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226変態大運動会其の一 是清氏 暁に散る

226変態大運動会の号砲はまず警視庁で響き渡った。 



 1936年2月26日 AM5時


 警視庁 早朝の桜田門は70年ぶりに戦場の様相を呈していた。決起、、、反乱部隊に対し真っ向からの鎮圧と警視庁奪還を企図した警視庁特別警備隊との戦闘である。


 警視庁だけではない。首相官邸、陸軍大臣官邸、侍従長官邸、斎藤内大臣私邸、渡辺教育総監私邸、高橋大蔵大臣私邸、朝日新聞社等各新聞社、陸軍参謀本部まで反乱ブタネコ集団は襲い掛かったのだ。




 その数なんと史実の倍!約3000もの部隊が帝都に放たれたのである。これもまた皇道派の暴発を敢えて見逃した陛下とその周辺のミスであろう。主に男性で構成された彼らは、陛下脅威の男性フェロモンに当てられたメスネコの発情指数を見誤っていた。


 それゆえ決起部隊、いや反乱軍の扇動に史実を超える部隊が呼応してしまったのだ。因みに犯行声明は以下の通り。


 

 「「「最早我らの我慢は限界である!奸賊どもは男子であるにも関わらず陛下を独占し、国政を壟断している!地方の男子困窮!財閥や薩長閥の男子独占は貴奴ら目の跳梁にある!それと!政府の連中!毎日毎日手も出せないのに新聞やらラジオで無防備写真やらエロ声で挑発しやがって!ベービー作成器官がイライラするんだよ!あいつ等をヤりた者この指ト~マレ!」」



 

 今更ではあるが、閲兵式で陛下の前を通る陸軍将兵や、1933年の横浜沖大演習観艦式で陛下が座上された巡洋戦艦比叡で乗員がポケ~とした変な顔をしていたのはフレーメン反応である事に彼らは気づくべきであった。

 

 だがそれも無理はない。帝国のメスブタたちが、人類が失って久しいフェロモン受容体を復活させているなどとは、、、多分この分ではピット器官やロレンチーニ器官もブタたちは持っているかもしれない(男性の体温のみに反応するであるとか、体内電流を感知だとか頓智来な奴)




 その様な人外の獣が桜田門を襲っているのである。だがその襲う相手もまた獣なのであるから、その抵抗も史実の比ではなかった。


 既に1月下旬から反乱部隊の夜間演習が頻繁になっていた事からこの時に備えていた、帝都の治安を司る者たちは幾分か他組織よりも冷静な物も所属しており、また都内で狩り尽くした社会主義者や他国間諜、朝鮮独立派を咥えこんでいるメスブタも多かった事から、信用して投入できる人員も豊富であったのだ。


 


 春遠く雪降る2月、今それを覚えている者は帝都を行進する反乱軍にも、完全武装の陸軍部隊に腰を抜かして通報に走った警邏中の巡査にも、有らん限りの武器弾薬を署内から総ざらいし、首相官邸当重要施設防衛に出動した麹町、丸の内、錦町、表町の各警察署の血気にはやる署員たちにもいない。


 彼ら彼女ら(彼女が九割九分九厘だが)の記憶にある帝都東京は、常の如く茹だる様に暑く、じっとりとした汗が常に体に纏わりつく永遠の夏が支配する街だ。


 その常しえの夏の朝、一応北半球は冬と言う事になっているのでまだ暗い中を、警視庁庁舎付近に進出した約800名になる反乱部隊が機関銃を庁舎に向けて包囲の態勢をとり、指揮を行う野中大尉により「我々は警視庁に敵対するものではない。ただ特別警備隊の出動を阻止するものだ」と軍使を送って速やかな庁舎の明け渡しを迫った時が226事件の、そして上野の山で彰義隊がドンパチして以来の帝都での地上戦の始まりであった。




 野中大尉への警視庁側の返答は単純明快、庁舎に近づく軍使諸共にした包囲部隊への銃撃であった。これが意味する事は一つ


 「「警視庁なめんじゃねぇ!帰って(検閲)こいてろ!メスネコ共!」」である。


  まあお下品


 しかもお下品な上に強気である。理由は簡単、人員以外は弾も装備も過剰な程備蓄されていたからだ。昨今自称だけではなく本当に東洋一の都市に人口の面ではなり果せた帝都、その治安(男子のである、メスブタは転がしておいても死なない)を維持するにはシカゴやニューヨークを超える弾と銃が必要なのである。


 それゆえ、警視庁庁舎の窓と言う窓が割られ、そこからニョッキリ、村田式散弾銃とトミーガンが顔を出し、コルト、ブローニング二丁持ちが、押収したショーシャ機関銃を乱射するゴリラ女と正面玄関に構築された即席陣地から飛び出して来るのも当然であった。


 



 この反撃に一度は首を引っ込めた反乱軍であるが、それで諦めるならば反乱などしていないので、


 「「へぇ~、アタシらと陛下の中を邪魔するつもり?、、、反吐吐かせてやんよ犬ぅ!目標!正面で威嚇してるゴリラ!距離二百!撃て!それと隣でかっこつけて二丁持ちしたは良いが装填で手間取ってる色目メガネ!薙ぎ払え!」」


 と据え付けられた三年式機関銃での攻撃を指示、忽ち開口部への制圧射撃が包囲部隊により始まる。そして、この様な光景が展開しているのは何もここだけではなかった。


 首相官邸では少数ではあるが頑強に抵抗する首相の警護に手こずり岡田首相を取り逃がし、侍従長官邸では鈴木貫太郎侍従長を捕縛できた物の暴れ回るたか夫人を鎮圧するのに30余名の負傷者をだし、ここでNTRすると切れた夫人に全滅させられそうだから急いで撤退しているので、概ね史実通りの展開だが、人が増えた分被害も出しているし出ている感じだ。




 さて、ここまで語っているが読者諸氏に置かれましては、筆者がこの騒乱をコミカルに語る事に違和感を覚えている方もおられるだろう。銃弾が飛び交い、幾ら撃たれても死にそうにないメスブタとは言え、当たったら痛いでは済まない機関銃弾が命中したであろうゴリラもでているのだ。


 だがご安心あれ、問題ない。死んでません誰一人死んでいません。このお話はホラーでもスプラッタ―なバイオレンスでもないのだ。何故か?防衛側については言うまでもない、彼女らが景気よくばら撒いているのは模擬弾なのだ。日本帝国は国内での銃器流通は閑話しても、その仕様する弾丸については非常に厳しく取り締まっている。


 既に警察組織に置いても、帝国陸海軍に置いても金属実包は廃止され全てが廃棄されている。そう陸海軍でさえ鉛玉を使用していない。




 では何を使っているのか?ここで遂に秘密を明かす時が来た。此処までこの話に付き合って頂いた諸氏には秘密でも何でもないかもしれないが、それは例の物質であるオルゴナイトである。


 帝国陸海軍は現在使用している弾薬から爆薬、兵器製造までオルゴナイト制の物を使用し、通常兵器と入れ替えている。特に砲火器の弾頭は念入りに、それ故に笑って見ていられる。反乱軍が持ち出せたのは小銃と機関銃だけで彼女らの使用している弾丸の弾頭はオルゴナイトを加工した物だからだ。


 オルゴナイトは唯の愉快物質ではない、それは諸氏も理解できるだろう。いやまぁ危険と言ったらかなり危険ではある。もし読者諸氏にこれが命中などすればスゲェ事になるだろう。具体的に言うと、当たれば一発で股間に血を持って行かれて盛大に下穿きが酷い事になりダウン、女性であれば同じくダウンするが男である諸氏よりも悍ましい運命を辿る。




 メスブタは?ああ彼女らは別、彼女らは既に心身ともにオルゴンに染まっているので、あそこで転がっているパッキン系コングの様に人様に見せられらないアへ顔を晒するくらいである。簡単に言うとメスブタにとってのオルゴナイト弾頭は感度3000倍のアレ。


 そして、この物質は更に恐ろしい特性を持っている。強い衝撃を受けると非常に軽く細かい粒子に変わるのだ。さて前に語ったがオルゴナイトは放射性をもっている、そのオルゴナイトを大量に含んだ建築物の近くに一般の人類が長期間晒されるとどうなるかも諸氏は知っている筈だ。


 そこで聞こう。粒子かしたオルゴナイトを誤って吸引した場合、人はどうなるか?何故に第一次上海事変で少数の日本軍があれだけの戦果を挙げられたのか?


 答えは午前5時05分に、狼藉物を迎え撃った高橋是清の運命で分かる。


 


 「ほらどうしたお嬢さん方!ワシを如何にかするんだろう!」


 高橋邸奥の間、幾度目かの遮二無二の突撃を、買い込んでいた水冷式マキシム機関銃とモーゼルを乱射する警護の警官隊(奥の間まで逃げれたのは三名だけだったが)の奮戦で凌ぎきった高橋は仲間に引きずられながら撤退するメスネコを挑発した。


 現在時刻6時37分、メスネコの猛射で床に落ちた壁掛け時計をチラリとみると既に襲撃からそんな時間が経過した事がわかる。


 (こんな事をしでかすのだ、襲っているのはワシだけではあるまい、常識から考えてワシだけに時間を掛けてはおられん筈だ。あと少し粘れば、、、)


 高橋は冷静に状況を分析した。(奴さんらよもや80超えた爺がここまで抵抗するとは思っとらんかったろ)うとも心中で独り言ちる。シュウシュウと過熱した機関銃から湯気が立っている。随分と高橋は連射したのであろう、日頃のストレスも大いに関係していると予想できる暴れ具合だ。


 その高橋であるが、80を超えた老体の身でありながら核癪としており肌の艶もよい。加齢に伴い痩せる筈の腹は依然と変わらずでっぷりと肥え、マキシム機関銃のグリップを握る手もそこから伸びる腕も衰えを見せていない。

 

 


 (どうしょうもない小娘ばかりになった世の中でも少しは益もあるな)


 残り少なくなった弾倉を生き残りの護衛である玉置巡査に換えさせながら、自分の腕を見た高橋は更に内心で考える。高橋は陛下に事の重大性を知らされている僅かな人間の一人であった。だからこそ、陛下よりこの様な恩恵に預かれている。


 そして、いい加減引退したくはあるが、この先帝国に押し寄せるだろう暗雲を知ってしまえば、それを口に出すのは憚られる。少なくともあと数年は自分は踏ん張らなければいけない。


 「その為にはここを切り抜けなければいけないがな」


 信じられない事ではあるが、あるかもしれない可能性の世界では自分は今回と同じようなクーデターで死ぬらしい。何とも嫌な死に方だ何も分かっていない青二才共に殺されるなど。


 「それがお嬢さん方に変わっただけでも御の字かね、だが流石にお相手だけは勘弁して貰いたいね、今の若い女は慎みと言う物がないよまったく、こんな爺に色目を使ってなにがしたいんだか」


 この世界では、どうやらそれは回避できるらしいが、それよりもある意味酷い運命が自分を待っているのだからグチも出る、反乱部隊は自分を手籠めにしようと言うのだ。逃げる途中組み敷かれて犯されている護衛の悲鳴も聞いているのであいつ等は本気のようだ。


 


 「ホンっとになに考えているの?ワシ既婚者で孫もいるのよ?まった、、、ぶぇっくしょん!」


 そう言っているとくしゃみが出た。反乱軍が好き放題に撃ちこんできた銃弾は鉄板入りの畳と家具で出来た胸壁に防がれたが(金を掛けたかいがあった)砕けた破片が中を舞いどうにもならない。


 そこいらの箪笥から引き出した着物を千切って即席のマスクにしてはいるがどうにも辛い。熱迄でてきた気がする。後少しなのだ踏ん張らねければいけない。


 高橋が決意を新たにした時である。こちらを囲んでいる反乱軍の指揮官の声が二部屋離れた向こうの襖越しに聞こえた、襲撃の冒頭堂々とお命(貞操)頂戴ときたから銃弾をお見舞いしてやったと言うのに目を覚ましたらしい、木弾とは言え機銃の弾を受けて直ぐに起きるとは、なんとも頑丈な女だ。


 


 「高橋蔵相閣下!いい加減に降伏されたらどうですかな!我々はお命までは取ろうと言う訳ではありません!ただ、、、同道して頂きたいだけです!うわっっああ」


 

 世迷言を言うので襖越しに何発か叩き込んでやる。涎を垂らして飛び掛かってきた分際でよく言う。それにしてもこの粉はマスクをしていても隙間からはいってくる、鬱陶しいことこの上ない。

 

 「そういう事します?こっちは説得してるのに撃つかな普通!そーいう人とはお話しません!後で後悔しても遅いですよ閣下!あああ!田中!傷は浅いぞしっかりしろ!」


 


 再度撃ちこんでやる、どうやら当たったようだ。元より此方に話す気などない。自分の様な老人を犯そうとする変態は心底返って欲しい、、、例えいま何だか久方ぶりに息子が主張してきているとしても願い下げだ。


 「おい!警護の警官!どうだ!そろそろ我慢の限界なのではないか?聞いた話では支那では新式弾の粉を吸った奴は半刻と持たなかったそうだがお前らはどうだ!良いんだぞ!自由にして!何時まで我慢してる?体が火照るだろ?高橋閣下の下帯一本魅惑のボデーを舐め回したいんだろ?良いぞ先にくれてやる」


 なにを言ってる?確かに自分は寝る時は暑さから下帯だけだが、それが魅惑のボディ?キモ!気持ち悪!老人に欲情するな!それにだ!ここにいる警護は女性だが皆既婚者だ!お前らの様な男日照りとは違う!それがこのワシを襲う?馬鹿な!そうだよね?そうだと言ってくれないとワシ凄く不安。


 高橋はそう思い、先ほどから装填手として奮戦している護衛の巡査である玉置英美巡査を横目で見、そして絶望した。


 玉置巡査の顔は酷く紅潮しその瞳は熱に潤み自分を見ていた。咄嗟に振り替えれば後方を警戒している筈の残りの警護もまた此方を見ている。心なしかその距離が近づいているのは気のせいではない。


 


 

 もしや!


 「「不倫!あっ!ソレ!不倫!わんないと!わんないと!誰も見てない誰も見てない!それやれ今やれ!達磨さんを仕留めろ!こーろんだ!こーろんだ!だーるまさんがこーろんだ!」」


 周囲の馬鹿どもが子供の様に囃子たてている。反乱したとは言え、この幼稚な馬鹿娘たちが自分や先に逝った者たちが築き上げてきた帝国陸軍の兵士かと思うと涙が出てくるし、それとは別になんだか興奮してきた、、、悔しい、、。


 「高橋閣下!すみません!すみません!」


 「落ち着きたまえ!君たちには夫も子供もあるんだろ!これは不貞だよ君ら!」


 「貴方御免なさい、、、先っちょだけですから!ねっ閣下良いでしょ!」


 「ふしだらな警官とお笑い下さい、、、」


 「君!謝ってるのか興奮してるのかどっちだ!止めて!老人虐待!老人虐待!誰か!警察呼んでぇぇ!イヤ~~」



 こうして是清は信じた部下により逝った(死んでない)命の炎を燃やし彼は反乱部隊の魔の手に落ちたのである。

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