お兄ちゃんのツブヤキ
クルイウィル家お兄様視点
家の末っ子には問題がある。外見が目立つという意味で。
そもそも我が家の生まれは瞳が特徴的過ぎる。青いオパールの瞳。クルイウィル家直系にのみ生まれる瞳。この瞳だけでも魅惑的だと云われて久しいのに、弟は大層見た目が良い。鴉のような見事な漆黒の髪に鼻筋の通った眉目秀麗な白皙。まだ成長途上であるため中性的な細さ。
……因って、大変モテる。僻みはない。僻めない程モテるのだ。一家総出で心配しなければならない程モテる。物語であるなら無理な設定でも気楽なものだ。しかし現実だとまるで笑えない。弟は女癖が悪いどころの話ではなく、女性が苦手になってしまった。将来は(極力)女性に縁の無い職場、下手に縁談を薦められないよう(仕事柄話が纏まり難い)騎士を目指すと言っていた。しかしここに来て同性にもモテ始めたらしい……。
弟に対する同性──特に同年代の反応は顕著だ。極端に嫌って避けるか、妙なまでに馴れ馴れしく懐いてくるか。らしい。これはダリアからの情報だ。
ダリアは我等クルイウィル本家の守護者である。
守護者とは何か。
家を護る精霊と謂われている。実際の正体は分からない。だが憑いている家を護るのは確からしい。そして守護者の憑いている家は栄えるとも謂われている。守護者の存在は基本は秘される。(やもえぬ事情で公開した家もある。)当然我が家も秘密にしている。
幸い我が家の運営は上手くいっている。それもあって弟が物心ついてからは、もっぱら弟の面倒を見てもらっているのが現状だ。今回弟が学園に入るのに合わせ、ダリアには学園の非常勤の教師になってもらった。学園の方でも時折この手の要請が来るとかで、職員には常に空きが用意されているという。……色々思うところはあるが、学園の方針は他家に絡む事だ。我が家も助かってるしな。何も言うまい。
とにかくそんな訳で、学園内ではダリアが弟を守護してくれている次第。
そのダリアから至急の連絡が入った。ジオラスのロッカーが荒らされたとのこと。正確には手紙やその他贈り物が溢れかえってロッカーの扉が壊れたらしい。何だそれ? 扉が壊れる程の贈り物とはどれだけの物量なんだ? と思ったが、連絡の手紙を読み進めて違うと分かった。どうやら傍迷惑にも魔道具が複数紛れていたらしい。その魔道具が互いに魔力拮抗を起こし、結果としてロッカーを壊したという。………本当に傍迷惑な。家が弁償するのか? ロッカー一つくらい、ではないだろうな。おそらく在学中は毎日のように同じ事が繰り返されるのだろう。ロッカーの方を強力な魔法か何かで守るしかなさそうだ。はぁぁ………。
それらの贈り物は複数人から勝手に詰め込まれた物で、弟には一切責任が無い旨が明記されていた。鍵まで壊されていたのだから、まあ言うに及ばずだな。今回は弁償の責も無いとも書かれている。うん。おそらく学園側も私と似たり寄ったりの考えに至ったのだろう。
最後の最後に、ダリアにとっての本題が記されていた。
曰く──発見者の女性徒に会って欲しい。
本日私は屋敷での仕事であった。そしてできれば本宅に無用な人間を招きたくない。外で会うなら、怪しげな噂を立てられない状況が好ましい。そうだ。学園で会おう。教師も巻き込んで証人になってもらえば後々の面倒事も避けられるだろう。それが良い。そうしよう。私はその旨ダリアに即座に折り返した。更なるダリアからの返答──提案は昼食会。
こうして即日の邂逅がなされる。
まだ続きます