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テスタメント  作者: 竜丸
3/82

第1章 出会うべくして出逢った (2)

     4



 “あれ、もう朝か……。そろそろ起き!!”

     ズキュン!

 殺気と影で、僕はベットを転げ落ちた。ベットの下から天井を見ると、白い枕の羽が部屋中に舞っている。「朝っぱらから何するんですか、終演!!」そう言いながら、僕はベットに手を付いて立ち上がった。終演は僕がそう言ったのに悪びれる様子もなく、ベットの上に胡坐を掻き、拳銃を色々と入っているリュックにしまう。

「何って、的を打つ練習じゃ」

「そっか、僕が的になれば、って当たれば死ぬでしょうが!!」

「大丈夫じゃよ。お前さんは簡単に死にはせん」

「ったく、今僕たちは金欠なんですよ。銃の弾だって安くないんです、無駄に使うのは止めてください。僕の場合は‘こいつ’が相棒だからいいものの。それに、今回の依頼はこの砂漠の町で装備を揃えるの大変だろうし」





 僕が今‘こいつ’と言ったのは、僕の唯一持っていた物らしいのです。森で魔獣に襲われていた時に、僕は数匹の魔獣を殺していたらしいのですが、動けなくなっていたところを終演に助けてもらったそうなんです。‘こいつ’の一般的な名称は‘刀’。しかし、こいつには不思議な力があるみたいなんです。魔獣討伐が僕たちが請け負う依頼ではメインなんです。そうすると、依頼をこなす内に刃こぼれや、たまに折れたりもするんです。そんな時、1日ぐらい‘肌身離さず’持っていると、刃こぼれでも折れていても治るんですよ。しかも、前よりも強度や切れ味がその度に増すんです。まるで生きてるかのように。なぜ‘肌身離さず’かというと、1度依頼主が温泉宿の主人時、折れてしまったことがあったんです。そこの宿の人が、是非と依頼完了から3泊ぐらいさせてもらうことになったんです。1日目は温泉三昧で相棒(名前は雷命らいめい)のことをすっかり忘れていて、次の日に抜いてみるとまったく治っていなかったんです。終演に話すと「多分、雷命はお前さんが持っていないと治らんのじゃろうな」と言ったので、2日目は雷命と一緒に温泉三昧(僕が温泉好きなので)。そうすると、次の朝には治っていたので、僕が‘肌身離さず’持っていないと治らないと分かったんです。





「して雷祇。装備が必要なほどの依頼内容とは、どんなものなんじゃ?」

「あぁ、そういえばまだ話してませんね。昨日僕が聞いた依頼内容はこうです」



     5



『宝石発掘所で異様なことが起こったんです。そもそもこの町がここまで発展したのは、この近辺の岩山で取れる果宝石かほうせきという特殊な宝石のためです。この町の名前も果宝石が由来なんですよ。デザト・オーチャード、砂漠の果樹園という意味なんです。当然この宝石発掘がこの町の主要産業なんです。そして、一番大きな発掘所でその異変は起きました。発掘所内は外よりも涼しいのは当たり前なんですが、その涼しい中でも働いてる者達は汗を掻きます。しかし、その発掘所内では、誰も汗を掻かないくらいの温度になったのです』



「なんじゃ、それ位なら単なる魔獣の仕業じゃないんかの?」

「僕も最初はそう思いましたよ。けど、話の続きを聞いて‘単なる魔獣’が今回の依頼のような事を出来るとは、到底僕は思えません」

「ほぉ、お前さんがそう思うのか。なら続きを聞かせてみてくれ」



『それは魔獣の仕業だと思いますよ。それに、汗を掻かないなら仕事がしやすくて結構いいんじゃないですか? まあ、怪我人が出れば別ですが』

『それが違うんですよ。多分、君が思っているのは涼しいという感覚なんだろう。けれどその発掘所内は寒いなんてものじゃない、凍るんだよ人が。その現象が起こった時、発掘所内にいた者達は32人、内生きて帰ってきた人間はたったの3人しかいなかった……。2人は丁度奥に向かおうと入り口に居たんだが、異変に気づいてすぐに出てきたらしい。しかし残りの1人は、1キロ付近から何とか自力で出てきたんだが……。右半身が殆ど凍った状態で、彼はその数時間後に死んだ。後でよく調べると、体の中は殆ど凍っていたんだ。残りの29名の内18名までは、何とかこの町の者で遺体を回収出来たんだが、後の11名は発見できなかった。なので‘一応’行方不明にしているんだ。それと、君に話しておかなければいけない事があるんだが、発掘所内は当然とてつもなく寒いというのは分かるだろう。ただ気をつけないといけない事はそんなことじゃなく、発掘所内には突然光が差し込むいくつかの吹き抜けがあるんだ。ただそこは“いつもと同じ”なんだそうだ。何重にも防寒着を着ていた者達は、寒さ以外にも発掘所内と吹き抜けの急激な気温差にやられて、それほど奥には行けなかったんだ。どうかお願いします! この現象を治してくれとまでは言いません! せめて、せめて遺体を家族に返してやりたいんです』



「どうですか? こんな事を‘単なる魔獣’に、いや、強力な魔獣だったとしても、これ程の事が出来ると思いますか?」

「どうじゃろうな。それ程強大な力を持った魔獣は聞いた事はないが、魔獣以外なら別じゃ……。まあ、なんにせよ、かなりの‘力’を持った奴じゃろう。雷祇、その発掘所の詳細な地図を―」

「もう貰ってますよ」

 地図によると、今のところ発掘所内の全長は5キロ。といっても、それは直線距離の話で、発掘所内はもう少し長い。道はいくつも分かれているらしいが、地図を見れば奥まで行ける。吹き抜けは5つあり最深部のすぐ近くにも1つある。そして、行方不明者の大半は最深部にいるらしい。行方不明者の家族の証言で、「一番奥に行って儲けるぞ」と言っていたと町長に聞いたので。

 僕が終演に依頼内容を話してから、僕達は地図をベットの上に広げてどうするかを話し合った。けど、こんな事をしても無駄なのは分かっていた。なぜならいつも終演は作戦を最後まで立てたことが無いからだ。そして今回も、話し始めて暫くすると終演は腕組みをして、地図を無言で眺め始めると、「面倒くさいから、発掘所に行ってから考えるかの」と、ベットに広がっていた地図を畳んで僕に手渡すと、リュックを背負ってそそくさと部屋を出ていった。僕も慌てて立て掛けていた雷命を手に持って、今回の依頼のあった発掘所内を進むのに必要な装備を揃えるため、町の道具屋に向かった。



     6



「いらっしゃ〜い」

 天井にある大きな羽根が回り、生温い風を店の隅々にまで届ける。ここはデザト・オーチャドで唯一の、武器と防具を売っている道具屋。店の中はこぢんまりとしたしているが、品揃えはそこそこのようだった。ただ、僕の目に品揃えよりも一番最初に目に止まったものがあった。大きな体を狭いカウンターにねじ込み、椅子に座ってカウンターの上に顎を乗せ、虚ろな目で空を見つめ、顔の下に水溜りを作っている、多分この店の主人。いや、店の中にはその人しか居なかったので主人なんだろうけど。その主人が一応僕たちが入ってきたので、「いらっしゃい」と僕たちを見ずに言った。終演は店に入るなり自分の銃の弾を探し出したので、僕が防寒具があるかどうか店を軽く見回した。が、この砂漠に防寒具など当然あるはずもなく、カウンターにいる、体の水分が全てなくなりそうな勢いで汗を掻いている主人に聞く事にした。

「あの〜、防寒具、ありますか? あ! それと出来れば、出来ればでいいんですが、なるべく動きやすい防寒具とかだと嬉しいんですが……。って、ある訳ないですよね」

 ここで主人が初めて僕の方に目線を移した。そして、顔をカウンターに乗せたまま、終演にも目線を移す。

「あっちの爺さんは?」

 棚に置いてある弾を手に取っては、指で弾いて音を確かめる。そんな、僕からしたら不思議な行動をしている終演を見ながら主人が僕に聞いたので、「相棒みたいなものです」と言った。すると、主人がダルそうに椅子から立ち上がり、汗を撒き散らしながら体を屈めて、大きな体には窮屈なカウンターの端に置いてある木の箱に手をかける。その箱をカウンターに置く時に、呟きというには大きすぎる声で主人が呟いた。

「星の守護といっても、爺さんと子供とは随分ショボイ人間を回されたもんだな」

 主人がそう僕に聞こえるように呟いたのが、ワザとしているのか天然なのか分からなかったが、僕は何も聞こえていないという笑顔を作った。そんな僕の作り笑顔を見ることなく、主人は木の箱の中身を確認しだした。そんな時、突然店の中に大きな声が響く。

「おぉ〜! なかなかいい物があるじゃぁ〜ないか。これは煙弾じゃな」

 終演が弾を手にしながら、目を輝かせていた。その声に驚いたらしく、主人が手を止めて終演に振り返りながら言う。

「いきなり大きな声を出さんでくれよ爺さん。確かにそれは煙弾だが、かなり命中精度が悪くなる弾なんだ。義足に義手じゃ到底扱えんよ。それになんだい? その体に合わないどデカイ獲物。爺さんじゃ扱えんだろうに」





 多分今まで僕にしてきた事で分かると思いますが、終演は銃の使い手なんです。義手にはマシンガン義足にはマグナム、それぞれ一丁ずつ仕込み銃があります。が、これらは緊急の時に使うので、普段の武器はリュックにある拳銃と、布に包んでいる大砲並みにでかい銃、名を‘ケルベロス’。ってか3メートルあるんで、殆ど大砲なんですけどね。その銃‘ケルベロス’には3つの銃がくっついていて、デカイ大砲の脇に二つのショットガン。終演は計5つの銃を持っています。銃は武器としてだけでなく、それ自体が好きなようで、銃専門の店に行くと、「おぉ!」「おぉ!!」と目を輝かせ、店中を1日掛けて子供のように回ってます。まあ僕も、終演の好きなものが賭け事と銃だけならそれほどうるさく言わないんですが、まだ後1つあるんです。これが困ったもので、一番お金を使うんですよ。しかもこの好きな事が一番好きらしんですよね……。それはリュックに入ってるんですよ。けどまあ子供なんで仕方ないと思ってますけど……。あでも、実年齢は68なんですよ。ちなみに僕は13歳です。





「なぁ〜に言ってる。ワシに使いこなせん重火器などありゃあせん。何せワシには、練習がタダで出来、動く的がいるんじゃからな」

「それってまさか……」

「もちろん、お前さんじゃ」

 “まあ、いろいろ思い当たることはあるけど……”



 終演が気に入った煙弾を買っただけで、後は出費せずに済みました。防寒具は町長がお金を出してくれていたみたいだったので。それにしても、10分くらいしか店の中にはいなかったのに、体中汗が噴出していた。

 “なんであんな暑い店にいて、主人は痩せないんだろうか?”

 その疑問を残しつつ、僕達は防寒具を袋に詰めて、僕が2人分の防寒具が入った袋を持ち町を発った。そして、異変が起こっている発掘所へと向かった。

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