スタンピード予告編
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今回はアリサだけがガンガンにかっ飛ばしていきます( ̄^ ̄)
「ふむ、出撃とは穏やかではないな。アリサや、何処へ討って出たいのかな?」
「ハリシアにですわ、お祖父様」
「おや、王家に対してではないのだね」
「さすがに御冗談が過ぎましてよ──ああ、パイが焼き上がりましたのね。テーブルまで運んでくださいな」
この娘、本気で底無しの胃袋なのではなかろうか。
席へ戻った彼女の前に並べられる二つのパイ。なかなか大きい。
いや、そうではない。出撃とはどういう意味だ? しかも故郷にだと?
サクリ、サクリと丸いパイが三角に切り分けられていく。
「アリサよ、お前はハリシアを討ち滅ぼしたいのかね?」
「いいえ。お祖父様はわたくしの発言の根拠をお知りになりたいのですわね。理由は簡単。ハリシアを守るためですわ」
「出撃と言うからには挙兵であろう。兵をあげるにはそれなりの理由が必要だの」
「それを申されますと痛いですわ。ただ見落としていた可能性に行き着いただけですもの」
「可能性の中身は何だね?」
「スタンピード」
レイモンド翁だけでなく、その場に居た面々の目が鋭い光を宿す。
その間にも湯気らしき蒸気を一瞬フワリと上げて、パイがアリサ嬢へとサーブされる。
「根拠は?」
「反動ですわ」
「何の?」
レイモンド翁の問い掛けに対して、アリサはミートパイを口にして暫し時を稼ぐ。
「モグモグ……………ここからはわたくしの独り言としてお聞きくださいませ」
何かまずい内容でもあるのだろう。アリサの一応の断りに翁や王家の面々が頷いたのを確認してからアリサは口を開いた。因みに、その間もアリサはパイを頬張り続けている。
「モグ………わたくしは学園に上がってから見定めた特定の草木を観測し続けてございますの。その過程で偽茨リリンという樹木に季節外れの花芽が付いたのに気付きました。そしてその花芽が咲いた後、寒波が来るという昔の方の手記を読んだのを思い出しましたの。因って今年の冬は厳しくなるという予測を立て、既に父に報告済みです。但し問題はここから。先程申し上げた“花芽”が雪、もしくは寒風の半精霊であるらしいと判断、結論致しました。つまり、今年の冬は精霊の異常行動、もしくは異常発生に伴うものでしょう。そうなれば、必ず何処かで帳尻合わせ、反動が出ます。その反動は精霊の故郷の一つ《帰らずの森》を抱えるハリシアにて発生する可能性が極めて高こうございます」
「素人判断なのだが──」
話に割って入ってきたのは第二王子。
「花のような半精霊は、あの籠に入れられている白い花の事だろう? あの程度の数で、君が案じるような事態がもたらされるのか?」
「その件に関しては私から報告します」
第二王子バルドの疑問に対応の声をあげたのはジオラスであった。
「アリサ嬢が観測に出られずに居た期間、私が代理として観測を続けさせてもらいました。その期間は冷たい雨の日が続いたのですが、雨に呼応するように一気に花が増えて、いまや満開の様相です。アリサ嬢は私の記録を確認後、直接対象樹木を確かめております」
報告を聞いた者達は唖然とした。しかし素早く立て直した第二王子が命令を出そうとしてレイモンド翁に叱責を受ける。
「……数は大変だろうが、その半精霊を全て駆除してしまえば良い──」
「シメサツシと同じあやまちを犯すおつもりかな?」
静かだが重い老人の言葉に二の句を告げられる筈もなく、一堂押し黙る。
しかし淡々と説明を続けるのはアリサだ。
「そもそもが、その半精霊が寒波の原因であるとは言えぬのでは? 寧ろ結果的に増えているのであろうとわたくしは予測します。元々の原因は風上にあるシメサツシ国にあるのであろうと思われます」
「ああ……………」
シメサツシは近年、精霊に見離された国として誤魔化しが利かなくなっている。
「件の風上の国は、精霊に見離されたのではなく、大量に精霊、神獣の類いを虐殺してきた」
「アリシア嬢! 何処で誰が話を洩らすとも限らないのだぞっ」
「国際問題になり兼ねない発言は慎むように」
「はて、何の事でしょう?」
アリサが素っ惚ける。確かに話に入る前に彼女は独り言であると断りを入れている。しかも肝心の時だけ国名を伏せてもいる。だが、ここまで散々国名を出してしまっているのだ。万が一を考えると頭が痛い。だからこそ、王家の人間──第二王子と王太子によって注意と警告を発したという茶番が必要なのだ。
「いずれにせよ、失われた反動が来るとしたら──」
「生まれる場所である“ハリシア”である可能性が高いという理屈か……」
レイモンド翁の回答にアリサはウンウン頷きながら、今度は林檎パイを頬張る。
「酸っぱい……♡ そのような次第でして、もしもスタンピードが発生するなら、属性は──」
「氷、寒冷の反対、炎系列だね!」
ジオラスからの元気なお返事。
「うーむ……………心情的にはハリシア軍を動かしたい。しかしお前の予測では軍までは動かせん」
「御隠居!」「御前様!」×ハリシア組
「ええ、ですから、惜しげなく投入できる地元の爺様方を最前線に出しましょう」
「天使様っ!」
さすがにハリシア組から批難の声があがるが、アリサはやはり淡々と続ける。
「爺様達の背後に婆様方を配置して」
「うわー……」「鬼の所業だ」「まさに背水の陣」
「ある意味、婆様達の方が強いですからね。しかも何のかんの言っても爺様達は婆様方にぞっこん。愛する婆様方を背後に据えれば、死に物狂いで死守するしかなく、しかもおいそれとは死ねない」
「鬼の采配……」
「いや、さすがは儂の孫だの」
鬼を連呼するガロンドの呟きを真っ向から否定するレイモンド翁。
「貴方達も呑気にして居られませんよ。スピカ以外は全員休暇を取って帰郷。参戦してもらいます。配置は婆様達の後方。しっかりと現場を学習するように」
「事務方の俺達もですか!?」
「そうさの。経験を積んでおいて損はなかろう」
アリサの意見に同調を示すレイモンド翁。
「事務方は情報伝達等の後方支援。二人の騎士はその護衛。スピカはまだ虚弱体質が改善されきっていないでしょう? ですからここで皆の席を守っていてください」
「……はい。でも天使様と一緒にお留守番ですね」
「いいえ。わたくしは現場に出ます」
「アリサ!?」「天使様!?」「アリシア嬢!?」
聞いていた全員が驚愕した。
「総指揮官は兄か母のどちらか。どのみち現場その物には立てませんし立たせません。何より通信手段においてはわたくしに一日の長あり。ならばもしもに備えてわたくしが現場に立つのが最善かと。それに、地元のジジババを危険に放り込むのです。アリシアの人間が一人も立たぬでは示しが付きません」
「駄目だよ! アリサは観測だってあるんだから!」
「観測」という単語さえ出せば止められると判断したのだろうジオラスの必死の言葉に、アリサは微笑みを浮かべた。
「わたくしが意識不明であった間に欠かさず観測を続けてくだされたジオラス様にいま一度の感謝を。そしてジオラス様がこちらに居られるからこそ、わたくしはハリシアへ参る事ができるのです」
それはつまり、ジオラスは見送り組で決定であるという通達以外の何物でもない。
「そんな………」
男心を全く考慮しないアリサ。突き放されたジオラスへの同情が集まる。そんなジオラスにかけられたレイモンド翁からの慰めが、慰めどころか物騒なトドメとなるのだ。
「アリサは時折、まるで生き急いでいるような娘でな。申し訳ないの、婚約者殿」
「何を仰います祖父様っ。稼ぎ時でしてよ!」
「ん?」
「炎系列のスタンピードなら、炎の魔石がたんまり手に入りましてよ! ハリシアはこれで冬が越せますし、時と場合によっては他領に売り払っても宜しいのですわ!」
「お前……本当に抜かりが無いの」
スタンピードに相対する悲壮感は何処にも欠片も無かった。
おまけ
焼きあがったパイは、ホール以外にブロック状の物もあった。ハリシア組やジオラスへは片手で持てる長方形の塊を一つずつ二種類。
「あら、片手パイは随分余りますのね」
「材料を無駄にしたくなくて、残れば賄いの付け足しにでもしようかと」
「でしたら申し訳ないのだけれど、片手パイは護衛の騎士様方にお配りできないかしら?」
「ワタシは喜んで!──料理長!」
「他所の方々の感想も聞きたいんで、こっちは構いませんよ」
「では片手パイはお配りしてくださいな」
「証拠隠滅の為に全員この場で食べきるようにの」
「ホールの方は……わたくし一人では飽きてしまうわ……」
ホールはハリシア組の分が丸々余る形で、アリサが二ホールずつ、残り四ホールずつ余ることになる。
「アリサや。王家の皆様に御相伴いただきなさい」
「けれども祖父様、安全性に問題はございませんかしら?」
「その為の毒味じゃろう。出すだけ出してみるがよい」
──ありがとうレイモンド翁!♡
まるで元気な声でも聞こえてきそうな揃いも揃った満面の笑顔。
特に真っ先にがっ付いたのが、必然としてのお毒味役。一人でガツガツワンホール近く平らげ、王家の顰蹙を買ってもアリサの真似をしてミートパイにはサワークリームを、林檎パイにはマスカルポーネクリームを乗せて、それはそれは幸せそうに舌鼓を打ったそうな。
何はともあれパイは好評で、パイを賄賂としてハリシア組の休暇をもぎ取ったのである。
アリサ周囲の苦労は絶えません(T_T)
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