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昭和16年の売春

 「負けますね」


 「それは分かってる」


 「分かってるなら止めろよ。馬鹿じゃねーのかテメェらは」


 昭和16年 陸軍省経理局 総力戦研究所に於いて、一連の机上演習が終った後、参加者であった三者の感想は三様であった。


 これは近衛絶叫計画の第一段階に集った者たちの記録である。


 その中心にいるのは、総力戦研究所二代目所長の飯村秋穂中将(旧名・穣)


 もう一人は近衛内閣陸相の陸相東條英美


 最後の一人は、首輪を付けられた男であった。首輪であるワンワンが付けるアレである。その首輪からはリードが伸びており、その先は東条の右手にしっかり握られていた。


 男の名は石原莞爾


 陸軍参謀本部慰安課課長であり参謀本部員共用の自律式バイブである男だ。彼が首輪で括られている理由は脱走の常習犯である事、この場に出席を許されている理由としては、頭の方は切れて歯に衣着せぬ物言いが出来るからである。


 彼は慰安課に配属されてから肉バイブ兼、その毒舌を買われ道化師の役回りを宛がわれていた。であるのでヤサぐれて更に口は悪くなっている。


 「莞爾、ステイ」


 「グゲェ」


 リードが引かれ莞爾は呻き声を上げた。


 「莞爾の躾が成ってないので謝ります。莞爾、御免なさいは?」


 「正直な感想を言って何が悪いんだ東条二等兵!そもそもお前らそろいもそろって狂ってんだよ!正気なのは俺だけだろ!きゃいん!!!」


 「いや、仲の良い事結構です。家も欲しいくらいですよ莞爾君。生きの良いのは山本と米内さんが咥えこんでしまうか、海の上に持って行かれる物で、海軍省には回って来ないのですよ。莞爾君、貸出とかされません?」


 「駄目。莞爾は家の」


 「さいですか」


 「テメェら人を物の様に、、、キャウン!」


 「物の様には間違い。貴方は物。物で陸軍の備品」


  莞爾に人権は無く、あるのはチン権だけだった。莞爾は物品で、時に員数を付けられて何処かに連れ去られたり、遺失(自発的に)したりする存在であった。




 この莞爾と英美の夫婦漫才を面白げに評したのは、同室する海相及川志保、栄養状態の良い海軍軍人の例に漏れず、どデカイのをぶら下げた女である。この場には陸海軍は元より、官民のエリートが揃っているのだ。


 揃った目的は前述した通り机上演習である。


 ただの机上演習ではない。


 軍事・外交・経済の各局面での具体的な事項について各種情報を集めての、「対米戦争」のシミュレーションであり、東条、及川はこの演習で設定された模擬内閣に現実の役職と同じく陸・海相として参加している。


 そして、日本帝国はアメリカ合衆国に敗北すると言う、読者諸氏から見れば「ナニ言ってんだ当たり前だろ」の結果を目の当たりにして冒頭のセリフが出たのだ。


 出だしは良かった。


 頭数とメスブタフィジカルに物を言わせて、東南アジアを席巻し、太平洋を我が物できた。史実と違い資源には困らないのだから、連合艦隊は艦隊決戦に一度と言わず勝利できた。


 だが後がいけない。


 米太平洋艦隊・英東南アジア艦隊を一度駆逐した位では米国側は止まらないのだ。圧倒的な生産能力で彼らはあっと言う間に艦隊を再編し襲い掛かってくる。練度の差だなんだと言い訳して撃退しても、我が方の損害は積み上がり、やがて破断点が訪れた。


 連合艦隊の正面戦力が軒並み沈むかドック入りするかした時点で、フリーになった合衆国艦隊は大手を振って航路を遮断しにかかって来たのだ。


 奪取した島嶼に補給は遅れず味方は遊兵化、好きな時、好きな場所を攻撃できる敵は本土目掛けて一直線、サイパン・グアムを攻略され重爆が爆弾を好き放題に投下して来る。


 勿論日本側は粘りに粘った。


 日本帝国は現在でも、年二千万トンを超える砲弾を生産できるだけ国力を有しているのだ(史実最盛期の倍、総力戦体制に入っていないでコレ)


 その国力をフル活用して航空機・補助艦艇を量産して航路保全に奔走し、陸沿いでインドにだって殴り込んで暴れ回った。だがそれで合衆国と言う戦争機械が止まる訳はないのである。


 相手は此方が手出し出来ない五大湖周辺や内陸に生産拠点があるのだから当然だろう、幾ら植民地(それも元主人の)が破壊されても、無視して日本本土の生産能力を破壊すれば勝てるのだから止まる訳がない。


 そこにあったのは、完全な力負け、負けるべくしての敗北だった。


 確かに現在の日本帝国は強い。ガップリ四つに組んで相撲すれば英独にだとて負けはしないであろうし、損害を返り見る事なくやり合えばソ連をして根負けに追い込む事は出来るだろう。


 だが米国は別だ。


 米国の生産能力を持ってすれば、百隻を優に超える戦艦・空母・正規艦艇、数千隻の補助艦艇、数百万の軍隊を養える一千万規模の後方体制を用意できる。



 

 「だから負けるのは分かってる」


 暫くして、莞爾が余りにキャンキャン言うので隣室でお仕置きしてきた艶々東条は同じ事を言った。


 「どう引きずりだすかですな?」


 こちらも艶々飯村は言葉を重ねる。莞爾君は小休止も兼ねた集団仲良しタイムを受けていたのであった。


 「そう。勝ち負け以前の問題。本気になってくれるか私は心配」


 「ですよね~、そこで転がってる莞爾君は分かっていない様ですが、そもそも真面に相手してくれるかって問題ですよ。長門以下戦艦はあの在りさまですし、小官が米財務省の役人でしたら予算は絶対に通しません」


  開戦三年目辺りで連合艦隊は身動きが取れなくなると言う結果のでたメモ書きを弄びながら、艶々及川も東条の言葉に続けた。


 「今回の演習は、空く迄、米国が我が国を脅威と見て戦争に本腰を入れてくれたらの結果です。正直言いまして我が事ながら、半裸の女が玩具を振り回している様にしか見えん軍隊を相手に、戦時体制に入ってくれるかと言えば疑問であります。どうします?攻め込んだ先で警官でも初めに出て着たら?風紀紊乱罪だ~とか言って」


 「国内世論が反戦に振りきれる可能性もあります。女性の権利云々で我が国に難癖をつけるかの国です。女相手に砲弾を叩き込むのは拒否する兵士も現れるのでは?それに今の我々、彼らにとって白人に見える者もいる様ですから、いっそうヤり難いでしょうなぁ。まったくどれだけ節穴なんだか」


 「我々が弱り切ったと見なければソ連も仕掛けては来ないでしょう。据え膳が有ってもそう簡単に食わんのが熊の親玉です。ですがそうなって来ると例の計画に差し障りが」


  東条の懸念に今まで黙っていた他の参加者も次々に発言する。誰もがアメちゃんが相手にしてくれるかを懸念している。


 何とも不思議な事であるが、皆、必敗の未来を予測しているのにあっけらかんとしている。であるのだが此方が仕掛ける事には異論が出ていない。


 先ほどまで莞爾が「馬鹿かテメェら!」と声を枯らしていた理由が分かる光景である。危機感と言う物がこの場の全員に欠けている。


 もしも皇国負けたれば アメちゃんたちまちモーゲンソー スカート丈が長くなり 君の股間に貞操帯 キリスト教的禁欲主義がやって来る ヤーヤーヤー と言うのにまったく緊張感無し。




 その理由は東条がこの場にいる事で説明できる。


 彼女は星を通し、ある筈だった未来を見たかの方、そして明治の御世より帝国の裏で動き続けた方々によって、これより日本帝国が行う稀有総代にして珍妙奇天烈、淫乱全壊、花びら大回転の計画を明かされており、その一部をこの場に集まった人間たちにも明かしている。


 この場には陸軍の瀬島を代表とする官民の悪辣な人間がいるのもその証拠だ。この演習の目的は史実よりも遥かに重くどす黒い物なのである。


 日本帝国は負ける。


 軍事力で経済力で科学力で負ける。


 だが唯一つ負けない物がある。


 そのただ一つで負けなければ良いのだ。


 ただ一つで負けなければ世界は何れ日本帝国に膝を屈する事になる。


 その為の戦争であり、その為の対米戦である。


 だからこそアメちゃんなかんずく現在進行形で枢軸を相手に回す国々は、この演習で示された通りに、ド変態痴女軍団に嫌でも向き合って貰わなければ大変に困る。


 「ゲプっ。っと失礼。矢張りアレですな、山本の作戦に賭ける他はないでしょうな」


 「それしかないか」


 「開戦劈頭で全滅は困る。でも勃たないのなら前立腺パンチは必要」


 「ですな。近衛さんには悪いですが犠牲になってもらいましょう」


 「良いのでは?あの人ホントなら自殺なんだ。夢を見させて上げた方が幸せって物です」


 「随分恨んでるね吉田君」


 「毛ちゃん周ちゃんコンビを私邸に監禁しているのを知っとりますからね。あの人、外務省に全く大物慰安要員を回さんのですよ。ざまぁ見ろだ」


  やいのやいのと言う一同であったが、おっきなお胸とお口で莞爾にナニカしたから出たゲップそれと共に及川と共に言った言葉に、皆が渋々と言った様子で賛同の意を示す。


 そしてこの場からハブられている近衛首相の去就についても話題に出た。どうやら彼女たちには自国の首相に付いて全く執着はないようである(自業自得も多々あるようだが)

 

 分かった。その旨、陛下に私が奏上する。それと今回の演習の結果は官邸で発表する。でもくれぐれも近衛首相には感づかれない様に各自気を付けて」


 「次の組閣人事の際には頼みます」


 「分かってる」


 「山本には私から言っておきます。しかし陸軍とここで談合してると知ったらアイツどんな顔するかな?」


 「我々は陛下の軍隊。本来で有れば協調が普通。今までがおかしかっただけ」


 「そうですな。では失礼します。あっ米兵の分配は七対三ですよね?」


 「半々」


 「後で決着付けましょう」


 「分かった。首を洗って置いて、帰るよ莞爾」


 「ああ御上人様が、日蓮上人が向こう側で俺を呼んで、、今逝きま、、、何で中指立ててるんですか?ぐぇぇぇ!引っ張るな東条!」


 こうして悪党蔓延る演習は終わった。


 昭和16年夏、米国に言われ無き性暴力が迫ろうとしている。

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