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底辺ダンジョン配信者を追いかけたら、ぼく女神さまになっちゃいました。  作者: まぴ56
第一章:女神ちゃんになっちゃいました

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第17話:女神ちゃん、ブチ切れモード

 すっと、身体に力が入る。

 いや、僕が“体に戻って来た”みたいな感覚だ。


 ぱっと視界が晴れる。――とはいっても、鮮血に染まった真っ赤な部屋なのだが。


「祈里様……祈里様……返事をしてください。祈里様……」


「ジンバルン!? ああ、ごめん。大丈夫、大丈夫だよ……」


 さっきのあれは……夢?

 いや、そんなわけがあるか。まさしく、さっきまで目の前にいたのは神様だった。


「ねえ、ジンバルン。僕、なにしてた?」


「何と申されましても……神を冒涜するような発言を続ける途中、突然静かになってしまわれて。十分間程、立ったままうつむき、何も喋らなくなってしまったのです。心配いたしました……」


 左目に手を当てる。瞼の上から軽く触れる。

 ――しっかり、眼球はある。


「いや、そんなことより!」


 急いでしゃがみ込み、一条君の顔を覗き込む。


「祈里様……一条様は……もう……」


 ……息をしている。

 どころか、さっきまで真っ青だった顔に血の気が戻っている。


 ギフトを発動しても、僕に痛みが来ない。

 つまり今は、肩代わりの回線が繋がっていない。――それは、一条君が“危険域”から抜けたってことだ。


「ジンバルン。こっち、見て」


 スマホを手に取り、配信に一条君の顔が映らないように表カメに切り替える。画角の端に、床に倒れた影だけがちらりと入る。


 素人目には、すやすや眠っているようにしか見えない。


「……呼吸、安定。……目視できる限りの傷も塞がって」


 ジンバルンの指示に従い、体の検査をしていく。

 時々カメラを向けて確認してもらいながら。


「バイタル安定。命の危険、特段なし」


 平坦な声――だけど、どこか揺れている。信じられない、みたいな。


「これは……祈里様が?」


「違うよ……神様」


 首を横に振る。

 ありがとう、まま。


 ……その時だった。


 僕は、またミスをした。

 ここは体育館倉庫。――でも、ダンジョンの中だ。安全なんて、どこにも無いのに。


 僕はダンジョンで、気を抜いてしまった。いや、気を抜いていなくても、これは回避できなかったが。


「……ミィツゥケタァ」


「しまっ――」


 背中に、扉の隙間から“気配”が滑り込んで来る。気付いた時には、もう遅かった。


 ガンッ!!


 重い体育館倉庫の扉が、内側から叩きつけられるように閉まる。


『逃げて! 女神ちゃんマジ逃げて!!』

『やば! また人体模型じゃん!!』


 そして――


 ガツンッ!!


 人体模型は、自分の体に刺さった斧をずるりと抜くと、扉の両開きの隙間へ“鍵”みたいに突き立てた。

 斧の柄が、扉同士を噛ませる。――これじゃ開けようとしても引っかかって動かない。


(それより状況がまずい。武器……武器は……)


 無い。使えそうな武器が無い。

 でも、一条君を守らないと――


 そう思った瞬間、脳内で何かが噛み合わず、僕は自分を叱るみたいに呟いていた。


「……いや、そうか……これが駄目なんだ」


 また忘れるところだった。

 僕は“変わる”んだ。なら、今考えるべきは「守るために耐える」じゃない。「守るために壊す」んだ。


 立ち尽くす僕へ、人体模型がねっとりした声を這わせる。


「サッキハ、ヒドイヨゥ……ズゥーット、サガシテタンダヨ……モゥ、ニガサナィ」


 どたっ……どたっ……

 ゆっくり、確実に距離を詰めてくる。


 スタ……スタ……


 距離は近い。だからこそ、一条君を巻き込まないように、僕も回り込むように位置をずらす。


「お前……僕のこと、好きなのか?」


「ソウダヨォ! ダッテ、カノジョ……」


「僕は! お前みたいにデリカシーがないやつ……嫌いだ」


 人体模型が、目に見えるくらいびくっと跳ねる。

 そして、がくんと肩を落とした。


『おお!! 言ってやれ女神ちゃん!!』


「ソッカァ……ナラ……コロスネェ」


 声が、からりと乾いた。

 目が合う。いやらしい目つきが消えて、ただの“殺意”だけが残っている。


「望むところだ……でもなあ。そのセリフ、こっちのもんなんだわ」


 息を吸う。


「お前を殺す……」


『今のイケボ杉!!』


 地面を蹴る。

 ――が、あっちの方が断然早い。


 踏み込んだ瞬間には、もう目の前に“何か”があった。


 ぐん、と視界が跳ねる。

 弾かれた。吹き飛ばされた。


『うあ……やっぱ女神ちゃん……戦っちゃダメだって……弱いんだから……』

『そうだよ! 逃げてよ女神ちゃん!!』

『逃げろ! 勝てねえって!!』


 狭い体育館倉庫の壁に衝突。骨が折れる感覚。

 視線だけを動かして確認する。


 庇うために後ろへ回した右腕が、ばっきり。肘関節が逆を向いている。


(……今の、なんだ)


 人体模型の首元を見る。

 巻き付いているのは――腸。赤黒い、湿った紐。


(首に巻いてた腸……? 自在に動かせるのか……)


 理解するより早く、その腸が“槍”みたいに飛んでくる。


 ダンッ!


 壁を蹴って横へ逃げる。

 次の瞬間、腸が真横を通過し――体育館倉庫の壁に突き刺さった。


(あっぶな……!)


 息が熱い。

 僕の弱点は、捕まることだ。たとえ死ななくても、締め落とされたり、拘束されることへの耐性はない。


 ガッシャーン!!


 飛んだ先にあったボール入れに突っ込み、道具ごと地面へ落ちる。

 ボール、バット、謎の器具。ありとあらゆる物が散乱し、僕の体の下敷きになる。


『うわあ……痛そう……』

『マジで見てられねえ』

『あれっしょw このあと滅茶苦茶にエロい展開待ってんでしょww』

『お前流石にそういうこと言うなよ……』


 考える暇もなく、追撃が迫る。


 ヒュン――ッ!


 風を切る音。

 赤黒い腸マフラーが、槍みたいに伸びてきた。


(――また首を獲りに来る)


 僕は反射で身を縮め、道具の“下”へ潜り込む。平均台の下。マットと棚の隙間。得点板の裏――人ひとりが通れないような狭い場所を、影みたいにすり抜ける。


 腸が、僕のいた場所を貫く。


 ズブッ!

 バキッ!


 木枠に刺さり、器具に絡み、引っかかる。

 すぐ引き抜かれてまた飛んでくるけど、長いぶん、どうしても一拍“戻り”が遅れる。


(……絡まってる。だんだん)


 僕は逃げるフリをしながら、わざと道具の間を縫っていく。

 ロープ。支柱。ネット。棚の角。

 腸はそのたびに巻き付き、ほどけて、また巻き付いて――まるで自分の首に自分で縄をかけてるみたいに、動きが鈍っていく。


 そして、ついに。


 ビンッ!!


 腸が何かに引っかかったまま、ぴんと張った。

 糸が張り詰めたみたいに、一本の線になる。


「――今だ!!」


 僕は地面を蹴って、腸へ飛びついた。


 ガブッ!!


 噛みついた瞬間、口の中に嫌な味が広がる。鉄と湿り気と、腐った肉みたいな――。


(汚いとか言ってる場合じゃない!)


「イッタァア!! ヤメ! ヤメロォォ!!」


 人体模型が甲高く叫ぶ。

 噛みついた腸がびくんびくん跳ねて、僕の顎を引き剥がそうと暴れる。


 でも、離さない。


 ガブッ! ガブッ!!


 噛み直す。食いちぎる勢いで、何度も。


『すげえ! リスみたいwww』

『噛みつき戦法は草www』

『でもガチで効いてるぞそれ!!』


 腸が、目に見えて弱る。張っていた“線”が緩み、ずるりと床に落ちた。


(よし――これで、腸は)


 ……と思った、その瞬間。


 人体模型の気配が、ぐん、と近づいた。

 好きにやらせてくれるほど、あいつも甘くない。


 ダッ!!


 人体模型が突っ込んで来る。

 腕の骨が伸びて、一本の刃――いや、ナイフみたいな“骨のかぎ爪”へ形を変えている。


(……やってみるか)


 刹那、僕は地面を蹴った。

 逃げるんじゃない。人体模型へ突っ込む。


 ザンッ!!


 一瞬だった。人体模型が横薙ぎに腕を振る。

 骨のかぎ爪が、僕の首を捉えた。


『首が!!』

『だから逃げろって……』


 視界が反転する。

 ――首が、飛んだ。


 だけど。


 跳ね飛ばされた頭部は、血の糸みたいな筋で胴と繋がっていた。

 そして次の瞬間、がっちりと噛み合って再生する。


 もちろん痛い。

 でも、切られ、折られ、潰されるうちに――僕は自分の再生“速度”を、少しだけ調整できるようになっていた。


『あれ……そういや、頭再生したのに、ずっと腕折れてね?』


 そう。

 だからこそ、今――


 怪我したばかりで、しかも大けがの“首の切断”は一瞬で直した。

 でも右腕は、直していない。


(……今だ)


 折れた腕に、回復力を集める。

 “治す”んじゃない。治る勢いを、ぶつける。


 ヒュ――バチーン!!!


 反対に折れ曲がっていた腕が、凄まじい勢いで元へ跳ね戻る。

 その反動に、体の捻りを乗せて――


 ゴキャ!!


 拳が、人体模型の顔面へめり込んだ。


「グフッ!!」


 勢いそのまま――


 バッキィン!!


 顔面を、打ち砕いた。

 拳の骨も砕ける。だけど構わない。貫いた。


 人体模型だというのに、砕けた顔面から血しぶきが散る。

 ドンガラガッシャン――そのまま倉庫内の道具へ突っ込んで転がった。


『すっげええええええええ!!!!』

『何今の!? 一撃で顔面粉砕!?』

『体が再生するときのスピードをパンチに上乗せしたのか……』


 僕はその場に立つ。

 息が荒い。


「……いってぇ」


 腕が、だらりと落ちた。


「いっけない。また腕折れちゃった……でもさ」


 僕は、ぬらりと折れた腕を揺らしながら、ゆっくり振り向く。

 そこには、顔が潰れてもなお、ぴくぴくと動く人体模型がいた。


「……てことはさあ」


 笑いがこみ上げる。

 怖さで動けなくなるより、ずっとマシだ。


「何度も拳、撃ち放題だってわけだ!!」


『なんか……今日の女神ちゃん……魔王様っぽい』

『たしかに、なんか雰囲気似てる』

『なんにせよ良いぞ! もっとやれ!!』


 一歩、一歩。散らばったボールや道具を蹴り飛ばしながら詰める。


「ワ、ワカァタ! モォヤラァナイカァラ!!」


「もう一発!!!」


 バッキィイン!!!


 次は胴体を打ち抜いた。

 めり、と骨格が押し潰れる感触。人体模型の背中側が、道具の山へぶつかって跳ねる。


 同時に、僕の腕もまた折れる。


「……はあ、っくぅ……」


 だらりと垂れた腕。痛みで視界が白くなる。

 でも――だからこそ、次が撃てる。


 折れた腕に、回復力を集める。

 “治す勢い”を、拳にする。


 ヒュ――バチーン!!!


 三発目。

 再生の反動そのまま、今度は顎を抉るように打ち上げた。


 ゴギャッ!!


「ガ……ッ……」


 潰れた顔が、ぐにゃりと横にずれる。

 それでもまだ、ぴくぴく動いている。腸が床を探るようにうねり、こっちを捕まえようとする。


『うわ、まだ動くのかよ……!』

『女神ちゃん止まらねえ!!』

『“折って治して殴る”が永久機関すぎるwww』


「じゃあ、四発目」


 バチーン!!!

 治る。

 拳が走る。


 ドスンッ!!


 胸の真ん中。――心臓の場所を、えぐるように。


 人体模型の胴体が、きゅ、と縮んでから――がくん、と一段落ちた。

 動きが鈍る。腸のうねりが一瞬、ほどける。


 でも、まだ止まらない。


『いやもうこれ、勝ち確だろ……』

『止まるまで行け!!』


「五発目!!」


 ヒュ――バチーン!!!


 今度は腰。骨盤の辺りを横から叩き潰す。


 バキンッ!!


 脚が、意味を失うみたいに崩れた。

 人体模型が前のめりに倒れ、床に顔面から突っ伏す。伸ばした腕も、がくがくと震えて――


 それでも、まだ、ぴくりと指先が動いた。


 だから。


「……ラストだ」


 息を吸う。

 折れた腕に回復力を溜める。限界まで。反動が、拳のロケットになるまで。


 ヒュ――――バッゴィィン!!!


 ガゴンッ!!!


 背骨を断つみたいに、首の付け根へ叩き込んだ。


 人体模型の全身が、びくん、と跳ね――

 そのまま、糸が切れたみたいに、だらん、と床に沈んだ。


 ……ぴくりとも、動かない。


 僕は一歩近づいて、靴先でそいつの肩を軽く蹴る。

 反応なし。腸も動かない。目も、もうこちらを見ていない。


『止まった……』

『完封した……』

『女神ちゃん、ガチで“魔王”になってる……』


 僕はふらつきながら立ち、折れた腕をだらりと下げた。


「……はあ、っつ……僕の……勝ちだ」

 さっきまで「逃げろ」だったリスナーの掌が、くるりと返っていくのが分かる。


 ようやく分かった。

 これが“変わる”ってことだ。変わろうとするってことだ。


「……なんだか……すっとするな」


 完全に動きが止まったのを確認して、僕は人体模型に背を向けた。


『完全勝利!!』

『女神ちゃんさいきょおおおおおおお!!』


 ――その瞬間だった。


 振り返った先から、情けない声が響いた。


「ひぇ……え、えと……お、お前……すず、き……だよ……な?」


「うん、そうだよ」


 一条だった。

 意識が戻ったらしい。怯えた目で、僕を見ている。


 僕は、ゆっくりと彼へ近づいていく。

 扉は斧で塞がれている。今は“外”からは入ってこられない。


「お、俺は……俺は……一人でもなんとかできたんだ……お前なんかに」


「君が無事でよかった」


 彼の言葉を遮って、僕は言った。

 率直な、僕の気持ちだ。


「……っく。なんで助けた。俺は確か……切り刻まれて死んだはずだ。なのに……傷が治ってる……お前のギフトか?」


 中々に冷静だ。

 自分が切り刻まれたことを覚えている――つまり、意識を失う直前まで“痛み”があったってこと。


「僕のギフトじゃないよ。神様が――」


「そういう話じゃ!」


「ああもう分かった! 話ならあとでいっぱいするから……いったん、帰ろう。ダンジョンから」


 僕は中腰になって、彼へ手を差し出す。


 一条は、一瞬だけ僕の手を取ろうとして――

 でも眉を顰め、自分を止めるように手を引いた。そして、乱暴に立ち上がる。


「っち……んだよ……」


「あっ。……ただその前に」


 僕は彼の前に立ち、にこりと笑って言った。


「一条。少ししゃがんで」


「……は? 何――」


「はいよいしょ!」


 ガゴン!!


「ぐはっ!!」


 僕の拳が、彼の顔面を捉えた。

 普通に本気で殴っただけ。――それでも、不意打ちの衝撃で彼は尻もちをつく。


「てめえ! どういうつもりだ!」


「……別に、僕は何を言われたっていいし。何をされたって許す」


 でも、と続ける。


「これは鏑木さんを危険な目に遭わせた分」


 一条は苦い顔で、ぺっと血を吐き捨てて立ち上がった。

 ……やり返してくる気はないらしい。

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