第7話 1921
コスモス歴1921年
ルールツ帝国
首都ベルキ
コスモス歴は1921年を迎えた。戦争はいつまで続くのだろうか。
帝国では敗戦の雰囲気が若干だが漂っていた。国民も疲弊し、物価も上がっていた。
「号外だぞ!」
「こっちにもくれ!」
"皇帝ルールツ5世 病進行"
"コスモス大戦 3年目突入"
"物価上昇は収まらず"
"天の川戦線は押され気味"
"動かぬマゼラン雲"
"爆撃あるが船は無し"
この時期になり、皇帝のルールツ5世は病に倒れた。今は無事に意識を回復したが、老衰による進攻が始まっていた。このニュースに帝国軍の士気は下がっていた他、経済制裁と戦争の長期化により物価は上昇。前線の飯も品質が下がっていた。弾薬や応援が到着できる道があるのが唯一の救いではあった。
「シュトルムシュタールヘルムがやられた限り、もう俺の機体はないのか?」
「"今は"ですよ」
「今は?」
「現在、レーザー砲を搭載した新型戦闘機開発が急がれています。連邦にしては、生産が遅めだが高火力という珍しい兵器を出された限り、我々の今までの連邦対策方法では対抗不可能。新たな兵器を作らなくてはなりません」
「ていって、戦闘機と輸送艇をニコイチにした新型軍用機はプロトタイプごと戦闘に導入してから帰ってきてねぇじゃねぇか。新型新型なんて言ってると予算が尽きちまうぞ。いくら新年度を迎えたとはいえ、金には制限がある」
「そんなことはわかっています。ですので、現在開発している兵器のほとんどは第一優先が低コストです。維持費、開発費の出費はどうしようもできませんが、生産費に燃料費に弾薬補給等々、コストはそこで大幅に削減可能です」
ECW計画は、低コスト最優先で兵器開発を行うというもの。この計画で発案され開発命令が出されたのはコユキ級フリゲート、RRJ-X02 フィクストスター、RRR-01 クライメーカー。この3兵器は帝国存命のために必ず必要な物になる。
1921年を迎え数ヶ月後、戦場は動いた。
天の川戦線に連邦の主力艦隊が到着。新型のトライアングルアタッカーの量産が追いついたことで帝国は制空権と領土を急速に失いつつあった。
天の川戦線
前線
某惑星
天の川戦線のこの惑星は年中濃い霧が立ち込める場所で、資源が非常に豊富だ。故に、ここも1つの戦場になっている。
「全速前進を維持せよ」
「…艦長!救難信号をキャッチしました!この先です」
「戦闘が起きたのか?戦闘機隊を発進させろ。偵察機も飛ばせ」
警報が鳴り緊張した雰囲気に包まれる。
<ヴィーナス!発進しろ!>
「了解。ヴィーナス出るぞ」
スロットルを最大まであげカタパルトが俺を押し出し、いつもの戦場へと飛び出した。それに続きポーン飛行小隊が発進した。
しばらく前進していると、現れたのはトルキと帝国の艦隊の残骸だった。
<敵機!散開散開!>
レバーを握りしめ四方八方に散るとまだ残っていた帝国軍機数機が現れる。RRJ-163 ロッドだ。かつてはネームドのレッドジェントルマンが搭乗し、現在は少数ながら量産型が運用されている。
<気をつけろ。ロッドの25mmに当たれば木っ端微塵だぞ>
救難信号が発信されている場所まであと少し。だが、こいつらは居るだけでも厄介な存在だ。先に撃墜しよう。
ロッドは旋回速度が遅いが、見えない武器を搭載している。なんとも奇妙だが、上面に1発ミサイルを備えており、危うく俺も撃たれるところだった経験がある。
一気に旋回し後ろを取り、そのまま弾丸を発射。火を吹いて撃墜した。随分とあっさりな奴だな。
「俺の知ってるロッドじゃなかったな」
<帝国はパイロット育成に問題があるそうだ。人員増加のために未熟な青年兵を無理矢理パイロットにしている。今のもその1人だろう>
正直に言うが、戦争に慈悲はない。慈悲深さが命取りになる。だが、慈悲はなくとも当たり前はある。
俺は墜落した現場に向けて敬礼をした。
同じ軍人としての当たり前、"敬意を払う"だ。
墜落する火の玉を見るたびに思う。彼らにも、家族がいるというのにと。
<ヴィーナス!後ろだ!>
セブンスターズとロッドの一斉攻撃!
ミサイルが接近し、旋回を試みたが間に合わず被弾。右翼が折れそのまま地面に叩きつけられた。
無線から何か聞こえる。意識が朦朧として上手く聞き取れない…瞼も重い…。
<ヴィーナス墜落!ヴィーナス墜落!>
<帝国人め!全て撃ち墜とせ!>
ポーン飛行小隊が次々帝国軍機を撃ち墜としていく最中、ヴィーナスの墜落現場に輸送艇が派遣された。
「輸送艇を急がせろ!」
だが、輸送艇がカタパルトから発進する瞬間、帝国軍の地上部隊が最後の大攻勢を実行。塹壕から全帝国兵が飛び出しトルキの塹壕へと走っていたのが見える。その数は膨大で、数えきれないほど。対空砲火が激しくなり、ついには輸送艇に被弾し、そのまま空中で爆散した。
「輸送艇が撃墜!この中でヴィーナスの回収は不可能です!」
「クソッタレ…。今発進済みの戦闘機を全て戻らせろ!」
「し、しかし…」
「ヴィーナスの回収はその後だ!他のパイロットが消えては困る!」
戦闘機が次々艦に帰還。ヴィーナスは霧の中へ消えていった。




