1.(元)初恋相手に告られた
よくわからない。
昼休み
ピコン
スマホが鳴った。
ポケットからとりだして、通知を確認すると幼馴染の和泉翠からだった。
クラス同じなのに、なんで直接声かけないんだろ、とか考えながらトーク画面を開く。
『あのさ、羽紅』
『どしたの』
『放課後、話したいことがあるんだけど、ちょっと教室で待っててくれない?』
『今じゃだめなの?』
『誰もいないところで話したいんだ』
『そっか、わかったよ』
『ごめん、ありがと』
最後に、
『いーよいーよ』
とかかれているスタンプをかえし、スマホの電源を切った。
放課後
「待たせてごめん。ありがと」
「んーん、全然。それで、話って何?」
「えーっと、あのさ…」
「ん、なに?溜めずにとっと言ってよ」
『…』
翠がすーっと深呼吸を一回した。
なにか話しづらいことなのかな。
いつもは言いたいことはズバズバ言ってくる翠が、何ていうか、こんなもじもじしてるのめずらしいな。
「翠、大丈夫?話しにくいこと?」
「そりぁ、そうだよ。だって…」
「『好きだ。僕とつきあってくれないか?』って伝えるつもりだったし…」
(え…???)
告、白?だよね?これ。え、誰、てか私に?
「あ、ごめん。いきなりすぎて、驚かせちゃったよね。返事はいつで」
「僕のことは振ったくせに」
気づいたら早口で翠の言葉に被せるように口からそんな言葉が出ていた。
え?私は今、なんて…?ていうか、今の、私が…?
そして急にぶわっと、なにか頭に流れ込んできた。
なに、この映、像…?
ここは…近くの、カフェ?
クラスの明るい、男子3人と私?が、一緒にいる?
私はカフェオレ…あ、違う。コーヒーを飲んで、楽しそうに話しながら勉強している。
どういうこと?
この人たちと一緒にカフェなんて行ったことない。
それに、私はコーヒーが飲めない。
匂いも嫌いだし、何より苦いのは、大っ嫌いだから。
「羽紅?」
あ、翠と話してたんだった。なにか、返事、言わないと…
わ。新しい映像がまた、流れ込んでくる…
ぅ、ん…?え?
今度は鏡の前で、ズボンを履いた私が、ブレザーのえりを整えている。
しかもこれ、うちの学校の男子の制服じゃん…なんで…?
ん?あれ?鏡に写ってるの、私じゃ、ない?髪が、短い?
え、でも、見たことがあるような…
これ、だれ…?
「ねえ?雫紅?ねえ、大丈夫?」
この、マッシュショート、って言うんだっけ?の、顔だけは私にそっくりな男の人。
っと、誰?この子?
えっと、え?なんで顔、こんなそっくりなの?
私は女だし、兄弟はいない。
いつも着ている制服だって、スカートで。
髪も、こんなに、肩より上に短く切ったことない。
私、こんな人知らな
いや、知ってる。
鏡に写ってる、この男の人は、僕。
え?
男?
僕?
あ。
あー、え、あ、そっか。思い出した。
これはただの映像じゃない。
これは、あれだ。僕の記憶。
最近小説とかで流行りの、前世ってやつなんじゃない?
あれ。でも、どうして?
私と僕の、
家
私たちの顔
家族の顔
誕生日
クラス
なんで同じなの…?
それに、僕の生きていた世界には、家族も、クラスの人も、幼なじみの翠も、その他のみんなもいるのに、羽紅はいない。
つまり、雫紅の生きていた世界に、羽紅は存在しなかった。
そして今、羽紅の生きているこの世界に、雫紅は存在してない、ってことだよね…?
???
わけわかんないよ…
「羽紅!?ねえ聞こえてる!?顔が真っ青…」
あ、ごめん、翠、なんか返事しない、と
あれ?なんか苦し、息、吸ってなかった…?
頭が痛い。それにちょっと、フラフラする。
もう立っていられそうにない。
うわ、倒れるのか…と思ったけど、翠が私の近くに来て、支えてくれたおかげで倒れずにすんだ。
だけど、だんだん体に力が入らなくなってくる。
翠が必死な顔で、私の名前を何度も呼んでるけど、返事ができない。
これは、雫紅のことを思い出したから?それとも酸欠?
多分どっちもだよね。
あー、パソコンがオーバーヒートをおこした時みたいなかんじ。体が少し暑い。
う、気持ち悪くなってきた…
「羽紅!え、?ねえ、羽紅!?どうしたの?羽紅!」
(うぅ、ごめん。翠…)
そして、だんだん目の前が暗くなっていった。