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シナリオ5  淫禍の中心

 全ての始まりの場所でそれは脈打ち産声を上げようとしていた


 それは知的生命が持つ猥雑さと、命を繋ぐ為の交わりが持つある種の純粋さの体現であった


 それは女であり男であった


 それは獣であり人であった


 (検閲)

 

 それ


 万華鏡の様に形を変え物質世界に沁み出そうとしている存在の名は


 「痴情の星」と言った




 昭和14年 日本帝国領北海道 上川郡 元・大雪火山群 巨大クレーター


 其処は生暖かく何処までも纏わりつくドドメ色の霧に覆われていた。そして、その霧は時に、痴命的レベルに達する放射線のただ中に鉢巻き肌着に作業ズボンで挑むオルゴナイト採掘業者さえ恐れる何かが含まれている。


 ある者は霧の中に無数の人影を見たと言い、ある者は手招く死した家族の姿をその中に見出し、またある者は己の理想の伴侶の姿を見て霧の中に消え、メスブタでも食っちまう仲良しモンスターと化して戻り、飯場で袋叩きにあっていた。


 その狂気の中心に日本帝国を総覧する方が一人立っている。


 その表情は厳しく、その視線は冷徹と言える程に険しい物であった。


 護衛は既に無い。屈強の既婚者、種付けオジサン進化した旦那と五人以上こさえ、浮気絶対にしない近衛の猛女達で有っても、霧の持つ魔性に当てられ、かの人に飛び掛かり各種オルゴンパワーで沈んでいたからだ。


 何故この様な危険場所をかの方は訪れたのであろうか?


 何故かの方は、史実に比べ5年以上早く、超好景気と大開発に混乱する国民慰撫の為行われた「全国弾丸巡幸」を隠れ蓑にこの痴を訪れたのであろうか?


 刻限が来たのだ


 世界を救う為の最後の好機、それは既に始まりつつある世界を巻き込んだ悲劇の中にこそあるのだ。


 かの方の視線の向こうで、定まる事の無かった不貞の狂気が遂に一つの形を取った。この惑星に落着して四半世紀以上、無数の思念と淫行を喰らった「星」は現世に受肉しようとしていた。


 「星」の姿、それは予想の通り「女」であった。「雌」とも「母」とも形容出来よう。その体躯は仰ぎ見る程に大きくかった。


 彼女は、瞬きする度に変わる肌と纏められた髪の色を持ち、豊満な肉体を薄い布で隠し、帝国のメスブタ達と同じく、何人とも言えない顔にある瞳は情欲に濁り、口元には慈母の笑みがあった。


 最も特徴的な部分は無数の腕を有している部分であろう。「星」の背には両腕以外に長い腕が数限りなく生えており、その手には多くの淫物が携えられていた。


 カストリ雑誌、バイブ、はり型、荒縄、赤い蝋燭、ムチ、三角木馬、撮影用八ミリ、写真機、カーマスートラ、何も持たない手も中指を立てているか、下品な手癖を示していた。


 一応、生命の化身としての側面もあるのであろう。婦人誌、ガラガラ、おしゃぶり、布オムツ、哺乳瓶、桃の花を携えてはいるのであるが、大部分が下品なので生命(意味深)としか感じられないのが非常に残念な部分である。


 列島を覆う淫禍の中心「痴情の星」が此処に顕現していた。


 其の姿を見たかの方は、この場に総攻撃を指示したい思いであった。出来うるならば米英のみならず、ソ連やナチスドイツとだとて組んで地上のあらゆる火力で目の前の魔性の存在を攻撃したかった。


 効果は無いであろう事は分かっているが。


 寧ろ目の前の存在にそんな事をしでかせば、此奴はこれ幸いと、なんやかんや自分と造物主に言い訳をして、こちらを自分に都合よく作り変え様とするに違いないと言う事も、長い付き合いで分かっていらしたので、深くため息を付かれた。


 (なぜ俺はそんな物を相手に帝国の、世界の命運を背負う苦難を押し付けられているのだろうか?)


 頭の中で理解はしている。自分の祖父が選んだ選択の元、今までも、そしてこれからも、踏みつけられ、(変態的)搾取と(倒錯的)支配を受ける者たちからすれば贅沢な悩みとは分かってはいる。


 分かってはいる分かってはいるがどうしてもため息は出る。


 出来る事ならば、「もうやだああああああ!」と子供の様に喚いてジタバタしたい。


 できる訳もない事ではあるが。


 責任があるのだ。幾ら投げ出したくとも、幾ら背負いこみたくなくとも、歴史と国家と臣民に自分は責任がある。それと何故か世界にも。


 この責任と言う物は権利でもある。自分はこの心労を抱え込む事で世界の命運を動かせる立場にいる。この権利を米大統領であろうがチョビ髭と筆髭であろうが英国王であろうが渡す事はできない。


 我が身可愛さに臣民(いまやほぼ痴女しかいないが)の運命を手放す者は王ではない。自分は誰がどう言おうと王なのだ。


 かの人はそう思い直されると、屹然として星に相対される。


 「「それで?進捗は如何ですが?次は私に何を見せてくれるのですか?私に可能性を見せて下さい、貴方は次に何を成すのですか?、、、、、、FOXですよね?交尾ですよね?繁殖ですよねぇ!刺激的なのを下さい!さあ!私と我らが造物主である女神にレッツ!インモラルを感じさせるのです!ケモですか?サイバー爬虫類ですか?ホモはNGですよ!非生産的です!は!もしや?背孕みですか!男の娘に、やおい穴を開けろと貴方は望むのですね!」」


 そして星の吐き出す言葉にゲンナリされた。神聖ささえ感じられ千の鈴が成る様に厳かに始まった言葉は、直ぐに興奮した覗き魔のお下劣謎ワードに変わったからだ。此奴に無駄知識を与え、現在の帝国臣民に集合無意識とやらで垂れ流す、あった筈の未来の日本の姿をかの方は他人事であるが心配してしまった。

 

 一体、未来では何があったのであろうか?何があればこの駄星が言い出す発想を思いつくのであろうか?背孕みってなんだ?やおい穴ってなんだ?いや止そう、考えたくないし知りたくもない。


 明後日の方向に行きそうになる思考。それを脳の端に追いやり、かの方は言葉を紡いだ


 「その様な事は私は望みません!私が此処に来たのは、貴方との約束を守りに来たからです」


 「「ああ、それ?、、、、、勿論、忘れてませんよ?近ごろ、貴方の子供たちと繋がるのに感けて忘れていたなんて事はありません!私完璧な存在ですから!さあどうぞ!貴方がどの様に女神の復活に必要な力を集めるのか話して貰うとしようではないですか!、、、、態々来なくても話せるのに有機生命は律儀なんだから」」


 (此奴完全に忘れていたな!)


 だがその言葉に返されたのは、いい加減で無常な返事であった。自分は悲壮な覚悟でこの場を訪れ、星が要求する課題に答えようと言うのにこれなのだ。


 本当に此奴はいい加減な存在なのだ。星には人の気持ちと言う物に理解が全く欠けている。その超常の思考を占めているのは、主の目覚めへの執着と繁殖行為の偏愛だけなのだろう。


 (はあ、良いやもう。此奴はこの様な存在なのだ。この存在に取って人類もそこいらの獣も同じなのだ。違いは痴を理解できるかと言う一点だけ。もし粘菌の類に僅かでも知能があればそれと人類は同類として分類される)


 再度脳内でゲンナリされるかの方。


 (だが、そこにこそ付け目がある。精々超常を気取るが良い。我が国は、そして人類は絶対に生き残ってみせる)


 「どれ程の犠牲を払ってでもだ」


 「「何かいいました?」」


 「いや、なにも」


 「「原始的な対話手段ってこれだから嫌なんですよ。貴方達も思考で意志を伝える事に慣れないといけませんよ?そうすれば脳イキとか出来ますから頑張って下さい」」


 つい口を付いて出てしまった決意の言葉、それを聞き咎められたかと一瞬ギクリとしたが、星は頓珍漢で此方を舐めた言動をとったので、かの方は心中で胸を撫で下ろされる。


 そう、此奴には出来うる限り此方を舐めていて貰わねば困る。


 来るべき下克上の時まで。


 「「それで今後はどの様にされるのですか?」」


 「はい、欧州の流れは変わらないでしょうから、、、」


 

 1940年6月 


 1940年5月のドイツ軍の侵攻により劣勢に立たされたフランス政府、それに付け込んだ形で日本政府は北部インドシナに進駐を宣言。日本政府は空く迄、仏印を経由する援蔣ルートの遮断の為の一時的な措置であるとしたが、これはアジア情勢に衝撃を齎す事になる。


 史実と違い、資源不足に悩まされていない日本と、東南アジア植民地政府の関係は比較的穏やかであり、日本が東南アジアに侵略の矛先を向ける事は少ないと考えられていた本国政府の考えが覆されたのである。


 「男狩り」「中華総仲良し」「黄色い大地を行く痴女の群れ」


 傍で見ている分には笑いしかでない一連の行為が、自分達の財産に向けられようとしている。世界を保有すると奢る欧州国家は、此処に至り始めて我が事として、痴女の脅威を認識し、いち早く危険性を認識していた英国も、腰振り狼来襲警戒を引き上げたのであった。


 淫禍の中心から巻き起こる暗雲、誰もそこから逃げる事はできない。 


 そう誰も



 栄光を刻む筈だった街が災禍に飲まれている。


 砂漠を超え、山岳を超え、奴らがやってきた。


 救援は無い、希望は潰えた、伸ばした手はソヴィエトの同志から離れてしまった。


 「前後了不許可!汝、射爆!射爆!射爆!加油!加油!」


 「(検閲)完了!はいぶっ犯します!」


 「(検閲)に突っ込んで爸爸になっちゃおうねぇ!」


 「良いのぉ(検閲)オイ!休んでんじゃねぇ!」


 「(検閲)」


 世界の片隅、誰の目も無い、誰も助けない。


 「「これより!沢東47歳!悶絶解体の儀を執り行う!」」


 「「ま〜お!ま〜お!ま〜お!ま〜〜お〜!」」


 中華人民共和国今天不成立了


 一人の英傑と産まれる筈だった国家が世界に忘れられて消えた。


  

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