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COSMOS WAR  作者: イチバ
シーズン2 チェックメイト・カンパニー
12/20

第4話 金星は貴方と私

「帰ってきやがれ!逃げるなクソ野朗ォォッ!」


嘆いた俺に応えるようにヴィーナスの画面がシャットアウト。再起動を起こすが画面は黄色く染まる。


「…何が…起きて…」



帝国の艦隊がワープから出ると、ガーディアン級が防衛線を構築していた場に到着する。


「流石だな。ナガト大提督は」


ナガト大提督は本部の作戦とは全く違う戦法を行った。これは軍法会議になりかねない行為だが、覚悟の上だった。

ナガト大提督が考えていたのはこうだ。

第1防衛線を臨時展開。この第1防衛線は本来構築予定だった防衛線の場所であるが、ここを最前線とし、後方に第2防衛線を構築。連合国軍は第1防衛線を突破しようとするところ、そこに各部隊から選抜したエースやネームドで構成した特殊部隊で攻撃させ、敵の突破する武力を下げさせる。後に、第2防衛線を進軍させ、この第2防衛線部隊が敵艦隊を壊滅させるというもの。まさに、"三十六計逃げるに如かず"と言える作戦だった。

ただし、この作戦は弱点がある。

マゼラン雲戦線が手薄になったことで、もしマゼラン大連合軍が攻勢を開始した場合、一瞬で戦線は崩壊。帝国本土まで一気に近づかれてしまう。また、トルキに大量の増援が到着した場合、第二太陽系艦隊はマゼラン雲戦線に派遣したため、数での勝算は少なく、押されてしまうということ。1分、1秒、一刻を争う作戦だった。


第一太陽系艦隊

シルバーバレットⅡ級巡洋戦艦5番艦

サプレッサー


「敵機接近!」

「数は?」

「…1つ!1つだけです!」

「大提督。敵の戦闘機と思われる影が接近中です。ワープ阻害装置が機能していないのでは?」

<…敵には何度も殺しても復活する機体がいるという。その機体の情報は噂だけ…ワープ阻害装置は効かないのかもしれん。敵のエースで間違いはないだろう。全艦に通達。対空射撃用意。戦闘機隊は準備完了次第、全機発進>


全艦に警報が鳴る。


「もう敵が来たのか?」


コーヒーを飲んでいたシュトルムシュタールヘルムのパイロットは飲み干しコクピットに乗り込む。


<発進準備が整ってるやつは少ない。あまり他に頼らないでくれ>

「分かってる。俺もそのつもりだ」


シュトルムシュタールヘルムが発進。外では対空射撃が続いていた。

一瞬で敵機は過ぎ去っていき、対空兵器を破壊していく。


「…速い!」


何の機体だか理解できた。考える時間も要らずに。ヴィーナスに間違いはないと確信できたのだ。

だが、速すぎると感じた。あれではGショックで気絶してしまう。もしや…ヴィーナス自体が動いているのか?

ヴィーナスは旋回し空母を攻撃。そのまま空母に向かってミサイルが発射され、撃沈される。


<空母がやられたぞ!>


今の航空戦力は俺と何機か出撃できたセブンスターズのみ…。


「大提督!どうしますか!敵は我々で撃墜できる相手ではありません!」

<…すまないが、時間稼ぎだ。ここで1秒でも耐えるんだ>


大提督がこの命令を出したのには理由があった。

帝国の負けを確信したのだ。

広大な支配下を広げ、天の川のほとんどを手中に収めた。徴兵制による数は多いものの、かつて十年戦争で損失した数を上回ることはなく、兵器に頼りざるおえない。それ故、敵の戦略によっては覆されてしまう。大提督は帝国滅亡を予期し、それまでの時間稼ぎをすることに決めたのだった。


「…了解」


ヴィーナスは猛スピードで接近しシュトルムシュタールヘルムの右翼を切断する。


「クソッタレ!奴は人間でも辞めたのか!?」


シュトルムシュタールヘルムからミサイルが発射。追尾するがミサイルが追いつけず安全装置が作動し自爆する。

ヴィーナスがこちらを向くや否や、脱出装置で脱出。シュトルムシュタールヘルムのパイロットは宇宙へ放り出された。

シュトルムシュタールヘルムは脱出用航空機が搭載されていないただの脱出装置。あるのは拳銃と酸素ボンベだけである。

シュトルムシュタールヘルムに何発もの弾丸が当たり爆発した。そのままヴィーナスは通過していき、トルキの方へと帰っていった。


「…なんなんだ…あの機体は…」

<ご無事ですか!>


セブンスターズの1機が安全を確認すると、赤十字が描かれた輸送艇が迎えに来る。


「…死ななかったよりマシだな」



1920年末期

天の川戦線

第一・第二防衛線宇宙戦

敗戦



ヴィーナスは空母の飛行甲板の上に機体を擦りながら不時着する。火花が飛び散り消火器を持った作業用が救助に向かった。同時に衛生兵も駆けつける。


「大丈夫か!」

「脈はある!気絶しているだけだ。医務室に搬送しろ」

「持ち上げるぞ」


救助作業が行われると、ヴィーナスは倉庫に保管され、修復作業が行われた。


「全く暴走とは…隊長、ホントに奴をチェスピースのクイーンにするんですか?」


ナイト分隊の1人が不満げそうに言い放つと、隊長はこう答えた。


「ヴィーナスのシステムであるS.R.Sは感情にも反応する。これは精神が怒りを脳に伝える役割を持つが故に、攻撃的になりやすいからだ。その攻撃性は、戦闘機の安全装置であるリミッターを解除し攻撃性を増加させる。このS.R.Sをどう上手く使うかは彼自身でもあり、ヴィーナス自身でもある。今回は主の怒りをそのまま受け入れたようだが…」


ヴィーナスを見上げ、隊長はかつてのマーキュリーを思い出す。


「…マーキュリーの後継機なだけあるな。お前も…。あいつをクイーンにする件は、そのままだ。クイーンにする。難ありだがクイーンの実力もあり、終戦のために動ける鍵の1つなはずだ。それにここまで来たなら、一緒に戦う方が彼も、ヴィーナスも楽だろう」

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