動き出す予兆
拙作をお選びくださり、ありがとう(^人^)ございます
今回は視点がコロコロ変わりますm(_ _)m
二人の殿下方は大変に複雑そうな表情で執務に戻って行った。
私も息子──ファルゴルを外に出す。名目は、まず一つ目で、私から妻への手紙を出させる為に。二つ目、タウンハウスに帰って、使用人達を安心させるように。三つ目、領地の仕事を片付けるように言い付ける。実際に領地へ戻るかどうかの判断は息子に任せた。
おそらくアリサは目を付けられた。悪目立ちし過ぎだ。こうなったら、アリサとお偉方をミスリードするくらいしか手は残されていないだろう。要は、アリサは使い物にならないと認識してもらえば良いのだから。
しかし……思わぬ問題が出てきた。
──ドランツィツィ
ドランツィツィに関しては、妻頼みになる。
しかし、アリサはいつ先代にお逢いになられたのだ?
当然だが、先代ドランツィツィが我等が領地にお出でになられた事は無い。
アリサどころかファルゴルが生まれる前に、ドラゴジラの領地へ籠られていたと聞いている。それくらいだから、王都のタウンハウスにも居られなかったらしい。当然といえば当然であろう。既に代替わりしていたのだから、何の不思議も無い。私とて、ダナとの婚姻にあたって、たった一度だけ、ドラゴジラの領地で御挨拶させていただいただけなのだから。当時は何故ドラゴジラの先代当主に御挨拶せねばならないのかと疑問を抱いたものだ。今となっては懐かしくも微笑ましい悩みだ。
ドランツィツィは精神的なこの国の要。
その名を知る者とて国の中枢部のみ。
何故アリサがドランツィツィの名を知っている?
しかし……それはそれとして、禿げか……。
あの場に居た全ての人間が食い付いた話題であると断言できる。何故なら、聞き手は皆、男だったのだから。彼の話題は、男にとっては繊細且つ切実な問題である。それを、ファルゴルをからかうようにツラツラと講釈を並べればどうなるか……。
嗚呼、胃が痛い。それこそ禿げたらどうしてくれる!
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「面白いのが出てきたな」
「……兄上」
王太子執務室。
今この場に居るのは、王太子と第二王子、そして王太子の側役の三人。他はこの部屋の手前、隣室で仕事を続けている。
「あの感じなら害は無いかな」
「まだ答えを出すのは早いのでは? 彼女の胆力は認めますが、駆け引きができていない。いや、駆け引き以前に言葉遊びが壊滅的ではないですか」
「だが、随分と面白い知識は溜め込んでいたようだ。何より、あのドランツィツィの存在を把握していた」
「だからこそ、まだ答えを出すべきではありません」
「あの!」
近衛に化けた王太子の側役が声を挙げた。
「御歓談中に申し訳ありません。ドランツィツィと言うのは何なのしょうか?」
王太子と第二王子が揃って側役に顔を向けた。
「そうか。お前はまだドランツィツィの存在を知らされていないのだね」
「恥ずかしながら」
「いや、知らないのも無理はない。大きな声では話せない名前なのだから」
「……犯罪か何かに関わる話でしょうか?」
「いや、逆だ。ここからの話は他言無用で頼む」
側役は頷きを返事とした。
「ドランツィツィはこの国の守り手。国の守護者と言っても過言ではない。ドランツィツィは代々ドラゴジラから排出されて来たんだ」
「代々排出? 守護者であるのに寿命があるのですか?」
「うーん……それが良く分からないんだ。分かっているのは、ドランツィツィは大変な知恵者である事。そして赤い瞳の持ち主である事の二点」
「アリシア嬢が言っていたであろう。彼女の曾祖父は赤い瞳であったと」
第二王子も話に加わる。
「彼女の曾祖父にあたるドラゴジラがドランツィツィであった事だけは確かなんだ。少し回りくどい話し方になるが、現アリシア伯爵夫人は令嬢時代は妖精姫と呼ばれていたらしい。この妖精姫は今から見て先々代ドラゴジラ公爵の孫。元公爵のごときルビーのような瞳を受け継ぎ、当時のドラゴジラ家には大変に妬まれたと聞く」
「けれども元妖精姫の出はドラゴジラではない。それに今現在のドラゴジラだって赤い瞳だ」
「ですが現ドラゴジラ公爵は光を選びますよ、兄上」
「そこなんだ。けれど現公爵だって光を選べば赤く見えるし、何より曲者でもある。無視して良い相手ではない」
「本人の能力と言うよりは、家の力が大きいだけとも言えますが」
「厄介である事に変わりはないよ。しかも現在はシメサツシ国の血が混じっている。慎重に事を見極めないと……」
二十代半ばの王太子には既に妻が居る。元々政略結婚であったが相性が良かったのか、互いの努力によるものか、この二人は相思相愛の関係にある。そこに横槍を入れて来たのがドラゴジラだ。
現ドラゴジラ当主はシメサツシ国の公爵家子女と婚儀を結び、一人娘をもうけた。その娘がラ・フレシア・ドラゴジラである。彼女はとても公爵家の娘とは思えない程に理性の綱が細い。短絡的で感情的。非常にヒステリックで権威主義。考えるまでもなく、ドラゴジラからの婚姻など受付けられない。しかしそれを一蹴できない理由がドランツィツィの存在だ。王家が彼女を無下に扱えば、ドランツィツィがシメサツシ国へ渡るかもしれない危険性があるのだ。
「そんな! だってドランツィツィはこの国の守護者なのですよね!?」
「国としてはそのように捉えているというだけだ。守護者は精霊に近い存在。人間が恣意的に縛って良い相手ではない」
「……そんな………」
「希望的観測を述べるなら、彼の国は精霊達に見放されているという。そのような地に望んで渡ろうとはしないと思いたいな」
「………やっぱり、気になるよね」
「兄上?」
「アリシア嬢の言葉」
──既にドランツィツィはドラゴジラには存在していない──
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「面白いのが居るんだって? クラウス・ステファン・クルイウィル」
「! 局長! ──宰相閣下まで!?」
魔術師棟、東の翼側三階廊下にて。〈お花君〉の次兄クラウスは魔術師の頂点たる年齢不詳のイケメンオヤジと、飄々とした風貌の宰相に出会していた。
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近頃ジオラスはアリサの中での自分の存在意義がどのようなものであるのかが気になって仕方がない。どう考えても存在感が薄いと思うのだ。しかもアリサは良く分からない蘊蓄が凄い。正直、話に付いて行けない事もある。これでは駄目だと自覚しても、ではどうすれば良いのかは分からない。ただ一つだけ自分を誉められるとしたら、弟子宣言をした事であろうか。
「アリサ、教えて」
だから、教えを乞うのは決して恥ずかしい事ではない。アリサはジオラスの先生なのだから。
「わたくしで足りる事柄ですか? 何をお知りになりたいですの?」
「えーと……アリサの弟子になるって言っただろう。何から覚えていけばいいのかな?」
「………そうですわね……今は学園の草木の観測をしてございますでしょう。それらの観測記録の取り方から覚えていくのは如何かしら?」
「うん。じゃあ、アリサのお手本見せて」
アリサがいつもの観測用ノートを開いて見せてくれた。しかし……ジオラスには読めない。
「雛型をこちらの紙に書きますわ」
苦笑と共にアリサが真っ白な紙を一枚取り出した。文字を連ねながら彼女は語る。
「どんなに都合が悪くても、嘘を記してはなりませんことよ。………自分の思いや予測を記したい時は、一番最後の備考欄に分けて書き記せば宜しいかと。………わたくしはそうしておりましてよ」
文字を書きながらなので、不自然な間が空く。
そして最後に彼女はこう付け加えた。
「ジオラス様。もしもわたくしが居なくなっても、観測は続けてくださいましね。少なくとも、在学されている内は」
ジオラスにとっては不安を覚える内容に見落とした。彼女が自分の名だけを呼んだ事、ジオラスが「アリサ」と名を呼んでも注意して来なかった事実に気付いたのは、夜ベッドに入ってからであった。
伏線回収の第一歩……が、また伏線。
上手く伏線を回収できますように(。-人-。)
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作者のやる気が上がりますm(_ _)m




