レモン派、辛子派、マスタード派、おまけでタルタル
拙作をお選びくださり、ありがとう(^人^)ございます。
今回もアッサリ話が逸れました。
「ではまず私から」
父様が無駄にキリッとして先陣を切るようです。
けれども「私から」って……わたくしにまで飛び火して来るのでしょうか。
「私はどちらの唐揚げも豚カツも、最初は何も付けずに味わいます。唐揚げは、口が飽きたらレモンを搾り、最後の一つはマヨネーズで締めます。豚カツでは一切れ毎に味を足しますな。二切れ目でレモンを、三切れ目で茶色のソースを、四切れ目で辛子をたっぷり。たまにソースと辛子の順番が逆転する事もありますな。そして最後にフレッシュトマトのソース! 実に美味!
──ああ、ついでだから教えておいてやろう、アリサ」
え、嫌な予感しかしませんが。
「お前が今回用意した食べ物は、ハリシア産と言うよりは、アリサ産だ」
「父親に敬称付きで呼ばれるとか、変な感じですわ」
「惚けても今更どうにもならん。特にこのマヨネーズは画期的だ」
「誤魔化そうと思えばまだどうにかなりましたわよね、父様!?」
「兄としては父上を推す。隠したくても当のお前がボケ捲って暴露の連続なんだ。誤魔化そうとしても見苦しくなるだけだろう」
「……せめて事前に注意喚起するとか」
「我が家の、延いてはアリサの日常は世間の非常識だ」×父・兄
「………非常識……」
さすがのわたくしも自失致します。
わたくしが呆然としている間に、兄が滔々と語り始めました。
「私も初めは、唐揚げも豚カツも何も付けずにそのまま味わいます。ですがどちらもマヨネーズやタルタルソースと合うのです! 私はレモンは使わず、唐揚げにはマヨネーズかタルタルソースのどちらかを付けて楽しみます。豚カツにもレモンは使いません。早々にマスタードを添えて味わい、茶色のソースも気が向いた時にしか使用しません。私はタルタルソースで制覇します! たまには胡麻ダレも添えて!」
「……兄様はマヨネーズがお好きですものね。わたくし、マヨネーズをお伝えした事、少し後悔しておりますの」
「お前が教えてくれた組み合わせだ。感謝しているぞ。だから後悔する必要は無い」
「……身体を使う殿方とかの方がマヨネーズがお好きになる印象がございますわ」
「そう言えば、我が家でも私や弟の方がマヨネーズが好きだな」
「ジィーンはともかく、お兄様は少し控えた方が宜しいですわ」
「ジィーンが良くて私が駄目な理由は何だ?」
「おそらく、十年と待たずに答えは出ますわ」
「……嫌な流れだな。気を持たせず端的に答えろ」
「太鼓っ腹。もしくは樽」
「……私はまだ若いから大丈夫だ」
「今日の不摂生が明日の涙に繋がる。マヨネーズは油分がたっぷり。摂り過ぎは確実に身体に蓄積されますわよ」
「……お前だって食べてるじゃないか──待て、先程からお前はどこを見ている?」
「頭ですわ。食べるにしても満遍なく身体に必要な栄養を摂取なさいませ。兄様は野菜が圧倒的に足りないのです」
「どうして頭を見詰めながら言うんだ? 野菜ならお前が火を通した物は食べるようになったんだ」
「動脈硬化が進んでも知りませんわよ」
「アリサ用語は理解に苦しむ。いい加減に頭から目を離せ」
「頭髪にも響きますわよ」
「!?」
「アリサよ、父にも分かるように説明を求める」
「生物の身体は摂取した内容で形作られるのですわ。人間等の哺乳類の場合、消化器官で消化分解されて身体に取り込まれます。取り込まれた栄養は血液に乗って身体の隅々にまで運ばれるのですわ。そうして運ばれた栄養によって、日々身体は破壊と再生を繰り返しておりますの」
「待て。破壊だと? 怪我をした訳でもないのにか?」
「左様にございますわ。古い細胞は破壊され、新しく形成された細胞と入れ替えられます。再生だけでは無限に身体が肥大してしまいますもの。そして古い細胞が身体に溜め込まれる事にもなってしまいますわ」
「……なるほど?」
「人によって若く見える方とそうでない方がおりましょう」
「うむ」
「上手に破壊と再生の兼ね合いが取れている方は老化はゆっくり進みます。身体に不要で害になる物質が、速く老化する方よりも少ないからですわ」
「……頭髪もその過程を辿ると?」
「はい。血液は血管の中を流れておりますの。けれど不摂生を続けておりますと、肝心の血管が固く細くなって行くのですわ。お手入れされていない水道管や配水管が詰まるような現象とでも思ってくださいまし」
この世界なのか、この国だけなのか、きちんと上下水道が完備されています。主に《水の伯爵》ことクルイウィル家の仕事ですの。クルイウィル家には足を向けて眠れませんわ。
「妹よ。不摂生を続けると、血管が固く細くなると言うのはこじつけが酷くないか? それにマヨネーズの何処が不摂生になるんだ?」
「マヨネーズその物が悪なのではございませんことよ。兄様の場合、食べ物の偏りが問題なのですわ。マヨネーズは油分過多である食品です。油ばかり摂り過ぎると、確実に蓄積されます。まずは内臓脂肪としてお腹周りに、ブヨブヨと。なによりブヨブヨになる前に、血管の中を血液と共に流れて行くのです。そして油は周辺にヘバリ付きやすいのですわ。血管にもこびり付き、汚れとして固まります。その繰り返しで血管その物が固く狭くなっていくのですわ。そうすると、末端の細い血管にまで血液が充分に補充されなくなります。血液不足は栄養不足です。手足の先、頭など、心臓から遠い場所ほど血液不足になるとお考えくだ──」
「頭! 頭は重要だろう!」
「兄様落ち着いてくださいましな」
「髪、薄毛とどう関係して……」
「現実逃避が激しいですわぁ。髪の毛も爪のように、根元は生きている細胞に生成されておりますの。血液が滞れば栄養不足になって、髪の毛も生成されなくなっていきますわね」
「………結果が薄毛」
「最悪、禿頭」
「酷い! 妹が残酷だ!」
「兄様、お気を確かに。高貴な方の御前ですわよ」
「いや、気にせず会話を続けてほしい」
「まあ、王太子殿下はお優しゅうございますわ。寛大なるお心に兄妹共にお礼を申し上げます」
「いや、礼を言われる程ではない。それよりも、髪の毛に良い薬とか食べ物は無いのか?」
「生憎とわたくしは存じ上げておりませんの。髪の毛は生命の神秘。不思議の塊ですわぁ」
「……そうか」
王太子殿下が明らかに気落ちなされたようですわ。
「強いて言えるならば、丸ぁるく過ごす事ですわ。適度に動き、適度に頭を使う。飲食も好き嫌いを減らす。今回、油の摂り過ぎは悪いといたしましたが、だからと言って極端に油を避けるのも良くありませんのよ。油の中にもそれぞれ人間に必要な栄養がございますの。しかも油と一言で申しましても中身はそれぞれ違いましてよ。そうですわね……バターとオリーブオイルではまるで違いますでしょう。それぞれ性質が違うのですわ」
「うぬ……なかなかに難しいのだな」
「医食同源、もしくは医薬道元という考えがございます。口に入れる物は皆薬であるという考え方ですの。お医者様に処方される薬に比べて即効性はありませんわ。けれども着実に身体を作る元にな──」
「アリサ、くどい」
少し喋り過ぎたようです。兄様に止められました。父も兄に歩調を合わせて来ます。
「殿下、失礼致しました。──アリサもそろそろ食べなさい。冷めてしまうぞ」
「はい、父様」
わたくしはミネストローネに山椒をガリガリ挽きおろしたのでした。
おまけ 六
「老後の髪の毛残存量、もしくは若禿は遺伝でしてよ」
「!?」
「その話、詳しく!」
あらあら第二王子、随分と食い付きが宜しゅうございますわね。
「あら? 今日のミネストローネは山椒よりも珍皮の方が良かったかしら?」
「んん、ン、ン、ん! あー、御令嬢」
「まあ、失礼致しましたわ。無視した訳ではございませんのよ。薄毛の話でしたわね」
「………そうだ」
「頭が淋しくなるかどうかは遺伝の要素が大きいというお話ですわ。父親が老いても豊かな髪の毛ならば、その子も踏襲する可能性が高いという話ですわ。但し落とし穴は、母親系列ですわね。一方がツルツルですと可能性は単純に半々だと思いますの。両方がお淋しいなら、生活習慣でできるだけ後年まで守るよりありませんわ。両方が豊かなお髪ならば、多少は安心しても良いと思います」
「多少?」
「どんなに素養があっても、大切にしなければ育ちませんし失われましょう」
「……なるほど……」
「兄様は可能性半々、ですかしら?」
「何でそうなる? 今の話だと、多少は安心してられる部類だろう」
「兄様のお髪は父様似ですものね。そして父様もお祖父様もフサフサ。けれど曾祖父様のせいでお二人は清貧な時期を過ごされております。つまり、皮肉にも生活習慣は食の事情に限り、満点に近い。そしてハリシアを困窮に陥れた元凶たる曾祖父は、わりと淋しい……」
「言うな」
「更に」
「まだあるのか!?」
「お母様の方が少し心配」
「……確かに……母上の方の祖父様は少し淋しいかも…しれな……」
「曾祖父様はツルツルピカピカお日様の光を照り返しておりましたわ」
「大丈夫、大丈夫! 曾祖父は少しだけ遠い!」
「兄様、隔世遺伝という言葉を御存じ?」
「やめ、ろー!」
「アリサ。お前、いつダナのお祖父様、お前からしたら曾祖父様に会ったのだ?」
「とてもとても小さな頃ですわ。お母様がよく寝込んでおられた頃で、曾祖父様がお見舞いに来てくださいましたのよ」
「……そうか」
「? 厳しいお顔の造作はしておられましたけど、赤いお目々は優しゅうございましたわ。わたくしの事も撫でて抱っこもしてくださいましたわ」
「……そうか」
? 変な父様。
おかしい……(-_-;)
作者の意図とは別方向へ話が逸れて行く……。
アリサ、恐ろしい子((((;゜Д゜)))
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