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6、炎の出会い

 留学生の班分けが行われ、ランカは第7班に所属することになった。

 アカデミーは縦割りで班が組まれ、すべての授業はその班ごとに行われる決まりになっている。


 この縦割りの構成は世界的に見ても珍しい教育システムだった。

 ほとんどの教育機関が学年ごとに学びを受けるのに対して、ここ正アルマゴートアカデミーでは、すべての学年が入り混じって教育を受ける。


 ランカは一等学生として第7班に組み込まれた。

 アカデミーは等級で学年が決められ年齢は関係ない。年下が上の等級ということもある。

 一等を筆頭に四等まである。一年ごとに一つの等級が繰り上がるということもなく、実力に応じて判断される。


 ランカは真火王国にいたころの成績優秀から、正アルマゴートアカデミーにやってきてすぐに一等学生となった。

 

 第7班に所属できたことは、ランカにとって幸運なことだった。第7班は教員シルカの担当だったためだ。

 しかし、実際に第7班のメンツを見ると、少しの不安が頭をもたげた。


 アカデミーの広い訓練施設にて、ランカは班員が集まった中、シルカによって紹介された。


「新しい仲間を紹介するわ。みんな注目」


 シルカがそう言うと、班員9名の目がランカのほうに向けられた。

 ランカは向けられた目の感じを確かめた。

 それらは5つの差別的視線と3つの友好的視線と1つの無関心な視線で構成されていた。


 基本的にあまり歓迎されていない気がした。ランカはその雰囲気を感じ取って不安な顔つきになった。


「ランカ・フレイランスさん。真火王国の王室アカデミーで大変優秀だったとっても素敵な女の子よ。みんな仲良くね。はい、ランカさんも自己紹介して」

「はい」


 ランカは緊張気味にもう一度班員の目を見渡した。

 特に目についたのが、中央にある「無関心な目」だった。ぼんやりと半開きな目はランカには向けられていなかった。彼の目は何を映しているのだろう。ランカはそれが一番気になった。


「ランカ・フレイランスです。みんなと仲良くできたらと思っています。よろしくお願いします」


 ランカは友好的な女の子としてずっと通って来た。アルマゴートの地でも自分らしく過ごすつもりだった。

 ランカの自己紹介に対して、2人は友好的に反応してくれた。


 そのうち一人はゴブリン族の男子学生だった。彼は立ち上がると、ランカに友好的な挨拶をした。


「よろしくな。おれはスローン・ランプバーナだ。ファイアーハンマーが得意分野さ。ふん」


 スローンは大きな炎を集約してハンマーを作ってみせた。


「どうだ、力強いだろ?」

「すごーい」


 ランカは笑みを浮かべて小さく拍手をした。

 ゴブリン族は人間と協力するようになったころから、人間社会に広く浸透するようになった。今はどの分野でも結果を出している。学者の世界にもゴブリンはたくさんいた。ゴブリンの知性はすでに人間並みだ。

 紅蓮術の使えるゴブリン族は人間よりも数が少ない。スローンはアカデミーでは珍しい存在だった。


「おい、お前らも自己紹介しろよな。しけた顔してんなよ。ほら、ヌイ、お前も」


 スローンは隣にいた男子学生に話を振った。彼はヌイと呼ばれた。

 ヌイはちょうどランカが気になった者のことだった。彼は今でも無関心な目を地面に落としている。


「おら、ヌイ。チームワークを乱すな。てめえのせいでチーム戦は最下位に甘んじているんだ。わかってんのか? あ?」

「黙れよ、奇形種のうすのろ」


 ヌイはぼそりとこぼした。


「あ? なんだと? 聞こえねえぞ、なんて言った?」

「一生しゃべれないように火の玉を飲んでこいと言ったんだよ」


 ヌイは表情を変えず、スローンのほうに目も向けずに早口でさらりと言った。


「なんだと、てめえ!」

「こらこら、喧嘩しない。あなたたちはいつも喧嘩ばかり」

「先生、こいつの非協調性を叱ってくださいよ」


 スローンはシルカにそう言った。


「ともかく今はランカさんを歓迎するための時間だから」


 シルカはそう言って収めた。

 第7班は何かと問題を抱えたチームのようだった。その中心にはヌイという人物がいた。彼は今でも非協力的な態度でたたずんでいる。

 ただ、ランカには彼の目がとても寂しい色に包まれているように見えた。


「じゃあ、みんなランカさんに自己紹介をしてあげましょう。スローン君はしてくれたから、ノローカちゃんからお願いね」

「はい、私はノローカ・フレイプルーンです。特技はうーん……ちょうちょかな」


 ノローカと名乗った女学生は自己紹介の後に、火のちょうちょを数羽作ってみせた。それはひらひらとあたりをただよった後に消えた。


「きれいね、よろしく」

「おらはトランダ・ヒートボムでがんす。爆弾の取り扱いなら任せてくんな」


 特徴的な男子生徒がトランダと名乗った。彼は火の爆弾を作ってみせた。


「要望があれば何でも爆破してあげるでがんすよ。どうしやすか?」

「必要になったらお願いね」

「チロル・フレイムチョコです」

「よろしく」

「ワンダー・フレイムランドです」

「よろしく」


 特徴のない男子生徒と女子生徒が端的に自己紹介を終えた。

 そして、スローンの隣に座っている少年ヌイの番が来た。

 彼は自発的には立ち上がらなかった。


「ヌイ君、自己紹介お願い」


 シルカがそう言ってもヌイはしばらくそこにたたずんだままだった。

 しばらくの間を経て、面倒くさそうに立ち上がった。


「ヘル・アルマゴートだよ。特技は死体を燃やすこと。でも生きた人を焼き焦がすのはもっと得意かな」


 ヌイがそう答えると、シルカがすぐにヌイを注意した。


「ふざけない。仮にも神様の名前を名乗るなんて何考えてるの!」

「以上」


 ヌイはそう言うとまた座り込んで、力ない目を地面に落とした。

 どこまでも協調性のない男子生徒だった。


「ヌイ、おら、ふざけてんじゃねえぞ」


 スローンが再び怒りをあらわにしたが、シルカが間に入って丸く収めた。


「彼はヌイ・フレイランス君よ。ランカさんと同じ一族だから仲良くしてあげてね」

「あ、はい」


 ランカはもう一度ヌイを見つめた。

 フレイランスという一族は真火王国で良く用いられている。

 フレイランスは一部がアルマゴートの北部に渡り、残りは真火王国に残ったとされている。


 ヌイは北部に渡った者たちの末裔なのかもしれない。

 彼らは真火王国から裏切り者扱いされ、アルマゴート帝国からも奴隷扱いされたという悲しい歴史をたどっている。


「それじゃあ、次」


 すべての班員が紹介された。

 ランカは数多くのアルマゴートの炎と出会ったが、その中でもヌイの炎がとても印象に残った。

 彼の炎はとげとげしくもあり、そして儚くもあり、どこか愛に満ち溢れているようでもあった。

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