新たなオッサンズ
拙作をお選びくださり、ありがとう(^人^)ございます
偉いおじ様達登場。
午後はアリサの観察をしながら、夏休みの宿題に取りかかる。筈だった。
「ジジイも仲間に入れておくれ♡」×二
好好爺の顔をして突然やって来たのは、口髭眼鏡痩身の分かりやすい好好爺がまず一人。こちら見た目こそ好好爺であるが、腹の中は全く見えない。
二人目は年齢不詳の二枚目。二十代後半から四十代後半まで、幾つと言われても頷いてしまえる見た目。こちらも腹の中は全く見えない。
今のジオラスに言えること。この二人を敵に回してはいけない。直感が怖いと告げている。
そしてある意味、正体不明の上記の男達と同格に凄い女、アリサは二人の存在に気付いていない。何故か。今朝方採取して来た花なのか蟲なのか良く分からない(たぶん)生物を熱心に観察している真っ最中だったから。二つの虫籠を並べ、じーっと眺め続けて大分経つ。彼女は飽きずに眺め続ける。
「アリシア嬢、アリシア嬢……!」
アリサの近くに座っていた次兄──クラウスがいつの間にか立ち上がりコソコソ名を呼ぶも、やはりアリサの耳には届いていないもよう。
アリサはクラウスの呼び掛けにも気付かぬが、ジオラスはそれ以前に気付いている。兄が速やかに立ち上がり二人の男達の顔色を伺っているところからして、十中八九お偉方であろう。ジオラスは何か言われる前に立ち上がる。
ガラガラと空魔石を弄る音に視線をやれば、アリサであった。小さな空魔石を一つ選び出したところだ。
空魔石とは、魔石の魔力を使い切った物。では魔石とは、その多くは魔獣の体内から採取され、地水火風等々の魔力を秘めている。使い続ければいずれ魔力は切れる。同じ属性の魔力であれば補充も可能。例えば、火の魔石には火の魔法が、水には水の魔法という具合に。幾度も繰り返すと、次第に受け付けなくなる。そうして最後には魔力を使いはたして空になる。それが空魔石だ。
では何故その使い物にならない筈の空魔石がこの場にあるのかと言えば、アリサの要望でクラウスが用意したからだ。何の用途で? そもそも空魔石には用途など無い。貝殻並みに始末に困るゴミ。その筈……。
見守り続けていると、アリサは生活魔法で洗浄をかけ、更に水魔法と火の魔法で水蒸気を作って洗浄を続けた。この時点で男達は驚愕している。複数魔法だけでも驚きであるのに、相反する属性の合わせ技だ。こういった相反する属性の複数魔法は複数人でしか体現できない。一人の人間が相反する属性の魔法は使えない。これは常識なのだ。この大前提をあっさりアリサは覆した。今、目の前で。
この非常識を目の当たりにして、二人の男達は見守る事にしたらしい。一時声がけを忘れていたクラウスが再び口を開こうとするのを、年齢不詳の男が止めた。
(警務の人間を含めた)男達が見守る前で、アリサは水魔法で小さな空魔石を冷やしたようだ。次に風魔法で乾かし、手に取り、クリクリ捏ね繰り回す。別に魔石の形が変わるわけではない。それでも熱心に捏ね回し、暫し……………。
くすんでいた空魔石が透き通る美しさを取り戻していた。ただし色は付いていない。先程の例を取るなら、火は赤、水は薄い青、風は白、土は琥珀色の色味の魔石になる。因みに氷の魔石は単体では存在しない。水の魔石を魔方陣と組み合わせるのが一般的だ。この食堂兼台所に設置されている冷蔵庫も水の魔石と魔方陣の組み合わせで冷蔵を可能にしていた。閑話休題。
アリサが指先に魔力を集め出す。色の無い純粋な魔力。魔力にはどうしても得意な属性が混じるので、非常に珍しいと言える。これはこれで才能だろう。
アリサが指先に力を入れたようである。
「え!?」×複数
男達は揃って驚愕の声を上げた。
アリサの指先では形の変わる筈のない魔石が歪んでいたからだ。かといって割れている様子は無い。
男達は息をのんで見守る。
アリサの指先で徐々に形を変えて行く空魔石。潰して!伸ばして、引っ張って……こねこねコネコネ……虫籠の中に居る花擬きが出来上がっていた。色は透明。それを掌の上に乗せ、顔の前まで持ち上げると、「ふっ」と息を吹きかけた。途端に白っぽく色付く空魔石。ただ白と言い切れないのは、真珠のような独特の輝きをもっているから。
アリサは掌の上の完成品をしげしげと眺め、満足そうに息を吐いた。
「またやらかしたな、馬鹿娘」
声に振り返ると眉間にシワを寄せたアリシア伯爵が立っていた。
「………父様。もうお仕事は宜しいですの?」
アリサの呑気な反応に、アリシア伯爵は大きく息を吐き出した。
「もう午後のお茶の時間は過ぎてるぞ。観測はどうした?」
「❗!?❗」
伯爵の指摘にアリサは言葉にならない悲鳴を上げながら動き出した。
ジオラスも外出の準備に入る。とは言っても、彼には殆ど準備らしい準備は無い。宿題の為のノートを閉じて一ヶ所に重ねるだけ。観測後に戻るので、最終的に引き上げる時に持ち帰れば良い。代わりに急遽用意した持ち運びに便利な小さなノートをズボンの後ろポケットに捩じ込む。観察していた虫籠を日当たりの良い窓辺へ並べ終えたアリサが出入口で待っている父親の元へと早足で向かうのに合わせて、ジオラスもアリシア伯爵へと歩を進める。他の人間もアリサに合わせてゾロゾロ動き出す。次兄だけは冒頭の二人に頭を下げてから合流して来た。
アリサは最後まで二人の男達に気付かなかった。
「そうだ。今日の夕飯の献立は何だ?」
アリシア伯爵が気を反らしたからだと思いたい。
「本日のお夕飯は、苦瓜と豚肉の卵とじ、人参とグレープフルーツのサラダ、蒸したお茄子の麺汁風のお浸し、胡麻豆腐」
「汁物は無いのか?」
「用意はございませんけれど、御要望がございましたら、可能な限り沿わせていただきますわ」
呑気で平和な会話が遠ざかって行く。
「……僕達、ものの見事に透明人間だったね」
「ほっほっほっ!」
二人の男達は楽しそうに笑っていたとかいないとか。
偉いおじ様達もアリサの前では存在感ゼロ。
偉いおじ様達の再登場はあるのか?
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