90.海の椀物~三種のサラダ
数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(^人^)
本日はハリシア料理をお届け致しますm(_ _)m
「皆様ごめんなさいね。お米が手に入りましたので、お先に梅干しの白粥とリゾットをいただいておりましたの」
「娘は一応、病み上がりだからな。父も旅の疲れが残っている。だが粥の類いを付き合わせるのもどうかと思ってな、先に始めさせてもらった。さて、皆が揃ったなら改めて始めるか。父上もアリサも宜しいですね?」
アリサとアリシア伯爵が音頭を取ってくれるが、やんごとなき方々は無視されている形だ。それで良いのか!? 招待された面々は落ち着かない。
「あちらは関与してはいけない方々だ。目に見えない仕切りがあると思いなさい」
レイモンド老人の注意に従う形で、招待された側の若者達は無理矢理に意識から高貴な面々を閉め出す。確かに関わってはいけない方々だ。
アリサが次の品を出すように指示して出て来たのは椀物。ただし器はスープカップ型。
「ああ、お出汁が良く引けている。中の捏ねは沖蝦と……烏賊ね? 工夫を凝らしてくれたのですわね」
「はい! 輸送には鎧海老の方が楽なのだそうですけど、天使さま…じゃなくてお嬢様発案のコンテナと冷凍輸送の実験も兼ねて、弱い物を運んで来たそうです!」
訳すと、アリサは出汁が上手に取れている。日本風に言うと小型の蝦と烏賊で捏ねを拵えるという工夫が嬉しい。ミアは日本で言うところの海老の方が輸送に向いている。しかし敢えて輸送の難しい傷み易い蝦や烏賊で実験を兼ねてハリシアから食材を運んで来た。そしてミアの口振りから察するに、コンテナなる物と冷凍輸送なる物はアリサの発案らしい。………輸送が変われば物流が変わる。物流が変われば経済が変わる。それに気付いた者達──主に王家の男達は口を挟もうとしたが、あっさり話題は変わって行くのだ。
「これなら良いわ。お出しして。そしてアオサと粉海苔もお願い」
アリサが頷いた事により、年嵩のハリシア領主親子とクルイウィル兄弟、ハリシア組のテーブルへ同じ椀物が運ばれる。
その間にアリサはアオサのうつわに手を伸ばすのだが、袖を抑える所作が年齢に見合わぬ色気を伴った美しさに目を奪われた者は多い。特に王女が感激していたのだが、それはまた別の話。
「美味い!」「嗚呼……懐かしい味だ……」
ハリシア組から喜びの声が上がる。
アリサが今度は海苔の皿に手を伸ばし、豆皿に盛られていた海苔をゴソリと椀に空ける。いかにもドロドロとした黒くなった汁を匙で掬って口に運んでいるが、アオサも海苔も知らない王都の人間の目には、理解不能の食べ物に映っている。だがアリサの《食》に絶対の信頼を寄せているジオラスは、何の躊躇いも無くアリサの真似をした。結果──
「! 海だ! 海の味だ!」
感動に目を輝かせる弟の姿に、弟の後を追う兄クラウス、とは反対側のテーブルでハリシア組の一人が汁が足りないと騒いでいたり……。アリサの采配で汁の足りない者には出汁汁が足される。
「お出汁を配り終えたら、サラダを大皿でお出しして。ああ、わたくしには出さなくて結構よ」
アリサの指示で用意されたサラダは三種。ポテトサラダにコールスロー、トマトやパプリカやズッキーニ等の彩り野菜の温野菜サラダ。それらを銘々好きなようにサーブする形らしい。
因みに王都の人間からすれば、全てが未知の料理だ。椀物はスープだろうと思えば、謎の離乳食擬き。ポテトサラダは白っぽいモッタリした何か。コールスローサラダはキャベツと人参が細かく刻まれているらしいとしか分からない。彩り豊かな温野菜サラダに至っては、炒め物か何かに思える。ついでにどれ一つとして料理の名前も予想できない。それでも確かな事。それは初めの椀物はともかく、後から出されたサラダは三種とも野菜だろうということ。野菜なのに美味そうに見えること。その明らかに美味なる料理が自分達の口には入らないだろうこと。
王家や騎士達の腹が空腹を訴えて鳴った。




