同郷のお茶会は夕方から
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王に書類を提出しに来た時には居た魔術師長は何処に行ったのか?
ハリシア出身の文官や武官(皆若者)を集めて城の本館の食堂に居た。既に夕方であったが、今は日の長い時期である。軽食を摂りつつのお茶──アフタヌーンティーと洒落混んでも食事は少し後ろにずらして問題無いだろう。
そして既に若者達は領地の天使様の話で盛り上がっている。これでも初めは魔術師長を警戒していたのだ。何故領地のお嬢様の話を聞きたがるのか、と。そこを正直に、魔術師棟の麦刈り──地球の日本で言うところの青田買いだと教えると、若者達はさすが天使様だとはしゃぎ出したのだ。どうやらアリシア嬢は領民に好かれているらしい。だが魔術師長は単純に気になった。
「天使様ってのは何だ?」
「あ、姫さ──じゃなくて、アリサお嬢様のことです」
何でも上から、御領主様、領主夫人を奥様ではなく女神様、嫡男を若君、アリサ嬢を天使様、末の次男を坊っちゃま、と呼んでいるらしい。……女性二人に対する敬称がおかしい……。
何はともあれ彼等は今、ジャガイモを茹でこぼした物にバターを乗せた料理をつつき始めていた。これは厨房に頼んでわざわざ茹でてもらった一品である。
「ジャガバター懐かしい」
「あ、そっちも?」
「だってこれ、天使様が領内に広めた料理でしょう?」
「貧乏だったからなぁ……。食えるようになってからでも美味い」
「ほんとは蒸した方が美味いんだけどなぁ」
ムシタ? ムシタジャガイモ? って何?
周りでこっそり聞いているその他大勢が口を挟む余地も無く、会話の花は咲き乱れる。ムシタジャガイモが気になりつつも、取り敢えずの相槌から会話に参加を試みる魔術師長。
「ああ、ジャガイモなら大抵の土地で育てられるからな。……………ん! 美味い!! なんだこれ!? これなら俺でもできそうなのに、こんな美味くて良いのか?」
しみじみとジャガイモをつつく若者達を真似てジャガバターを口に運んだ魔術師長の目が輝いた。一方若者達は、厨房から予め貰い受けていた昼の残り物をそれぞれパンに挟んでいく。先程までつついていたジャガバターは吸い込まれるように無くなっていた。
「ジャガバターもいいけど、俺はやっぱり塩辛乗せてー……!」
「あ、北の港町の保存食でしょう? あたしあれ苦手」
「俺も子供ん時は無理だったけど、酒呑むようになったらいつの間にか、な」
「あー、味覚って変わるよな。子供ん時は無理だった野菜とか美味いとか感じるようになってるもんな」
「その逆も然りってな。子供ん時は美味かったのに、今じゃちょっとってのないか?」
「ある!」「無いな」
「野菜に関しては天使様のお力だろ。野菜の改良とかも熱心だったもんなぁ。素朴なモンばっかだったけど、満足感っての教えてもらったよ、俺は」
「それな。天使様の食の改革、半端ないもん」
「あ、それほんと大きいよな! 今までその辺にあったのがあんな美味かったのかってのザラだもんな。野菜より果物改良が凄いと思う」
「そうそう。色々、本当に食の幅が広がったよな」
彼等の天使様自慢は止まらない。
何でも食の改革が高じて家屋敷の有り様まで変えてしまったという。田舎では家の周囲に食べられる草木を植え、山里と呼ばれる村の周囲の山を整え、禿げ山には木の苗を植え、土さえ乾き死んでいる場所には草木の種を忍ばせた泥団子を方々に撒く。
「泥団子作んの楽しかったなぁ」
「草木植えるのとか子供の仕事で、お小遣い程度だけど賃金も貰えたんだよなぁ」
「あれで働く楽しさを学んだ……」
「勉強なんてつまんねーとか思ってたのに、いつの間にか楽しくなってた」
「みんな、笑顔が増えたよね」
「死人は減ったわね」
「食べ物と薬のおかげだね」
「食べ物も薬も天使様のおかげ」
「それなんだけどさ、天使様って何でもその辺の物食べちゃうでしょ。あれで何度も倒れてるじゃない。あれ、心配なんだよね」
「あ、それ、たぶんウチの村のせい。寺子屋で食中毒出してから毒中心に食べるようになったから」
聞いている外野は!!!? の嵐である。
「あれからすぐ天使様お手製の図鑑が届けられたんだよ。食べられる植物と、そっくりで危ない植物が並べて描かれたヤツ。注意書きとかもあって、村単位でスッゲー助けられた」
「それきっと、切っ掛けで根本的な動機は違うと思う。天使様のお小さい頃は女神様がお身体弱くていらしたでしょう? 天使様、女神様のお薬探してるって聞いた事あるもの」
「天使様の薬で、随分助けられたよな。死にかけた妹も天使様の薬で助けてもらったんだ」
「……天使様、大真面目に死にかけながらの薬品開発だったからなぁ」
「過去形じゃなくて、今でも続けてるらしいぞ」
「……………変わらないな(ね)」
ちょっと待て! 天使様とは何処ぞの御令嬢であろう。それが拾い食い? 拾い食いから薬品開発? 最初の方の北の保存食とは何ぞ?
盗み聞き集団の混迷は深まるばかり。
「話は変わりますが、私が田舎を出て来る前くらいで、また新しい工芸品が形になったんですよ!」
「それも天使様発信?」
「はい、そうです! 寄せ木細工っていうんですよ!」
「細工物ならこっちもあるぞー♪ 勿論天使様発信だ」
「それならこっちだって──」
同郷らしい若者達の話は咲き乱れる。本当に天使様とは何者なのだろう?
魔術師長は若者達の話を聞きながら、周囲で目を白黒させている聴衆を楽しく観察するのであった。
今回限りにしたいハリシア出身の領民達。若者限定。いかがでしたか?
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