第3話 宿敵、見参
「まるで幽霊だな。数日前に撃ち墜とした機体がもう戦場に出ているとは」
シュトルムピッケルハウベのパイロットは奇妙に感じていた。撃ち墜とした機体が既に武装し元気よく飛び回っているのだから。
一気にコメットを3機撃ち墜とし、俺に向かってきた。
「来る!」
機関砲を撃つまくるが全て避けられてしまう。
シュトルムピッケルハウベが向かってきた。
「ぶつかる!」
ギリギリで避け旋回。しかし、奴の方が機動力は高く、旋回では追いつけない。すぐさまドッグファイトに持ち込まれた。
「ヴィーナス!貴様の機動力では私には勝てん!」
ヴィーナス…!どうすればいい…!
俺は元陸軍軍人だ。パイロット経験なんてない…。ただ本や漫画で読んだものしか知らない。…ならば、自分で動きを作るしか!
俺はエアブレーキを展開し急減速。シュトルムピッケルハウベが突撃してくるが、ヴィーナスを270°ほど回転させ猛スピードで通り過ぎていく奴を見送った。
「しまった!後ろに!」
「貰った!」
体勢を立て直し弾丸を発射。旋回しようとしている最中を狙い、次々命中した。奴のエンジンから黒煙が吹く。
「クソッタレ!」
「逃すか!」
トドメを刺そうとしたが、敵の援軍が到着。セブンスターズ21機が接近してきた。あいつがいる中、この数は相手にはできない…。ここは一時撤退だ…。
俺はレバーをあげ直ぐに味方艦隊へ戻った。奴を殺せなかったのはまずかったが、情報収集はできた。成果がゼロよりマシだ。
空母に着艦させ、アレスティングワイヤーがヴィーナスを支える。
「ふぅ…」
戦闘機パイロットが一番苦戦するのは敵機ではなくこの空母着艦時だという。海上で使う旧世代の空母と違って、甲板が長いからまだいいが、昔は非常に短かった。あの世代は墜落や衝突事故もあったという。
この戦域は我々トルキ軍の勝利。ただ、犠牲者がかなり出てしまった。原因究明について、トルキは急いだ。
後に判明したのが、今回の戦闘は惑星などは一切なく、地上戦が起きなかったことで戦略が変わったこと。トルキは惑星上空で戦ってきたが故に、大規模な宇宙戦を経験したことが少なすぎた。実質、突撃ばかりをしたのだ。
もう1個はトルキが運用している戦闘機コメットのスペック。コメットはスピード正義で機動力に特化している。しかし、これは諸刃の剣。敵機を追い抜かしてしまいそのまま後ろを取られてしまうのだった。火力も平均的で足らないわけじゃない。確かに、一撃必殺なら非常に強いだろうが、操縦するのは人間だ。そんなことは簡単にはできない。少なくとも、まだ弾丸とドッグファイトが主流のこの時代では。
俺らは新たな戦線に配備された。時は1920年を迎えた。後何年戦争が続くのだろうか。
今回の戦線は同じ連合軍であるアンドロメダ連邦と手を組む。この戦線は1919年の最初の戦闘区域で、既に半年以上が経過。戦闘状態が休みなく続き、連邦は大規模な軍隊を持つも立ち往生。この戦線自体が要塞の役割を持っているため、ルールツ本土に侵攻できないのだ。迂回しようものなら、前哨基地から攻撃される。昔からこの戦線はそういう目的で戦闘できるよう計画されていた。戦線の名は、天の川・アンドロメダ戦線。
アンドロメダ連邦はアンドロメダ銀河を点々と支配している国家。アンドロメダ全てを支配するわけではないが、あの銀河には連邦軍がうじゃうじゃいる。いわば、実効支配だ。
「見ろよ!連邦軍の大艦隊だぜ!何隻いんだよ」
味方兵士達が外を見て盛り上がっていた。確かに、凄い数の戦艦だ。どれも巡洋艦ばかり。
<艦長より通達。これより連邦軍との共同作戦に移る。今回の戦闘も大規模なものとなる。しかし、死を恐れるな。自由のために、平和のために戦え!各員、一気奮闘せよ!第一種戦闘配置!>
警報が鳴り戦闘準備につく。俺もヴィーナスの元へ到着しコクピットに着く。しかし、今回は最初から苦戦することになる。後にこの戦いは、第一次天の川・アンドロメダ会戦と呼ばれ、歴史に名を残した。
ドガァンと帝国軍の艦砲射撃が空母に命中したのだ。甲板に命中しカタパルトが破壊される。船内はパニック状態に陥り、一部が火災を消火しているだけ。
「落ち着け!流れ弾に被弾しただけだ!早く消火しろ!」
最初は流れ弾だと感じていた。だが、実際は同じ位置にいた連邦軍の巡洋艦と空母も攻撃されていた。予想より帝国軍艦隊の射程距離は長かったのである。となると、相手は新型戦艦である可能性があった。
<ヴィーナス!垂直離陸して出てくれ!>
「了解。ヴィーナス出るぞ」
ヴィーナスには垂直飛行機能がある。これもヴィーナスの機動性の特徴だ。そのまま炎上する空母を離脱。戦場に飛び出た。すぐさまセブンスターズが接近。一気に乱戦となった。数十機の戦闘機が向かってくる。
「来やがれ!」
構えたが、次々通り過ぎて行った。
「しまった!狙いは艦隊か!」
護衛に回ろうとしたその時、1機の帝国機が攻撃を仕掛けてきた。
「ヴィーナス!お前の相手はこの俺だ!」
「シュトルムピッケルハウベ!」
反撃で次々命中するが弾かれている。
「バカめ!シュトルムピッケルハウベの正面装甲は貫けないぞ!」
再びあの時の技を使い回避。そのまま後ろを取ろうとした。
シュトルムピッケルハウベの後方からミサイルが2発飛んできた。避ける暇もなくヴィーナスに命中。両翼が吹き飛びエンジンから火が出た。すぐに消火するが電源が付かない。
「動いてくれ!ヴィーナス!」
「ヴィーナスのパイロット。お前を殺すのは惜しい。俺に匹敵するエースパイロットだからな。また闘おうじゃないか」
そのままシュトルムピッケルハウベは空母に向かっていった。次々戦艦が沈んでいくのが見える。
俺は、何もできない無力さに駆られた。
この日、たった36分という短さで第一次天の川・銀河会戦は帝国の勝利となった。トルキ軍の艦隊は全滅。連邦軍の巡洋艦隊は9割大破。連合軍にとって、これは痛く、大打撃を受けたのだった。