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底辺ダンジョン配信者を追いかけたら、ぼく女神さまになっちゃいました。  作者: まぴ56
第一章:女神ちゃんになっちゃいました

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第13話:ありがとう鏑木さん

「――っというわけでございまして、祈里君を数日間こちらで保護していたわけです」


「あらまあ……うちの兄が大変お世話になりました」


 まきまきは、僕がダンジョンなんて危険な場所に行っていたことを綺麗に隠しつつ、香苗に状況を説明してくれた。

 “健康調査のために一時的に預かった”――そういう建て付けだ。今後の僕の処遇や、学校への手続きも含めて。


 ダンジョンの件は、知ったら香苗は絶対に泣く。心配して止まらなくなる。

 だから前もって「そこだけは伏せて」と頼んでおいた。いつかはバレるだろうけど、時間稼ぎにはなる。その間に、言い訳を考えておく。


 ……それにしても、説明を聞きながら、僕も初めて知ることが多かった。

 とりあえず、明日からは前みたいに“普通の高校生活”へ戻れるらしい。もちろん、前まで通っていた高校に。


 正直、それが一番怖い。

 こんな姿――しかも性別まで変わった僕を見たら、みんなどんな顔をする? どんな反応をする?

 想像しただけで、胃がきりきりと縮む。


 書類を一通り置き、話もまとまったところで、まきまきと凛さんは研究室へ戻ることになった。

 何かあるとき――たぶん、ダンジョンへ行くときだ。その時は連絡をくれるらしい。

 香苗には「健康調査の関係で数日家を空けることもあるかも」と、ごまかしておいてくれた。


「それでは、私たちはこの辺でお暇しようかと思います」


 狭い玄関に四人。

 靴を履き終えたまきまきが、深々と頭を下げる。


「なにかあればすぐにご連絡ください。その際には駆けつけますので」

 続いて凛さんも、同じように頭を下げた。


(……そっか。凛さんとの二人暮らしも終わりか。だから今朝、あんなに寂しそうにしてたんだ)


 踵を返し、玄関の扉を開けようとした凛さんに、僕は思わず声をかけた。


「あの……凛さん」

 振り返った顔は不思議そうで、でもどこか、ほんの少しだけ寂しそうにも見えた。


「今度は、凛さんがうちに遊びに来てください。もちろん、まきまきも……」


 凛さんが香苗のほうを見る。

 香苗は、にこにこしながら頷いた。


「もちろん歓迎しますよ。あ! でもそれなら、らいこさんにも来てほしいです!」


「ど、どうしてらいこが……」


 香苗の笑顔に対し、凛さんはなんとか不服そうな顔を隠している。わかりやすすぎる。


「らいこさん、お化粧品とかお洋服にも詳しくて、相談に乗ってもらってたんです!」


 どうやら香苗は、らいこさんのことを大層気に入っているらしい。

 確かに、らいこさんは気配り上手で女子力高くて、おまけに美人だ。年頃の女の子が懐くのも理解できる。

 ……正直、僕もあの人には相当心を開いてしまっている。


「香苗。あんまり、らいこさんに迷惑かけるなよ。あの人も忙しいんだから」

「そんなこと分かってますよ! というか、そればかりは兄さんには言われたくありません!」

「んな!? なにを――!」


 売り言葉に買い言葉。

 一瞬、互いの間にバチッと電気が走った気がした……が、次の瞬間には二人とも笑っていた。


「……ふふ」

「……ひひ。なんだか懐かしいや。たった二週間ちょっとなのに」


 仲良く喧嘩する僕と香苗を前に、凛さんとまきまきも、ほんわか笑顔を浮かべている。

 二人は顔を見合わせ、玄関の扉に手をかけた。


「それでは、そろそろ失礼しますね」


「次は、らいこも……“あいつ”も連れてきますから。その際は仲良くしてあげてください」


 空気を読んだのか、二人はいそいそと玄関を出て、ぺこりと頭を下げる。

 ゆっくり扉が閉まり、二人の背中は夜の廊下に消えた。


「はい! 次はおいしいお茶を用意して待ってますね!」


「……また」


 上機嫌な香苗の声に僕の小さな返事はかき消され、扉が閉まる。

 最後に小さく手を振ると、凛さんは気づいたみたいで、こちらを一瞥し――頭を下げながら、同じように小さく手を振り返してくれた。


 胸の奥が、じん、と熱くなる。


「さて……今日はお兄ちゃんの好きなカレーですよ。楽しみにしていてください」


「ああ、ありがとう。ほんと、心配かけたみたいでごめんな」


「もういいですよ。さっきの“ぎゅ~”でチャラです……でも」


 香苗の顔に、悪戯っぽい笑みが浮かぶ。


「でもぉ……久しぶりに、お兄ちゃんの作るチーズケーキ……食べたいなあ」


「なんだ、そんなことか。いいよ。食材、買いに行こうか」


 凛さんとの生活も楽しかった。正直、寂しい気持ちは僕にもある。

 でも、血のつながった家族の安心感って、こう……芯からほどけるものがある。


 ただ――憂鬱な点も残っている。


 夜。布団の中。

 香苗のカレーはいつも通りおいしかった。スパイスから作るのが彼女のこだわりで、少し辛いのに、妙に安心する味だった。

 僕のチーズケーキもうまく焼けて、残りは冷蔵庫に入れてある。


 なのに、眠れない。


 憂鬱の正体は、高校だ。僕にとっては第二の戦場。

 その中でも、ひときわ大きい問題がひとつ。


「……一条君」


 僕をいじめてきた主犯。

 今の僕には、反抗する力なんて微塵も残っていない。


 寝たまま腕を持ち上げる。

 白くて、細い腕。折れそうな腕。


 この姿を見たら――いじめはもっとエスカレートするんじゃないか。

 考えただけで心臓がチクチクする。


「……どうしたもんかなあ」


 ため息が漏れる。

 現実がどれだけ重いか、この数週間の生活で、僕は忘れかけていた。


「お兄ちゃん……どうされたんですか?」


 扉がガチャリと開き、寝間着姿の香苗が顔を出した。


「わるい……起こしたか?」


「いえ。お手洗いに……そしたら、お兄ちゃんの部屋から声がしたので、つい」


 ぺたぺた歩いて、香苗は勉強机の椅子を引いて座る。

 僕も上半身を起こした。


 数秒、静寂。

 破ったのは香苗だった。


「……あの」


 ぽつり。

 その先が続かない。言葉を選んでるというより、喉に引っかかっているみたいな、つらそうな横顔。


 だから僕は、先に言った。


「……香苗。一緒に寝るか?」


「ひぇ……いえ……べ、別に寂しいから来たわけでは……」


 僕は、息を吐くみたいに正直に言う。


「……僕が寂しい。いや、寂しかった」

 香苗が驚いた顔で振り向く。


 これは本心だ。香苗のことを考えると、居ても立ってもいられなくなる。

 だから凛さんやまきまきから仕事をもらって、少しでも考える時間を減らしていた。


「今の僕なら丁度いい抱き枕サイズだぞ。しかも、湯たんぽ機能付き」

 にやっとふざけて笑う。


 香苗の頬に、ほんのり赤が灯った。


「……お兄ちゃんがそこまで言うのでしたら、仕方ないですね。一緒に寝てあげます」


 そう言って、香苗は嬉しそうに布団に潜り込んでくる。

 ごそごそ、もぞもぞ。布団の中で距離が詰まってくる。


 ……冷たい。

 いや、僕の体温が上がっているだけか。彼女の肌が、ひんやりと心地いい。


 香苗はべったりとくっつき、僕を本当の抱き枕みたいに抱きしめた。

 小さくなった僕は、香苗の腕の中にすっぽり収まる。


「一緒に寝るの、いつぶりだろうな……」


「五年ぶりです。お誕生日……お父さんとお母さんがお仕事で帰ってこれなくて……その夜に」


 香苗の息はあたたかい。

 冷たい腕と足が、妙に安心する。


「そうだったな。あの時、お前が一人で布団の中で泣いてて」


「……泣いてません」


 不貞腐れたように頬を膨らませて抗議する。

 ……かわいいな、と素直に思ってしまう。


 それを感じていると、安心したせいか急激な眠気が押し寄せた。


「……おやすみ」


 返事はない。

 代わりに、すうすうという寝息が返ってくる。


 数秒遅れて、僕も夢の底へ落ちた。


    ◆


 そして翌日。


 高校。教室前。

 いきなり入って混乱させるのを避けるため、僕はHRの最中、廊下に立たされていた。


 心臓が爆発しそうだ。吐き気もする。

 制服の袖口をぎゅっと握る。指先が冷たい。


(あれ……てか!?)


 思い出す。鏑木さんのことを。

 彼女には、僕が“天使ちゃん”だってちゃんと伝えてなかった。


(いや、助けたわけだし……心配は……でも「なんで隠してたの?」とか問い詰められるかな)


「……いや、それはないか」


 自問自答して、ひとりでツッコミを入れて、意味のない想像が頭を走る。


(もしかしたら助けたのがきっかけで鏑木さんが僕のこと好きになったり……!?)


「えへへぇ……それだったらいいなぁ」


「なにがいいの?」


「へ?」


 横から声。

 赤茶のポニーテールが、ぽけぇっと立っている。


 ――鏑木さんだ。


「え!? いや、これは違くてですね!!」


「っていうか、女神ちゃんだよね!? なんでここにいるの!?」


 僕があわあわしていると、鏑木さんは犬みたいな笑顔で顔を寄せてくる。近い。押しが強い。距離感がない。


「お~い、うるさいぞ~鈴木~」


 扉がガラリと開き、先生がめんどくさそうに顔を出した。


 鏑木さんの顔が固まる。

 そして記憶を巻き戻すみたいに、言葉を繰り返す。


「すずき……すずき……いの……り。鈴木祈里……?」

 僕の肩をがっしり掴み、顔を凝視する。さらに近い。


 目線を逸らすと、彼女は追って顔を傾けた。


「もしかして……ず、ずっきー!?!?」


「は、はい……ずっきーです。ごめんなさい……」


 鏑木さんの目が見開かれる。


「なんで言ってくれなかったの!?」


「いや、まあ……その……」


「鏑木あとにしろ~。先生この後、実験室なんだよ~」


「は!? ごめん、俊介」


「だから先生のこと呼び捨てはやめろ~」


 先生の声で、ようやく鏑木さんの意識が現実に戻る。

 僕の肩に手を置いたまま、彼女は慌てて頭を下げた。


「あとお前、遅刻な~」


「そんな! 後生です! 先生!!」


 鏑木さんは僕から離れ、謝りながら教室へ入っていく。

 その前に、一瞬だけ振り返って言った。


「ずっきー、あとで話あるから!」


 その背中が消えたあと、数分して、先生がもう一度扉から顔を出す。


「よ~し、鈴木。入れ。大体の事情はみんな知ってる」


「は、はい……」


 転校生ってこんな気分なんだな、と思いつつ――いや、知ってる教室だからこそ緊張が勝つ。


 それでも立ち止まれない。

 覚悟を決めて、扉をくぐった。


 ばっと集まる視線。

 嫌な汗が背中を伝う。


 歩いて、教壇に立つ。

 教室が、異様なほど静かだ。


 誰かの小さな声が落ちる。


「……見たことある」


 そこから、こそこそと囁きが広がる。先生は我関せずの顔。


「なに? 知ってんの?」

「あれだよ、あれ」

「……鮮血姫」


 聞き慣れない言葉が飛んできた。


「あれか! 全身血まみれで、内臓とか骨とか出しながら、それでも笑って戦い続けるグロ動画だろ」

「そそ。マジかよ、あれ鈴木だったんだ……」

「いや納得だろ。だって“あの鈴木”だぜ。中学の時の血まみれ暴行事件、知らねえの?」

「え!? あれガチだったの……一条たちの嘘だと思ってたわ……」


 ――思い出したくもない話が、今ここで掘り返される。

 教壇に立たされ、石を投げられている気分だ。さらし首。


 だから来たくなかった。

 学校なんて。


 逃げたい。

 走って、逃げて――それで、どこへ行けばいい?


 その静かなどよめきの中。


「えええええええ!? あれ、ずっきーだったの!? ダンジョンで迷って泣いてた、わたしを助けてくれたの!!」


 鶴の一声みたいな大声が教室に響く。

 鏑木さんだ。わざとらしいくらい、明るい。


「なんでずっきーだって教えてくれなかったの!! 水臭いなあ!! ありがとおずっきー!!!!」


 一瞬の静寂。

 そして、さっきよりずっと大きなどよめき。


「え? なんで名乗らなかったんだよ」

「だよな~。そんな状況なら、俺だったら絶対言うわ。そしたら胸揉むくらいなら許されるっしょ」

「鈴木君はあんたらみたいなクズじゃないからよ」

「はあ!? クズってなんだよ!」


「……でも、かっけえな。名乗らず助けるとか、あいつヒーローじゃん」

「確かに! かっけえぜ鈴木!! 見直したわ!!」


「てか、えぐい可愛くね……」

「おい、中身鈴木だぞ……」

「そう言ってるお前も、ずっと見てんのバレバレだぞ」


「……かわいいし……かっこいい……です」


 空気が、ひっくり返っていく。

 非難と嘲りの色が、少しずつ薄れ――代わりに、称賛と好奇の熱が満ちていく。


 そんな中、鏑木さんと目が合う。

 彼女は何も言わず、ウインクした。


(……ありがとう、鏑木さん)


 それから一日中、休まる暇はなかった。

 この学校は、良くも悪くも噂が広まりやすい。僕が鏑木さんを助けた話は、上から下の学年まで一気に回った。


 昼休みには教室に人が押し寄せる。

 鏑木さんは少し距離を取って、称賛される僕を見ながら、まるで自分の手柄みたいにドヤ顔をしていた。


 そして放課後。下駄箱。午後六時。

 空が薄暗くなり始めたころ、一人で帰ろうとする鏑木さんを呼び止めた。


「あの! 鏑木さん!」

 彼女はびっくりしたように振り返る。


「びっくりした。どうしたの、ずっきー。こんな時間まで。部活じゃないでしょ?」


「その……今朝はありがとう。助けてくれて……」


 瞬間、鏑木さんの顔がしかめっ面になる。眉間にしわ。

 つかつか歩み寄ってきて――


「待って! 今のありがとう、なし!! いったん取り消して!!」


「ど、どうしたの急に。ごめん、気に障ること言った?」


「そ~う~じゃ~な~く~てぇ!!」


 子どもみたいに肩をゆさゆさ揺らされる。


「ありがとうを先に言うのは、わたしなの!! だから取り消して!!」


 手を離され、彼女は一歩引く。

 さっきの勢いが嘘みたいに、ちょっとしょんぼりして見えた。


「先に助けてもらったの、わたしなのに……ずっきーが先にありがとうって言ったら……わたし、恩知らずみたいじゃん」


「だ、大丈夫だよ。騒動のあと居酒屋でいてくれたじゃん。あれで僕は――」


「……あの時のわたしは、“女神ちゃん”に言ってたから。だから改めて……鈴木君に言いたいの」


 彼女はしおしおと肩を落とす。


「……分かった。それじゃあ、さっきのありがとう、なし!」

 両手で胸の前にバッテンを作る。


 それを見た鏑木さんは、ようやく顔を上げた。

 目が合う。真面目な顔。


「……ありがとう、鈴木君。あの時、一人で……ほんと怖くて」


 鏑木さんは言葉を探すみたいに、いったん唇を噛んだ。

「女神ちゃんが……ううん、違う。鈴木君が来てくれた時……ホントに!」


 胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、震える息で続ける。

「鈴木君のこと、神様だって思えたの。救いの……女神様……って」


「それに思い出したんだ。ずーっと暗闇を落ちた先で……鈴木君、わたしを守るために、一人でおっきい化け物に立ち向かってくれたの」


「……そっか。怖い思い、だろうし。ごめんね。思い出させ――」


「ううん。ありがとう! 助けてくれて」


 “ごめん”を“ありがとう”で上書きされる。

 そこまで言われたら、もう僕は何も言えなくなる。


 言葉が詰まる僕に、鏑木さんは笑った。


「……もう。そういう時は、いいってことよ! でしょ」

 蛍光灯の光が、彼女の笑顔に反射してきらりと光る。


「……うん。いいってことよ!!」


 この時ばかりは、自分でも自信を持って言い切れた。

 たぶん、僕は最高の笑顔だった。


 そのあと僕は、途中まで鏑木さんを送り、帰路についた。

 彼女の「家まで送っていくよ攻撃」は全力で回避した。いくらこの体が女の子でも、中身は男だ。女の子に家まで送られるなんて……僕の男としてのプライドが許さない。


「そういえば……一条君、今日いなかったな」


 ダンジョン侵入がバレて、一条君と鏑木さんは一週間ほど謹慎になったらしい。

 でも、もう二週間以上経っているのに、今日もいなかった。


 ……僕は本当に甘い。

 あんなに嫌なやつなのに、心配してしまう。


 夜空を見上げながら歩いていると、後ろから足音が迫ってきた。

 コンクリを蹴る、タッタッタッという焦った音。


「鈴木!!」


 男の声。

 驚いて振り返る。


 そこにいたのは――汗だくの、一条君といつもつるんでいるやつだった。

 僕のお腹を蹴ってきた、あいつだ。


「っ!? な、なんだよ……」


 警戒が勝つ。すぐ逃げられるように距離を取る。

 だけど、彼の行動は予想外だった。


「頼む!! 一条を助けてくれ!!」


 彼は、コンクリの地面に頭を叩きつけた。

 土下座。


 驚きで、固まる。


「あいつ! またダンジョンに行きやがったんだ! 俺じゃ止められなくて! だから……だから!」

「虫がいいのは分かってる! でもあいつは、あんなんでも俺の親友で!!」


 錯乱している。見れば分かる。

 正直、こいつだっていじめの主犯みたいなものだ。

 それなのに――こうやって“助けてくれ”と泣けるのか。


 ……もし僕が、同じように泣けたら。

 自分を責めずに生きられたら。どれだけ楽だっただろう。


「と、とりあえず落ち着け。どうして一条君はダンジョンに?」


 しゃがみ込み、背中をさする。

 彼は顔を上げた。涙と鼻水と、額から流れる血でぐしゃぐしゃの顔で僕を見る。


「さ、最近、一条、全然学校来なくってよ……」

「前にダンジョンでモンスターに襲われて……それがトラウマになって。だから俺、少しでも元気づけようとさ……お前の話、しちまったんだよ!」


 彼は腕でぐしぐし顔をこすり、息を整える。


「鈴木の動画見せて……あいつでも倒せる程度のモンスターだって……だから怯えてんなってさ……」


 だいぶ見えてきた。


「そしたらあいつ、いきなりキレて……俺もダンジョンに行くって、聞かなくって……」


 一条君とは幼稚園からの仲だ。

 どんな時も、彼は僕の一歩前を進んでいた。


 そんな中で――僕がモンスターと戦う姿を見て、“置いて行かれた”と感じたのかもしれない。

 分かる。あいつのことは、嫌でも分かる。


「事情は大体分かった。向かったダンジョン、どこか分かる?」


「それが……分かんねえ。分かんねえんだよぉ……!」


 彼はまた泣き崩れ、地面に手をついて震えた。


「……分かった。もう大丈夫。一条君は僕が助ける。だから安心して」


 その言葉を口にする時、少しだけ苦みがあった。

 でも――それでも、心配が勝ってしまったんだ。


「なあ……鈴木ぃ……」


「なに?」


「俺を……俺をボコボコにしてくれ。殴って、蹴って、裸にして……頼む」


「な、なにを急に!?」


 彼は顔を伏せたまま、淡々と言葉を続ける。


「……俺、お前に今までいろんなことしてきた……それだってのに、お前は……」


 罪悪感だ。

 少なくとも、嘘じゃないのは分かる。


 だからこそ――僕の答えは、ひとつだけだった。


「……いやだ」


「どうしてだよ!!」


 救いを懇願する目。

 その目に、僕の胸の奥が痛む。


「僕は君を許さない。許さない上で、君たちを助ける。だからだよ」


 そう言い捨てて、僕は背を向けた。

 後ろから聞こえるのは、鼻をすする音と――嗚咽だけだった。

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