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2、留学生

 正アルマゴート帝国は紅蓮術師のメッカとして有名で、友好国から数多くの紅蓮術師の卵を留学生として迎え入れていた。


 生まれつき、血に炎の魔力を持つ人がいる。

 彼らは「昇火者」と呼ばれている。

 昇火者の歴史はそれほど長くない。


 かつて、火吹きデビルがあちこちにいて、人間を襲っては食用や代理母として利用していた。

 人間を使えば人間の知能が得られると、デビルの最盛期には人間とデビルの両方の血を引く「デモノイド」がたくさん現れた。


 デモノイドが増えると、デビルは滅亡に向かった。


 デモノイドは繁殖力が大幅に衰退する傾向にあり、質より数で成り立っていたデビルは環境の変化に適応できなくなった。

 そこに追い打ちをかけるように、同じ時代にゴブリン族は人間と協力するようになったから、デビルは人間の力を借りたゴブリンに狩られてしまった。


 火吹きデビルは絶滅して、一定数のデモノイドが残った。

 デモノイドの血が現代まで続き、「昇火者」は全人口の約1%を占めている。

 彼らは生まれつき差別の対象になることもあったが、生まれつき紅蓮術師として大成する夢の道も与えられていた。


 正アルマゴート帝国は帝国主義によって各地を制圧したが、偶然にもデモノイドの多い地方を手中に収めた。

 それゆえに、この国は紅蓮術師のメッカになった。


 アルマゴートの名を冠したアカデミーが7つあり、広く留学生を募っていた。


 ランカ・フレイランスもアカデミーに留学生としてやってきた。

 彼女は南方にある「真火王国」からやってきた。

 真火王国はかつて「聖なる炎、シン」が治めるシン統一国の一部だったが、「シンの反乱」という歴史的戦争を経て独立。

 いまは正アルマゴートの小さな友好国としてある。


 真火王国は、火吹きデビルに由来する昇火者が全人口の10%以上を占める紅蓮術師の卵が豊富に眠る地でもある。

 小国ゆえに資金力に乏しい。有能な卵は正アルマゴートに移ることが多かった。留学生は学費がかからないためである。


 ランカはそうした都合もあって、正アルマゴート帝国にやってきた。

 列車ではるばる霧深い峡谷を抜け、「太陽の頂」という荒野と高山が同居する地を抜け、正アルマゴートの地にたどり着いた。移動にかかった日数は実に5日。


 ランカはアルマゴートの地に立った。駅には羊肉を焼くにおいが充満していた。

 赤い羊と緑の猫が出迎えた。このあたりに生息するデビルの一種だった。赤い羊は火を吹くので、紅蓮術師にとっては友人のようなものだった。その友人を食べるのも紅蓮術師だった。

 昇火者は肉食であり、肉以外は一切口にしない。野菜を食べようものなら、その毒に数日苦しみ、最悪死ぬこともある。


 あちこちに看板が上がっている。


「漆黒のデビル出没に、厳重警戒せよ」


 最近、物騒なデビルがアルマゴートの都市に出没しているという話はランカも聞いていた。

 しかし、見上げる済んだ青い空は平和そのものだった。高地を吹き抜ける風も心地よい。そんなに気にしなくてもいいだろうと考えた。


 太陽の頂がそびえる高台を降りると都市が広がっている。

 都市の郊外は緑の大地が広がっていて、家畜が群れをなしている。

 あちこちに肉屋が点在した。


 ランカは肉屋の一つにやってきた。そこは大きな川のほとりにあった。

 ランカはいつもとんがり帽子をかぶっている。昇火者が持つ頭の触覚を隠すためと、紅蓮術師の正装のためである。


「へい、らっしゃい」


 肉屋の主が元気に出迎えた。彼は大きな体に陽気さをたっぷりと蓄えていた。

 右手には包帯が巻かれていた。


「こんにちは。真火王国から来ましたランカ・フレイランスです」

「おー、君がランカか。こんなにかわいい子とは思わなかったな。うちの娘の次ぐらいにかわいい」

「どうも」


 ランカは頭を下げた。ランカのイメージでは、アルマゴートの人は帝国主義に染まった怖い民族というものだったが、この肉屋の主は真逆のイメージで現れた。

 ランカは留学の半年間、ここにホームステイすることになるのだが、馴染めるのか不安になった。


「おーい、メーメル。ランカがやってきたぞ。早く来い」


 主は自分の娘のメーメルを呼んだ。

 メーメルは微笑みをたくわえてランカのもとにやってきた。


「あなたがランカさんですか。まあ、なんてかわいいのでしょう。とても羨ましいですわ」


 メーメルはランカを一目見て、その美貌を羨望した。

 昇火者からはよく優れた容姿が生まれた。しかし、いいことばかりではなく、昇火者の寿命は普通の人間の3分の1ほど。平均すると20歳で亡くなる傾向だ。

 ランカは14歳とまだ若いが、昇火者の宿命ゆえ、彼女の人生はすでに佳境だった。


 メーメルも大変可愛らしい容姿をしていた。

 体はとても細く病弱にも見えるが、彼女の微笑みは太陽のようだった。


「なに言ってる。メーメルが一番だろ」と主は言う。

「そんなことないですわ。ランカさんが一番ですわ」とメーメルは言う。

「そんな馬鹿なことがあるか」と主は否定した。


 主はどうしても自分の娘を一番にしたかったようで、ランカに誘導尋問のように尋ねた。


「どっちが一番だと思う?」

「あなたの娘さんが一番で、私はずっと下のほうです」


 ランカのその一言がすべてを解決した。


「そうかそうか。しかし、ランカが下のはずがない。紛れもなく娘に続く2番目だ。自信を持て、わははははは」


 ランカは今でもこの雰囲気になじむことができるか心配だった。

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