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えろこうせん

 扶桑から放たれた不可視の攻撃、不幸にもその直撃を受けたのは、プリンスオブウェールズの艦橋であった。これは偶然ではなく、日本帝国海軍の主力兵器である怪力線の兵器的欠陥の性である。


 これまで鳴り物入りで紹介してきた怪力線兵器であるが、その構造は至って単純であり、実の所、サイエンスフィクションに頻出する、なんかうにょうにょしたのやズビーっとした凄い光線兵器ではない。


 そも史実未来の光線兵器だとて、音も出なければ、可視光ではないので見える事はない。なんかピカっとしてレーダー上から敵機かミサイルが消えるだけだ(構想通りにいけばの話であるが)


 未来世界の物でさえそうなのだから、現在仕様されている怪力線もそう大した姿をしているわけではないのも道理であろう。何せ初投入は1930年代であり、日本帝国陸軍が運用できる物なのだ。


 ノモンハンでの悲劇を思い出して頂きたい。あの際、投入された怪力線に襲われた、哀れな男は何と言っていただろうか?


 探査光云々と言っていた筈だ。


 つまりはそう言うことで。


 怪力線、怪力線と大仰に言っていても、その正体は探照灯を改造した物なのである。


 構造は繰り返すが本当にシンプル。探照灯はアーク放電を反射して光を発生させる訳であるが、そのアーク放電を起こす炭素棒と、内部の小型反射鏡をオルゴナイト製に変えただけの代物だ。


 であるから、探照灯としての欠点もそのままである。


 読者諸氏には説明など不要であろうが、一応申し述べると、地平線の向こうは狙えないと言う事である。当然だろう、真っすぐにしか光は飛ばないのだから、地球の丸みの向こう側に当てる事は不可能だ。


 如何に頓智気兵器とは言え、突如物理法則を捻じ曲げて中空で屈折したりはしない、、、まだ。


 さて、此奴をそのまま主砲のあった所に配置しても、凡そ艦舷の高さの相手しか攻撃出来ない。射程を伸ばそうとすると、艦橋の目の前に櫓でも立てないといけないであろうし、少し海が荒れれば海上で倒壊するのは目に見えている。


 ではどうするか?


 答えは当然でている。


 通常の探照灯と同じ場所、高さを確保できて頑丈な場所に置くのだ。


 そして、その様な配置になった時、一番に長射程を得られる艦はなんであり、実戦投入して失われても痛くはない艦はなんであろうかと言われたら。




 

 「何を考えているんだあいつ等は?」


 英東洋艦隊司令長官トーマス・フィリップス中将は、双眼鏡の向こうに姿を現し始めた敵影を見ながら、思わず口に出してしまっていた。


 既に距離は25000を切り、レーダーでも敵先頭艦は捉えられている。先のデンマーク沖での海戦では、主機は故障するは、主砲が使い物にならなくなるはと散々であったが、今回、日本海軍が真っ向から艦隊戦を挑んで来ると言うので燃えていた自分が馬鹿らしくなって来る。


 それは隣ににいるプリンス・オブ・ウェールズ艦長ジョン・リーチ大佐にしても同じであり、こちらも

思わず


 「自殺する心算としか思えませんな」


 と司令長官相手に気の無い返事をしてしまっていた。


 それ程に相手の考えが分からないし、正気かどうかも分からない。


 「日本海軍は艦艇から武装を外している」


 その様な報告を本国で聞いた時は、笑って信用などしなかったのであるが、先ほどから悠々と敵上空に陣取っている二機のスーパーマリン ウォーラスに依ればそれは如何にも真実らしかった。


 それで有るのに敵艦隊は進撃を続けている。


 (艦長の言葉ではないが、本当に自殺するつもりなのか?それとも何か新兵器が搭載されている?分からん?)


 既に主砲に弾薬は装填され、このまま行けば、レーダーと艦載機の誘導による巨砲の雨が敵艦には降り注ぐだろう。


 「返事は無いのだね」


 「はい、無視されています」


 「そうか」


 既に、呵責を覚えたフィリップス中将による降伏せよの勧告は無視されている。


 (致し方ない。本艦初の戦果が自殺の幇助になるとはな、、、)


 刻一刻と近づいて来る敵、フィリップス中将は覚悟を決めて攻撃の開始を告げた。


 「距離24000で砲撃を開始せよ」


 「Aye Aye Sir!」


 中将の声を受け、気を取り直して指示を飛ばし始める艦長、途端に些か緊張を欠いていた艦橋内に活気と戦闘の高揚感が満ち始める。自殺志願者の群れとは言え、二隻の戦艦級を含む艦隊が相手であり、討ち取れば戦果は戦果なのだ。


 だが、その活気が淫の気に変わる瞬間が訪れる。


 「アフン!」


 まず第一に倒れたのは艦橋窓際にいた士官だった。


 「アヒン!!!」


 次に操舵手が舵輪に持たれ掛かり倒れ、急激な面舵が艦内に襲い掛かる。


 「オウ!アッア!!!」


 その次は作戦参謀、たたらを踏んでいた彼は、股間から漏れ出る急激な何かに踏ん張りがきかず、右に勢いよくすっ飛んでいった。


 「イイイ!!!」


 そして副長が床に倒れ込んだまま転がって行くではないか。


 「「ガスだ!」」


 その光景を見ていた人々はほぼ同時に同じ言葉を叫んだ。日本軍が非致死性であるが、特殊なガス兵器を戦場で使用している事は、全世界が知っている事なのだから、突然に発生した異常な状況を目撃した人々がそう判断する事は間違いではない。


 そして、規定通り首から下げていたガスマスクを装着する為に慌てふためくのもだ。


 話には聞いていた。訓練も受けた。だが本当に海上でガス攻撃を受けると言う事態は、既に戦闘を潜り抜けた人々であっても混乱させられる。


 まして全くの無色無臭のガスが突如艦橋を襲う等、想定はされていなかった。


 (一体いつの間に?)


 遂に痙攣を始めた己の副官を見やり、床に倒れ込んだままで装面したリーチ大佐は、脳内を埋め尽くす疑問に捕らわれれそうになる。


 その思考を破ったのは、一番砲塔の発砲よる轟音だった。


 「誰だ!発砲指示はまだ出してないぞ!」


 怒鳴りながら艦内無線に飛びつく艦長。艦がこの様な状況で撃つ奴があるか、半ば八つ当たり気味に彼は怒鳴る。


 だが返事はない。


 「おい聞いているか!そちらもガス攻撃にあったのか!被害を報告しろ!」


 再度、無線に怒鳴り声を上げる艦長。


 異常な攻撃、異常な事態が彼から冷静さを奪っていた。一発の砲弾も喰らわずに艦橋をやられ、恐らく砲塔の要員も甚大な被害を被っているかもしれないと言う状況なのだから無理もないだろう。


 だからこそ、確認が遅れたのであろう。自分の隣にいた筈の提督が未だ沈黙している事に。


 「提督!ご指示、、、ああっ!」


 己を叱咤し、次の行動を仰ぐべく振り返ったジョン・リーチ艦長は見た。


 提督は直立不動で立ち尽くしていた。


 彼のズボンは股間の部分が盛大に湿っており、裾から白く熱い物が垂れ、彼の靴を汚している。


 大英帝国の海軍軍人の気概を示すべく、混乱の中にあっても一人泰然としていた男、英東洋艦隊司令長官トーマス・フィリップス中将は、淫乱極悪な帝国の頓智気光線を真正面から浴び、果てていた。


 その顔は苦悶と快楽の間の何とも言えない表情であり、口の端から僅かに血が滲んでいた。恐らく舌かんで耐えていたのであろう。


 「提督ぅ!!!!!!」


 艦長の叫びが響き、合わせる様に戦艦プリンス・オブ・ウェールズの全てから、男たちの野太い悲鳴がマレーの空に高く高く木霊し、そして消えた。


 1941年12月10日 現地時間13時20分


 日本軍の上陸を撃滅せんとしていた英艦隊は壊滅した。


  現地時間午後14時45分、現地上空に到着したオーストラリア第453飛行隊が見た物は、日本艦隊と仲良く艦隊を組み消えようとする味方艦隊の姿であり、甲板上で繰り広げられる悍ましき饗宴であった。


 鹵獲 戦艦1 巡洋戦艦1 駆逐艦3


 マレー沖海戦


 それは、まごうこと無き日本帝国の大勝利であり、大英帝国の暗黒の日。


 この悲劇の報告を受けた大英帝国宰相は


 「撃沈されたならまだ良い。悲劇は悲劇であろうが、彼らは最後まで戦ったのだ。だがなぁ!鹵獲ってなんだよ!艦隊丸々鹵獲されましただぞ!私は陛下に何と言って報告したら良いんだ!海軍は恥ずかしくないのか、君たちは娼婦に貢いだんだぞ!」


 等と総統の専売特許を周囲に行ってしまったと言う。シンガポールが陥落し、彼が紳士面を保てなくなったのはこの後すぐの事である

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