シーズン2 最終話 動く戦線
「クソッタレの前進翼若きが!」
強烈なGに耐えつつ、エースを追いかけ続けていた。
爆撃機は任務を成し遂げ、なんとかマゼラン雲戦線を推し進めることができた…が、それも束の間だった。
連邦軍の戦艦が接近。第二、第三太陽系艦隊は壊滅状態に追い込まれた。マゼラン雲戦線はなんと一気に押し返され、太陽系に届くところまで来てしまったのだ。この間約半ヶ月。時は1922年を迎えた。
俺はこのエースとあの戦域と戦って以来、どの戦域でも見るようになった。決着はついていない。奴はマゼラン雲戦線に派遣されたエースだったのだろう。
<隊長!離脱してください!>
「ダメだ!これ以上下がってしまえば、天の川戦線と同じことになってしまう!」
<上層部からのご命令なんです!お願いしますよ!>
クソッタレの上層部め…帝国はここまで堕ちたようだ。
俺は再び奴から逃げた。
ルールツ帝国
本土
「敬礼!」
宇宙に飛び上がっていくロケットを見て、帝国兵は敬礼をする。
ただ1人を除いて。
「お前に俺の気持ちの何が分かる!シュトルムシュタールヘルムを撃墜されてから軍事顧問に配属され、今は少年少女を戦場に送る死者の船だ!その気持ちがわかるか!」
「…では戦場に出たいと?」
上官の胸元を掴み憎んでいるのは元シュトルムピッケルハウベのパイロットである。現在は新米を育てる軍事顧問に配属され、今日も教育に励んでいた。
「そうだ!未来ある若者が何もせず殺されるなら、少しでもパイロットに向いた奴が戦闘機に乗って撃ち殺して帰ってくればいい!」
その言葉を聞いた上官は、親衛隊を遣しついてこいと言わんばかりに倉庫奥に案内された。
ここは帝国軍の中でも一部の兵士と整備兵が入れる極秘の場だ。
倉庫に到着すると、そこには宿敵ヴィーナスに似た戦闘機があった。
「…なんだこれ?」
「RRJ-X01 ジオ。ヴィーナスの兄弟機に当たる機体だ」
「兄弟機?」
「兄弟というより、双子だな。TF-78 ヴィーナスはファステストマンズと呼ばれる、主に連合国軍の戦闘機を開発する会社のものだ。十年戦争中、我々帝国の前身であるルールツ公国の戦闘機もファステストマンズによって設計、開発されていた。そこで、公国から帝国に変わる数日前に切り札として配備されたのがこのジオ。当時はアースと呼ばれていたようだ。ジオはヴィーナスと同時に生産ラインに組み込まれたためか、ほぼ同じ性能を持っている。長らく眠っていたが、戦況悪化から出撃可能にするように、先月から改造が開始。データではヴィーナスと全く同じ性能、またはそれを上回る性能を保持した」
同年
天の川戦線
トルキ艦隊
空母ニューヘッド
「新型を配備?」
トルキにもついに新型戦闘機が配備されることになったそうだ。今まではコメットの改良型ばかり。しかし、今回は完全な新型だという。
「ええ。ヴィーナスと近い性能を引き出せるようになった先行配備型戦闘機TYF-80リチャード。コメットとは完全な別機体です」
「コメット2が配備されるんじゃなかったのか?」
「コメット2はまだテスト段階で飛行していません。あまりにも危険すぎます。リチャードは一度爆撃機撃墜の任務時に実戦経験を持っています。エース向けに作った機体ですが、あなた方なら余裕でしょう」
最初に使っていいのは俺らチェスピースだけらしい。
今までの成果を見られ、俺らは終戦の鍵として考えられているようだ。
話を聞いてみたが、リチャードは速度がコメットより落ちたものの、S.R.Sを使わずにヴィーナスのような機動を可能にしたものだという。しかし、パイロットにも限界があるため、Gによる負荷がかなりかかる。機動性は上がったが重力には逆らえないというわけだ。
「では、早速だが試し乗りと行こうか」
チェスピース全員が集まっていた。少し悪妙な笑いをしつつリチャードたちを見ると、次々コクピットに乗り込んだ。
「ヴィーナスはこちらです」
見た目は…かなり変わっていた。
大量のロックオンミサイル、増えた機銃、クラスターミサイルの増加の他、レーダーまで搭載していた。
レーダーは爆撃機と戦艦にしかつけられないほど巨大だったが、ここまで小型化されたものが開発されたとは驚きだ。
「TF-78Z ベネフィック・ヴィーナス。ヴィーナスの完全形態です。武装の大量増加、装甲の強化、レーダーの追加、S.R.Sの改造を行いました。S.R.Sは今までの数倍早く機体に操作を伝えられるようになっています」
コクピットに乗り込み、体を預けるように座る。
この時、ヴィーナスは俺を待っていたかのようにS.R.SのOSを起動させ、コードが伸びてきていた。
「…待たせたなヴィーナス。あの時は、すまなかった」
新しくなった翼、改良されたコクピット、数多の追加武装、それを早く使ってと言わんばかりにヴィーナスは俺に語りかけてきていた。
<ヴィーナスは出れそうか?>
「もちろんだとも」
無線も良好だ。
<よし!ここで天の川戦線に決着をつけるぞ!>
カタパルトの信号が緑くなり、リチャードを押し出した。キングに続き俺らも発進。さらに味方攻撃機のピラニアが続く。天の川を戦場から解き放つ時が来た。
なんだかヴィーナスの中は落ち着く。シートを交換したからということもあるかもしれないが、まるで俺を包み込むかのような感覚だ。
<敵機!恒星から突っ込んで来るぞ!>
ビュゥンビュゥンとレーザーが通過する。
<なんだ!?まだ敵の射程圏外だぞ!>
攻撃機隊からの無線が混乱している中、俺らの目の前を圧倒的なスピードで通り過ぎ、搭載されていたレーザーでピラニアを2機撃ち抜くとそのままピラニアは爆散した。
帝国のレーザー戦闘機…新型…!
<攻撃機隊を援護するぞ!>
「了解」
今は戦うしかない。
だが、そう上手くはいかなかった。
あの機体は異常なまでに高機動で火力が高く、味方のコメットも次々墜とされていく。この大戦トップクラスのスピードを誇るコメットでも避けきれない敵は、珍しくよく訓練された敵というわけだ。
後ろからレーザーが飛んでくる。ヴィーナスにも追いついて来るとは…。
しかし、相手が悪かったようだな。
ヴィーナスの後部に搭載された誘導ミサイルを発射。不意の攻撃に敵機は察知できず爆発した。
「これ以上、被害を出させるわけにはいかない!ヴィーナス!」
誘導ミサイルポットを起動し、一斉に発射。敵機を次々と撃墜していく。
ただ、ここはヴィーナスだけで他の機体は苦戦を強いられていた。
<早くやっつけてくれ!もうすぐ敵の射程圏内に入るぞ!>
<分かってる!>
ヴィーナスだけでは全て対応できるかわからない…何か、何か名案は…。
<やったぞ!>
<次だ!>
<クソッタレ!もう後ろに取りつかれた!>
…それだ!
「全員敵戦闘機の後ろに取りつけ!」
<どういうことだクイーン>
「奴らがピラニアを喰おうとした瞬間に撃て!レーザー砲だけだというのなら機関銃のように乱射は不可能だ!レーザー砲の連射はチャージャーをオーバーヒートさせるため不可能。目標が攻撃機ならロックオンするタイミングも欲しいはず!」
<…わかった。とりあえずやってみよう>
<っしゃー!狩りの時間だ!>
<クイーン。お前を信じるぞ>
<これ以上攻撃機を墜されてたまるか!>
全員がこの作戦に賛同。一気に敵戦闘機を追いかける。速度的にも離されるかもしれないが、どうせ狙うタイミングは失速する。
攻撃機が狙う瞬間、リチャードが後ろに出現。帝国パイロットがロックオンに夢中の状態となったその頃、弾丸が敵機を蜂の巣のように撃ち抜いた。
<よし!作戦通りにいったぜ!>
この作戦は大成功。次から次へと敵機を撃ち墜とすことができた。
ついには敵機は撤退したのだった。
「やった!尻尾巻いて逃げたぞ!」
<喜ぶのは早い。今すぐ敵本体を叩くぞ!>
「「「イエッサー!」」」
シルバーバレットⅡ級から放たれたレーザーがピラニアを数機溶かした。
帝国宇宙軍
天の川戦線帝国最終防衛線後方
第一太陽系艦隊
旗艦シルバーバレットⅡ級巡洋戦艦ラーべ
同 艦首
「大提督。フィクストスター16機中、帰還したのは5機です」
戦場を眺めるのはナガト大提督である。
「…仕方あるまい。直ちにワープ準備!後退方向へ転舵!なんとしてもこの機体のデータを持ち帰るのだ!」
「敵機多数!接近中!」
「対空戦闘!ワープまではどのくらいだ!」
「現在充電87%!後3分程です!」
「絶対に空母を死守せよ!」
全艦の対空機関砲と高角砲がトルキの対艦攻撃隊へ放たれていく。
ビュゴーッ!っと艦首の目の前を過ぎ去って行ったのはヴィーナスだった。絶対に退かせんと言わんばかりに対空兵器を潰す。
「スコープ撃沈!」
ピラニアの対艦ミサイルが多数命中。一番先にいたシルバーバレット級スコープが真っ二つに引き裂かれた。
さらに帝国艦が破壊され、大量の残骸と死体が宇宙に舞い始めていた。
一方、トルキも激戦であった。
「こいつら太陽系艦隊だ!艦が数が多すぎる!空母まで辿りつけねぇ!」
コメットが墜とされ、その中には特攻していく者もいた。
<敵!ワープ開始!>
ヴィーナスの無線にそれが聞こえた時、シルバーバレットⅡ級を1隻沈めた。旗艦ではない。
「クソ!こいつじゃない!」
ついに太陽系艦隊はワープ。空母も沈められなかった。
<全機退却。戻るぞ>
この天の川戦線は連合国軍の勝利に終わった。
トルキ諸国
本土
首都ニューヘッドの巨大なビルのモニターにニュースが流れる。
「速報です。先程、防衛大臣は会見で"天の川戦線の決定的な勝利を得た"と発表しました。これにて、急速に縮まるマゼラン雲戦線にて連邦とマゼラン雲大連合が勝利すれば、残るは太陽系のみとなります。ついに今大戦は最終局面を迎えました。しかし、まだ戦争は終わっていません。この戦争を終わらせる日は来るのでしょうか。どうか、一刻の終戦のために、国民皆様の協力をお願いいたします。民主主義に、栄光あれ」




