第6話 過去の罪
「待て」
1人のゲヴェーア民族が騒動を収める。
「族長!こいつは海賊を!」
「トルキ人まで殺せば外交問題になるだろう!戦争参加は何としても避けなくてはならない。それを忘れるな」
「…申し訳ありません」
族長…。革のマントにパワードアーマーには数多の傷の跡。歴戦というわけか。
「トルキ人。直せばすぐに出れるのだな?」
「はい。俺にも軍人の義務があります。早く戦場に戻らなければならないのです」
「良かろう。猶予をやる。ただ、海賊は渡せ」
…俺は見たことがある。小さな子供が殺されていくのを。体験したわけではないが、実際の記録のビデオに映っていた。こんな子供に罪はない。
「…なぜそこまで海賊を殺す?」
「トルキ人にはわからないだろう。我々ゲヴェーア民族の心境を」
今から10年前、我々ゲヴェーア民族はアズトラム人が消えた都市から様々な物を漁りサバイバルをしていた。それでしか生きれなかったからだ。餓死は絶えず、数多のゲヴェーア人が命を落とした。
ある日、都市の物資や食べ物はほぼ全て海賊に奪われたのだ。さらに放棄された戦艦を使って土地を荒らし、権力者であることを示した。
ゲヴェーア民族の餓死者はさらに増え、それに耐えられなくなってしまった。
「何だあいつら?アズトラム人はもういないんじゃなかったのか?」
「別の海賊かもしれないぞ。防衛の準備だ」
その時、海賊は戦艦に篭った。これが奴らの死の始まりだった。
最初にタックルで戦艦のドアを破壊。奴らも反撃したが、パワードアーマーには無力。火炎放射器で焼き払った。
次にガンシップを使って甲板から突入。重機関銃を使って次々海賊を木っ端微塵にした。
最後に降伏した海賊を一箇所に集めさせ、拳と剣で処刑した。血や皮、脳は飛び散り、最終的に原型を留めた海賊はいなかった。
ゲヴェーア民族は憎しみの心が人一倍強い。故に、海賊への報復として海賊狩りをしている。
「海賊を我々は許さない。この先も許すことはない。早くその小娘を渡せ。海賊がこれ以上繁殖するのも困る」
「…わかった。渡そう」
「…いや…いやだ…いや!ごめんなさい!槍向けたことも謝るからぁ!お願いだから…助けて…」
ゲヴェーア人が近づき海賊の娘を掴んだ。娘は涙を流して懇願する。
「だが条件がある」
「条件?」
「毎日その娘を俺に会わせてくれ。別に殺すわけじゃないんだろ?俺はただ渡すのを許可しただけだ。殺すことに許可はしていない」
「…族長」
「好きにしろ」
族長から承認された!
俺は娘に向かって親指を立てた。
天の川・アンドロメダ戦線郊外…
シュトルムピッケルハウベのエンジンにレーザーが命中。爆発し制御不能になっていった。
「くそっ!レッドジェントルマン!」
無線から応答はない。
「無線も死んだか…。相棒、ここまでだな。お前を操縦できて、嬉しかった」
シュトルムピッケルハウベのコクピットと周りの部分が射出。小型ジェット機に姿を変え近くの惑星を目指した。これはシュトルムピッケルハウベに搭載されていた脱出ポッドである。
「マグダより近いのは…アズトラムしかないのか。仕方ない。そこに不時着しよう」
某日、帝国参謀本部…
「…戦況を報告しろ」
皇帝はあからさまに激怒していた。空気はまずく、司令官達も怯えていた。
「は、はい陛下。えぇ…現在、天の川・アンドロメダでは膠着状態が続いています…。第二次アンドロメダ侵攻は…失敗に終わりました」
その報告に参謀本部の空気は完全に凍りついた。
「なぜ失敗した?そしてこの死者数はなんだ?」
「し、失敗の原因といたしましては…敵の最新型戦闘機の導入でした…。諜報機関によりますと、トライアングルアタッカーと呼ばれるこの機体は、機動性、火力、低コストを重視したもので、シュトルムピッケルハウベと同等の性能を保有しています…。今のところ…ほ、他の連合国に供与はされていません…」
諜報機関が入手したトライアングルアタッカーのコピー設計図が机に広げられ、その武装と形に皆が驚愕した。
「…レーザー砲…」
「小型軍用機搭載型のレーザー砲は十年戦争より遥か前、西暦時代から考えられていた兵器です。ですが、技術的に不可能なことが多すぎたが故、1900年以上も叶わなかった…連邦はこれを実現した…」
戦艦にレーザー砲を搭載することはどの国家も採用する一般的な兵器。しかし、戦闘機に収められるほど小型化かつ軽量化に成功したこのレーザー砲はまさに新兵器と言えたのだ。コスモス歴0年から500年までは空白の500年と呼ばれ、人類の技術は大きく衰退。記録も多く失われた。数少ない人類の技術と宇宙人の技術を元に現在の機械は存在する。このレーザー砲は、オーパーツに等しかった。
「我々もレーザー砲の開発を急いだ方が良いでしょう。皇帝陛下、どうかレーザー砲搭載型戦闘機開発の許しをいただきたい」
「否!防衛大臣!マゼラン雲戦線突破用兵器と果たして同時開発ができるというのか!」
皇帝は声を荒げた。
「既に計画段階は終了致しました。このまま開発すれば十分可能です。是非、今ここで計画を見ていただきたい」
「…良かろう。見せてみよ」
トライアングルアタッカーの設計図の上に例の突破用兵器の設計図を広げた。
「防衛線突破用の艦砲です。彗星要塞の列車砲を改造したもので、オーパーツの兵器である核弾頭を発射。巨大な突破口を開けることが可能です」
核弾頭。それは今の帝国時代より遥か前から伝えられてきた秘密兵器。オーパーツであり、現在帝国が運用している爆撃機RRB-88 スペースシャークが基準で搭載している1000キログラム爆弾の何万倍もの火力を持つのだ。このオーパーツは地球が放射能に汚染された理由の1つだと言われており、実際、地球では機能を果たせなくなった核弾頭が数発見つかっている。
「しかしわからないことが多い兵器を使うのは我々にも危害が及ぶ可能性があるというわけであろう。兵器開発の承認はするが、まだ核弾頭は使わず、代わりに別の物を装填することを想定して作ってもらおうか」
「承知致しました陛下」
こうして、天の川・アンドロメダ戦線とマゼラン雲戦線両方が膠着状態に陥った。帝国か、連合か、どちらが先手を打つのか、一刻を争う事態となった。