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ファーストキス 第一話

ぜひ、ご一読を。



「えっ、妹にはまだ、僕という兄がいることを知らせていないんですか!?」


 高宮良一は驚きの声を上げる。この日、良一は妹が養女として引き取られた家を初めて訪れていた。


「ごめんなさい。美緒が養女だということをどうしても伝えられなくて…。もし私と血のつながりがない、実の親子ではないと知られてしまったら、これまでの親子関係が壊れてしまうような気がして…」


 妹・美緒の養母の順子は苦しい胸の内を明かす。


「関係が壊れてしまうのではないかというその気持ちは分かります。でも、このまま一生隠していくわけにも…。」


「それはわかっています。実は一度あの子が14歳の時に養女であることを言おうと思ったことがあるのですが、ちょうどその頃、私の夫が病気で亡くなってしまったんです。それでただでさえ、美緒が大きなショックを受けている時に、さらに大きなショックを与えるようなことはとても言えなくて…。」


「そうだったんですね。」


 リビングの棚にある写真立てに親子三人で撮った写真が飾られている。中学の制服をきている美緒を真ん中に、親子三人が笑顔で写っていた。

 この写真を見るだけでも、美緒がこの両親からどれだけ愛されて育ったのかが伝わってくる。


「夫が亡くなり家族は私と美緒の二人きりになってしまい、このままあの子が養女であることを言わずに済むのなら…と思った時もありました。でも、あの子も17歳だし、いつまでも本当のことを隠したままというわけにもいきませんから、近いうちに事実を伝えます。だから、もう少しだけ待ってもらえませんか?」


「わかりました。」


 良一がそう言うと、順子は壁の時計を見る。


「そろそろ、美緒が帰ってくる頃ですか。」


「ええ。」


「じゃあ、僕は帰ります。」


 良一は床においていたショルダーバッグを手にとると立ち上がり、もう一度写真の美緒を見つめる。

 良一と美緒、ふたりの実の両親が事故で亡くなったのは良一が四歳、美緒はまだ0歳だった。


 引き取り手のなかった四歳の良一と赤ん坊の美緒は施設に預けられるが、その後別々の家に引き取られ、それ以降は美緒の一家が父親の仕事で海外移住していたこともあり、一度も会ったことがなかった。


 美緒が一家で日本に帰ってきたことを知り、初めて美緒の自宅を訪ねたのだが、まさか美緒は自分が養女だということや兄がいることを知らされていないとは思ってもみなかった。


 最近は養子として迎えた子供に、幼い頃からその事実を伝えておくことが一般化しつつある。

 この先、美緒は自分の過去について知ることになるのだろうが、実の親だと思っていた人が、そうではないと聞かされた時のショックを考えると胸が苦しくなる。


 良一は玄関ヘ行き靴を履いてからドアを開け外に出る。

 見送りに玄関の外まで出てきた順子に「それでは失礼します。」と言うと、二メートル先の門を出たところで、良一は振り向いて玄関前の順子に一礼してから再び前を向いた。


 すると、その時だった。

 ドンッと女とぶつかり、良一のショルダーバッグが肩から滑り落ちた。が、良一はバックを拾おうともせず、ぶつかってきた女を見ながら呆然とする。


 そこにいたのは妹の美緒だった



読んでくれてありがとうございました。

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