最終話 それでも地球は動いている
ルールツ帝国本土
上空
停戦協定発効まで後30分
ヴィーナスは反応した。このままでは自分の主が死ぬ。物理的にも、神経的にも死んでしまうと。
即座に判断した。覚悟もできていた。少しでも助かる可能性がある方に賭けたのだ!
大気圏を突破し、ヴィーナスは脱出装置を起動しパイロットを射出。弾丸はコクピット含め機体に命中し火を吹いた。最期にパイロットの顔を見て爆散したのだった。
ヴィーナスにとって、ここは良い死場所でもあった。
数十億年前、金星と地球は兄弟であった。そこから、同じ生産ラインと計画で開発されたFYF-2とFYF-3にはヴィーナスとジオという名前がついたと言われている。真実かは定かではないが、兄弟であることに違いはなかった。無機質だが、S.R.Sによって魂同然を与えられ、心というものが宿ったこの2機には、勢力やパイロットが違っても兄弟なんだと分かっていた。
ならば、ジオと共に破壊されるのなら本望だと思った。だが、パイロットだけは、共には逝けない。それが呪縛なのだと理解した。
ジオも同じことを考えていた。
ヴィーナスとジオは共に脱出装置を作動。パイロットを逃し、彼らは地球の地に還っていった。
パラシュートを展開し森に着地。ピストルを取り出しすぐさまジオのパイロットを探した。
ここで決着をつける。
ベルキは燃え、崩れ、夜中だというのに爆撃による火災や照明弾で朝のように明るかった。大気圏では墜ちてくる軍艦や軍用機が流れ星のように光っている。
「ヴィーナスのパイロット!」
「なんだ!」
その呼び掛けに俺は応えた。
「そうコソコソと銃撃戦をしたいのか!」
「なんだと?」
それは、裏を返せば一瞬でケリをつけたいということだ。確かに、ここまで長く彼と宇宙戦をしてきたが、決定的な決着は常につかなかった。今回だって、機体が墜とされたが相討ちな上にパイロット(俺ら)は生きている。
「…いいだろう!」
俺は叢をかき分けジオのパイロットの前に姿を現した。
「「お前は!」」
口を揃って俺らは言い放った。あの時のパイロットだと、あの時、アズトラムで助け合った敵軍のパイロットだと。
2年振りの再会が…これとは…。
「…お前と会うのがこんな機会になるとは思ってもいなかったな」
「こちらこそだ…だが、決着はつけなくてはならない。それが、俺にとっては恩返しだ」
「俺もだ。まだあの時の借りがあるからな」
俺らはピストルを1発装填。マガジンは捨てた。この1発が勝負だと集中した矢先、奴のピストルを見て驚愕する。
「お前!あの時のピストルを…」
「…いつ、あの時助けたパイロットを撃つかわからない。なら、あの時のピストルを持っていればあいつだと分かってくれるはずだと思っていた…が、こんな風になってしまうとはな。さて、準備はいいか?」
「早撃ち勝負だろ?」
「そうだ。外すなよ」
「お前こそ」
静寂が奔る。それは、俺らが最後に相手を見る時間だった。
ヴィーナスに出会い、シュトルムピッケルハウベと初めて交戦し、アズトラムに墜ち、助け合い、チェスピースに参入。暴走しシュトルムシュタールヘルムと交戦し、数多の戦線と戦闘を駆け抜け、地球の宇宙で戦い、今に至る。
3年間。その期間、何人の命を葬ったのだろうか。わからないほど撃ち、解放した。
ついに、それが終わりを告げようとしている。
グレナディアーズ爆撃機が空から墜落し、横の路に墜ちた瞬間、俺らは構え、撃った。
2発の銃声が森に響いた。
「…」
「…」
奴は倒れた。頭を撃ち抜かれて。
どうせ死ぬなら、一瞬の方が楽だった。これで、決着だ。
あいつの墓地を作り、俺はそこを離れた。
「…あばよ」
停戦協定発効まで後5分
俺は味方に合流するため、ベルキを歩いた。
そこら中に死体が溢れている。
「敵兵!榴弾装填!」
その声で俺は気づいた。街角に榴弾砲を搭載した帝国軍の装甲車がいたのだ。
頭上を貫通し、素早く逃げ回ったが、逃げ回る先にいたのが、かつて俺が戦ったトーチカ型戦車だった。
榴弾を撃たれ、射角で直撃は避けたものの、重傷を負った。そのまま、意識を失った。
「おいバトルコマンダー・コーの連中!こいつはトルキのパイロットか!」
「ああそうだ!おそらく、こいつが例のパイロットだろう。俺らは国会議事堂に向かう。救助を頼む」
「分かった。おい通信兵。伝えておけ」
「要救助者を発見。回収します」
連邦の通信兵に助けられ、救護用輸送艇に運ばれた。
扉は閉まり、輸送艇は発進。
操縦室から見えるのは綺麗に輝く地球であった。
戦後の1923年、火星のリサージェント・ニューヨーク市にて平和条約が締結。戦争のカーテンは完全に幕を下ろした。
この頃には、ヴィーナスのパイロットは退役していた。
彼がどこへ消えたのか、生きているのか、死んでいるのか。
その真実を知る者はいなかった。




