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苔玉じゃない

◆ガレン


ヒュリについてー

15、16歳くらいだろうか。ほっそりはしているが、弱々しい感じはしない。

ゆるいウェーブのある髪はピンクベージュで耳の下くらいの長さ。


中性的でほわっとした印象だ。冒険者になるために一人旅すると言う割には普通の女の子だな。

大きな瞳できょとんとこちらを見つめているのが無防備で、確かにこの子一人で旅をさせるのは心配になるのもわかる気がした。


今回の討伐で滞在している間、お世話になった星の家のおやっさんは、家族ぐるみの付き合いの子の一人旅をどうにも容認できなかったらしく、ちょうどギルドに戻る予定だった俺のところに同行依頼をしてきたのだ。


依頼料を支払うとまで言ってくれたが、色々とお世話になったこともあり、不要とした。同じ場所に行くだけだし、人のいいおやっさんからお金をもらうわけにはいかない。


星の家を朝早めに出発して夕方になる前に街に到着。最初の印象よりヒュリは元気で人懐っこい子だった。


道中もワイバーン討伐やヴァリセアのことなど質問が飛ぶ。

「なんでワイバーンが街道沿いにいたんでしょ?」


無邪気な問いに、俺は一瞬言葉を失った。

本来、あいつらが現れる場所じゃない。移動範囲も広く、討伐は想定より長引いた。

……俺自身、どこか引っかかっていたことだ。


まぁ、彼女もなんとなく頭に浮かんだことを口に出していただけのようで、話題は別の方向に流れ、そこを深堀りすることはなかった。


いろいろと問われたことに答えているだけでもあっという間に時間がすぎていった。


予定通り街に到着して、本来なら早めに宿を決めるところだが、宿泊先に当てもあり、好奇心旺盛にくるくる表情を変え、色々なところを見ているヒュリが微笑ましく、軽く街巡りも兼ねてまずは広場に行き、屋台で好きなものを選び、小腹を満たした。


そして、その後に事件は起きた。

小腹を満たしたので、さて宿屋を決めるかと思ったら、ヒュリのやつが突然、爆弾宣言をしやがった。




2番目の街 ブレイナ


「じゃあ、明日はここらへんで待ち合わせにしましょうか!」

「え? 何で?」

「え、今日は野宿しようと思って」

「町中で? いや、それはだめだろ」

「あっ、そうなんだ…。じゃあ、外出て野宿します」

「いや、なぜそうなるっ?」

「だって、広場で野宿だめなら、外に出ないと…

 遅着者用の宿泊スペース、ありましたよね。ああ、ガレンは気にしないで宿屋に泊まってください」

「女の子一人で? いや、あぶないだろ!」

「えー、じゃあ、門の前で泊まればいい?」

「は?」


なんで、どんどん悪化するんだ? とわけがわからない。

この子、思いっきりずれてるぞ。


「あのね、女の子が一人、それもどう見ても普通の子が一人で野宿するなんて危ないこと許すわけにはいかないだろう!」

「でも、一応、水魔法で警報センサーをつけて危険察知できますよ。せっかくだから野宿トライアルしたいんですけど…」

「だめです」

「えー、野宿の用意してきたのに…」

「認められません」

「でも、今のうちにできるかどうか試したいと思って…」

「まだ旅は続くんだぞ。無駄な体力消耗はよくない」

「…でも」

「君の目的はギルドの冒険者になることじゃないのか?」

「はい…」

「第一、危険察知した後、どうするんだ? ちゃんと逃げ切れる自信があるの?」

「えーと、薙刀習ってます」

「突然、襲ってこられて対応できるの? 試合じゃないんだぞ」

「…」

「大体、危ないやつが一人とは限らないんだぞ」

「…あ、確かに…」

「複数できてどうやって対処するんだ?」

「……考えてなかった…」

「いや、考えろ」

ヒュリ、しょんぼりとして、

「そうですね…トライアルの絶好のチャンスと思ったんですけど…宿屋に泊まるようにします…」


広場で野宿がだめだといわれて、どうして街の外に行こうと思うのか。

門の前で泊まるってどういうことだ? まじめに答えていることが、どんどん危険な方向に向かっているのはなぜなんだ。


内心、頭をかかえながらも、野宿のトライアルをしてみたいというのも、まぁ、わかる。

水魔法の警報センサーもちょっと興味がでてきたのも事実だ。

昼間の元気さとうってかわった打ちひしがれた姿を見て、つい笑ってしまったのが運の尽きだった。


「…ちゃんと気をつけてくれよ…まぁ、トライアルしたい気持ちもわからないではない。ちゃんと反省してくれたなら特別に今日だけはつきあうよ。明日はちゃんと宿屋に泊まるぞ。それでいいなら」


ぱっと顔を上げるヒュリ。

「え! いいの!」

「今日だけな」

「ありがとう! うれしい!」




閉門する前に門の外の遅着者用の宿泊スペースに移動する。

どうやら、今晩ここで寝泊まりするのは俺達だけのようだ。


すでに軽く食事をとったので、特に急いでやることはない。

とりあえずは、寝るまで火を起こして過ごし、その後に宿泊スペースに移動することになった。


ヒュリは問題なく、火魔法で薪を着火させる。

うん、こういうことはちゃんとできるんだな。


ゆらめく炎、パチパチと爆ぜる音、顔に当たる熱、見慣れているが焚き火には見入ってしまう。

そういえばと薙刀について尋ねると、なんでも曽祖父が東の島国出身で、薙刀もその系譜で習っていたそうだ。

東の島国か、だから童顔なのかもしれないな。

四方山話していると、ヒュリが思いついたようにいった。


「あ、お茶飲みます? 塩ミルクティーがおすすめ」

「塩ミルクティー? 初めて聞いた」

「でしょ! 塩だけだとすっきり、お砂糖もいれると塩キャラメルっぽくなるかな」

「へぇ」

「はい、うちのおばさんの店のインスタントで簡単にできま〜す!」


ジャーンという感じでインスタントミルクティーの袋を出してくる。


「おばさんの店?」

「そう、パン屋さんと食材屋さんをやってるの。そこに下宿して冒険者生活です」

「へぇ、そうなのか。そんなことをいわれたら興味がでるな」

「ではぜひお試ししてみて。お砂糖いれる? いれない?」

「では砂糖なしで」

「はい。OKです」


いれてくれた塩ミルクティーは、かすかに塩味を感じる。

口に残らずさっぱりしたなんともくせになりそうな味だった。




明日の移動に備えて、早めに休むことにし、宿泊スペースに移動する。


ヒュリが地面の湿気をとると言い出し、水魔法で軽く水分を抜く。

ついでに土魔法で地面の硬さを調整、やわらかくしている。


「夜だから寝袋あったかくしますね〜」と寝袋に温かい空気を満たし、

「はい、ぬくぬくになりました〜」と得意げに報告する。

…ほんとに警戒心ゼロだな。がっつり寝る気満々だ。


そのあと、「虫やだ…」とぶつぶついいながら、茶色の小びんをカバンからとりだし、

「これはレモングラスの精油です。いい香りで虫よけにもなるので、散布していいですか?」

「どうぞ」


「ちなみに、この精油はグレードが高いので口に入れても大丈夫。普通の精油は飲食に使えません」といいながら、風魔法で精油を拡散させた。

爽やかな香りがほのかに漂う。


そして、水魔法での警報センサー設置。

空気中に水滴を散らすことで、不審者を検知するらしい。


「すごいな」と関心すると、

「魔力量が少ないので、工夫しながら使っている」との返事だった。


少ない魔力で最大限に魔法を使えるように考えている。

魔法をこんな風に使うとは、と目からウロコだった。

門の前に泊まろうとしたことと今の行動がどうも一致しない。

ああ、違う。同じ思考回路なのかもしれない、けっこう化ける子かもな、と考えつつ、横になる。


ヒュリは想定通り寝袋にすっぽり収まっている。

温めた寝袋に満足そうだ。

「今日は一日ありがとうございました。では、おやすみなさ〜い」と言い、

目を閉じると、疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてきた。


自分もここで夜通し見張りをするつもりはない。

寝袋から片腕を出し、剣をかたわらに置いて目を閉じた。


そして、彼女が完全に眠りに落ちた頃、水滴はゆっくりと蒸発するように消えていった。


やはり、維持には意識が必要だったらしい。

…そうだろうなと薄々感づいてはいたが、本当に思った通りしっかり寝る子だった。






翌朝

ヒュリがごそごそと寝袋から這い出してきた。


すっぱり切れた警報センサーについては今すぐ伝える必要はないなと思い、おはようと声をかける。

いい天気だが、やはり朝は少し気温が低い。



お互いに顔を洗い、身支度を整える。

荷物を開いて何をやっているのかと思っていたら、


「ガレン、もしよかったら、蒸しタオルどうぞ。

すっきりするし、首とか温めても気持ちいいよ」とタオルを差し出してきた。


何?と顔をみると


「あー、濡らしたタオルを火魔法で温めたの。

けっこう蒸しタオルで顔とか首とかあてると気持ちいいからすきなんだ。

よかったら試してみて」

「なるほど。試してみるよ、ありがとう」

「よかったら白湯も飲む?」

「ん?ああ、いただく」

「レモングラスの精油いれる? さっぱりするけど」

「ああ、お願いしようかな」


差し出された爽やかな香りの白湯をゆっくりと飲むとふっと気持ちが軽くなる。


野宿の朝にしてはなかなか贅沢だ。ごちそうさまとヒュリをみると

なにやらヒュリは両手に苔玉をのせていた。


よくみると、苔玉が動いている?? 苔玉に「ぐりちゃん、よくここわかったね〜」と話しかけている。


「苔玉・・・? ・・・ぐり? ・・・・・・ぐり・・・ちゃん?」と思わずつぶやく。


苔玉は一瞬フリーズし、その後、首だけギギギと回してこちらを眇めて見る。

苔玉に見えたそれは、つぶらな瞳をもつ丸い緑色の小鳥だった。

そして、言葉がなくともこいつが言いたいことはわかる。

「お前誰、邪魔すんなや」ーーーと。


声も出さずに見つめていると


「あ〜、ぐりちゃん、こちら、ガレン。昨日からずっといっしょなの。冒険者で街までいっしょに行ってくれるの。ガレン、こちら、ぐりちゃん。小さい時からのお友達です。

はい。これからふたりともなかよくしてください」と呑気な声で紹介された。


苔玉は首を軽く傾け、ヒュリの言葉に可愛らしくピィっと返事をしたが、こちらを振り向きもしない。

お前、絶対にそんなこと思っていないだろ。


ヒュリは小鳥にむかって


「冒険者になったらなかなか会えないかと思ってたよ」

「ジィージィー」

「えー、でもあの感じ、そんな感じだったよ?」

「ジェジェジェジュイッ」

「ごめん、ごめん。ちゃんとしてます。でも、ここまで来るの大変じゃなかった?」

「ピッ」

「ありがとね」

「ピピピ」


……会話はお互いの言語で成立しているらしい。


「そっかそっか。では、お礼に光シャワーしまーす」

というと、ヒュリは右手を苔玉の上にかざし、おもむろにキラキラした光のミストをくるくると小鳥の身体にまとわせていく。ふわふわした羽根が光を纏いながらほわほわ揺れる。うっとりと目を瞑る緑の小鳥。不思議な、目が離せない光景だった。


それはほんの2、3分だっただろうか、「はい。終了しました。お客さん、いかがでしたか」とのヒュリの軽口に苔玉は嬉しそうに翼を震わせ、ヒュリの肩にのり、差し出した指に移り、彼女のネックレスをつついてしばらく遊んだ後、満足したのだろう

ヒュリに向かって、ピィピィ鳴いた後、ぱっと飛びたち、ふっと消えた。




……なんだったんだ。

「今の精霊か?」と尋ねると

「ぐりちゃん? うーん、多分。でもおやつにひまわりの種とか麻の実とか食べるけどね。

小さい時に庭に倒れていたのを助けてから、ちょこちょこ遊びに来てくれるの」

となんとも力が抜ける答えが返ってきた。


「なんで、ぐりちゃん?」と聞くと

「グリーンだから!」

即答だった。


ついでに、意思の疎通はできてるのか? と重ねて尋ねると


「う〜ん、なんとなくできてる感じ? 

こんなこといいたいのかなぁ〜って感じる感じ?」

と笑いながら話すヒュリ。


それくらいの精度ならさっき俺もわかったぞ、と心のなかで思いつつ、口にだしては

そうか、と言うにとどめた。


精霊がなつく子か。昨日の野宿発言から生活魔法の使用まで振り幅がありすぎて、飽きない子ではあるなと心の中でつぶやいた俺は気がつくと

まぁ、とりあえず、飯でも食いに行くか。奢るよ。

朝のうどんなんてどうだ? と聞いていた。




報告

ガレンおすすめのうどん屋さんは感動ものの美味しさでした。

あったかいお出汁につるんとしたうどん。

あのお出汁で何杯でもいける。

やっぱり野宿して正解でした。

野宿の後のうどん、最高。

そして、水魔法警報アラームは就寝1時間後に消えたとガレンから聞いた。

…うどんがおいしかったし、まあいいか。


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