第3話 帝国の戦略
チェスピースを載せた空母はゆっくりと艦隊についていく。
1920年末期、戦争は3年目に突入しようとしていた。
ここは天の川戦線。ワープ阻害ジャマーを搭載した帝国の護衛艦、ガーディアン級が防衛線を構築。再び艦隊戦になると思われる。
ミサイルが次々トルキの前列の艦隊に命中する。
「敵機!」
偵察機を見つけたフリゲートから連絡が入り、第一種戦闘配置が下された。
<戦闘機部隊は発進用意!>
チェスピースにも発進用意の号令がかかり、全員は自機に乗り込む。異常がないかチェックをしエンジンスタート。エンジンを暖めていく。
「先手を打つ!チェスピースを先に行かせてくれ!」
作業員が声掛けをし隊長を先頭にカタパルトに設置した。
<ヴィーナスのパイロット。聞こえるな?>
「はい」
<俺とお前で突破口を作る。ここの防衛線を突破すれば戦争は早く終わる。覚悟を決めろ>
「いつでも決めてますよ隊長。俺も兵士ですから」
作業員の合図でカタパルトが俺たちを押し出した。俺たちの後ろにトルキの攻撃機、TA-30 ピラニアが続く。
宇宙に飛び放たれた俺らは戦闘の残骸を見ながら進む。ここも2年前まで連邦と帝国が激しい戦闘を行っていたのだ。ここは今戦争で連邦と帝国が初めて戦闘を行った天の川紛争と呼ばれる戦域だった。
戦艦の残骸や死体が宙を舞うのが見える。
ビュゴーッと、レーザーが隣を通過。味方のコメットBが爆散する。
<来たぞ!>
この遠距離砲撃…間違いない。敵の新型艦だ。
<隊長!敵接近!恒星から突っ込んで来るぞ!>
シュトルムシュタールヘルムを先頭にゼブンスターズF型が帝国軍が接近。だが数は少ない。
「ヴィーナス!待たせたな!」
「散開!散開!攻撃機を守れ!」
ナイト飛行分隊が一番先に帝国を迎え撃とうと上昇。ゼブンスターズに向かって発砲するが全て避けられたあげく、撃ち返され1発被弾する。
<ナイト01被弾!被害はない!>
その無線からわかるのは、敵のほとんどがエースだということ。
「…あの黒い機体!あいつめ!生きてやがった!」
シュトルムシュタールヘルムが5つの機関砲を発射。華麗に避けつつ後ろにつくために追いかける。しかし、すぐにゼブンスターズが駆けつけてきた。
「こいつら!」
ゼブンスターズの野朗達も今までの動きじゃない。
一方、他のチェスピースの隊員も苦戦していた。隊長も死闘を繰り広げ、攻撃隊についていけたのはポーン飛行小隊とビショップ飛行分隊だけだった。他の戦闘機は別部隊だが、対空砲火で撃ち墜とされていく。少なからず、攻撃機も被弾していた。
「ポーン飛行小隊!敵艦隊に近づいて対空兵器を潰してくれ!護衛は俺らビショップがやる!」
<了解。幸運を祈る。ポーン全機、ポーン01に続け>
ポーン飛行小隊は数を生かした戦い方をする。挟み撃ち、一斉射撃、広域戦、サッチウィーブなどで敵を圧倒する。ポーン飛行小隊は全部で8機である。
「なんだあれは!?」
ポーン飛行小隊の1機が新型艦を見た。それは第一太陽系艦隊に配備されていた巡洋戦艦、シルバーバレットⅡ級である。巨大なレーザー艦砲は遠距離だろうと高い火力を保有し、フリゲートなら1撃で沈めてしまう。
<先に対空兵器を片付ける!警戒中の帝国機に注意しろ!>
ゼブンスターズが空母から発進してきた。さらに対空兵器の弾丸が槍のように牙を向く。
ポーン飛行小隊も避けながら射撃しつつ対空兵器を確実に潰していく。
「敵機接近中!」
<構うな!攻撃隊が来るまであと少しだ!1つでも多く対空兵器を潰せ!>
ガーディアン級の対空兵器が潰され、前例の対空兵器がほとんど無くなる頃、ついに攻撃隊が到着。ピラニアから搭載していた大型ミサイルが発射され、ガーディアン級を吹き飛ばしていく。
だが、ガーディアン級を吹き飛ばすやな否や、敵艦は背を向け撤退。ワープに入っていった。
「…去った?」
戦略的撤退というのか。あのエース部隊を置いて空母ごと逃げたというのか…?
少し手応えがない。何か企みがあるに違いない。
ヴィーナスの方では、激しい戦闘が未だ続いていた。チェスピースの死者はいなかったが、別部隊はほとんど壊滅し、チェスピースの何人かの機体は煙を出していた。持久戦に持ち込まれたチェスピースは味方艦隊が到着まで、あとどれくらい保てるか誰も分からなかった。それはヴィーナスのパイロットも同じである。
「貰った!」
「させるか!」
シュトルムシュタールヘルムを捉えたヴィーナスは発砲したが、シュトルムシュタールヘルムはエアブレーキとフラップを展開し急減速。装甲で守られている部分に命中し弾かれた。
シュトルムシュタールヘルムはヴィーナスの背後に周り弾丸を発射。ヴィーナスに命中し、ヴィーナスのパイロットは体の中を蝕まれるような感触と傷みに襲われた。
「まだまだ…まだだ!」
目の前に眩しい光が上がった。信号弾…。
すると、1機の帝国偵察機、RRRJ-190 ヴィクトリー・マークから放たれた信号弾に続きシュトルムシュタールヘルム、ゼブンスターズが帰っていく。
「…待て!待て!どこにいく!」
隕石に隠れていた空母と巡洋艦が現れ、戦闘機を着艦させつつ撤退。巡洋艦による激しい対空兵器に近づけず、ワープで逃げられてしまった。
「帰ってきやがれ!逃げるなクソ野朗ォォッ!」
俺は叫んだ。




