閑話 こーるおぶじゃずえいじ 淫豚、合衆国を襲う!
多数のメスブタと馬鹿笑いしている百二十三代目と憔悴している百二十四代目予定の支配する養豚場にして、日夜嬌声と悲鳴が響き渡り、続々と犠牲者が運び込まれる南国で牢獄。
その名は日本帝国と言う。
別世界の神経は真面よりではあるが素寒貧な帝国とは違い、今や食糧輸出国となり、それなりの外貨と食うには困らない環境を手にしているこの国は、史実と同じく合衆国との対立を果たして深めるであろうか?
別に戦争しなくても良いのではないか?太平洋の覇権と支那支配を掛けて殴り合う利用は無い様に感じられる。合衆国の心象もそれ程悪くはない。
対立要因第一弾である対華二十一カ条要求その内容は大分軟化している(経済侵略的な文言は削られ、積極的な対日移民の歩進、中華民国内での肉体的サービス事業の全面解禁、孤児の日本での保護、日本産食糧品と資源とのバーター取引が盛り込まれた)
侵略と搾取をしていないと言うなば嘘であるが「鉄道敷設権寄越せ」「布教させろ」「土地所有させろ」「鉱山他人に採掘させるな」よりは軟化しており、旅順、大連は租借したが山東省のドイツ利権は手放している。
まあ一応の理性はあるかな?くらいの要求と思わなくもない。
対立要因第二弾である対日移民法に付いても、これまでは成立の目は少なかった。
なぜならば、スペイン女を投げ飛ばす程に情熱的、イタリア男に助けてマンマと叫ばせる程に性欲に貪欲な帝国は積極的に日系人を呼び戻していたからだ。
第一犠牲者は外地に散った男子であったのだが、狩れる所から狩った後は違う。先ずは外地、次に大戦に乗っかってヨーロッパ、そして獲得した旧ドイツ植民地である南洋と飢えた獣は貪欲に雄を求めて
跳梁した。
当然ながら無秩序にして野放図な資源開発は枯渇を産む。外地からの移民は減り、戦争の終わったヨーロッパから風紀を乱す事甚だしい娼館は治安を名目に追い出され、初めから人口の少ない南洋は食いつくした。
サイパン、パラオ、トラック諸島等の南洋植民地は怒涛の如く押し寄せる外来種の前に、交雑を強要され既に全人口の三分のニが日本人であり、早晩ポリネシア系は日系に汚染されるだろう。
となれば猟場を変えなければいけない。日本政府はこれ有るを理解していた、それ故のパリ講和会議でのあの文言だ。
「未来ある男女の自由な関係を各国は保護する」
この文言を錦の御旗に帝国の餓豚は海を渡った。読者諸氏はご存じであろうが豚は水泳が得意である、瀬戸内海では猪が海で取れる時もあると言う。そんな海賊ポークたちが目指すはアメリカ合衆国太平洋支配の牙城西海岸。
時に1920年代、この大豚波が合衆国人口の半分に永遠に日本人が呪われ、また半分の人口のかなりの人数の性癖を完全に歪めた上、戦争の遠因になる程の対日関係悪化に繋がるとはこの時点では殆どの人間は理解していなかった。
では何があったか語っていこう。
二つの歪んだ愛の物語である
港湾労働者 ピーター・ハルフォード 通称 文無しピート(21歳)独身の場合
「ジャップは最悪だ」
サルーンに入り浸り、三年程前に酒の飲み過ぎで死んだロクデナシの父は、これまた先年看病の甲斐なく死んだ母と自分を酔って殴っては言っていた。
ピートの父はピートと同じく港湾労働者だった。港湾労働詰まり荷運びは辛く厳しい仕事だ。
仕事は不定期で事故は付き物、何よりこれまたロクデナシの強面共が仕切っている。彼らに逆らえば飢え死には確定だ。
救いは実入りが少ないとまでは言えない事だ。だから海を越えて来たジャップの移民が初めて付く仕事でもあった。そうなって来ると飲んだくれで言う事を聞かない荒くれ者より、チビでも勤勉な出っ歯に仕事を奪われる。
父もそんな出っ歯に仕事を取られては狭いアパートで飲んだくれるかサルーンで管を巻いていた。
それも随分前の話だではある。ジャップはいつの間にか姿を消し、戦争景気で仕事も溢れる程になり、リバティ船が引っ切り無しに港に来る時分には皆が子憎たらしい子男共の存在など日々の暮らしで忘れていた。
ピートも父を殴り返して家から追い出して、母と二人何とかやっていた先年まで忘れていたくらいだ。
そのジャップが帰ってきた。好景気は続いているとは言え、戦争特需は終わってしまった。競争相手は少ない方が良いのにである。
しかも今回は随分とチビ共毛色が違う。本当に毛色が違う、毛色も違えば性別も違った。
押し寄せてきたジャップ。初めは子供かと思ったチビ助たちは全て女だった。
「「女?女に港の仕事が出来る訳ない。失せろ!」」
そうピートも含む、港湾の男は全てそう思ったものだ。だが違った、何処をどうやって潜り込んだ知らないがチビは、大の男顔負けの働き者揃いだった。
オーバーオールにパナマ帽の子ネズミは、糞重たい荷物を軽々運び、荷物の縄掛けも積み方もアッと言う間に覚えて自分達を驚かせた。彼、ピートは親父の言っていた事を思い出し憎憎しく思ったものだ。
それにだ。愛嬌と言う物がない。幾ら鳥ガラみたいな、なりをしていても女だろう?もっと愛嬌を見せろと思う。
ケツを触ったくらいで「何しやがる」と顎を打ち抜かれた奴(あんなチビのケツを触って何が良いのか)絡んで投げ飛ばされた奴もいる。
気に食わない。羽振りが良いのもだ。どうしてあいつ等はあんなに金を持ってるんだ?仕送りがどうだとか言っていたが、この仕事でそこまで国に金を送れる物か?
本当に気に食わない。特に時分と仕事が良く被る赤毛のアイツだ(ジャップは皆、黒髪だと聞いていたが?まあ自分で、嫌われ者の人種を騙る馬鹿も居ないだろう)
短く切りそろえた赤髪、間から覗く鋭い釣り目最悪だ!仕事中、オーバーオールから覗いた薄い胸、桜色のポッチが目に焼き付いて離れないが、直ぐに「何見てんだ!」と殴られたアイツ!随分と長く仕事をしている中だと言うのにヒデェ女だ、良く飲む中だってのに!こないだの賭けで俺から毟り取ったろうが!
そんな事をブツブツ言いながらピートは飛び切り長引いた今日の仕事を終える為、倉庫街の中にある、着替え室替わりの物置に急ぐ為、近道だった港湾長のオフィスを横切ろうとして、物音に気付いた。
検閲
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女は吐き捨てる様に言う。その言葉を聞いたとき彼の中で何か切れる音がした。
彼は無言で女を抱え上げる軽い羽根の様に軽い小さな体「なにしやがるはなせ」女が言うがそんな事は気にならない
自分の安アパートはそれ程此処から遠くはない。
その剣幕に負けたのかギャアギャアと喚いていた女は直ぐに静かになった。男が自分に何を求め何をする積りなのか分かったのだろう。
暫くして、男は女を自分のギシギシいうベットに投げ出した、マジマジと再度女をみる。これをこいつを、さっきあの野郎は好きにしていた。
目の前が赤くなる、再度燃え上がる嫉妬と怒り、あの野郎に自分ではなく他の男に体を許していた女に。
「けっ!せっかちだな、なんだお前も男だったんだな、やるのか?あたしは安くないぜ」
検閲
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そして幾日ぶりかのシャワーを公衆浴場で浴び、窓を開けて、安アパートの一室から籠る臭いを追い出した二人の男女は無言で見合っていた。
(エライ事をしでかしてしまった)
男、ピーターの頭は混乱していた。自分のやった事は犯罪でしかない。女が警察に駆け込む事より、軽蔑していた父と同じく、暴力を振るって弱い者を好きにした事が許せなかった。
無言の時間は続く。口を開いたのは女だった。
「まあ、、あれだな、、あれ、、あたしもな、、乗った所があったし、、犬にでも噛まれたと思って諦めるから、、そんな気にすんな!な!」
驚いた事にそれは慰めの言葉だった。自分を犯し好き放題した相手に女は慈悲を掛けようと言うのだ。ピーターは呆れた、呆れたと同時に、あらゆる感情が自分に襲ってきた。
恥、自分に対する怒り、ホッとしてしまった情けなさ、何より彼女がこれまでの男の所業を無かった事にして唯の同僚に戻ろうとしている事への悲しみと、此処でこのままにすれば、自分と同じような事を他人が女にするかもしれないと言う恐怖であった。
男、ピーターの脳内はそこで短絡し、短慮し、場違いで頓智気を口に出力させた。
「結婚しよう!俺は君を幸せにして見せる!」
どう考えてもアレだけの事をしでかした男が言って良いセリフではない。撃ち殺されても文句は言えないだろう。
だが女、日本帝国からやってきた獣の返答は違った。
「本気かテメェ?マジで言ってんの?頭湧いてんじゃねのか?」
その声音は勘ぐる様であり、獲物が罠に掛かり掛けた猟師が「まだだ!まだ笑うな!」と笑いを堪えている様であったが、頭が茹だっている男は気づかなかった。
「俺は本気だ!責任は一生かかっても取る!」
であるので男は高らかに宣言した。高らかに宣言し順序が逆で犯る前にしなければいけない、精一杯の愛を込めた抱擁を女にした。
「良し分かった。それじゃ決まりだ。嫁になってやるよ」
すると、女も女で犯られる前にするべき求婚の受け入れを易々と受け入れる。スピードだとか手品だとか言うレベルではない凄くおかしな光景であり、罅の入った窓から差し込む午後の光と、アパート下の道路を走るT型フォードの排気音が二人を祝福していた。
「本当に良いのか?」
まさか受け入れらるとは思わず男は素っ頓狂な声を上げて、抱いていた女を離すと顔を見やる。
「マジだよ、マジ。テメェみてぇな野郎はあたしが貰ってやらなきゃ、何処で人様に迷惑掛けるかわからねぇからな!慈善だよ慈善!」
そんな男に女はニンマリと笑った。切れ長の釣り目が面白げに輝いている。
「だがなぁ、条件がある」
「条件?」
なんであろうか?男はギクリとした、これから大人しく出頭してこいか、嫁に来てやる代わりに銀行でも襲ってこいと言うのだろうか?
「なに考えてんだ馬鹿野郎ちげぇよ!」
「アウチッ!」
女は男 ピーター・ハルフォード(これより既婚)の間違いを正すと同時にボケた頭に拳骨を振り下ろした。これ位はして良い、初手首絞めプレイは流石に驚いたからだ。
「おめぇな責任取ってアタシの国に来い、そこで可愛がってやるよ」
そう言うと女は今度は自分から男に抱き着いた。そこには、少々行き違いはあったが首尾よく狙っていた男を手にいれた喜びが込められていた事に、男 ピーター・ハルフォード(日本帝国帰化予定)は終生気づく事は無かった。