第5話 トルキ領庚倜国
ヴィーナスの暴走により、リミッター解除後は制御ができないことが判明した今、チェスピースはヴィーナスの本領を調べなくてはならなくった。これは、ヴィーナスのパイロットも同じでありリミッター解除後、速度超過の他に何が起こりうるのか気になって仕方がなかった。
そこで、ヴィーナスの開発者であるパワード・ホイッスル博士に会うこととなる。しかし…それは難関な任務だった。
トルキ領庚倜国と呼ばれるここは、トルキが現在持つ植民地の1つだ。
今回の作戦はチェスピースの独断行動だ。つまり、見つかれば処刑になる。敵はトルキの警察、憲兵。奴らに見つからず、ホイッスル博士に出会えれば作戦成功だ。
ホイッスル博士は、先程も言った通りヴィーナスの開発者である。また、S.R.S開発にも関わっており、最近はトルキの新型戦闘機開発を携わっているという。今も一応、宇宙学者であり、かなり変わり者だ。
<今回は全員がお前を援護する。必ず成功させろ>
「了解」
<最悪、MPに捕まった時はその階級章を見せてやれ。きっと怯むぞ>
「階級が一番の安全装置ってわけか」
今回の作戦の配置はこうだ。
ポーン飛行小隊は一般市民に紛れて監視。
ナイト飛行分隊は警察に紛れて監視。
ビショップ飛行分隊は憲兵に紛れて潜入までの護衛に当たる。
ルーク飛行分隊は最悪の事態に備え狙撃する。
隊長のキングは司令塔。
そして俺は潜入。
見つかれば反逆罪で打首。命をかけて味方を襲うが、戦争終結のためなら致し方ない。
<右に曲がれ>
<次は左。その後は次の交差点まで一直線だ>
隊長が次々案内しつつ、全員が警戒する。
<ナイト飛行分隊、少し護衛から離れる>
<了解>
「止まれ」
MPとスーツに描かれた兵士が俺を止める。なんてこった…ナイトがいない偶然の時にMPが来やがった…!
数分前、ナイト飛行分隊の連中はクイーンについて行っていた。しかし、そこでとあるものを目にする。
「ナイト01。ちょっと来てくれ」
「どうした?」
路地裏の奥を指差すと、トルキ兵が見えた。襟を見ると、まだ一等兵の階級だ。
だが、トルキ兵にしては随分とコソコソと動いていたため怪しく思ったのだ。
「ったく…早めに済ませるぞ」
「ナイト飛行分隊、少し護衛から離れる」
<了解>
見つからないようついていくと、若い女性の声がした。ナイト飛行分隊はピストルを構え突入する。
「手をあげろ!抵抗するな!」
トルキ兵達の側にいたのは服がボロボロになっていた少女だ。ナイト飛行分隊の予想は的中する。
一等兵達はMPの文字を見て手をあげる。
「…これだからトルキは腐るんだ」
軍でよくある事件の1つ、性犯罪である。特に戦争中は"娯楽"として行われるケースもあり、戦争は味方も敵になることがあるのだ。
危険物を持っていないか確認し、そのまま本物の憲兵に引渡した。
「すまない。巡回が怠っていたようだ」
「気をつけてくれ」
あの少女の姿を見て、とあることを思い出した。
「そういえばクイーンのやつ、海賊の小娘を助けたんだことがあるんだとよ」
「あの子なのかもしれんな」
「さぁ?」
ナイト飛行分隊は急いで護衛に戻った。
「最近は軍の犯罪率が増えている。念のため、身分証を提示してもらおうか」
「口に気をつけろ。階級章が見えないか?」
偽装用の中佐の階級を見せるが、MPは全く怯まない。
「佐官だろうが将軍だろうが、MPは基本タメ口だ。中佐だというのにそんなことも知らんのか」
逆効果!余計怪しまれたじゃねぇか!
「早く身分証を見せるんだ。中佐殿?」
嘲笑われるかのように馬鹿にしやがる。
大人しく身分証を渡し、質問に答えようとした。
「なぁ。すまないがあっちで暴動が起きそうなんだ。すまないが応援に来てくれるか?」
「本当か?念のため行こうか。こいつの身分確認は頼んだぞ」
ナイト飛行分隊が到着。上手く誘導し、MPはナイト02についていった。
「早く行け」
「ありがとう」
身分証を返してもらいそのまま早歩きで交差点へと向かう。
俺がなぜ身分証を渡すのが恐れていたか。身分証には出身地、名前、年齢、階級、所属部隊、所属基地、そして要件が書かれている。そのどれかを質問されるのだが、俺はそういった問われることに弱い。不自然だと思われれば疑われる可能性がある。要するに変装がヘタってわけだ。
<右の横断歩道を渡れ。その先に川がある。そこまで行くんだ>
横断歩道を渡り、川に辿り着いた。何を隊長が考えたのが分かった気がした。川はいつもと比べて水位が低い上、軍事施設からの廃棄物が少ない。
「…排水管に入るのか?」
<あの施設は入るために関係者のみが所有する証明書が必要だ。素材も特別で再現は不可能だ。ならば裏ルートを通るのが一番早い。その服ももう役に立たんだろう>
「…マジかよ」
<一応言っておくが、排水管内は電波が届かない。無線は使えないぞ>
俺は覚悟を決めて排水管に足を踏み入れる。水の流れは靴底ぐらいだが、もし大量に流れてきたらと考えると…ダメだ。余計な考えは捨てよう。
グレーチングから上を確認しつつ、研究室だろうと勘で捜索する。それにしても酷い臭いだ…。
白衣を着た人物がどこかへ歩いて行くのが見えた。俺はそいつの後をついていく。
足音がしなくなった…?この上が研究室のようだ。だが、無闇には出られない。研究室が1個とは限らない…。
突如、轟音が鳴り響いた。
「まずい…!まずいまずいまずい!」
流れてくる!廃液が!
交わしようがない…!
「おわぁっ!」
俺は廃液に飲み込まれ、溺れていく。
…クソッタレ…廃液の中で死ぬ人生なんて最悪だ…。




