第7話 人として
ヴィーナスの修理に後必要なのは燃料と羽だ。これではただのロケット、制御も上手くいかない。
「…どうするか」
レーションを食いながら俺はこの森林の木に目をつけた。
「…こりゃあいい。とんでもない硬さだ」
後にゲヴェーアに聞いたが、どうやらアズトラムの植物は異常なほど硬く進化したようで、特に木は砲弾を通さないほど。アズトラム軍はこれをコンクリートの代わりにもしていたという。
ゲヴェーアの力を借り木を何本か倒し、切り抜き、皮を剥ぎ、発射台を作った。簡易滑走路の完成だ。
俺はヴィーナスをロケットにする。目標はこの方角にあるトルキの前哨基地。そこに着陸だ。
「…よし。この方角なら無事到達出来るはずだ…」
地図を見ながら角度を調整している最中だった。大気圏を何かが突破しているのが見え、それは近くに墜落していく。あれは戦闘機だ。俺は急いでその場所へ向かった。
「我ながら見事な着地だ」
着陸したシュトルムピッケルハウベの脱出機は、燃料が尽きたこと以外に被害はなかった。
「動くな!」
突如、拳銃を向けられた。そこにいたのはトルキ兵。同じパイロットのようだ。
「ルールツ人か…」
「お前はトルキ人だな。お前も墜落か?」
「ああ。で、直せそうか?」
「は?」
意外。同じ敵同士だというのに、助けるだと?国際条約を守るとでも言いたいのか。これは戦争なんだぞ?
「敵だろうが同じ人だろ。困った時はお互い様だ」
嘘だろ?俺を助けて宇宙に上がれば、いつしか闘い合うことにもなるかもしれないのに…。それとも、情けなのか?
「…修理はいらん…。なぜ、そこまで俺を助けようとする?戦うことになるかもしれないんだぞ」
「お前にも居るだろうが。家族が」
その瞬間、その言葉にハッときた。このトルキパイロット、聖人すぎる。戦場は殺し合い、相手の家族すら考えてはいけないというのに…わざわざ心配するだと…?
ここまで助けようとしてくれているのに、断るのも無礼だと感じる。
「…そうだな…道路に着陸できたから上手く着陸できた。ただ、燃料がいる。予備タンクもなきゃ帰れない」
「これ持ってけ」
「おい…これいいのか?」
「ある方法で燃料はいくらでも手に入るようになった。さっさと帰るんだな」
「待ってくれ。恩を返さずにお前の同胞を殺すのは失礼すぎる。何か必要なものはあるか?」
「…そうだな…。拳銃をくれないか?」
「分かった。だが、何に使うんだ?」
「それは秘密だ」
「…分かった。ありがとう。助かった」
「俺もだ。また戦場で会おう」
脱出機のエンジンが始動。道路を滑走路代わりに飛び立って行った。
ヴィーナスは一方、とある帝国兵を助けた。燃料問題を解決したのには理由があった。
ゲヴェーア民族の牢屋…
「おいトルキ人。お前にやるよ。困ってんだろ?」
ゲヴェーア民族に渡されたのは燃料。だいたい予想はついた。海賊狩りで入手したのだろう。
「あの小娘はこの奥だ」
「ありがとう」
海賊の娘は、囚われた部屋で静かに鉄格子から外を見ていた。
「おい。お前は海賊を辞めたいか?」
俺はある作戦を思いついていた。この娘はきっと、俺が去った後に殺される。海賊も助けには来れない。見捨てられたなら、トルキ兵として更生すれば良い。
「…別に。安定した生活があればそれでいい」
「そうか。なら話そう。俺と一緒に宇宙に来ないか?トルキ兵として志願すれば、戦争が終われば安定した生活を手にできる」
その言葉に娘の目はキラキラと輝いた。海賊も一種の戦闘民族。今まで追われる身かつ不安定ながら戦っていたというのに、戦うだけで安定が手に入るのだから。
「行く!」
「よし。そうとなれば決まりだ」
関門は交渉だ。上手くいくだろうか…。
俺はゲヴェーア民族族長の前に立った。
「この娘は連れて行く」
「海賊を増やすと?」
「いいや。トルキ兵として育てる。別にゲヴェーア民族の海賊狩りを邪魔するつもりはない。この娘を連れて行く代わりなんだが、こいつらがいた前弩級戦艦を譲渡する。そこにいる海賊を煮るが焼こうが好きにしていい」
これは娘の代償でもある。同胞を売った、売国奴に近い存在となる。だが、この娘にはそれぐらいの覚悟があった。
「良かろう。ただし、この戦争には絶対に関与しない」
「構わない」
「よし。行け」
許可をもらったその時、海賊のガンシップ3機が向かってきた。
「行け!トルキ人と小娘!ここは我々ゲヴェーアが承る!」
「ありがとう!この恩は忘れない!」
俺は急いでヴィーナスの場に戻り、燃料を補給。エンジンを始動させ、コクピットに乗り込んだ。
「狭いとは思うが我慢してくれ」
「はーい」
族長が玉座を持ち上げガンシップのコクピットを破壊。墜落させる。
他のゲヴェーア民族が対空機関砲を連射。海賊が何人か降りた後に墜落した。
もう1機は海賊を降ろしてから旋回し再び向かってきた。向かってきたところ、ゲヴェーア民族の2人がガンシップ上に乗り、拳で装甲を破壊。中に突入しパイロットの頭を砕いた。窓には血が大量に付着する。そのままガンシップを鹵獲した。
「海賊は皆殺しだ!1人たりとも逃すな!」
地上ではショットガンや重機関銃を持ったゲヴェーア民族が海賊を潰していた。それに怯まず突撃してくる海賊だが、さらに不利になっていった。
そこは、海賊の血に染まった。
今日、ゲヴェーアは人は誰も死ななかった。
エンジンが点火。発射台の木がヴィーナスの支えとなり上手く発進。トワイライトが発生し、大気圏を突破。ついに宇宙に帰ってきた。




