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【本編完結】とある(残念)イケメン観察…しない残念令嬢  作者: 泉ヶ森 密筑


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レイモンドの叩き売らない訪問販売

数ある作品の中から拙作をお選びくださり、ありがとうございます(^人^)

☆評価、ブクマ、いいね 等、ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ


とどのつまり、おじいさんは自慢したかった。



 訪問販売か何かかな。土産と称して持ち込まれた品数が多岐にわたり過ぎる気がする。


「いや、すまん、すまん、すまなんだ。殆どが孫娘への土産でな。本来ならタウンハウス辺りに置いてくるのだが、当の本人が何故かこの城で世話になっとるとか。ああ、ぼんへの土産は酒だけなのだよ」


 チクリ、チクチク。

 胸に刺が刺さります。

 因みに「ぼん」とは国王を指す名称です。この老人から見れば、大抵はボンボンでしょう。さすがに公式の場ではしないが、このように極めて私的な空間では子供扱いされる事がある。

 それはそれとして──


「それ、刷毛(はけ)ですよね? 令嬢に刷毛のお土産ですか?」


 ローテーブルの上に山と積まれた荷物の中に、持ち手まで草らしき物で編まれた刷毛としか表現できない草の束があった。


「ん? これの事か?」


 老人が手にする。


「これは箒じゃよ」

「いえいえ箒って、こんな小さな箒なんてありませんよ」

「だから作った。こうして机の上をサッと掃いたり、服についた(チリ)を払ったり、なかなか便利な逸品よ」

「ください」

「幾つかあるから構わんが、一本だけじゃぞ」

「厚かましくて申し訳ありません。感謝します」


 老人は朗らかに笑いながら手にしていた一本を手渡ししてくれた。


「他は…随分と箱が多いですね」


 多いと言うより、箱ばかりてある。勿論中身が気になるが、露骨に見せて欲しいとは言えない。

 王の内心などお見通しだとでも言うように、老人が箱の一つを手に取った。書類を入れるのに良さげな大きさの黒い箱だ。だが天板は木目が透けて美しく、漆黒であるのは側面だけのようだ。その蓋をそっと開けて裏返しにすると、裏──中は絢爛豪華の一言であった。漆黒を下地に、朱色と金彩の花々、そして真珠とオパールを足したような光を放つ蝶や小鳥が描かれている。王ばかりでなく宰相まで息を呑んだ。


「これらの箱は孫娘の依頼でな。今見ている物は螺鈿細工という。金彩は蒔絵という漆細工よ。このような趣向にせよとの要望でな」

「わざわざ外面を地味に?」

「これ見よがしは下品だと言うて嫌う娘でな。だが職人が言うには、あれの求めが一番厳しく怖いそうじゃ。この木目を生かした塗りは寿命が縮んだと言いつつ、達成感に満ちた顔をしておったなあ。ほほほ」


 ………なるほど。華やかな内側の細工以上に、一見地味に見える外側に技巧が凝らされているという事か。見る者が見てこそ分かる、通好み。あの娘──アリシア嬢は癖がありそうだと見ていたが、なかなかどうして面白い。レイモンド老人の孫娘というだけの事はありそうだ。


「露骨な装飾を厭う割に、そちらの箱は賑やかですね」


 老人が「よいしょ」と箱を動かす。黒い箱よりしっかり重そうだ。


「派手な割には色味は……何と言うか」

「彩色はしとらんぞ」

「は?」

「全て木材の色だ」

「え!?」

「色味の違う木材を模様に見えるように寄せ集めておるので、寄せ木細工と言う」


 箱の蓋を開けて裏返して見せてくれるが、なるほど表側と幾何学模様が同じであるようだ。


「本当は薄く削る物らしいのじゃが、まだそこまでの技術がのお……」

「……………中身は、貴重な紙のようにお見受け致しますが」

「うむ、種類の違う紙の試作品よな」

「紙は紙では?」

「厚さと材質が違う。我が家は息子も孫達も紙を消費するでな。この土産は譲れん」


 現在のフリングホーニでは、紙は輸入頼みである。市井では羊皮紙やパピルスを使うのが一般的だそうだ。紙を自国で生産できるならそちらに頼りたい。

 宰相の目がキラリと光った。


「先代殿。物は御相談ですが──」

「まだまだ紙は売り物んにならんぞ」

「お言葉ながら、ハリシアは喉から手が出るほど現金を欲しているはず」

「紙はの、雪深い山間の、冬の産業じゃ。少なくともハリシア(うち)ではそうじゃ。しかも女子供の仕事での、手の感覚が無くなるような冷水を使うのじゃ。それを冬の間、殆ど毎日雪や川の氷を溶かした冷水を使うでな、手が真っ赤に腫れて見ておれん。それでも男は外に狩りに出ねばならんからの、どうしても女子供の仕事になる。ハリシア産の紙はどうしても冷水でしか仕込めぬでよって、雪に閉ざされる季節の豪雪地帯の産業となる。よって、どう頑張っても大量生産には向かん。欲張って注文を受け付けても、生産が追い付かん」


「レイモンド老、そちらの箱は何ですか? 他の箱とは違い、脇に取っ手が付いていますが」


 ハッキリ断られても宰相が食い下がりそうであったので、王は無理矢理話題を変えた。空かさず流れに乗るは、レイモンド老。


「こっちの幾つかは、箱は箱でも引き出しじゃ。中には孫娘への反物が入っておる。これも冬の産業じゃよ。いつ頃からか云われ出した『ハリシアは冬が美味い』と言うは、食べ物だけの事ではないという事じゃの」


 取っ手を引っ張ると本当に引き出しで、中には一箱に三本の布の巻物。それぞれ色も光沢も違い、刺繍ともレースとも違うのに模様がある。


「この織物は織りだけで模様を出しとるという話じゃが、生憎私では良う分からん。だが反物を入れてきた箱は指物(さしもの)と言うて、釘の類いを一本も使(つこ)うとらん」

「……仰られている意味が分かりませんが」

「どうやって作っとるのかは、不思議の一言よ」

「………益々分かりません」


 レイモンド老人は朗らかに、ほほほほほ、と笑うのみであった。




 王も宰相もその時はついぞ気付かなかった。レイモンド老人が披露してくれた品々は、アリスが手掛けて領地に与えた物であることを。








本当はアリサが領地を離れる前にチェックを入れていたはずのアレコレ。アリサは毎日のように海のお掃除をしていたので、産業に関しては第三者に任せていました。レイモンド老人はその一部を持って来た訳ですね。

思いもかけずセールスになった訳ですが、レイモンド老、半分は狙ってました。


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