどれも、寝ている僕をヤダ!カラス君に付けて吹雪の中に向かって発射した時は、生きて帰ったら殺してやろうと思うほど、怨みましたよ。今考えると、よく生き残れたものだと、自分で自分の事が凄いとしか思えませんよ……。後、3号といっても、改の後ろに数字がいくつも付くんですよ本当は。その証拠に、1億って……。あぁ、何だろ? 無性に腹が立ってきた。だって、今ってピンチなんですよ。そんな時に、このクソジジイは……





 顔どころではなく、体中の至る所がピクピクと動き、雷祇が終演に近寄った。その様子に気づいた終演は後退りをする。それに構わずどんどんと近づき、終演の目の前まで来た所で雷祇の怒りが爆発した。

「むぁあた作ってたんですか!!!」

「な、な、なんじゃい。わ、ワシャ、老い先短い年寄り―」

「アナタの命が長かろうが短かろうが、そんなこと今は関係ありません!!」

「い、いいじゃないか。わ、ワシだって、ワシだって―」

「通りで、通りで! 細かく計算して、今週は乗り切れると思った、そんな、そんな週に限って、いっつも週の終わりには財布がピンチになると思ったら、アナタが盗んでたんですね!!!」

 雷祇の迫力に、女の子が入るタイミングを見失って、気を使いながら話しかけた。

「あのぉ〜、もういいかな? いろいろと言い―」

「少し黙ってて!!!」

「……」

 雷祇は女の子の方を見ずに手で制して、終演をどんどんと追い詰めていく。

「何でアナタは、いつも! いつも!! 後先を考えないで、無謀に突っ走れるんですか!? ねぇ!? ねぇ!!」

「そ、それは、その、な―」

 俯く終演に、雷祇は手を突き出して、まだ収まりそうにない怒りをぶつけた。

「言い訳なら聞きませんよ! 断固として聞きませんからね!! 分かりました、もう決定です。小遣いは今度からなしです!」

 終演もこの言葉には引っかかったようだ。

「そ、それはひどいんじゃ〜ないかの!!」

「ダメです! あぁ、ダメなものはダメです!!! 無駄使いとガラクタ作りを止めるまで、絶対にダメです!!!!」

「ガラクタって……。それに、なんじゃい、いつも自分ばっかで―」

 この言葉がさらに雷祇をヒートアップさせた。

「僕が! この僕がいつ自分の欲しいものを買いましたか!? ど・れ・だ・け! どれだけ少ないお金でやりくりしてると思ってるんですか!!! 人の苦労なんて、な〜んにも知らないで!!!!」

「仕方なかろう……。しゅ、趣味なんじゃか―」

     ズコーン!!!

「!!」 「!!」

 地が揺れるほどの衝撃と、体の芯まで響く大きな音に驚いて、僕たちが音の鳴った方に視線を向けた。そこには女の子が下を向いて、大きくない手を壁に打ち付けていた姿があった。どうやら女の子が殴った音が、先程のとてつもない大きな音だと分かった。そして、僕たちのほうに向けたその顔は、今までにないくらい怒りが満ち溢れていた。

「もういいかな?」

「あ、あれ? なんだかずいぶんとお怒りのようで」

 僕がそう言った事で、女の子の顔がさらに怒りで満ちていく。

「当たり前だ!! ゴチャゴチャと! いいかい、キミたちは今からボクが殺すんだよ。先のことなんか心配しなくてもいいんだ!」

 女の子を見ていた僕は不意を突かれてしまった。そう、終演に首を掴まれてしまったのだ。

「ま、まさか飛ぶなんて―」

「飛ぶぞ!! ヤダ!カラス君3号改発射じゃ!!」

「いや〜〜〜!!!」

     ゴ〜〜〜〜!!!!!

 飛ぶまでに少しの間があった。大きな音で耳が痛く、煙が視界を失くす。その視界が開けたのは、少し飛んでからだった。そしてその時、偶然女の子が目に入った。女の子は先程の怒った顔とは違い、笑みを浮かべていた。そして、僕らに手まで振っていた。音で聞こえなかったが、僕には女の子が「バイバイ」と言っている様に見えた。

「嫌だ! 降ろして〜〜〜〜〜!!」



     10



「今のまま殺すのは簡単だけど、それじゃあ面白くないよね。強くなって、ボクの玩具になってくれなきゃ。あでも、ボクが1人締めしたらみんな怒るかな。ただ、あのバカが怒ったら凍らしてやる」

 女の子は吹き抜けに出た。暗くなった空を見上げて、胸の辺りにあるネックレスを握った。



     11



 “あれ? 今、僕はどうなったんだろうか? ああそうか、天使になったんだ。あはは、あはは。だってこんなに長くなんて飛べないも……”

「って、飛んでる!! し、しかも、まともに〜〜!! もうとっくに空中爆破する時間が過ぎてるから……。も、もしかして成功ですか?! 成功なんですね!!」

 見上げた僕の目には、終演の完璧だという感じの笑顔が見えた。それで僕には十分だった。その笑顔が成功だと物語っている。しかもケルベロスを持って飛べているのだ。今までは僕だけで限界だったのに。

 “けど、あの女の子は一体なんなんだろう?”

 そう少し考えたが、今は闇が迫った砂漠の風を感じたい。こんな経験そうは出来ないのだから。少し空の時間を満喫してから僕は終演に話しかけた。

「終演」

「なんじゃ?」

「もうそろそろ発掘所の終わりだし、降りませんか?」

「降りるって何じゃ?」

「いや、降りるって―」

「だって、飛べるなんて思っとらんから、着地する手段なぞ無いぞい」

「……。ならどうするんですか?」

「大丈夫じゃ。燃料がもう殆どないんで、自然に墜落する」

「へぇ〜。墜落ですか……。嫌だ!! そんなの嫌―」

「コラ! 暴れるんじゃないわい!!」

「嫌だ! 嫌―」

 大きな音が突然止まった。

「ホレ、切れたぞい。まあでも、丁度発掘所の入り口までは来れたんじゃ。ただ、天国の入り口かもしれんがな」

「い〜〜や〜〜〜!!!」

    ズドーーーーン!!

 高さは約30メートルはあったろうか? それ程の高さにも関わらず、下が砂だったから何とか助かった。そしてこの時実感した、僕の運の強さを……。

     ペェッ、ペェッ、ペェッ

 砂が口に入ったので、僕は唾と一緒に吐き捨てた。服の間や靴の中にも砂が入っていたが、それよりも僕は、終演に文句を言う事を選んだ。

「しゅ、終演!! 下手したら死んでたでしょうが!!!」

「何言うとるんじゃ。上手くいったから死んどらんのじゃ。普通にいってても、死んどったぞ」

「ったく」

 僕は終演に言葉で勝った事が無い。それに、僕が本気でキレた時くらいしか、終演は反省した様子を見せない。諦めと呆れた表情を作って、僕は歩き出した。

「どこ行くんじゃ?」

「どこって、遺体を取りに戻るんですよ。全員置いてきてしまったじゃないですか、発掘所の中に」

「な! 何言うとるんじゃ!! 中にはまだ奴がいるんじゃぞ!!」

「分かりました。じゃあ、僕一人で戻ります」

 終演が何かまだ言っていたが、僕は無視して発掘所に入った。僕は発掘所に入る前に何かが変わった事に気づかなかったが、少し入ったところでその何が変わったか分かった。

「あれ? どういうことだ……」



     12



「ありがとうございました。いや〜、まさか原因を解決してくださるとは思っていませんでした」

「いや、どおってことわありゃせんよ。こんなご馳走用意してもらって、こっちこそ感謝じゃ〜」

「でも、本来僕たちが遺体を運んでくるべきだったんです。なのに、すいません」

「いえいえ、明日にでも町をあげて遺体を家族の元に返します。なのでお気になさらないでください。ささ、お疲れでしょう、ゆっくり楽しんでください」

「すいません。では、お言葉に甘えて」

 僕と終演は町をあげての感謝の言葉に少し照れながら答えた。あるものは、明日から仕事ができると喜び。あるものは、家族に会えると喜び。そうそう、道具屋のおじさんは終演に謝り続けていました。

 結局のところ、僕たちは何もしなかったといってもいい。発掘所に再び入った時にはすでに女の子がいなかったのだ。だって、発掘所の中の氷がまったく無かったのだから。水すら溜まっていなかった。それから僕たちは、明かりを持っていなかったので仕方なく町に帰ってきて、町長に事情を話した。そして今に至る。





けれど僕は感じていた。この事が終わりではなく始まりだという事を。そう、単なる出会いに過ぎないという事に……

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