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COSMOS WAR  作者: イチバ
シーズン1 新たなる戦争
7/20

第7話 人として

ヴィーナスの修理に後必要なのは燃料と羽だ。これではただのロケット、制御も上手くいかない。


「…どうするか」


レーションを食いながら俺はこの森林の木に目をつけた。


「…こりゃあいい。とんでもない硬さだ」


後にゲヴェーアに聞いたが、どうやらアズトラムの植物は異常なほど硬く進化したようで、特に木は砲弾を通さないほど。アズトラム軍はこれをコンクリートの代わりにもしていたという。

ゲヴェーアの力を借り木を何本か倒し、切り抜き、皮を剥ぎ、発射台を作った。簡易滑走路の完成だ。

俺はヴィーナスをロケットにする。目標はこの方角にあるトルキの前哨基地。そこに着陸だ。


「…よし。この方角なら無事到達出来るはずだ…」


地図を見ながら角度を調整している最中だった。大気圏を何かが突破しているのが見え、それは近くに墜落していく。あれは戦闘機だ。俺は急いでその場所へ向かった。



「我ながら見事な着地だ」


着陸したシュトルムピッケルハウベの脱出機は、燃料が尽きたこと以外に被害はなかった。


「動くな!」


突如、拳銃を向けられた。そこにいたのはトルキ兵。同じパイロットのようだ。


「ルールツ人か…」

「お前はトルキ人だな。お前も墜落か?」

「ああ。で、直せそうか?」

「は?」


意外。同じ敵同士だというのに、助けるだと?国際条約を守るとでも言いたいのか。これは戦争なんだぞ?


「敵だろうが同じ人だろ。困った時はお互い様だ」


嘘だろ?俺を助けて宇宙(そら)に上がれば、いつしか闘い合うことにもなるかもしれないのに…。それとも、情けなのか?


「…修理はいらん…。なぜ、そこまで俺を助けようとする?戦うことになるかもしれないんだぞ」

「お前にも居るだろうが。家族が」


その瞬間、その言葉にハッときた。このトルキパイロット、聖人すぎる。戦場は殺し合い、相手の家族すら考えてはいけないというのに…わざわざ心配するだと…?

ここまで助けようとしてくれているのに、断るのも無礼だと感じる。


「…そうだな…道路に着陸できたから上手く着陸できた。ただ、燃料がいる。予備タンクもなきゃ帰れない」

「これ持ってけ」

「おい…これいいのか?」

「ある方法で燃料はいくらでも手に入るようになった。さっさと帰るんだな」

「待ってくれ。恩を返さずにお前の同胞を殺すのは失礼すぎる。何か必要なものはあるか?」

「…そうだな…。拳銃をくれないか?」

「分かった。だが、何に使うんだ?」

「それは秘密だ」

「…分かった。ありがとう。助かった」

「俺もだ。また戦場で会おう」


脱出機のエンジンが始動。道路を滑走路代わりに飛び立って行った。



ヴィーナスは一方、とある帝国兵を助けた。燃料問題を解決したのには理由があった。


ゲヴェーア民族の牢屋…


「おいトルキ人。お前にやるよ。困ってんだろ?」


ゲヴェーア民族に渡されたのは燃料。だいたい予想はついた。海賊狩りで入手したのだろう。


「あの小娘はこの奥だ」

「ありがとう」


海賊の娘は、囚われた部屋で静かに鉄格子から外を見ていた。


「おい。お前は海賊を辞めたいか?」


俺はある作戦を思いついていた。この娘はきっと、俺が去った後に殺される。海賊も助けには来れない。見捨てられたなら、トルキ兵として更生すれば良い。


「…別に。安定した生活があればそれでいい」

「そうか。なら話そう。俺と一緒に宇宙に来ないか?トルキ兵として志願すれば、戦争が終われば安定した生活を手にできる」


その言葉に娘の目はキラキラと輝いた。海賊も一種の戦闘民族。今まで追われる身かつ不安定ながら戦っていたというのに、戦うだけで安定が手に入るのだから。


「行く!」

「よし。そうとなれば決まりだ」


関門は交渉だ。上手くいくだろうか…。

俺はゲヴェーア民族族長の前に立った。


「この娘は連れて行く」

「海賊を増やすと?」

「いいや。トルキ兵として育てる。別にゲヴェーア民族の海賊狩りを邪魔するつもりはない。この娘を連れて行く代わりなんだが、こいつらがいた前弩級戦艦を譲渡する。そこにいる海賊を煮るが焼こうが好きにしていい」


これは娘の代償でもある。同胞を売った、売国奴に近い存在となる。だが、この娘にはそれぐらいの覚悟があった。


「良かろう。ただし、この戦争には絶対に関与しない」

「構わない」

「よし。行け」


許可をもらったその時、海賊のガンシップ3機が向かってきた。


「行け!トルキ人と小娘!ここは我々ゲヴェーアが承る!」

「ありがとう!この恩は忘れない!」


俺は急いでヴィーナスの場に戻り、燃料を補給。エンジンを始動させ、コクピットに乗り込んだ。


「狭いとは思うが我慢してくれ」

「はーい」



族長が玉座を持ち上げガンシップのコクピットを破壊。墜落させる。

他のゲヴェーア民族が対空機関砲を連射。海賊が何人か降りた後に墜落した。

もう1機は海賊を降ろしてから旋回し再び向かってきた。向かってきたところ、ゲヴェーア民族の2人がガンシップ上に乗り、拳で装甲を破壊。中に突入しパイロットの頭を砕いた。窓には血が大量に付着する。そのままガンシップを鹵獲した。


「海賊は皆殺しだ!1人たりとも逃すな!」


地上ではショットガンや重機関銃を持ったゲヴェーア民族が海賊を潰していた。それに怯まず突撃してくる海賊だが、さらに不利になっていった。

そこは、海賊の血に染まった。

今日、ゲヴェーアは人は誰も死ななかった。


エンジンが点火。発射台の木がヴィーナスの支えとなり上手く発進。トワイライトが発生し、大気圏を突破。ついに宇宙に帰ってきた。

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