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テスタメント  作者: 竜丸
33/82

第6章 アスクレピオスの杖 (4)

     6


「ふ〜ぅ、ギリギリだったな」

 挟まれた数本の髪の毛を抜き、床に落ちているイクリプスを拾い上げながら横で息の上がっている雷祇に声を掛けた。

「助かったぜ、雷祇。それにしてもよ、その力使って気失わなかったんだな。もしかして、自分で使えるようになったのか?」

 座り込んで、荒くなった息を整え見上げるその顔には、言葉を理解できない思いが出ていた。

「何のこと、言ってるん、ですか?」

「何のことって、今さっき使った力の事だ」

「初めて使った、と思うんですけど」

 それから2人は見つめあうように目を見て固まった。そんな2人に付き合っていられないのか、バナンは先に進みだしていたが、終演は暫く雷祇を睨みつけてから歩き出した。

 “時間がないやもしれん。紫月も、雷祇も。最初に使ったときと違い、疲れはしても気絶をせんかった。早く契約させねば、あ奴に取り込まれるやもしれん。時間が、時間が惜しい”

 終演が歩き出し、角を曲がった辺りで2人が正気に戻った。

「いやまあ、忘れたんなら仕方ねぇよな。そうか、ならさっさと先にって、居なくなってるじゃねぇか爺さん達」

 雷祇の手を取り起き上がらすと、2人は先に向かって歩き出した。その瞬間、2人の背中をかするように何かが天井から風を切る音と共に降ってきて、床に落ちると同時に地ならしを起こした。

「……なんか落ちてこなかったか?」

「……あぁ、鉄球みたいです。ほら、また落ちてくるようです、上から」

 2人して上を見上げると、真ん丸大きな黒い塊が目前に迫っていた。

「そうみたいだな、って落ち着いてる場合じゃねぇだろ!」

 背中を思いっきり強く叩かれ、数メートル前まで飛ばされた雷祇はそのまま走り出した。その後ろにピッタリと付き添うように、カイヤックも走り出していた。

「痛いですよ! もう少し加減してください!」

「おめぇがボーっとしてるからじゃねぇか!」

 2人は言い合いながらも全力で走っていた。その背中スレスレに鉄球は一定の間隔で正確に床に落ちている。それが暫く続いていたが、角を曲がった少し先の天井が突然低くなっており、そこに滑り込むと鉄球が落ちてくるのが止まった。

「何だ、ここに入ってから、全然落ち着けねぇな」

「本当に、どうなってるん、ですかね」

 雷祇は鉄球に凭れ掛かりながら床に座った。

 “チッ! かなり血が出てきやがったか”

 血の出ている足を見て、時間をあまり無駄に出来ないと思ったのか先に進もうとした時、終演が2人の元に戻ってきていた。

「何しとるんじゃ、さっさと……。出口はどうした? なくなっているではないか」

 鉄球を指差し終演がそう言ったと同時に次の罠が発動した。

「何じゃ、床が動いておるのか……」

「動いてるって言うよ、り、坂に、なるみたい、です、よ」

 壁に凭れていたカイヤックは終演を一度見てから、雷祇に話しかけた。

「坂にって、ここがか?」

 雷祇は頷きながらなぜそう感じるのかを伝えた。後ろの鉄球を指差しながら。

「鉄球が動いてるんです。少しずつ、転がってるみたいなんです」

 引きつった笑顔の雷祇が嘘をついているとは思えなかったカイヤックは、咄嗟に鉄球を押さえ首を掴むと、操り人形を立たす時のように雷祇を軽々と立ち上がらせた。

「本当みてぇだな。転がってる、ぜ……」

 振り返ったカイヤックの目には、遠ざかる2人の背中が見えた。

「大丈夫なんですかね、置いてきても」

「大丈夫じゃろう、あ奴なら」 “ここの遺跡の攻撃が傷を負わすだけならば、の話じゃが”

 2人は徐々に角度を増す床を全力で下っていた。その床が斜めになるのが止まった時、漸くバナンの背中が見えてきた。

《にゃにやってたん――》

「全速力で飛べ、バナン。もうすぐこの廊下ほどある鉄球が転がってくるはずじゃ。潰されるのはゴメンじゃろう、お前さんも、静華も」

 その言葉を聞いて、バナンは緩やかに動かしていた羽を一度咳払いでもするかのように強く羽ばたくと、一瞬で通り過ぎた終演たちに追いつくスピードに切り替えていた。

 “終演のさっきの言葉だと、カイヤックはどうなるんだろう?”

「うぐぐぅぅう! ヤベェ、力が、入ら、ねぇ」

 鉄球を離すタイミングを見失い、床に傾斜が付いた事で転がりだそうとする鉄球を無理矢理押さえ込んでいるのにも限界が近づいていたカイヤック。さらに、踏ん張れば踏ん張るほど足からの出血が酷くなり、蛇口を閉め忘れた水道の如く血が廊下を流れていた。

 “ヤベェ、ヤベェなこりゃ。力が入らなくなってきやがった”

 手を離して走り出すタイミングを窺っていたカイヤックは、決心して踏ん張るのを止めて両足を揃えると、全力で両手を前に突き出して、何十とある鉄球を押し戻したと同時に体を反転させながら走り出していた。

「何か聞こえませんか? 転がってえ!」

 振り返った雷祇達が見たのは、鉄球を従え走っているかのような鬼の形相のカイヤックだった。

「何で俺をほって逃げてんだ!」

「大丈夫だと――」

 雷祇は振り返りながら言い訳をしようとしていたが、終演がそれを途中で遮った。

「潰されても死なんと思っての」

《潰されてくれたほうがよかったからにゃ》

 この言葉に足の痛さを忘れて、急激にスピードアップすると終演達を追い越して後ろを振り返って大笑いした。

「ははは! 後から来たってぇのに、俺の方が早いじゃねぇぶば!!」

 前を見ていなかったので天井が一段と低くなっているのに気づかず、殴られたように頭が振れると体が浮き上がって闇の中に消えていった。

「……ど、どうなったんですかね?」

「分からんが、少なくともあそこまでいければ鉄球には潰されずに済むようじゃ」

 そういうと背中に迫り来る鉄球を置き去りにするように終演達は闇の中に飛び込んで消えた。鉄球はそこにつかえる様に出来ていたのか、鉄球が帰り道を塞いだ。

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