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君を中華の一番星にする!………なれ

 愛新覚羅溥儀と言う男性のこれまでの人生は自分の意に全く沿わない流転の繰り返しであった。


 自らのあずかり知らぬ所で中華の頂点に祭り上げられ、自分の意志の全く介在出来ない状態で親族たちが勝手に決めて退位させられ、簒奪を画策した者も勝手に自滅、今度は名目上の皇帝(相当)として訳も分からず籠の鳥。


 一応、その時代に人生の師には出会えたが、嫁は勝手に決められるわ、持ちたくもない側室を持たされるわ、宦官共も好き勝手するわで散々であり、終いには先祖伝来の我が家からも放逐された。


 自分にだって言い分は有ると言いたい所であったが、少なくとも歴代王朝の最後の様な事を自分を放逐した者共はしなかったので、そこはぐっと我慢して我が家から退去した。


 行く当てのない自分を拾ったの東夷であった。師からの教えもあり個人的には夷等と言いたくは無い所であるが、やる事成す事自分の基準から見ても野蛮人なので東夷としか言いようがない。


 自分はその彼女らを頼り長城の向こうに落ち延びた。




 そしてやれ一息と思った所で傀儡の皇帝への即位である。流転のし過ぎで眩暈がしてくる。


 だがやる事は昔日とたいして変わりはない。お飾りを演じ、それらしい事を言い、右に左に陰謀と暗躍を続ける胡乱な輩の指示に従うだけだ。だが正直、自分をその傀儡に据えた東夷、いや日本帝国は愚かだと思っている。


 自分達マンジュの民が数百年を掛けて躾けても漢人は反旗を翻したのだ(そこに至るまで随分不味い事をしてきた自覚はあるが)

 確かに日本帝国は強い(後訳が分からない)東の海に浮かぶ小さな島国だと言うのに強大だ(それとその生態が怖い、近寄りたくない)、だが中華と言う底なしの泥沼は何れはマンジュを飲み込んだ様に彼女らを飲み込むだろう。


 それは近い事か遠い事かは自分にも分からないが、昨今の世界情勢と帝位からはたき落とされた袁世凱の最後を見るに、民族意識の芽生えた漢族は諦めないだろう事は自分にも分かる。

 分かるのだが、その彼女らが無謀極まりない大戦争を、理解不能な理由(相対した現地部隊間とその指揮官同士の痴情の縺れ)で開始し、破竹の大進撃で南京を陥落させたと報告を受け最近少し中華の未来が怪しく感じられる。




 自分が落ち延びた先祖の故地であり、一族の名前の付く満州の地


 鎮定に手こずっていた馬賊は性的倒錯者の集団に変わり、果てし無い平原は何処から飛んできたのか、「ベ二ォー!」とか「シノヴァー!」とか謎の声を上げる極彩色はいからーな鳥が飛び回り、雨季と乾季が頻繁に入れ替わるサバンナとジャングル地帯へ変貌


 日本軍の怪しげな実験施設から飛び出して来る、繁殖力旺盛な植生と動物は満州人の腹と懐を満たし始めたが、雄を襲撃する為に木に登る羊やノロ鹿、雌だけで構成され逃げ惑う雄を探し徘徊する狼、小型化し人慣れするアムール虎に蒙古場を駆逐し始めた大型野生馬等で生態系は滅茶苦茶


 伝聞ではジャングルに自生する肉食触手樹(雄のみを狙い、口で言い表せない事をして吐き出す)の存在や、昔から住んでましたよと言う顔をして居住する霧の中の謎部族、移動する湖にサマーカットになってウロツク毛長象すら目撃され、そこは暗黒大陸に代わっていた。


 考えないでも分かる原因は全部東夷だ。少なくとも彼女らは研究所から出る産物を不法投棄し先祖の土地をゴミ捨て場扱いしている。




 それだけでも頭が痛いし恐ろしいが、何より悍ましいのは、その事を自分以外が異常と感じない点である(東夷は別だアレらは始めから頭がオカシイ)。


 なんでだよ!なんで誰も張親子が女体化して


 「一番!張霖です!帝威に服し、満州帝国の臣として、犬馬の労を厭わぬ所存!」


 「同じく二番!良!父?に従いはせ参じました!陛下の為なら寝所までお供いたします!どうです今晩あたり?」


 とか言って来たのを誰も変だと思わない!似ても似つかないだろ元の姿と!痴女だぞ!なんだあの胸元どころか脇まで空いて下も履いてないパオを来た凸凹親子!学良なんてどう見ても子供だろアレ!ああ頭が痛い


 頭が痛いと言えば、続々と参内してくる宦官共もだ


 「「奴才めは、今度こそ陛下を失望させぬよう粉骨砕身の覚悟であります!宝貝は失いましたが〇〇〇〇を得て我らその活力、泰山を抜くが如しです!我らが居ればそこはALWAYS阿房宮!何時でもイケます!」


 それを胸を張って言われて嬉しい奴は阿呆と言うのだ!叩きだしてやりたいのだが、これまでの旧弊に凝り固まった無能さが嘘の様な有能さなので、満鉄のこれまた阿呆どもが勝手に登用して新京宮殿の運営はおろか政治参加までさせている。


 どいつもこいつもオカシイ!誰か助けて!





 「分かります。痛い程に分かります。陛下の心労絶えない事、私にもよーく分かります」


  「分かっていただけますか!もう宮殿が恐ろしくて恐ろしくて!宦官、官僚、軍人、アレらが私を見る目!アレは野獣の目なんだ!妃たちに囲まれていなければ私は一秒足りと安心できない!」


 満州国皇帝愛新覚羅溥儀の二度目の訪日、南京陥落に合わせて行われたこの大行事は戦勝と好景気(男子輸送)に湧く日本帝国国民に大歓迎され行われたのであるが、その中で最もそれを歓迎し、温かくそして一抹の憐憫と同情を持って迎えたのはかの方とご家族であった。


 待遇もこれまで以上である。溥儀帝滞在は宮城に指定され、家族同然の扱いであったのだ。


 日本本土到着時、夜間歓待の為行われた提チン行列(チンを象った手持ち提チンと金マラ祭りの大神輿の如き大提チンのパレード)を見た時は


 「ああ、ここも同じか、、、だって本場だもんな、、、嫌だ、、帰りたい、このまま帰ったらダメかな?」


 と思っていた彼であるが、この心の籠った対応(メスブタは近づかせず、出来うる限り男性と陛下、皇后陛下御自身での)には安堵と喜びを覚えられていた。


 「ありがとうございます。これ程までに歓待して頂き、まして悩みを聞いて頂けるとは、陛下のご配慮には感謝に堪えません」


 「いえ、その様に畏まって頂かなくとも結構です。溥儀陛下と私とは対等の間柄、国民から常に目を注がれる労苦を分かち合う事に何の躊躇いも必要ありませんよ」


 その滞在は二週間に渡り、その間、溥儀帝は国会での演説などの公的行事を除き、殆どを警戒厳重な宮城で過ごされ、内心、傀儡として自身を扱う国の皇帝にあった隔意は殆どなくなっていた。


 それもその筈である。


 両者、いや皇后陛下も含めその会話は通訳を挟まず溥儀帝の話す言語、満州語すら含めて行われ、移動の際は戦時であり殆どで払っている筈の94式軽装甲車の入念な清掃(群集掃射)と近衛騎兵の護衛(飛び出して来たのは馬蹄に掛ける)、特高警察の事前検挙がされており、ささくれ立っていた満州国皇帝の精神の安寧を守る配慮が成されていたからだ。


 その成果もあり、殆ど敵地と言って良い宗主国の地にあって溥儀帝は、近年稀にない安らいだ気分で過ごされていた。


 だからこそ、溥儀帝はその心の内にあった澱みを、かの方に包み隠さず吐露する様になり、かの方もそのハッキリ言えば愚痴を真摯に受け止められ耳を傾けられていた。


 そのお顔は柔和とすら言え、時々うつ相槌には心底の同情すら籠っている様である。ご自身とその統べる国家が一個人を此処まで追い込んで疲弊させている。


 その事はご自身に責任があるのだ。かの方、天皇陛下はそう思われ際限なく続く愚痴を聞かれていた。


 虎狼の心を持って。





 分かる自分は分かる。


 ド変態と色情狂が大半の国家の頂点に立つ辛さは言葉にも乗せたが痛い程に分かる。彼と自分は父母は違えど兄弟とすら感じられる。未だ自分を狙うア~パ~元弟よりは繋がりを感じる。


 だがだがである。


 自分は彼を犠牲にしなければならない。彼と言う好ましい人物を千尋の谷に突き落とすのだ、誰でもない僕の意志によって。


 だって辛いんだもん。


 一人は嫌なんだもん。


 国家ばかりか人類の未来まで背負うのは辛いんだ。


 (溥儀君!僕(間接的に痴情の星と)と契約して中華を背負ってくれ!中身は日本人と言われる発情した生ものばかりの中華であるが天下を背負って立ってくれ!これ以上、気ままな生活を続ける「祖父」や「父」そして「元老」なによりの「アッパラパー星」の報告を聞きながら、精神をすり減らすのは嫌なんだ!


 だから


 だから


 (家族になろう!溥儀君!君が嫌でも「僕」は「俺」は君を親族にする!)



 「それ程までのご心労、私も隣り合う国家の元首として見過ごす訳には参りません。貴国には遺憾ながら我が国の軍が駐留し、まして利権と言う貴国の独立を損なう物まで有しております。私も元首とは申しましても国権を徒に行使する訳にも行かぬ立場ではありますが、必ずや溥儀陛下のお心を安んじ、その負担を軽減するべく努力をしたい所存であります。これは日本帝国の元首として言う言葉ではありません、私の心底の言葉です。どうか信頼して頂きたい」


「そこまで言って頂けますか。愛新覚羅の長として、そして個人である溥儀としても感謝致します」

 

 「ありがとうございます。おや?茶葉が切れたようですな?誰か、、、失礼、陛下との個人的なお話と言う事で侍従を下がらせておりました。どれ、私の手では余り美味い物は出来ませんが、茶を入れさせて頂きます」


 「陛下にそこまでして頂く必要は、、、」


 「結構ですよ、では少し席を外させて頂きます」




 

 その後ナニがあったかは歴史の語る所ではない。


 サーっと音がしたり、人知を超えた暗黒面のパウァーを漂わせる皇帝が満州の地に帰ったと言う真実のみが残るばかりだ。




 




 1938年旧正月。世界は南京陥落とそこで行われた痴劇に続き衝撃を受ける。


 満州帝国皇帝愛新覚羅溥儀は国号を「清」に復号する事を宣言。合わせて清帝国政府は北京への遷都を発表する。


 そして何より世界を驚愕させ日本帝国臣民であるメスブタたちを興奮させたのは、日本帝国に於いて親王なんだか内親王なんだか中途半端な地位にあった秩父宮雍仁親王の婚姻


 中華の皇帝として再度立つ事を宣言した溥儀帝の第三婦人としての実質的な降嫁、日満の二つの皇統が縁戚関係を持つと言う事であった。




 龍は日輪と共に上る。




 中華を再び手にする為に。




 

 「騙したなぁ~!!私の純情を弄んだなぁ~」


 「ごめんね。でももう家族だから許して?僕と一緒に幸せなろう!」


 「兄上が二人ぃ~!私は幸せだな~!バンバン子供作りましょうね!三馬力です!中華皇帝、モンゴル皇帝、ロシア皇帝で分ければ争いもなくなるでしょ?」


 「嫌だーーーー!!!」


 その様な会話が何処かで成された事を知る者は「痴情の星」のみであった。


 

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