第8話 死ぬことは、ちっとも怖くない
ルールツ帝国本土
首都ベルキ
ベルキ市街戦
[帝国諸君は降伏してはならぬ!]
帝国が流すプロパガンダは残虐を極めていた。
「やめて!やめて!」
「見ろ!帝国の娘だぜ」
「せっかくだヴァシリ。楽しんでこい」
連邦とトルキによる地球降下作戦は大成功を納め、帝国軍は最終防衛線である首都ベルキで戦っていた。
上空ではTB-17 グラナディアーズとAFB-40 ボグ・ボンバが飛び大量の爆弾を落としていく。その爆弾は基地や家、兵士に民間人関係なく破壊していくのだ。
クスジ城
同 皇帝防衛地下壕
「皇帝陛下…もはや、帝国軍も、緊急徴兵軍も正常に機能しておりません。街では虐殺が繰り返され、反逆者の見せしめは敵の戦闘本能を高めています」
地下壕の会議室の座に座るルールツ6世は、完全に衰えストレスによる体調不良、爆撃による不眠不休状態が続いていた。
「シルバーバレットⅢに艦砲射撃を要請しろ。ここを吹き飛ばしてもかまわん。使えるものは全て使え。犠牲者は気にするな」
「…皇帝陛下。申し上げにくいのですが、シルバーバレットⅢ級は現在全艦交戦中であり、包囲されています。艦砲射撃は不可能です」
ヂリリリリリと電話が鳴る。
「私だ」
<皇帝陛下、ライナ様がお会いしたいと申し上げております。お通しなさいますか?>
「…私の自室に行くように話しなさい」
<承知いたしました>
ルールツ6世は椅子から立ち上がり自室へ向かった。将校たちは皇帝が去ると一息ついた。いつ、自分が粛清されてもおかしくはないのだと。
「お祖父様!」
「元気だったかいライナ」
ライナはルールツ6世の孫である。現在、ルールツ家は壊滅状態であった。ルールツ6世の父であるルールツ5世は病死。母は月に居たが連邦軍の攻撃で戦死。子供たちも同じ運命を辿った。今、残っているのは14のライナと自身だけである。
「いいかいライナ。ここはもう陥ちる。私もだ。私の跡継ぎは君に任せる。ルールツ7世として、戦争を終わらせ、この国の復興を頼んだぞ」
「…もう会えないの…?もうひとりぼっちは嫌…」
「大丈夫だライナ。この国全員が君を守るから独りじゃない。王位継承の方法は覚えているね?」
「……はい。皇帝陛下…」
「行きさない。ここを離れるのだ」
トルキ諸国本土
首都ニューヘッド
フリーダム宮殿
トルキ諸国の宇宙に浮かぶのは帝国の第1太陽系艦隊である。
「アウグスト閣下…本当に大丈夫でしょうか…」
帝国軍とトルキ軍が守る対象はナガト大提督と元天の川・アンドロメダ戦線総司令官、アウグスト・フォン・ボックだ。
「君がしたことは亡命に近いが、終戦のためというのなら致し方のないことだ。この狂った戦争を終わらせるぞ」
「皇帝陛下はどうなさるのでありましょうか…」
「本国にいるグンター君との連絡がついている。親衛隊かよほど祖国愛が強い人間以外ならば停戦協定には従うはずた」
「どちらにせよ、我々は打首ですか」
「そうかもな」
トルキ諸国代表者評議会戦時下会議の第1小会議室の扉を開くと、そこにはトルキ、連邦、マゼランの参謀総長が座っていた。
「実際にお会いになるのは初めてですな。アウグスト閣下、ナガト閣下」
「お会いできて光栄です」
「さて、早速ですが、こちらが停戦協定書となっております。ご確認ください」
渡された書類を見て、アウグストは驚愕した。
国が停戦を受諾することはすなわち敗北を意味することであり、敵国の占領下か傀儡国家になることが多い。しかし、今回の停戦協定にはその記載は一切なかった。つまり、これからのルールツの独立は承認されているのだ。
総司令官の顔を見るが、何かしら企みがあるように感じた。
ナガトがこれに気付き、囁き声でアウグストに話す。
「閣下、おそらく連邦の事が原因かと…」
この戦争が始まる1年前の1917年まで、トルキと連邦は対立していた。十年戦争では敵対していたため、それが長引いていた。
帝国は1916年中間から1917年初期にかけてトルキとの国境で軍事演習を開始。侵略を恐れたトルキは連邦と一時的な同盟を締結した。トルキと連邦の対立は休止状態なだけであり、この戦争が終われば再び対立するのは確実だった。帝国のような軍事大国がトルキ側に味方すれば、連邦に勝る力を得ることができる。トルキはルールツを利用しようと考えていたのだ。
だが、ルールツの存続と民族を守るためには独立を守らなければならない。
「…異論は無い。調印しよう」
「これでこの戦争は終わりだ」
参謀総長が握手を求め、アウグストは手を握った。
「停戦協定は今から1時間後に発効される。地球時間では12月29日23時55分だ」
「…ありがとう」
「こちらこそ」
ルールツ本土
首都ベルキ
国会議事堂
同 屋上
停戦協定調印から1時間後、ついに発効。全軍全部隊に停戦が言い渡される時が来たのだ。
「機関銃手を排除!」
「登れ!行け!行くんだ!急げ!」
トルキの旗を持ったバトルコマンダー・コーの旗手が国会議事堂の頂に登る。そこにあった帝国旗を捨て旗を立てたのだ。
「俺らの勝利だ!」
「自由万歳!」
「民主主義は永遠なり!」
「悪は滅んだぞ!」
この時、まだ電力が生きていた時計塔が時間を知らせた。
「停戦しろ!停戦だ!」
「撃つな!」
<発砲中止!>
銃声は止み、倒れる者も止んだ。
地球時間12月29日23時55分
ニューヘッド停戦協定 発効




