ファーストキス 第二話
ぜひご一読を
そこにいたのは妹の美緒だった
「ごめんなさい。ちょうどラインがきたからスマホを見ていて…。お母さんからいつも、『スマホを見ながら歩くな』と言われているんだけど、つい見ちゃって…。」
「いや、僕のほうこそ、前を見ていなかった。ごめん。大丈夫?」
「ええ。」
美緒は笑顔で言った。どうやら明るい子のようだ。
良一は呆然と立ち尽くしているが、それは玄関前にいる順子も同じで、こういった形での兄妹の十八年ぶりの再会になるとは思っておらず、何の言葉も出ないままただただ二人を見ていた。
一方、何も知らない美緒は落ちたままの良一のバッグを拾うと、「はい。」と言って良一に差し出す。バッグには青いチョッキを着たリスのキーホルダーがついていた。
「…ありがとう。」
良一はバッグを手に取るが、一瞬指先が触れあう。
「あ、ごめん。」
「いえ。」
良一は美緒を前に何をしゃべったらいいかわからず、絞り出すように「じゃあ」と言うとその場を後にした。
すると、美緒のもとに順子がきた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。ねえ、お母さん。今の男の人、ウチから出てきたけど誰?」、
「さ…さあ、道を聞かれただけだから」
順子はとっさに嘘をついた。
「そうなんだ。」
美緒が振り向くと、良一の姿はもうなかった。
「さあ、家に入りましょう。」
「うん。」
美緒は前を向くと、足元にリスのキーホルダーが落ちていることに気づき拾い上げる。
「これ今の男の人のだ。」
さっき男のバッグについていたリスのキーホルダーは青いチョッキを着ていたが、こっちのリスのキーホルダーは赤いチョッキを着ている。
おそらく青いチョッキのオスと赤いチョッキのメスのペアのキーホルダーをバッグにつけていたが、バッグを落とした拍子にメスのほうだけが落ちたのだろう。
リスのキーホルダーはレトロ感漂うデザインで、よく見ると細かい傷がいっぱいついており、古いもののようだった。
リスのキーホルダーについているくさりが途中で無くなっている。おそらく落ちた拍子に切れたのだろう。
「ちょっとこれ、今の男の人に渡してくる。」
「えっ?」
「渡したらすぐ戻るから」
「ちょ、ちょっと待って」
順子の声は聞こえないのか、美緒は良一が行った方角へ向かって駆けていった。
ありがとうございました。




