第5話 戦争の行末は?
シュトルムピッケルハウベがカタパルトから射出される。
<航空機隊に通達!作戦に変更あり。プランBを実行せよ>
第二次アンドロメダ侵攻が開始。帝国艦隊は既にマグダ共和国に攻撃していた。既にトルキは食いつき、連邦の一部もマグダに向かっていた。マグダ共和国防衛隊は次々被害を受け、もはや展開すらできない状態だった。
だが、問題があった。味方艦隊が足止めを喰らい防衛線を突破できなかった。ここで戦闘機部隊が先に防衛線を突破することになったのだ。
「俺に続け!今のうちに防衛線を突破する!」
今回は俺だけがエースじゃない。もう1人、強力なパイロットがいる。
<レッドジェントルマン只今参上!さて、今回はキル数かい?それとも被弾数?>
「最初に防衛線を突破した方が勝ちだ」
レッドジェントルマン。帝国に使えるエースパイロットだ。彼の乗る機体であるレッドデビルは圧倒的な火力を保有する。25mm機関砲を5つ搭載したあの機体は、火力オバケなのだ。
彼と任務を共にする時は必ず勝負をする。今のところ俺が勝っている。
「見えたぞ!連邦の艦隊だ!」
<私が一番だ!>
レッドジェントルマンが先頭に立ち突撃。一気に艦隊のもとへ突っ走った。俺達もそれに続く。
「シールド級か…こりゃ歯応えあるぞ」
連邦の護衛艦であるシールド級。耐久性に優れている。だが、硬さなんて俺らには関係ない。
「敵機接近!」
「撃ち落とせ!」
しかし、シールド級を過ぎ去って行く。
「しまった!奴らの目的は司令部だ!今すぐ司令部に伝えろ!」
連邦は間に合わなかった。司令部の前哨基地前で待機していたシールド級は準備が間に合わず壊滅。司令部は攻撃され宇宙の藻屑になってしまった。
「よし!ここまでくれば…」
<隊長!敵戦闘機部隊接近中!数は20!>
「たった20なら問題はない。応戦するぞ」
ここで帝国は大きなミスをすることになる。これが間違いだった。
<…敵の戦闘機…なんか見たことないやつだぞ。新型機だな>
「了解。各自気をつけろ」
ビュンビュンと赤い光が飛んできた。そのままセブンスターズの1機が爆発する。
「レーザー砲!あいつ、レーザー砲なんて積んでるのか…!?」
連邦が新たに導入した戦闘機、トライアングルアタッカーはレーザー砲を装備。さらに三角形のような見た目にすることで空気抵抗対策も行っていた。機動性、火力にも優れていたのだ。
次々セブンスターズが撃ち墜とされていく。
「全機撤退!俺らの戦闘機じゃ勝てないぞ!」
<今回の勝負は無しだ!味方艦隊まで下がろう!>
第二次アンドロメダ侵攻の作戦は失敗。再び天の川・アンドロメダに戻され、膠着状態に陥ることとなる。さらに予想以上の死者が出てしまい、作戦は完全に失敗したと言えた。
一方、ヴィーナスの方では、パイロットスーツを脱ぎ、辺りを見渡せる崖を目指していた。
崖の上を到着し、双眼鏡で辺りを見渡した。
「…なんだアレは…」
双眼鏡をさらにズームした。よく見ると、十年戦争で各国揃って運用した前弩級戦艦だ。だが、錆びていない。整備されている…!
「まさか、原住民が使ってんのか…」
有り得なくはなかった。十年戦争の激戦区だったここなら、未だ当時の兵器の一部は放置されていてもおかしくない。動力源がなくても、威嚇やトーチカ代わりにもなる…。
俺はあの前弩級戦艦を目指した。希望を持って。
「何なんだ…これは…」
まるで幽霊船。乗員は誰一人おらず、戦時にできたであろう弾痕だけ。
「動くな」
と、思っていた。後ろから槍を向けられたのだ。鉄を使った本物の槍だ。
「…誰だ」
「お前こそ。私達の隠れ家に何の用だ」
「俺はトルキ諸国陸軍第3歩兵師団所属の兵士だ」
「トルキ…?戦争をここまで巻き込むつもりか!」
「違う!ここに墜落しただけだ!今は修理しないと飛び立てない…」
そう。いくら頑丈なヴィーナスとはいえ、動かなければただの鉄塊、弾薬箱同然だ。
「お前は何者だ」
「私はヴァルハラ海賊団の1人。この戦艦は私達にとって宝の山だ。何もしなければ見逃してやる」
どうする。海賊の小娘1人なぞどうって事ない。ただ、ここで敵を作るのはまずい。ヴィーナスのことも知られたら…軍法裁判行き…?
重低音が近づいてくる。
「伏せろ!」
俺は押し倒され床に伏せた。
ガンシップが頭上を通り、パワードアーマーを全身に身に纏った人々が乗っている。重機関銃に機関砲、グレネードランチャー、重火器ばかり持っていた。
「…なんだ今のは?」
「この惑星の原住民だ。ゲヴェーア民族と呼ぶ。戦闘民族で、1対1では絶対に勝てない」
ガンシップが着陸。俺らを発見し向かってきた。
「ゲヴェーア民族…」
「これはこれはトルキの兵隊さんじゃないか」
「ここまで戦場にしようってのか?」
巨体すぎる…人の2倍の大きさはあるぞ。筋肉も異常だ。ここまで力に偏った宇宙人がいるというのか…。
「違う。不時着したんだ。帝国の戦闘機に撃ち落とされてしまった」
「そりゃあご愁傷様。墜落しちまったならしょうがねぇなぁみんな!」
揶揄うようにゲヴェーア達が笑う。彼らにとって帝国なんぞハエ程度なのだろう。
「いいかトルキ人。俺らはお前らがよく言う戦闘民族だ。ただこの大戦争には中立を立場を取っている。俺らは常に独立しているからだ。だが、領域に入っちまったからには侵犯だぜ。処置を取らねぇととなぁ。あんたら軍人なら分かるだろ?」
「追い出したいのはよく分かる。俺も宇宙空軍に所属しているから領空侵犯の処置は取ったこともある。ただ、完全に復旧するまで2日はかかるんだ。その間だけここに居させてくれないか?」
ゲヴェーア民族達は戦闘民族というより軍隊だ。軍を所持していないとはいえ、民族一人一人が化け物…相手にすれば瞬殺される。
「勿論いいとも…ただ、その隣りにいる海賊のメスガキは引き渡してもらおうか」
手をギュッと握る。海賊がここまで怖がっているとは…。
「知らないみたいだぜこの軍人」
「そうか!なら教えてやる!俺らは海賊狩りを行っている民族だ。海賊はどの国家にも属さない、いわば国境なき組織。虐殺しようが殺戮しようが問題はねぇってわけだ。おまけに、民間の船、作業船も襲う輩。一般論的に見れば俺らがやってることは部屋の掃除同然だ。むしろ賞賛される。だからソイツをよこしな。よこせば、あんたの戦闘機の修理も、改造も手伝ってやろう」
「君らが海賊狩りをしようがなんだろうが、この子はまだ子供だ。まだ聖人に戻れる可能性も秘めてる」
「…そうか。穏便に済ませたいんだが、残念だ」
重機関銃をこちらに向ける。
…殺される…!