第21話:まきまきとの約束
鏑木さんたちと別れた僕は、急いで校門へと向かった。
廊下を縫うように走り、階段を駆け下り、下駄箱へ――息が切れる。
こんなに焦っている理由は一つ。凛さんを待たせているからだ。
正確には、凛さんをあまり長く校門に置くと、女子が寄ってたかって絡みだして、確実に面倒なことになる。
……そして。
下駄箱を出た瞬間、嫌な予感が当たった。
校門の前に女子たちが固まっていて、中心をぐるりと囲んでいる。
囲まれている人物は、遠目でも分かる。頭ひとつ抜けて高い――凛さんだった。
「なあ、あの人、鈴木のなんなんだ?」
いきなり後ろから声をかけられて、肩が跳ねた。
同じクラスの男子だ。名前は覚えてないけど、顔は覚えている。運動着姿で、汗の匂いがした。
「……仕事仲間……になるのかな」
「なんだよそれ、あいまいだな~。女子、ずっとその話で持ちきりだぜ」
彼は羨ましそうに凛さんの方を見ている。
……まあ分かる。僕も元男子だし、あれだけ女子に囲まれて平然としていられる凛さんは、正直ちょっと羨ましい。
「ま、いいや! 俺部活だからさ! じゃな!!」
「あ、うん。じゃあね」
彼はそのまま運動場へ走っていった。
……高校に入ってから初めてかもしれない。
あんなふらっと話しかけられるなんて。もちろん鏑木さんは除くけど。
「……なんか、いいな。こういうの」
あんまり話したことのない相手に話しかけられるだけで、こんなに嬉しいんだな――と、思ってしまった。
でも今は、それどころじゃない。
僕が凛さんの方を見ると、ちょうど凛さんもこちらに気づいたらしく、小さく手を振ってくれた。
もちろん凛さん基準の“小さく”なので、めちゃくちゃ目立つ。
「……目立ちたくないけど……まあ、いいか」
僕も小さく手を振り返す。
すると、その瞬間。
「きゃーーっ!!」
凛さんを囲んでいた女子たちが、歓声を上げた。
すごすぎる。凛さん、カリスマの塊みたいだ。
……逆に、なんで今までYouTubeチャンネル伸びなかったんだろ。
僕が近づくと、女子たちは潮が引くみたいにさっと道を空けた。
視線が痛い。恥ずかしい。
「えと……学校、終わりました」
「ああ。だから迎えに来た。お疲れ」
凛さんは当然のように言って、バイクのサイドバッグを顎で示した。
「鞄とか荷物はそこに入れてくれ」
「は、はい……」
みんなに見られながら荷物を押し込む。
そこでふと、疑問が湧いた。
「あれ……そういえば、学校が終わる時間、伝えてましたっけ?」
どの学校もだいたい同じだろうし、調べれば分かるだろうけど。
でも、凛さんはさらっと言う。
「いいや。祈里のスマホの音声、こっちでも聞こえるようにしてあるから。終礼のチャイムが鳴ったタイミングで家を出た」
「……え」
その言い方。
ここでようやく僕は思い出す。
そうだ。ジンバルン経由で、僕のスマホの音声とカメラ映像は、凛さんに筒抜け――
そして、その話を女子に囲まれている状況で言えば、どうなるか。
「え!? うっそ!! 二人、そこまでの関係なの!?」
「すごいだろ? ジンバルンっていうAI経由で、カメラの映像も全部、あたしの端末で見れるんだ」
言いやがった、この人!
凛さんは“自分の発明”の説明スイッチが入ってしまい、機能だの仕様だのを楽しそうに語りはじめる。
女子たちの反応はさらにエスカレートした。
「……それって……束縛……?」
「きっと裏では、あんなことやそんなことを……」
「たしかに~、鈴木くん、うぶそうだし……」
「え!? ちょ、それ……調教とか!?」
「いいな~! わたしもお姉さんみたいなイケメンに束縛されて~!」
女三人寄れば姦しい、というけれど。
十人近く集まったら、お祭り騒ぎどころじゃない。
「り、凛さん! まきまきのこと待たせてるんですよね! 急ぎましょう!!」
僕は急いでヘルメットを被り、バイクの後ろに跨って、運転席をポコポコ叩いてせかした。
「分かった分かった。みんなごめんね、これから用事がある。それじゃ」
凛さんは人差し指と中指を立てて、ピッと伸ばして挨拶し――そのままバイクに跨り、エンジンをかけた。
……こんなキメた挨拶、凛さん以外がやったらただの痛い人だ。
本物は違う。悔しいけど。
「……あ、あの!!」
女子の中で、ひとりだけ声が通った。
おさげの女の子。頬が真っ赤で、泣きそうな顔をしている。
「あの……鈴木くん……また、明日……」
「……うん! また明日!!」
エンジン音に負けないよう、僕も声を張って手を振った。
そのままバイクは発進。反射で凛さんの体にしがみつく。
キュルキュル、と加速して、景色が後ろに流れていった。
「凛さん……ごめんなさい。みんな、迷惑かけちゃって……」
「迷惑だなんて。むしろ楽しかったよ」
インカム越しの声が、少しだけ弾んでいる。
「あたし、高校の時、あんまり周りと話せなかったからさ。青春取り戻した気がした」
「えっ……凛さん、高校でも人気者だったんだろうなって思ってました」
「高校はね……その頃からダンジョン配信やってたし、忙しくて。学校では大体寝てた」
一瞬、「自分と同じなのかも」と思ってしまった自分を殴りたい。
凛さんはボッチじゃなくて、孤高なんだ。
「やっぱり凛さん、すごいです。高校生の頃から、そんな行動力があって」
「ん? 何言ってるんだ。それなら祈里も同じだろ」
……そうか。
僕も凛さんのチャンネルとはいえ、“高校生ダンジョン配信者”側なのか。
「でも、僕は凛さんみたいに強くないですし」
「あたしだって最初は弱かったさ。まあ、タッパの分、多少は楽できたけどな」
「……そうだったんだ」
最初から強い人なんていない。
凛さんも、ギフトなしでここまで来るまで、どれだけ努力したんだろう。
「そんなに意外か? 最初はまきまきにボコボコにされながら教えてもらってた」
「えっ……まきまきが師匠なんですか!?」
「ああ。高校入った時、研究室に押しかけて弟子入りした」
懐かしそうに、凛さんは軽く息を吐いた。
その間にも景色は変わり続け、いつの間にか家も通り過ぎ、学校からずいぶん離れていた。
(……そっか。まきまきに弟子入り)
放課後監獄で、発育しすぎた人体模型と戦って。
僕は自分の弱さを痛感した。
これから先、凛さん頼りでいられない。
そして何より――僕は変わりたい。
今度、まきまきに直接、戦い方を教えてもらえないか聞いてみよう。
そう決めた。
大学までの道のり、凛さんの話は尽きなかった。
初めて二人でダンジョンに入った話。
言われて食べたダンジョンのキノコで腹を下した話。
大学に入ってからは学会だの研究だの――。
気づいた頃には、大学の駐車場に着いていた。
「それで、まきまきがな――っと。この話はまた今度だな」
「ですね!」
二人でバイクを降り、ヘルメットを片手に研究室へ向かう。
「凛さん。まきまきのこと、大好きなんですね」
「……まあな。あたしにとって、父親みたいな人だよ。あの人は」
その横顔が、なぜだか少し寂しげに見えた。
「まきまきは女性じゃん」と突っ込みかけて、僕は飲み込んだ。
研究室の扉を開ける。
……いつものように、酒臭くない。
まきまきは中央のテーブルに座り、インスタントコーヒーをすすっていた。
手元にはもう一杯、手つかずのカップ。
「お疲れさまです。えっと……紅茶かコーヒー、入れましょうか?」
「……座りな」
まきまきは椅子を軽く蹴って、僕の前に滑らせた。
顎をしゃくって“座れ”と命じる。
凛さんは何かを察したのか、無言で研究室を出ていった。
二人きり。ここに初めて来た時以来だ。喉が渇く。
僕が椅子に座ると、ようやくまきまきが口を開いた。
「あたしさ、真面目な会話は好きじゃない。だから手短に済ませるよ」
「……はい」
声の調子が違う。
一昨日、僕の家に来た時みたいな“仕事の顔”。
「昨日の配信。あれはどういうことかな?」
「……」
一瞬、頭が真っ白になって固まる。
まきまきは気を遣ったのか、手つかずのコーヒーカップを僕に差し出した。
「無断での……ダンジョン侵入。あとは配信のこと……ですか?」
「よく分かってるじゃないか。ダンジョンは原則、立ち入り禁止」
「でも……ギフトがあれば入っていいんじゃ……」
そう言いかけた僕に、まきまきは小さく頷いた。
「……そこはあたしの説明不足だった。教育者として謝罪し、訂正する」
まきまきはぺこりと頭を下げ、すぐに鋭い目で僕を見る。
「ギフトがあっても原則禁止だ。ミノスダンジョンは、あたしの許可証があったから――凛君はグレー、君は正規で入れた。だから今回の君は、完全に違法侵入だ」
「……ごめんなさい。正直、うすうす分かってました」
分かっていた。
ダメなんだろうって、理解していたのに――昨日の僕は、自分に言い聞かせてしまった。
「理解しててやる方が、よほどタチが悪い。……でも正直に言えたのは偉い」
まきまきが近づく。
僕の頭へ、手が伸びて――
バッ、と反射で目を閉じて顔を背け、腕でガードしてしまった。
次に来たのは殴打の衝撃じゃない。
――優しく頭を撫でる、温かさだった。
「まき……まき……?」
「怒ってるわけじゃない。心配してるんだ。……いや、ごめん。ちょっとは怒ってる」
そこで、涙が溢れた。
泣く場面じゃない。泣いて許される状況じゃない。
悪いのは僕なのに――それでも止まらなかった。
「祈里君。君のやったことは、あまりに危険だ。今回は運が良かっただけで、基本はそうならない。助けられる命を助けられなくなる。君自身も危険に晒す」
「……はい……」
その通りだ。
神様が助けてくれたから、一条くんを助けられた。僕も生きている。
もし助けがなければ、僕は何もできなかった。
涙で前が滲む。
それでも、目だけはまきまきを見た。
「それと……もう一つ」
「……?」
「君の戦い方だ」
撫でていた手が膝に戻り、まきまきの表情が引き締まる。
僕も袖で涙を拭って姿勢を正した。
「君は痛みを軽視している」
「……軽視、ですか?」
「ああ。異常回復を利用した、骨が折れても殴り続ける戦い方。よく考えた。感心した自分もいた。でも――ダメだ」
理由が知りたくて、僕はまきまきの目を見る。
まきまきは、少しだけ柔らかく笑った。
「君は優しい子だ」
「え……」
突然の言葉に、息が詰まる。
「どうして自分が優しいのか、分かるかい?」
「……分かりません」
「君は、人一倍、痛みに怯えているからだ」
まきまきはゆっくり言った。
「痛みは危険信号だ。自分にとっても、相手にとっても。動物が共通にもつ“止まれ”のサインなんだよ」
「……」
「殴られたら痛い。怖い。だから距離を取る。だから互いを尊重できる。痛みは、人間を人間たらしめるものでもある」
「……」
まきまきは一度、言葉を置いた。
「もし痛みが分からなくなったら、どうなるか。一番分かりやすいのはゲームだ。遊び感覚で殴って、殺して、笑える。――それが“痛みを理解できない”末路だ」
「……っ」
胸が冷たくなった。
まきまきは、また僕の頭を優しく撫でる。
「あたしはね。君にそうなってほしくない。だから――分かるね?」
「……はい。自分から痛みに飛び込むような真似は……絶対、しません」
ぎゅっと、まきまきが僕を抱きしめた。
大人の体温が、胸に染みる。
「ああ、いい子だ。まきまきとの約束だ」
「はい……心に刻みます」
僕が落ち着くまで、しばらくそのままだった。
妹ができてから、両親に抱きつくことなんてなかった。
お兄ちゃんだったから。そういう役目だったから。
だから、こんなふうに抱きしめてもらうだけで、心が静かになることに驚いた。
同時に、痛みを失ったら――この温かさも失うのだと、怖くなった。
「さて。落ち着いた?」
「はい。本当に……ごめんなさい。それと、ありがとうございます」
まきまきが肩をぽん、と叩く。
「痛みが分からなくなるのが、どれだけ怖いか……実感しました」
「だろ? 一切ギフトを使うなとは言わない。でも、不用意に乱発するのはやめような」
明るい声で言って、頭をひと撫で。手慣れている。
「じゃ、明るい話に戻ろうか!」
「はい!」
そのタイミングで、研究室の扉がキキッと小さく開いた。
「お、終わった……か?」
凛さんだった。外で待っていてくれたらしい。
「まったく……あたしがこういうの苦手なの、分かってるだろ。凛君」
「そんなことないです! まきまきに諭してもらえて、僕、すごく理解できました!」
凛さんは僕の顔を見て、ほっとしたように息を吐き、扉を開けた。
「それなら良かった。ところで、今は何の話を?」
「祈里君のギフトの話を始めようと思ったとこさ。――昨日あったこと、全部聞かせて」
まきまきがコーヒーを一口。
凛さんは扉を閉め、机に腰かける。
僕は全部話した。
神様を馬鹿にして怒られたこと。
神様――“まま”と話したこと。
テュポーンのこと。
事細かに、思い出せる限り。
聞き終えたまきまきは少し唸り、ホワイトボードに書き込んだ。
タルタロスとクロノスにはバツ。ガイアとヘラにはマル。
「……となると、ガイアかヘラのどちらかだね」
「なんでタルタロスとクロノスは違うんですか?」
「女神だったんだろ? ならタルタロスとクロノスは男神。ガイアとヘラは女神。単純にそこ」
確かに。声も女の人だったし、一人称は“母”。間違いない。
「でも……厄介なのは、ガイアとヘラのどっちか、ですよね」
凛さんが腕を組んだまま言う。
「そーだねぇ。普通に考えれば“母”は大地の母ガイアなんだけど……」
二人が同時に黙り込む。
僕だけ置物みたいになる。
沈黙を破ったのは、まきまきの手を合わせるポンッという音だった。
「分かった。じゃあそれは、祈里君自身に調べてもらおう」
「僕……自身で?」
「女神に会ったのは君だ。細かな感覚とか、言葉にできない違和感とか――君にしか持ってない情報がある」
それは、確かにそうだ。
「それに……強制的にダンジョンに行けない理由を作らないと、君また行くだろ?」
「……うっ」
辛辣。反論できない。
「だから今日から二週間。大学の図書館でギリシア神話の文献を読み漁って、レポートを書くこと。題材は“僕の神様予想”。いいね?」
「分かりました。やります」
言い切る。
自分のことを、いつまでも人に任せていたくない。
自分で調べるのは、正直ちょっと嬉しい。
「それと、服とか生活とか――女の子としての暮らしにも慣れな。ずっと借りっぱなしじゃ困るだろ」
「はい……そこも、ちゃんとします」
まきまきが満足そうに頷く。
「最後に。もし“のっぴきならない理由”でダンジョンに行くなら、必ずあたしに言うこと」
「はい。……まきまきなら、なんとかしてくれるって、分かりましたから」
「よし。合格」
まきまきはピース。凛さんも腕組みのまま頷く。
「あ、でも!? まきまき!!」
大事なことを言い忘れていた。
「放課後監獄の屋上扉! あれ、空いてたんです!!」
空気が、ひび割れるみたいに凍った。
「「……詳しく聞かせてもらっていいかい?」」
凛さんとまきまきの声が、ぴったり重なった。
僕は屋上の件も全部話した。
最初は二人とも食い入るように聞き、メモまで取っていたが――やがて落ち着いた顔に戻る。
「……気にはなるが、それも含めて二週間後。君のレポートが仕上がってからだ」
「でも、大丈夫なんですか? 誰かに先を越されたりとか」
「絶対とは言い切れないけど……ないと思う」
凛さんがきっぱり言った。
「ダンジョンは逃げない。だから問題ないはずだ」
意味が分からなくて、僕はまきまきに目で助けを求める。
「分かりやすく言うとね。放課後監獄は、かなり研究され尽くしたダンジョンなんだ」
「それは分かります。ボスも倒されてるんですよね」
「そう。ルートも単純。だからこそ、“絶対に開けられない”って結論に至ったのが屋上扉。普通の手段じゃ開かない。なのに、君の時は開いてた。――じゃあ、鍵は何だと思う?」
まきまきが“答えてみろ”という目をする。
「……鍵は、僕? それか、一緒にいた一条くん」
「おっ」
まきまきの顔が少し明るくなる。
「一条くんに気付けたのは流石だね」
「僕一人の時は閉まってました。一条くんを助けて、一緒に行った時に開いてたので」
だから、焦って誰かに先を越される可能性は低い。
凛さんの“ダンジョンは逃げない”という言葉の意味が、ようやく腑に落ちた。
「というわけで、屋上扉は二週間後。成長した祈里君と凛君に任せる」
「……はい」
凛さんも静かに頷いた。
僕は腹の底で、ちゃんとやり切ろうと決める。
――そして、その日から。
僕は図書館に籠り切り、気づけば夜の七時になっていた。
研究室に戻ると、夜も遅いということで、凛さんが駅まで送ってくれることになった。
昨日のことで、よほど心配をかけたのだろう。もう一度深く反省する。
「……それにしても、良かったよ。本当に」
「なにがですか?」
「まきまきってさ。嫌いっていう子、結構いるんだ」
それが意外すぎて、言葉が止まる。
だって、あんなに親身になって諭してくれる大人なんて、僕の周りにはいなかったから。
「普段が普段だから。真面目モードとのギャップで苦手、って子もいる」
「……僕は好きです。まきまきのこと」
反射で口から出てしまった。
その瞬間、視界の端の凛さんの表情が、ほんの少しだけ歪んだ気がして――思わず見る。
でも、僕が見た時にはいつも通りの凛さんだった。
「僕の周りの大人って、放任主義っていうか……深く関わってくれる人、いなかったんです。だから、まきまきみたいな大人は……好きになっちゃいます」
「……そうか」
凛さんは僕を見下ろし、ぽりぽりと頬をかく。
「かっこいい大人、みたいな?」
「はい。尊敬できるっていうか……こんな大人になりたいなって思います」
「……そうだよな」
凛さんは、まるで自分が褒められたみたいに笑った。
「まきまきは、かっこいいからな!」
そう話しているうちに駅に着いた。改札は混んでいて、ゆっくり話す余裕はない。
「ここまでで大丈夫か?」
「はい! わざわざありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
そのまま顔を上げた勢いで、僕は言ってしまった。
「そうだ! さっきまきまきが言ってましたけど、明日――一緒に服、買いに行ってくれませんか?」
「服か。別に構わないが……」
凛さんはどこか気まずそうに視線を外し、頬をぽりぽりとかく。
僕が首を傾げると、観念したみたいに小さく言った。
「……その。あたしも洋服とかおしゃれとか、あんまり詳しくないんだ」
「大丈夫です。僕も詳しくないですし」
勢いで言ってしまって、今さら恥ずかしくなる。
でも――引っ込めたくはなかった。
「……ただ、凛さんと遊びたいんです!」
「……そうか」
凛さんは少し照れたみたいに笑って、頷いた。
「分かった。明日、学校が終わったら連絡してくれ」
「連絡しなくても……凛さん、分かるでしょ」
「……悪かったよ」
申し訳なさそうに苦笑い。
「じゃ、また明日」
「はい! また明日!」
そう言って、僕は家に帰った。
――この時、僕は完全に忘れてしまっていた。
昼、学校で鏑木さんたちと「明日遊ぶ」約束をしていたことを。




