第11話 エース接近中
天の川戦線
同 帝国最終防衛線
某惑星
「この防衛線さえ突破すれば太陽系近くまでワープできる!全員気合いを入れろ!」
戦争の終結。それは1921年中には終わらないことはわかっていた。1922年も一体、どれほど続くのかと誰もが思うだろう。だが、俺にはわかる。1922年の序盤には戦争が終わる。いや、終わらせてみせる。
帝国には降伏要求を要請したが、応じる気はないようだ。
これで理解できた。帝国は引くに引けなくなった状態なのだ。皇帝は変わり、数多の死者を出し、国民を疲弊させ、未だ続く兵器開発。ここまで来れば、勝利か滅亡か、ということなのだろう。
「診断結果ですが、脚は骨折してませんね。S.R.Sによる影響でそう感じているのでしょう。ですが、背中に機体の破片が刺さっていたのと弾丸1発が命中して血が出ていました。あと少しで大量出血で死ぬところでしたよ」
野戦病院送りになった俺は、背中に包帯を巻かれ顔と足は傷だらけの見窄らしい姿になっていた。
「…マジか…」
まぁ、死ぬよりマシだ…。
「ヴィーナスは回収し、現在は修理中とのことです。ご心配なく」
「ありがとう。色々助かった」
医者が立ち去ると同時にトルキの将官が入ってきた。少将とはかなりのお偉いさんというわけだ。
「この惑星戦闘の総司司令官ダグラス・ラムゼイだ。ヴィーナスのパイロット、よろしく頼む」
「ラムゼイ閣下。お会いできて光栄であります」
「私もだ。率直に申し上げる。マゼラン雲が動いた。マゼラン雲大連合はトルキと連邦と正式な同盟を結び、新たな連合国が加わったのだ」
…マゼランが?今の帝国がそこまで動くとは…?
「帝国にそんなことが可能なのですか…?」
「そういう事だろう。情報がまだマゼランが加わったことしか回ってきていない。防衛線と連絡が取れないそうだ」
大打撃を喰らったとでもいうのか。マゼラン雲大連合の防衛線は突破不可能というレベルの代物だったはずだ。何しろ、防衛線を構築しているコア級護衛艦は連邦や帝国の護衛艦と比較して異常なまでに頑丈。レーザー艦砲すら無効化してしまうほどのあの艦らが撃沈した…?
異常事態だった。帝国は戦争長期化など二の次というわけだ。
「だが、ここは別のようだ。この国内にいる帝国残存勢力を一掃すれば、地上は解放される。あとは宇宙戦で勝利さえすれば、ルールツ本土がある太陽系までワープできる。ここが一番乗りかつ突発口となる。ここの戦闘が終わり次第、太陽系に援軍を送ろう」
「ありがとうございます!閣下!」
本土決戦は今までの戦いを凌ぐ激戦になると推測される。俺も、生き残れるかはわからないな。
「避難させろ!」
「あっちの患者が優先だ!」
3機ほど輸送艇が裏庭に着地し兵士が降りてきていた。
「避難してください!」
医者が飛び出してきた。
「何事か」
「帝国軍が接近中です!さぁ、早く!」
「私はここに残ろう。司令官は士気を高める秘訣だ。君は行きたまえ」
「…申し訳ありません閣下」
「私に構わないでくれ。急ぐんだ!」
俺は閣下を置き去りに野戦病院から脱出することになった。
「急げ!帝国の装甲車が来ているぞ!」
「目標、敵棺桶!距離50、指名!」
「後方確認、ヨシ!」
「発射!」
バックブラストから発せられた白煙と衝撃波は病院内を煙塗れにしていく。
たまに飛んでくる弾丸を避けつつ、必死に走る。
ついには援護してくれていた医者が足を撃たれその場に倒れた。
「私のことは気にせず行ってください!」
「すまない、ありがとう」
「光栄極みです」
部屋からトルキ兵が吹っ飛ばされたり、撃たれたり、担架を運ぶ医者やナースを横切りながら廊下を走り、階段を降りていく。
「気をつけろ!奴らは親衛隊だ!」
帝国の戦闘スーツだが、頭部のフルフェイスヘルメットはバシネットのようなタイプかつ、肩には黒いクロスと金の剣が描かれた部隊マークがつけられていた。帝国軍のエリート部隊、皇帝親衛隊だ。
奴らは皇帝親衛隊の中でも一般的の奴らで、帝国本土の他、本土郊外や重要拠点にも配備されている。
その腕前は伊達じゃない。交戦していたトルキ兵は次々とやられていった。
俺は援護されつつ輸送艇に飛び込んだ。
他に護衛の兵士と負傷兵、患者、医療関係者、捕虜などを乗せ、宇宙へ飛び上がった。
マゼラン雲戦線
最前線
一方、マゼラン雲戦線は順調に帝国が侵攻していた。
<敵機!下からだ!>
ガガガガガとシルバーバレット級の対空機関砲が敵機に向かって撃ちまくる。
<数は30以上!連邦の新型だ!>
「来やがったな連邦!だがマゼランまで後少し!ここまで来て諦めてたまるか!」
スペースシャークのワープ圏内まで後少しという時に、近くにある連邦の大型前哨基地部隊が到着。幸い戦艦はないものの、戦闘機部隊がやってきてしまったのだった。
<隊長。1機新型じゃない奴がいる。気をつけてくれ>
「了解」
確かに、目視でもわかるぐらいこの全翼機と同じほど異様な奴が見えた。何を言おうか、羽が逆向きなのである。
「前進翼!?」
旋回スピードは凄まじく、もはや鳥のようだった。
そいつは次々セブンスターズとロッドを撃墜しており、噂のヴィーナスより恐ろしいものに感じた。
「…コイツ…エースか!」
<隊長!スペースシャークがワープしました!爆撃を敢行するとのことです!>
「よし!俺はこいつを相手にする!他は敵戦闘機撃墜と味方艦隊の援護をしろ!」
かかってこい!連邦のエース!




