獣(欲)害対策委員会
「「ブタ滅ぼすべし!」」
破竹の快進撃で東南アジア・太平洋を席巻した日本帝国の侵攻を目撃した合衆国の世論は沸騰する。
真珠湾をチンシュ♡うわ~ん♡に変えられたばかりか、侵略の触手を伸ばした先々で米国人捕虜に対しての言語に絶する行為行い、その結果を電波に乗せ、刊行し、中立国から赤十字まで通して流し込んで来る貴奴ら目を生かしては置けん。
それが世論を形成する米国人口の半分の意見であった。
半分、つまり女性である。
日々太平洋の向こうからやって来る、「僕検閲に負けて永住しちゃいます。御免なさい(妻・恋人の名前)僕の事は忘れて下さい」放送は彼女らの神経を逆なでしていた。
勿論の事であるが男性だとて怒るには怒っている。合衆国の資産を棄損し、男の尊厳を辱めるメスブタ共に怒りは滾らせている。
表面上はである。
もしその男性が街中でインタビューされ、新聞記者の質問に答え、有識者であったらコラムに書き、政治集会でコメントするのであれば
「「俺は何時でも国の求めに応じる!国債だって優先して買う!ジャップを叩きのめせ!」」
と述べるであろう。
であるが、酒場に集まった時、土曜の夜にカミさんが出かけ、男仲間でタバコを友にポーカーに興じる楽しい晩、仕事場での雑談中では
「「アレだろ?俺たちがファックしてくれないからジャップはゴネてるって事だろ?そんな相手に真面目になる方が馬鹿なんだよ。戦争する金で俺たちを何か月か日本に旅行させてくれりゃ解決するってもんだ絶対な。大統領もアホだよなぁ、カミさん連中に乗せられて吹き上がってよぉ」」
等と本音を語っている。だがそれを妻・娘・恋人・母親に聞かれればどんな目に会わされるか分からないので黙っているだけだ。
また女性たちの怒りを鎮める為ゴリ押しされた日系人の収容も遅々として進んでいない。
対象のニッポニアホモモーフは若々しく等しく美形であると言う共通点はある物の、種々雑多な見た目をしている事、次に殆ど全てと言って良い日系人が合衆国男性と婚姻して居る為、激昂した旦那が銃を持ち出して抵抗して来る事が珍しくないからだ。
如何に国家が命じた事とは言え、嫁と子供を差し出せと言われ、唯々諾々と権力に差し出す様なヤワな男は合衆国には居ないし、ヤンキーでもディキシーでも合衆国の男に宿るアメリカンスピリッツがそれを許さない。
令状を持った者が家に来るならば、男たちは妻と子を隠すと無言でショットガンに弾を込めるか、引き出しからリボルバーを取り出し、時にトミーガンを納戸から卸して来る。
「「国がなんぼのもんじゃ!女房を連れてくんだったら俺を殺してからにしろ!」」
玄関越しに飛び出す鉛玉、逃げる役人、集まる警察車両、始まる銃撃戦と言う事態が各地で続発していた。これには法を執行する側でも二の足を踏んでいた。命が幾つあっても足りないのだ。
この煽りを受けたのが日系人を多く伴侶に持つ黒人層であり、この時代、黒人が白人女性(金髪・碧眼・童顔・貧富差は有れど黄金比の肉体・一点のシミのない皮膚・老けない・萌えボイスの男の欲望駄々洩れのナマモノが白人女性だとするなら)と家庭を営んでいる事は珍しい為狙い撃ちにされていた。
開戦初期から中期までに収容された日系人は黒人家庭ないし中華系、もしくはインディアンの家庭からであったとされている。そしてこれは白人国家である合衆国が押し込めてきた人種差別と言う問題を吹き出させていた。
上記の様に対日戦と、そこから発生した諸問題は、合衆国に取って頭の痛い物が山積みとなっていた。
その痛みの元とは極論するならば、早期の帝国撃滅、ともすれば日本人の絶滅を叫ぶ過激な団体を抱える女性有権者、はなっから厭戦が本音の男性と言う二つの相いれない物から発生していたとのである。
であるが一度決定された戦争と言う究極の解決手段を止める事は並大抵の事ではない。また有権者はどうであろうと、進捗し続ける日本帝国を押し留める事は合衆国にとり何時かはやらねばならない事なのだ。
ましてその相手が絶対に潰さなければいけない相手と組んでいると言うならば猶更であった。
「存外に不甲斐ないな。元主人どのは」
「対独戦もあります。これ以上の事を求めるのは酷かと」
合衆国の政治中枢にいる人物たちが集まった会議の場。そこで吐き捨てる様に発せられた合衆国大統領
フランクリン・デラノ・ルーズベルトの言葉を窘める様に言ったのはコーデル・ハル米国務長官であった。
「だがなぁ、言いたくもなるよハル君。奇襲された訳でも無く戦艦を鹵獲され、今度は空母も含めてやられたのだ。なんだったか?こんどやられた戦艦の名前は?」
「ウォースパイトとレゾリューションです。低速の旧式艦だったのが仇になりました。ですがコンゴウ型巡洋戦艦を少なくととも一隻は大破に追い込んでいます。艦自体は救えませんでしたが乗員も無事です」
「ふん!それでは釣り合わんよ!私が聞いた報告では攻撃に向かった航空機は全滅だと言うぞ!私が聞きたいのはだなl君たちはアレに勝てるのかと言う事だよニミッツ君!」
大統領の実質的なボヤキ、それに答えた太平洋艦隊司令長官チェスター・ウィリアム・ニミッツ・シニアは更に苛立った質問を叩き付けられた。
「彼女たちは無敵ではありません。それは先の英艦隊との海戦で証明されております。彼女たちの光線兵器と思しき物は距離を放せば届きませんし、、、その、、、兵は死ぬことは無いのです。私は充分な航空機を投入すれば勝利は出来ると考えております。その為の空母の量産です」
「ハッキリ言ったらどうだね?確かに死にはしないだろう。だがね膝を抱えて震えるだけの兵士と、機械に腰を振る事を覚えた馬鹿がどう役に立つというのかな?」
「ですので、海軍は兵員の復帰に努めております。療養施設の拡充もその一環です。そうでしょう、ノックス長官?」
「彼の言う通りです。ハワイでの損失も六割は今の所回復しております。その他は時間を掛ければ戦線に投入可能かと」
大統領の意地悪な質問。ニミッツと海軍長官のウィリアム・フランクリン・ノックスは分かっている事、出来うる限りの対策を答える。
それしか無いのだ。それに六割は回復したと答えたが、検閲を受けた兵員で前線任務に堪えるまで復帰できたのはその内一割ほどで、残りは日本軍とかち合う事の無い、陸上ないし輸送任務に振り分ける他はないのが実情だった。
無理に投入しようとすれば「「ママ~」と叫んで泣き喚くか、「「ママー!!」と叫んで機体や艦に腰を打ち付けに行ってしまうのだ。それを正直に話すのは二人には憚られた。
「それなら良い。陸軍はどうかね?君たちまで用意が出来ていませんと言ってくれるなよ」
これ以上虐めても何もならないだろう。そう判断した大統領はその矛先を陸軍に変える。
陸軍も海軍に輪を掛けてこれまで良い所無しなのだ。フィリピンからは叩きだされ、太平洋の守備隊は片端からヒデェ目に会わされ続けている。ウェーク島守備隊の送った最後の通信
「勘弁して下さい」
は万感の思いが籠っているだろう。史実に置いて
「もっとジャップを寄越せ」
と叫んだ勇猛果敢な男たちは泣きが入る位に異常なる性癖の嵐に見舞われたのだ。多分、守備司令官がジープでカーFOXされながら降伏を呼び掛けたりするのを見たのだろう。
話を戻そう。大統領の質問に答えたのはヘンリー・スティムソン陸軍長官だった。
「日本陸軍の攻勢が限界に達しているのは明白ですので、陸軍はニューギニア方面で航空機を主隊とした攻勢で日本軍に消耗を強要する予定です。この場にマッカーサー大将がおりませんので、彼の構想を全てお話する事はできませんが、私としてはオーストラリアにいる彼の要求通り、日本軍の航空戦力が消耗仕切るまで補給を維持し続ける必要があると考えております」
まあ、それは海軍の努力次第ですがねと付け加えてスティムソン陸軍長官は報告を終えた。そう話し終える寸前、チラリと海軍側を見た長官の顔は精々頑張れや的な顔をしており、その表情から米国に於いても陸海軍は犬猿を超えた犬猿である事を示している。
それを受けた海軍側も野郎!と言う顔をしたのを見た大統領は話題を変えた。正直な所、彼としても真面な頭をしていては付いて行けない太平洋戦線の話題を長々していたく無い。
「いい加減にしたまえ。大平洋戦線に付いてはもう良いから対独戦に付いて話会おう。その方が精神衛生上良い筈だ」
人死にが出る方がマシなのだろうか?一瞬皆そう考えたが、痴女に付き合うのは疲れるのは確かだと思い直し空気を改める。
「ああ、そうだ思い出した。例のアレな対独戦に投入しよう」
「対独戦にですか?向こうが飲みますかな?」
「対日戦に投入して裏切らるよりはましだよ。彼女には戦後の立場を上げる為だとか何とか上手く言ってくれたまえ。それなら飲むだろ。彼女、ほらアレだし」
「それもそうですな。私からヨシちゃ、、ゴホン、野村外相と話します。しかし、自由日本政府を自分から言い出すとは相当に現政権を恨んでたんですな近衛元首相」
「そう言う性格だから何も知らされずに放りだされたのだろう。精々頑張って弾避けになってもらい給え」
話題が対独戦に切り替わり、弛緩していた空気も改まった時、正に思い出した様に大統領が言い出した話題は驚くべき物であった。
野村「外相」?自由日本政府?そして近衛?そうこれまで話題にでず、遠く米国の空に消えた近衛は生きていたのだ。
復讐に燃えて。
彼女がこの後、どの様に歴史に名を刻むのかはまだ未知数であった。




