第10話 旧人類はやつを残した
1921年中盤
ルールツ帝国
首都ベルキ
"ルールツ5世崩御"
"新たな皇帝ルールツ6世 戴冠式は5日後"
首都ベルキの宮殿で鐘が鳴る。
ルールツ5世が病死したのである。
民の前に姿を現したのは入院生活の中で計11日。国民が皇帝が死に近づいていることは理解していたが、戦時中ということもあり士気は下がり、雰囲気も暗くなっていた。
しかし、参謀本部は違っていた。
「予定より秘密兵器の完成が早まりました。これでマゼラン雲を突破します」
一時的に皇帝の座が空いたこともあり、兵器開発と作戦準備が早まったのである。こういった決め事には皇帝の承認がいるが、いない場合かつ戦時中は参謀本部の独断が許されている。
「ナガト大提督殿には好き勝手にやられたが、マゼランだけは我々の作戦同様に動いてもらわなくてはな」
「レーザー機はどうだ?」
「予定通り生産できます。ですが、敵がここに来るのも時間の問題かと」
「…最悪、少数生産か」
上層部が一番期待していたのはマゼラン雲戦線突破である。最悪の状況である二正面作戦を行うことになるが、これ以上見ていてはいつ挟み撃ちにされてもおかしくなかった。ここでマゼラン雲戦線を大きく動かす作戦、K5作戦の実行が確定したのだった。
この会議から1ヶ月後、それは動いた。
惑星に列車砲の砲身が宇宙を向く。
「これが…ディッケ・ミーネンヴェルファー…」
マゼラン雲戦線防衛線突破用に開発された超大型原子列車砲。大砲というより迫撃臼砲のような使い方をするディッケ・ミーネンヴェルファーは1発撃つためだけの車体と砲身を持つ。
核弾頭を1万光年先まで飛ばすため、発射後に核に搭載された小型ワープ装置を起動。目標であるマゼラン連合軍の防衛戦まで一気に飛ばし爆発させるのだ。
「司令、作戦開始時間です」
「よし。発射準備開始!」
サイレンが鳴り各自持ち場につく。
K5作戦。それがこの作戦の名前であり、歴史に名を刻むのだ。
「主砲清掃作業完了!」
弾薬運搬車が核弾頭をゆっくりと運び、クレーン降下位置で停車。作業員が核を固定していた鎖とロックを外す。
「クレーン降ろせ!」
クレーンが降ろされ弾頭を掴み砲身後部に核を置く。
「核弾頭装填開始!」
ハンドルを回し装填棒で核弾頭を押し込む。
「核弾頭装填完了!」
「装薬装填開始!」
ハンドルを回し装填棒で装薬を押し込む。
「装薬装填完了!」
「電力供給開始!」
<電力供給開始します>
電線が繋がれた乗用車、電車、戦闘機から次々と電力が抜かれディッケ・ミーネンヴェルファーに供給され、発射のエネルギーになっていく。
「方位設定開始」
<方位設定開始>
<電力120%を確認>
<方位設定完了>
巨大な砲身が空を向き、全員がシェルターに身を隠した。
<安全確認良し。いつでも撃てます!>
「了解。司令部へ通達。発射準備完了。撃ちますか?」
<よーし!発射せよ!皇帝陛下のために撃つのだ!>
「了解。砲手へ通達。発射せよ!繰り返す!発射せよ!」
<了解。発射まで5秒カウントダウンする。5、4、3、2、1、発射>
スイッチを押すと、ドゴォォンッ!っと、轟音が惑星に鳴り響いた。ディッケ・ミーネンヴェルファーから稲妻が走り、核弾頭が発射。ワープに移った。後は成功を祈るだけだ。
着弾まで静寂が続いていた。全員が偵察部隊からの結果を待ち望んでいた。
<こちら第5偵察小隊。核弾頭命中。作戦は遂行されたり。繰り返す。作戦は成功されたり>
その報告に全員が歓喜し、抱きしめ合い、飛び跳ねた。さっそくビールやワインを開け飲み始める。
<これより第2段階へ移る。第5偵察小隊は帰還せよ>
<了解。RTB>
<発射基地の諸君にも敬意を表する。通信終了>
マゼラン雲戦線
マゼラン雲大連合軍防衛線大艦隊
核弾頭爆心地
マゼラン雲戦線で巨大な目を潰すように発光する光が収まると、緊急回線の無線が繋がっていた。
<誰か!誰か聞こえるか!>
<助けてくれ!>
<どうなってる!状況を報告しろ!>
<慌てるな!>
<落ち着けるわけがないだろ!誰か、衛生兵を!>
<何が起きたんだ!誰か教えてくれ!>
<こっちに応援を!>
マゼラン雲防衛線の艦隊は完全なパニック状態に陥った。風穴ができたのである。
「艦長!新たな艦影確認!」
「来たか…救助活動は一時停止!第一種戦闘配置!」
次にワープしてきたのは帝国軍の第二太陽系艦隊と第三太陽系艦隊だった。
帝国軍による激しい砲撃が行われ、生き残っていた艦は次々と撃沈されていった。もはや、一方的な虐殺だ。
「艦長!作戦は成功です」
「そのようだな。よし。防衛線を突破しマゼランを堕とすぞ!」
ついにマゼラン雲戦線が動いたのである。帝国最強艦隊と呼ばれる太陽系艦隊が2艦隊揃った今、マゼラン雲は突如として戦況が大きく動いた。
シルバーバレットⅡ級とシルバーバレット級がマゼラン雲大連合国軍のコア級護衛艦を撃ち抜いていく。
「敵、増援を確認!10隻のクリオネ級フリゲートです!」
「恐るな。どうせただの哨戒艦隊だ。悪あがきにすぎん」
帝国の数多の戦闘機がマゼラン雲防衛線を突破。一気にマゼラン雲戦線を突破した。
「急げ!援軍が来るまでにできるだけ前へ進むんだ!」
RRJ-38MRF ファーストスター率いる帝国軍機は一斉にマゼランへと向かい、マゼラン雲大連合は大慌てだった。
因むが、RRJ-38MRF ファーストスターは帝国初の全翼機である。B同様、司令部が独自で完成させたもので、今のところ2機が生産され、そのうち1機はこの機体である。搭乗するのはセブンスターズ単機で180機以上を撃墜した「プラウ・フクロウ」という異名を持つネームドである。
「戦争を続けたいわけじゃないが、祖国のためだ。どうか許してくれ」




