出発と出会い
はじめの街 アルデン
わたしの冒険はおばあちゃんの大荷物からはじまった。
わたしはヒュリア・カーディル。冒険者になるためにギルドに向かう旅の途中だ。
地元の町から一日馬車にゆられてまずひとつ目の町に到着した。荷物が降ろされるのを待っているところだ。
馬車に預けた荷物は大きなトランクと麻袋。トランクには医療品、麻袋には販促用の携帯食がぎっしり。他の乗客の荷物とは一線を画す大きさだった。
15歳から1年かけて冒険者になることを両親に認めてもらい、いざ、出発しようという矢先に街道沿いにワイバーンがたむろするようになってしまった。それから半年、ようやっと騎士団と冒険者による討伐が成功し、平和になってきたところ。移動にも問題ないとなり、出発となった。
これから馬車を乗り継ぎ、あと2日かけてギルドの街、ヴァリセアに行く予定だ。
ヴァリセアでは親戚のおばさんがパン屋をやっていて、そこで下宿、冒険者として生活するのだ。
冒険者の仕事がない場合は、おばさんのところでお手伝いをしていくので、食いっぱぐれの心配はない。とはいえ、もちろん冒険者稼業で生活できるようになるのが目標だ。
荷物待ちの間に、馬車の馬に「お疲れ様でした」と首をなでると、馬は小さく鼻をならし、顔を近づけてくる。かわいい。
鼻面をなでて、馬と戯れていると、
「ははは、懐かれたね」と御者のおじさんが声をかけてきた。
「それにしてもあの荷物、お嬢さんのだろ。どこまで行くの?」
「ははは。ほんとすごい荷物ですよね〜。目的地は星の家なんです」
「星の家か。帰り道だな。乗ってくかい?」とおじさん。
「えっ、いいんですか」と、思わず聞き返す。
「いいよ、いいよ。ついでだ。その荷物を持って移動するのも大変だろ」となんて親切なお申し出に
つい、「ありがとうございます! じゃ、遠慮なくっ」と元気よく答えた。
御者のおじさんが街道沿いの最新情報を教えてくれたが、ワイバーンの討伐もすみ、安全が確保されため、さっそく馬車移動でなく徒歩で移動するものも多いらしい。基本真っ直ぐの道で迷子にはまずならないし、一日歩けば、次の街に着くしね。
あれ、だったら歩いていくの、いいんじゃない?
おじさんと世間話をしている間に、馬車は夕方前には星の家に着いた。
おじさんと馬にお礼をいい、星の家に向かう。
ほんと、馬車に乗せてもらってよかった。
自分の荷物は背負い、麻袋は紐を肩にかけてから腕で抱え、トランクをごろごろと引っ張る。
ぱっと見、不審者っぽいかもなー。
おばあちゃん、ちょっと荷物持たせすぎよー、とぶつぶつつぶやきながら星の家に向かう。
星の家につくと、おじさんがすぐに出てきた。
「おっ、ヒュリちゃん、来たね!」と相変わらず、元気だ。
「はい、こんばんは。お世話になります。
納品の品を持ってきました。あと、こっちの麻袋はおばあちゃんからです」
「こんなに持ってきたの!? 大変だったでしょ?」
「定期馬車のおじさんが帰り道だからって馬車で送ってくれたの。ラッキーだった」
「ははは。それはそれは。さすが、ヒュリちゃんだ。
疲れただろ? 部屋でゆっくりするといいよ。夕飯はうちで食べるだろ?」
「もちろん!」と元気よく答えて、納品物をわたす。
星の家は地元のレストラン兼宿屋で離れが宿泊できるようになっている。
レストランはおいしいと評判でいつも街の人や冒険者で賑わっている。
おばさんがいなかったので、近況をきくとお嫁にいった娘マリィがおめでたで体調がいまいちらしく、手伝いにいっているとのこと。マリィは私より4歳ほど年上か。マリィがお母さんになるとは、全然想像つかないんだよなぁ。すごいなぁ。
ああ、なるほど、だからおばあちゃんが食材を色々持たせたんだなと納得する。
そして渡された鍵を手に部屋を探すと、なんと一番素敵なお部屋だった。
今回、星の家に泊まってよし、と言ってくれたおばあちゃんに「ありがとう!」と手を組み、頭の上に捧げて無意識に感謝の祈りを捧げていた。
この部屋の扉は神木ともいわれていた大きな木が倒れた際に手に入れた切り株を加工したもので、真ん中をくり抜き、その部分に星のモチーフをつけた飾り鉄のフレームがはめ込まれている。
白い壁に木と飾り鉄のフレームが映えて、これがまた、すごくかわいいのだ。
なんとなく、魔法の香りがする扉というか。
こんなかわいい部屋を用意してくれたおじさんとおばさんに感謝!である。
うきうきしながら鍵を回し、扉を開けると、思わず息をのむほど素敵な部屋が広がっていた。屋根裏のような傾斜のある天井を活かした空間には、大きめの木のベッドとテーブル、柔らかな色のソファが置かれている。テーブルの上には色とりどりのパンジーが生けてあり、ああ、これはおばさんが飾ってくれたんだな、と心尽くしにうれしくなる。
荷物を置き、サイドテーブルに首から外した白蝶貝のペンダントを置き、ポケットに入っていたナッツの小袋もポンと置く。
ペンダントはおばあちゃんのプレゼント、ひまわりの種や麻の実の入った小袋は持ち歩くのがくせになっていて今日も無意識にポケットにいれてしまったものだ。
ベッドに寝転がり、ふぁ〜〜っと思いっきり伸びをする。
夕飯までちょっとここでゆっくりしよっと。
明日からの旅も、きっといいことが起こるという予感がした。
素敵な部屋でまったり過ごしているうちに、あっという間に夕食の時間になった。
離れのレストランに向かうと、すでに夕食をとっている人たちがけっこういる。
私は席につき、名物のハンバーグ定食を頼んだ。ジューシーな粗挽き肉にきのこ入りのデミグラスソース。マッシュポテト、人参のグラッセ、さやいんげんのバターソテー。自家製パンはもちもちだ。
おまけのデザートは華やかなミニパフェ。生クリームの代わりにヨーグルトクリームが使われているのが、うれしい。
ゆっくり味わって、大満足していると、おじさんがにこにこしながら話しかけてきた。
「ヒュリちゃん、お気に召したかな?」
「とっても! やっぱりここのハンバーグ大好き! 生クリームたくさんは苦手なの、覚えててくれたんでしょ?ヨーグルトのクリームがすごくおいしかった! ごちそうさまでした!」
「そりゃ、よかった。ヒュリちゃんがいないとさみしくなるよ…明日は何時の馬車で出発するの?」
「あ〜、それなんだけど、歩いて行こうと思ってるの」と答えると、おじさんは
「え? 徒歩? いや、それは危ないだろ」
「あ、でもね、今日御者の人に聞いたんだけど、ワイバーンもいなくなったし、歩いて移動する人もけっこういるって」
「いや、それでもやっぱり心配だわ」
「大丈夫!日中歩いて夕方前には到着する距離でしょ。一本道で迷わないし。心配ご無用!」
「いや、お父さんが知ったら、『なんで止めなかった』って怒られちゃうね」
「心配性だなぁ」というと、おじさんは「うーむ…」といいつつ、腕を組んだ。
「あ! ちょうど、冒険者がギルドに明日帰ると言っていたから、その人と一緒に行きなさい!」といいことを思いついたと顔を輝かせるおじさん。
「いや〜、それ、悪くないかな?」というと
「大丈夫、大丈夫。ちょっとまってな」といって、走って去っていった。
いや、ほんと、それ悪いって。
しばらくして、おじさんは一人の冒険者に伴って戻ってきた。
黒髪、焦げ茶色の瞳、引き締まった体つき、背中には剣二本、腰には小さな剣が一本。
思ったより若い人だけど、なんか落ち着いている。なんていうか、例えるなら学校で密かに人気がある先輩って感じ。
「ガレン、こちらさっき話したヒュリだよ。ヒュリ、こちら、ガレン。彼は今回のワイバーン討伐で要の働きをした功労者なんだ。若いのに実力があって、信用できる。
ちょうど今回の功績でランクアップできるからギルドに向かうところなんだ、だからヒュリちゃんは一緒にヴァリセアまで行くといいよ」
「はじめまして。ヒュリア・カーディルです。あの…ヴァリセアに行く予定ではありますが、ご同行いただくのは心苦しいので…」と暗に断ろうとすると
「はじめまして、ガレン・ダルクレストです。事情はおやっさんから聞きました。そりゃ、女の子が一人で旅するのは心配になるでしょう。俺でよかったら一緒に行きましょう」
……爽やかだな!
見ず知らずの人と旅をするなんて、と構える気持ちはあったけれど、なんとなく学校の先輩っぽい印象があって親しみを感じる。そのせいか、この人だったら大丈夫かなと少し気が楽になったのも事実だ。
星の家のおじさんの人を見る目も信用してるしね。
確かに私一人より冒険者と一緒のほうが安心だし、ワイバーン討伐の功労者ってすごいな…ついでにいろいろなことが聞けそうだな、と思い直し、ガレンに「…ありがとうございます…では、お言葉に甘えて明日からよろしくお願いします」と頭を下げたのだった。




