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日本の異常な愛情 または合衆国は如何にして諦め原爆を愛するようになったか キスカ島の犬ではないもの

 ガダルカナル島に於いて、日本帝国が繰り出す奇癖と痴態に本格的に遭遇した米陸海軍&海兵隊。だがそれは氷山の一角にしか過ぎなかった。米軍はそして合衆国は奪われた島々を奪還していく過程で数々の言い知れぬ奇行に直面していく事になる。


 これより語るのは、合衆国が如何にして日本帝国本土に攻め寄せる決断をせざるを得ない状態に追い込まれたのか、そして太平洋の戦いに投入された将兵が、どの様なプロセスを通って馬鹿になってしまったかを読者諸氏に知って貰う為の物語である。


 例によって時系列は前後するであるがお許しいただきたい。



 さて、アメリカ合衆国と言う国は当然ながら異常な国ではない。先住民を荒地に追いやってそれを天命と称したり、奴隷解放を謳い凄惨な内戦を繰り広げたのに公民権は渡さないとか二枚舌かまし、民族自決が云々言っておきながら国際連盟に加入はせず、あるべき本来の世界では自国民相手に社会実験と称し梅毒打って回ったり、勝手に仲間と思い込んでいた共産主義者に、これまた勝手にパラノイアになって世界を破滅させる寸前になったり、人様の庭先に水爆を誤って水没させる事はしたが、異常ではない。


 合衆国が異常なのであれば、大日本帝国とナチスドイツとロシア帝国とソ連と英国とフランスとスペインと…兎も角、地球上に存在する国家はサンマリノくらいしか真面なのはいない。


 少なくとも合衆国は自国民の8割を無知のままにしておいたり、戦後になってから主人ずらして植民地回収を試みたり、良く分からない理由で格下相手に戦争して味方の死体の山を築いたりしていないので真面な方の上位には食い込める。


 その合衆国であるから、国家機構は比較的健全であるし、史実に置いて超大国への道を駆け上がれる程度には国家を構成する国民と官僚は優秀である。自由と平等はそれが建前だとしても確かに効力を発揮していた。


 それ故、世の常識から離れたエキセントリックでクレイジーな連中を理解できなかった。まして、既に語った所であるが、そ奴ら目が人の大事な脳に侵襲して来たり、基本物理学を無視して来ると更に理解は不能であり、一生懸命に対策を練る努力は涙を誘う物があった。


 今回、合衆国が最果ての地で遭遇したナマモノはその様な者なのだ。





 読者諸氏は史実に於いて大日本帝国とアメリカ合衆国が、世界の最果てで死闘を演じた事をご存じであるだろう。玉砕と言う言葉が初めて正式に使用された、アリューシャン列島の島嶼の一つであるアッツ島

の戦い、次いで起こったキスカ島からの奇跡的な脱出は余にも(一部で)有名だ。


 ではこの世界ではどうなったかと言えば、諸氏の予想の通り馬鹿になっている。なっちゃっている。



 1943年 5月29日 逃げ場のないアッツ島日本軍守備隊は最後の突撃を行い全滅し、日本軍に捕らわれていた原住者たちは解放された。その総数は2500名であり、奇しくもその数は日本軍が守備隊として配置していた人数と100人程の違いしかなかった。


 一体砲弾飛び交う中で何処にこれだけの人数が隠れていたのか不思議だが、米軍の公式文書ではそうなっている。少なくとも戦闘後の調査ではそうなっており、ハワイまでは確かにそうで、ワシントンに到着した辺りでおかしくなっていた様な気がする。


 それは置いて置くとして、アッツ島陥落の陥落により、近隣のキスカ島は危機に陥る。史実ではここで濃霧と連合軍側のポカで奇跡の脱出が行われ、キスカ島守備隊は無傷で生還した。この脱出劇には日本海軍からは軽巡3、駆逐艦11、海防艦1、潜水艦15、補給船1の大部隊が従事し潜水艦3隻がしている。

 ではこの世界ではどうだったか見て見よう。



 コテージ作戦。それがキスカ島奪還作戦に付けられた連合軍側の呼称だ。この作戦には30000を超える人員と3隻の戦艦多数の駆逐艦が投入されている。


 「「日本軍の抵抗は激しい」」


 それがアッツ島での苛烈な防衛を体験した本作戦参加者の感想だった。前年から激闘続くニューギニアでは広いジャングルや山岳を縦横に逃げ回り、思いもよらぬ反撃を仕掛けてくる日本軍であるが、直接的な戦闘での被害は少ない。寧ろ土地条件や気候が兵員の精神と肉体を蝕み、屈辱的な事に多数の脱走や軍規違反による損耗の方が問題になっていた。


 だが太平洋の孤島では違った。日本軍の抵抗は苛烈であり、米軍はその一つ一つを多大な労力をかけて摘んでいた…ワシントンに届く報告書の方ではそうなっている。


 故にアッツ島での抵抗の事も有り、キスカ島への侵攻は入念に準備されて行われたていた。アッツから大変だったのだ。夏だろうとアリューシャン列島の荒れた海とツンドラ気候は容赦がない。だから入念に準備して備えたのだ。備えた筈だった。


 だが実際に行くのと報告書を読んで計画を立てるのでは違うものだ。例の異常気象は確かにアッツ島やこれから侵攻するキスカ島を侵食しており、クッソ寒い強風が穏やかな南国の潮風にツンドラが熱帯になって、見晴らしだけは良い荒涼とした大地はどこから生えて来たのか不思議なヤシの木に覆われてしまっていたのだ。


 そうなって来ると大変なのは補給を司る者たちだ。消費する側は


 「セーターなんか着てられるか!」「ホットチョコレートじゃない!コーラを寄越せ!」「シチューなんぞ食えるか!バカァ!」「真水がたらんのです」「誰だ、バターを出しっぱなししたヤツ!全部腐ったぞ!」


 等と言っていれば良いだけであるが、長距離作戦でもないのに被服だけでも熱帯と防寒の2つを用意せねばならず、其処に食料、弾薬、医療品まで物資配置を環境に合わせて一々変えねばならないのだから、担当将校はイライラが止まらないし兵員は忙し過ぎてヘロヘロになる。だがそうしない事には思わぬ事故が発生する。単純に考えても弾薬を高温化に置いて良い事など一つもないのだ。


 戦闘兵科だとて短期間に夏と冬を行ったり来たりさせられれば体調が良い筈もない。おかげで医務室は何時も不調を訴える将兵で一杯になってしまった。


 その様な事があった為、コテージ作戦はアッツ島攻略の倍の輸送船を手配しての作戦となっていた。




 「「「ワンワンワン!」」」


 その努力が完全に無駄になった事に作戦参加将兵が気づいたのは、上陸1日目からであった。何処で間違えたのであろうか?上陸する場所を間違えたのでは?そう本気で司令部要員が思ってしまい地図を見返す程にキスカ島には人が居なかった。


 事前偵察問題無し、写真分析問題無し、砲撃も充分にした、密林だからと観測機に島全体を捜索させた。上陸してからは損害を覚悟で威力偵察もした。なのに「敵影なし」「迎撃なし」「動く物なし」それが結果だった。


 日本兵はいなかった。いたのは冒頭の鳴き声の主たちだけ。


 「こいつ等随分と人懐っこいな。軍用犬か?それにしては数が随分と…おい袖をひっぱるな!」


 「お~良し良し。グッボ~イグッボ~イ。あっメスだわコイツ」


 『ああ~もっと下!もっと下の方!下の方をプリーズだワン!』


 『こっちだワン!其処の茂みだワン!ワンの獣性が火を噴くワン!オラ来るんだよ!…ワン』


 居たのはワンワンであった。ドックであった。恐らくはつい最近に放棄された日本軍陣地には日本軍が遺棄したと思しき軍用犬が走り回っていた。それが司令部跡を発見した偵察部隊の見た物だった。


 繰り返すが犬だけだ。


 「おい、何時までも遊んでいるな!本当に日本軍が撤退したとは限らん。書類か何かがないか調べるんだ。コッチに来い!ったく油断してるとだな…」


 『油断して良いワン』『そうだワン』


 「ん?なにか言ったか?」


 「はい?何も話しておりませんが?戻るんですか了解です。じゃあな!ワンころ」


 人に慣れた犬たちに囲まれ笑顔で撫でまわしている部下を叱咤した指揮官の少尉は、ふと妙な気配を感じて部下に質問する。しかし、部下の方はきょとんとした顔で返事を返すだけだった。


 「そうか。それなら良い。総員傾注!これより周辺の捜索に当たる!罠に気を付けろよ!」


 その声を受けた少尉は被りをふって先ほどの感覚を振り払い。犬たちと戯れている部下たちに新たな支持を発した。


 (まさかな…犬がしゃべる訳もないか)


 内心に付いては言わない事にする。唯でさえ妙ちくりんな戦争だと言うのに、犬まで喋り始めては頭が如何にかなってしまう。


 そんな少尉の様子を犬たちがジッと見ている事に彼は最後まで気づかなかった。


 (マジで分からないんですねあいつ等)


 (ワンを付けなさい馬鹿…ワン)


 (すみません…ワン)


 そして犬たちが、何事かワンワンと言っている事も気づく事はない。少尉の言葉でも無いが犬が喋る筈もない。それが付け耳と尻尾付きアナルプラグをしているのだとしても犬ならば喋る訳はないのだワン。




 1943年8月24日 帝都 宮城


 「キスカ島での作戦は完了致しました。成功でございます。連中、部隊マスコットとして何匹か…失礼…何人か連れて行くとの事、また船乗り猫枠に収まったとの報告もございます。これよりバブルス、フラッフィー、ベルカの名前で諜報員として今回投入された戦艦で活動を開始いたします。他にも…」


 「合衆国も人間を犬と誤認するまで症状が進んだか…我々が仕掛けた事ではあるが、彼らだけは素面でいて欲しかったな……そうか…犬とかぁ…」


 激しさを増し本土に迫る合衆国の攻勢。最果ての地からの悲報を受け、かの方は一人目頭を押さえられた。

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