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閑話 雀荘之夢

 これまでの人生からすれば僅かな時間の交流であったが、友愛の情すら覚える様になった複雑な関係性を持った東夷の「皇帝」、彼から出された一杯の茶


 「プーアルしかありませんでしたがどうぞ」


 そう言って渡された茶を満州の皇帝は躊躇ぜすに飲んだ。半分は敵国の様な間柄とは言え、この人物がまさか毒を入れるとはこれまでの交流から思えなかったからだ。


 後から思えば疑って掛かるべきであったとしみじみと溥儀帝は思う。かの人物は淫乱暴虐な蛮族の頂点に立つ男であった事をその時の溥儀帝はコロッと忘れていた。それ程までに彼は穏やかで真摯な人柄であったからだ。


 罠だったが。


 あの時、あの茶を差し出した穏やかな笑顔が、人を食う寸前の虎の顔であったとは溥儀帝には理解できなかったのだ。彼、日本帝国の皇帝は、自分達満州やそれ以前の長城を超えて中華に雪崩れ込んだ数多の騎馬民族の様に、中華を自称する浅はかな民族から何もかも奪い取り、序でに労苦まで押しつけに掛かって来る腹積もりであったのだ



 異常は一口飲んだ所で起こった。香りも味も妙に甘いプーアルを胃に送り込んだ所で溥儀帝は非常な眠気に襲われたのだ。歪んでいく視界、朦朧とする思考


 (謀られた!)


 そう思った時には、既に身動きも出来ず腰掛けていた椅子にへたりこんでしまっていた。それを見た東夷の皇帝、いや人食い虎はそれまでの穏やかな顔を脱ぎ捨て、心底から嬉しそうに言った。


 「おや眠気がさされた様ですな。夜分も遅い事ですのでそろそろお開きにいたしましょう。では溥儀陛下を寝室までお連れしてくれるか秩父宮?」


 そうワザとらしく虎は言う。


 その声に答えて音も無く現れたのは虎二号、「弟の様な妹です」と紹介され、理由を聞く迄「?」となった人物、秩父宮雍仁親王であった。


 因みにスキップして出て来てた。


 かの男装の麗人の身に付けている衣服は煽情的なチーパオであった。下は履いていない。白い肌を興奮で紅潮させ、顔には薄化粧、赤いアイラインが映えていた。


 金髪の麗人のその姿、一言で言うと捕食態勢に入った猛虎と言えよう


 はい兄上!では溥儀陛下ぁ~!寝所にまいりましょうね~!」


 (止めろ!私に触るな!離せ!)


 猛虎に凄まじい力は軽々と溥儀帝を持ち上げ、彼は抵抗する間もなく寝所に運ばれて行く。信じた人物に裏切られた怒りと悲しみ、易々と罠に掛かった自分の情けなさ


 「初夜~!初夜~!今日は二人の熱っつい夜~!」


 と能天気に歌う猛虎二号への恐怖を感じ、溥儀帝の意識は遠くなって言ったのであった。





 「蛮夷を信じるからだ馬鹿者」


 そう声を掛けられ溥儀帝は意識を取り戻した。気付けば彼は不可思議な空間、嫌味にならない程度に贅を尽くした東夷の宮殿ではなく、タバコの煙渦巻き、序でに嗅いだことのない食べ物の匂いが僅かにする空間に一人立っていた。


 溥儀帝には分からない事であるがそこは雀荘であった。


 多くの人間、古めかしい物から何処かで見た事のある物まで様々な帝衣、「袞服」そして「冕冠」を付けた男たちと煌びやか服装の僅かな女性が卓を囲んでいる。馬鹿者」と声を掛けたのは、その中の一人、狼が唸るが如き声の持ち主で一番に古めかしい恰好の怜悧な男であった。


 「そう言ってやるなよ旦那、今回の奴はありゃ相当に難物だぜ?俺だって張の字でも居なきゃ相手したくないね、っとポンだ」


 その男の開口一番の叱責に溥儀を擁護したのは同じ卓を囲む野性的な顔で袞服を着崩した男である。


 「だが皇帝は皇帝だ。此処まで落ちぶれられると朕の威厳にも差し障る。オイ、いま掴んだ牌は戻せ、分かってるぞ」


 「へいへい、初代様はお目敏いことで」


 立ち尽くす溥儀を尻目に勝手な事を抜かす男たち、状況の飲み込めない溥儀は彼らに何か言ってやろうとするが、それを遮る様に更に同卓の西家に座った男、誠実そうな若者が口を開いた。




 「そう非難される物でもないのでは?彼、親族に相当に苦しめられているのですよ?私も兄上に苦労させられたので気持ちが分かるんですよね。あいつ何度殺してやろうかと思ったことか」


 最後に怖い事ボソッと呟いたので怖い人かもしれない。


 「親族に苦しめられるのは帝位にある者の常だ。始末を付けんのが悪い。私を見ろ私をちゃんと孫の為に全部スッキリさせたぞ」


 最後に口を開いたのは好々爺ぜんとした顔で酷い事を言う男である。彼らの言葉に溥儀は益々混乱の度を深める。彼らは何だか親戚のオジサンたちが親族に説教するノリで自分の事を勝手に批評している。


 「それでそこの小僧の先祖に己の一族を滅ぼされていてはのう。妾の様に少しは加減をせんと?」


 「うるせえ婆!猫けしかけんぞ!それでテメェの子供に追い出さたら世話はねぇんだよ!大体なんだその姿!くたばった歳考えろや!若作りにも程があるんだよ!」


 「なんだと禿ぇ!お主こそ鏡を見やれ!その仁君でございますと言うナリ、恥ずかしくはないのか?それで良く嫁の前に自分だと顔をだせるな!」


 「マーちゃんの事は言うな!俺たちは今でも熱々なんだよ!こらババア!同輩じゃなきゃ皮剝いでるぞ!」


 「それはこっちのセリフじゃピカピカ!」「また言いやがったな!」


 その上、別卓から掛かった声で喧嘩まで始める。仁君?同輩?この集まりはナニ?此処は何処?私は一応皇帝だよ?なんでこの人たち此処まで慣れ慣れしいの?


 「彼の言った通り同輩だからだよ。ここはそう言う場所、君に注がれている頓智気力を君が使いやすい様に処理してるんだ。私たちは過去の影であり情報ミーム、幽霊と言っても良い。君も同輩だから「星」は私たちの情報を使って君に最適化してる所なんだよ。それを君は夢として認識してるの、ああ美味い、なんで雀荘のカップ焼きそばって美味しいんだろうねぇ」


 混乱する溥儀に答えをくれたのはヨレヨレの袞服の青年であった。小休止であろうか彼はカップ焼きそばを啜りながら答える。彼の卓ではラーメン半チャーハンを食べる幸薄そうな男性「マスター!朕はカレーね!」と注文しているふくよかな男性がいる。


 だが溥儀の混乱は更に深まるばかりだ。


 力?幽霊?星?あと何カップ焼きそばって?


 「なに直ぐに分かるさ。君も不幸な星の元に生まれたけど朕よりかはマシだから頑張り給えよ?飢え死には辛いよ、飢え死には、ホント二度と皇帝に何ぞな生まれるかと思う」


 「人の話は良く聞く事、それと宦官が嫌いでも忠臣もいるから誤解しないようにね?朕も首括る前にそれが分かってたらなぁ」


 「嫁は大事でも部下を嫉妬させ過ぎるのは考え物だ。君も朕みたく嫁を絞め殺したくないでしょ?」


 「殺した部下の女房を料理して食わせると殺されます。あっそれ俺だけ?」


 「粛清だ!何より粛清!臣下は恐怖で民は仁愛で接する事」


 「それが出来るのはお主だけじゃ禿!小僧!お主の次からは女帝をOKにするんじゃぞ!時代は男女同権!」


 「俺が言うのもなんだけど満とか漢とかどうでも良いよ?皇帝って一等身勝手な奴が座ってりゃそこが

中華さ、俺っちとしてはそれを訳の分からない「しそー」に奪われるのが嫌なだけなの。だから朕たちの築いてきた物を終わらせんでくれよ」


 「朕としては言う事はあまりない。我が王朝も馬鹿息子に滅ぼされた、永遠など有りはせん。だがまあ朕が作り上げた物を過去にされるのだけは勘弁ならん。この際だ夷敵でもなんでも使って纏めて滅ぼしてこい。それと嫁の一人や二人御せんでどうする!例えそれが女型王騎でもだ!目標3000人切り!」


 気づいた時には溥儀に次々と声が投げかけられていた。


 そして力もカップ焼きそばの青年の言う通り今なら分かる。


 力、途方もない力が己に注がれている。


 それと一緒に性欲塗れのしょーもないがどデカイ難物の意志と視線も注がれている。


 此処に於いて溥儀は少しであるが自分を罠に掛けた人物の考えも理解できた。正直言ってこれを現世でただ一人しょい込みたくはない。中華と言う世界から見れば小さい枠組みでも押しつけたくなるのは分かる。むかっ腹はたつが、それは後々腹を割って話して貰うとしよう。


 さあ目覚めの時間だ。目覚めた時自分は中華の頂点に立つに相応しい男であり、幾多の声に思いを託されている。未だ傀儡ではあるかもしれないが、それはそれとして役目は果たさねばならない。




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